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11、7月1日
「たのも―――ッ!!」
何処か(どこか)懐かしい感じのする街、キキョウシティ。
あたしはそこのキキョウジムっていうところの ドアを叩いていた。
ポケモントレーナーなら、誰でもやるような、ごくごく普通の行動。
・・・普通の力ならね。
「たぁ、のぉ、も・・・・・・!!」
リーダーがドアを開ける前に、キキョウジムの扉は めきめきと音をたてて倒れていった。
・・・やっちゃった、クリスの『かいりき』こうげき・・・
ため息をつくしかないな、こりゃ。
壊れた扉の向こうに、黒髪で顔を半分くらい被った(おおった)男の人が驚愕(きょうがく)した表情で棒立ちになっている。
・・・・・キキョウジムのジムリーダー、ハヤトさんだ。
「き、きみ・・・・何度も挑戦するのは 一向に構わないんだけど、次から扉は もう少しやさしく叩いてくれないかな?」
「すいません・・・・」
ハヤトさんが『何度も』って言ったのは、言葉どおりの意味。
すでにこの挑戦、3回目なのよ。
「ルールは、前回と同じ、 いいね?」
「・・・はい!!」
ジムの扉、壊しちゃったのにもかかわらず、ハヤトさんは挑戦を受けてくれた。
2対2の どちらかが倒れるまで続けられるバトル。
前にやったときと 同じだ。
『・・・・始めッ!!』
ジムのアナウンスが バトルフィールド一杯に響き渡り、あたしのジムバトルが始まる。
「ポッポ、行け!!」
ハヤトさんが 出してきたのは、体長30センチくらいしかない ことりポケモン、ポッポ。
でも、小さいからといって、あなどれるポケモンではない。
「ヒメちゃん、ファイト!!」
あたしはヒメグマを バトルポケモンに指名した。 ニックネームは『ヒメ』!!
ポケモンじいさんの家で捕まえた ヒメグマ、形が可愛いからといって、油断していると痛い目にあう。
「ヒメちゃん、『みだれひっかき』!!」
先手必勝、あたしはヒメに 一番強い技を出すよう、指示した。
ノーマルタイプの中じゃ、かなりの大技、ポッポはかなりのダメージを受けて、ふらふらと地面の上に落ちてきた。
1匹目は倒したってことだ。
「ヒメ!! 次のポケモンが出てくるまで 動くな!!」
倒れたポッポに なおも攻撃を加えようとしているヒメを、あたしは怒鳴りつけた。
見た目以上に獰猛(どうもう)な このポケモンは、ちゃんと見ていないと、時々とんでもない行動にでてしまう。
「なるほど、ヒメグマか・・・・・
それでは2匹目のポケモン、行くぞ!! ピジョン!!」
そう言って ハヤトさんが繰り出したのは、鳩の名を持つポッポの進化系、ピジョン。
前のバトルの時、あたしのポケモンは このピジョンにやられたんだ。
「このまま行くよ!!ヒメちゃん!!」
攻撃力、体力共に ヒメはまったく衰えていない。
まったく、自分のポケモンながら、恐ろしいやつだと思うよ・・・・・こいつは。
「ヒメちゃん、『にらみつける』!!!」
あたしが 相手を圧倒するくらいの勢いで叫ぶと、ヒメも負けじと すごい形相で相手を睨みつける。
普段のくりくりとした表情と、今の鬼のような形相、どちらが本性なのか・・・
ピジョンはヒメの形相に動揺しながらも、『つばさでうつ』攻撃をするためにヒメに向かって突っ込んでくる。
「受け止めて、ヒメ!!」
「スピードでかく乱するんだ、ピジョン!!」
ハヤトさんの指示で、ピジョンは大空をぐるぐると 旋回し始めた。
ヒメは、必至で その姿を捉えようとするが、相手が速すぎて 目で捉えることさえ出来ない。
「『つばさでうつ』!!」
ヒメの体に スピードの威力もついた『つばさでうつ』の攻撃がヒットすると、ヒメは その場に崩れこんだ。
「ヒメ!?」
「パワーがある分、スピードのなさがネックになったな。
ヒメグマは もう戦えないだろう。」
う〜・・・・ハヤトさん、勝ち誇った顔してんな〜・・・
奥の手の ヒメを出しちゃった今、もう、あたし負けたくないぞ!!
12、ウイングバッジ
「どっちのポケモンにしようか・・・」
キキョウジム、あたしは2つのモンスターボールを右手と左手にもって、どっちを出すか、考え中・・・
お互いにポケモンは2匹目、手持ちの2つのポケモンのうち、バトルに出せるのは1匹だけ。
「どうしたんだ? 怖くなったのか?」
ハヤトさんは、自信たっぷりな表情で あたしの事を挑発してくる。
・・・・・と、その時、右手に持っていたモンスターボールが、かすかにだけど、揺れた。
「・・・・・うん、行くか!!」
あたしは 揺れた右手のモンスターボールを 握り締めた。
「ワニクロー、GO!!」
あたしの2匹目のポケモンは ワニノコのワニクロー。
レベルはポコよりも低いけど、こいつの頑張りには 目を見張るものがある。
「ほう、ポリゴン2で来ると思っていたが、そいつでいいのか?」
「いいのよ!! 絶対に負けないんだから!!」
・・・・・・本当は、勝つ自信なんてないのに、あたしってば 口から出任せを・・・・・
フィールドに立つと、ワニクローは、こっちに ちらっと目をやった。
だてに 3回も挑戦してたわけじゃない、下手は下手なりに作戦みたいなものは 作ってある。
あたしは ワニクローに向かって、大きくうなずいた。
「いけっ、ワニクロー!!」
あたしの合図と一緒に、ワニクローは ピジョンに向かって勢いよく突っ込んでいく。
前の戦いで ヒメの『にらみつける』が効いていたのか、ピジョンの体に攻撃を当てるのは 以外と簡単だった。
「そんな 弱々しい攻撃が効くか!! ピジョン、『かぜおこし』だ!!」
体勢を立て直したピジョンが繰り出す風に、ワニクローは吹き飛ばされそうになって、必死に地面にしがみつく。
「負けんな、ワニクロー!! もう一発!!」
風の中を かいくぐって、ワニクローは その鋭い爪で ピジョンの体に傷をつけていく。
さっきよりは、良いところに当たったみたいだ、攻撃の効果があったのが、目に見えて分かる。
「ふっ、所詮は ただの『ひっかく』、初心者用の技ではないか。
もう終わらせてしまおう、ピジョン『つばさでうつ』!!」
結構なダメージがあるとはいえ、大鳥は(ピジョンのこと)その大きな翼を 勢いをつけてワニクローにぶち当ててきた。
ワニクローは その体を受け止めきれずに 2〜3メートル後ろまで吹っ飛んでいく。
「・・・終わったな。」
ハヤトさんは、勝ち誇った顔で 言い放った。
「・・・・・まだ、終わっちゃいないわよ!!」
震えるあごで、あたしは何とか言い返す。
ここで、諦めたら なんだか全てが終わってしまう、そんな気がした。
「立って、ワニクロー!! あんたは まだ戦えるはずよ!!
気合よ、ガッツよ、根性よ!!
あたし達の戦いは、まだ終わっちゃいない!!」
―――『みっともない』なんて、とっくに分かってる、でも 負けたくないんだ。
あたしのいいたい事が分かったのか、ワニクローは ゆっくりと立ちあがった。
体はボロボロだけど、まだ瞳には 光が灯っている。
「・・・『1発』、 打てるよね。」
ワニクローは振り向かずに うなずいた。
きっと、このバトルでは、最後の『賭け』になるだろう。
「よし行け!! ワニクロー!!」
ワニクローは 弾丸を思わせる勢いで ピジョンに向かって突進していく。
そして、その迫力に 驚いていたピジョンに向けて、 最後の一発を当てた。
―――――クリーンヒットだ。
ピジョンは力を失い、地面に落ちてきた。
「な・・・なぜ ピジョンが倒れたのだ!?
『ひっかく』では 倒れるほど ダメージは与えられないはず・・・・・」
「『ひっかく』じゃなくて、『いかり』よ。
戦闘が始まる前から、ワニクローには その技以外 使わないように言っておいたの。」
『信じられない』といった表情をしていた ハヤトさんに、あたしは説明してやった。
「ついでに、前の戦いで ヒメに『にらみつける』で サポートさせてたから、
ピジョンの防御も下がって、攻撃が入りやすくなってたってわけ。
・・・・・卑怯かとも思ったけどね。」
あたしの へっぽこな説明でも、なんとか ハヤトさんは分かってくれたらしい。
「そうか、君達のチームワークの勝利ということか、わずか数日で、君がここまで実力をつけるとはな・・・
いいだろう、このキキョウジム公認、ウイングバッジ、持っていきなさい!!」
そう言って、ハヤトさんは銀色に輝く 翼の形を模した ジムバッジを手渡してくれた。
「それじゃ、次の旅に出ようか!!」
あたしは ウイングバッジを 服の裏側、左胸の辺りに付けると、元気に叫んだ。
でも・・・・・・
「・・・反応 薄いなあ・・・・
あっ、ワニクロー、寝ちゃってる!! ヒメも!!
――――― そーだ、ポケモンセンターで回復しなきゃ!!」
・・・・・・・まだまだ あたしってば、半人前みたい。
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