13、7月7日


「うわっ、見事に何もないところね!!」
あたしは 視界一面に広がる石垣を見つめながら、感嘆の声をあげていた。
ここは『アルフの遺跡』、1000年以上昔の 古代の遺跡、と パンフレットには書いてあるが・・・


「ハ〜イ!! みなさん、こちらに一列に並んで見学デスヨ〜!!」
「・・ん?」
人気のなかった遺跡に、すっとんきょうな声が響き渡り、あたしは思わず振り向いてしまった。
・・・・・んで、すぐに『振り向かなきゃよかった!!』、って思ったわよ。

だって、中年の男の人が 回転しながら 子供たちを連れて 遺跡見学を始めてんだもの!!
どっから見たって、異様な光景。
「ン〜? ここじゃ、見かけない顔がイマスネ〜・・・
 お嬢サン、お名前は〜?」
子供たちを ぞろぞろ引き連れた 中年の男の人は あたしに気付いて近づいてきた。

「ど、どうも こんにちは。
 あたし、クリスって言います。」
話しかけられたら、答えるしかない、思わず 私は答えてしまった。
「クリスサンで〜すか、ワタシはポケモン塾の講師、ジョバンニといいマ〜ス!!
 アルフの遺跡は 初めてデスカ? よければ、ワタシの教え子たちと一緒に・・・・・」
「い、いえ!! 結構です、お構いなく!!」


あたしは、この怪しげなおじさんから 逃げるように離れた。
・・・って言うより、逃げてたわね、あれは・・・・・・・・
それで、走って逃げて、たどり着いたのが、ちょっとした、小部屋みたいなところだった。

「なんだろ、ここ? あんまり 人が入ったような形跡もないし・・・・・
 ポコちゃん、悪いんだけど、ちょっと探ってみてくれる?」
「キュイン!!」

暗くて、カビっぽくて、隠れるように 奥の方にちまっと作られていた小部屋。
誰が 何のためにこんな部屋、創ったっていうんだろう?

ピ―――――――ッ

ポコの解析終了(かいせきしゅうりょう)の合図の音で、あたしはそっちに向き直った。
「何か、分かった?」
「キュイン!!」
ポコは 首を縦に振ると、部屋の奥の方に向かって、滑るように走り出した。

ポコが 壁面の石の1つをつつくと、カビの生えた石の壁は 割れるように2つに開いた。
・・・・・・隠し部屋ってわけか。
「いっかにも、『怪しい部屋』って感じよね。 踏み込んでみようか、ポコ!!」
「・・・キュイン!!」


ますます カビっぽい部屋に、あたしは踏み込んでみた。
中は、じめじめして、真っ暗で、ほとんど 何も見えたもんじゃない。
「もうっ、これじゃあ 何も見えないじゃないの!! ポコちゃん!!」
ポコが『フラッシュ』で 部屋の中を明るくすると、
突然、部屋中の壁がめきめきと音をたてはじめた。

「ちょっと、まさか この遺跡、古くて崩れそう、なんてことないでしょうね!?
 ・・・・・? あれ、なに・・・・『HIKARI』?」
崩れそうな音を立てている壁に、奇妙な模様が入っていた。
どことなく、アルファベットに似ているような、あまり見た事のない模様。



「きっ、きゃぁあ――――――!!?」
突然、部屋中から放たれた 『フラッシュ』以上の光に包まれて、あたしは気を失っていた。
気を失う直前、壁の模様が動き出したように見えたのは、あたしの気のせいだろうか?


14、心の漂流


『・・・・・・起きなさい、少女よ・・・』

聞き覚えのない、優しい声で あたしはうっすらと瞳を開けた。
目の前に広がるのは、一面、吸い込まれそうな 青、青、青・・・・・・

『怪我は・・・・ないようですね、 良かった・・・・・』

「・・・誰?」

あたしは ぼんやりする目をこすって、辺りを見渡してみる。
それなのに、どれだけ探しても、声の主は見つからない。
それどころか 辺りは一面 青い世界が広がるばっかりで、景色ってものが見つからない。

「ねえ、あなた 誰なの!?」

あたしは もう一度 声の主に向かって 呼びかけてみた。

『私は、『虹を架ける者』・・・
 ・・・・・少女、あなたこそ、何者ですか?」

「あ、あたしは クリス!!
 『クリスタル イブニング グロウ カラー』!!
 新米の ポケモントレーナーよ!!」

あたしはとっさに フルネームで名乗っていた。
この 正体不明の『虹を架ける者』の声は、聞いていると なんだかどきどきする。

「ねえ、あたし どうして こんなところにいるの?」

『・・・・・あなたが、『神殿の守護者』を、目覚めさせたから・・・
 私が、連れてきたのですよ、 あなたと 話をするために。』


・・・『虹を架ける者』の次は『神殿の守護者』?
さっぱり 意味がわからない。

『あなたの心からは、『黒き者達』と 戦う、強い意思が 伝わってきました。
 『私達』は、『黒き者達』に 狙われています。
 ・・・あなたに、力を貸したい。』

「『黒き者達』・・・・・・あたしが 戦うって・・・・もしかして、ロケット団のこと?」

『ええ。』


『虹を架ける者』は 続けた。

『あなたが『黒き者達』に勝つことで、私達も救われます。
 ・・・・・力に、なってほしい。 勝手な願いだとは 思っていますが・・・』


不思議な感じだった。
今まで、『誰かに 頼られたこと』なんて、なかったから・・・・・

『・・・・・!! 奴等が来たようです。 少女、あなたに『これ』を 預けます。
 無理に協力しろとは 言いません、 でも、出来れば・・・・・・』




「・・・・・よかった、気が付いて!!」
再び 眼を開けたあたしの 目の前にいるのは、白衣をまとった 研究員らしき人物だった。
「・・・ここ、どこ? ・・・っていうか、あんた誰?」
「僕は、ウツギ研究所の 研究員ですよ〜・・・ ここは キキョウシティの 病院です!!」
ああ、そういえば、研究所の中に こんな人 いたような・・・・・

「クリスさん、遺跡の中で 倒れていたんですよ? 覚えていないんですか?」
研究員Aの 話を聞いているうちに、だんだん 記憶がはっきりしてきた。

遺跡の小部屋、謎の模様、それに・・・・・・

「・・・!?」
手のなかに、何かがあるのを感じて、あたしは ずっと握っていた手を そっと開いてみた。
いつのまにか持っていたのは、小さな、透明な丸い球。
振ってみると、チリン と 可愛い音がする。 ・・・・・・鈴だ。

「何ですか、それ?」
「さあ・・・?
 それより、何で、研究員さんは わざわざキキョウまで 来てんの?」

「そうそう、忘れるところでしたよ!!
 クリスさんに、この『ポケモンのタマゴ』を 渡そうと思って・・・・・」
そう言うと、研究員は 重そうな バックの中から 20〜30センチくらいの 大きなタマゴを取り出した。

「まだ、生まれた事がないので どうとも言えないんですが、恐らくポケモンのタマゴだと 推測されます。
 これを、クリスさんの パーティの一員として、持っておいてほしいんですけど・・・」
「パーティの? どうして?
 それになんで、あたしに 頼むの?
 他にもトレーナーはいるんだから、あたしじゃなくても よかったんじゃ・・・・」

研究員Aは、質問の連射砲に パニックを起こしているみたいだった。
やがて、ようやく考えがまとまると、ゆっくり話し出した。

「えっとですね、ウツギ博士の研究によると、
 このタマゴ、どうやら 元気なポケモンのそばに居ないと 孵化(ふか)しないらしいんですよ。
 それで、ウツギ博士の 知り合いのトレーナーを 当たってみたのですが、
 ゴールド君は、連絡が取れず、訪ねてきたトレーナーは、
 みんな 手持ちが開いていないということで・・・・・・・」

「・・・あたししか、余っていなかったと。」
研究員は、それを聞くと 慌てて付け足した。
「い、いえ!!
 ウツギ博士は、あなたの事を とても評価していらっしゃいますよ!!
 それに、ロケット団に立ち向かおうなんて 勇敢なトレーナーは・・・・・」



「もういい、そのタマゴは ちゃんと受け取るから、
 ・・・・・・もう、帰ってくれない?」
あたしは 研究員の顔を見ないようにしながら、片手で 病室の外に行くように促した。



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