15、7月8日


翌日の『アルフの遺跡』は、大変な騒ぎだった。
検査だけで、簡単に退院できたので あたしが様子を見に行くと、遺跡の前には 人だかり。
人々は、あることないこと 噂話(うわさばなし)で夢中だった。

『遺跡で宇宙人が発見された』とか、『伝説のポケモンがここから飛び立った』とか、
『ロケット団の拠点(きょてん)が見つかった』とか、『遺跡の魔物が人を食うらしい』とか・・・・・
・・・極めつけは、『ポケモンマスターがここで修行している』よ。
なんで、カントーに住んでる人間が、こんな人気もない ポケモンもいないところで 修行するっていうのよ・・・・・・



とにかく、あたしは 入れなくなっている遺跡を後にして、次の町を目指すことにした。
この街では、ロケット団の情報が 入ってくるとは思えない。

あたしは いつのまにか手に持っていた 透明なスズをリボンに結わえ付けて、首に結んだ。
なんだか、首に鈴をつけるなんて猫みたいだけど、あたしが動く度に チリンッ って、可愛い音がするし、まあ、いいか。


ポケギアの マップ画面を開く。
「えっと、次に行かれそうな町は・・・っと。」
・・・・あった、
道のつながっている エンジュシティ、コガネシティ、 それに、ヒワダタウン。

「この分だと、コガネシティってところかな?
 ジョウト1、大きな街みたいだし・・・ロケット団の情報も、入ってくるかも・・・・・」
ま、そんなわけだ。
あたしは一路(いちろ)、コガネシティに向けて、足を運ぶ事にした。


なのに、それなのにさ・・・・・
「どうも、あたし達の旅って 障害が一杯みたいね。 ポコちゃん・・・」
「キュイ・・・」
キキョウからコガネへ行くまでの道、そのど真ん中に 巨大な『木』が立ちふさがって、通れなくなっている。
もう、『巨大』なんてもんじゃない。
首が痛くなるくらい、上を見上げないと てっぺんが見えないんだもの!!

「これ、退かせ(のかせ)ってか?
 いっくら あたしが『怪力少女』だからって、これは無理よ・・・・・
 なんとか通る方法、ないかな・・・・・?」



・・・と、不意に、巨木の向こうから 熱い風が吹いてきた。 炎ポケモンの技によるものだ。
・・・・そっか、この向こうには、コガネから来た人達がいるんだ。

『ねえ、火が効いてないよ!? どーなってんの!?』
『おれに聞くな! こっちが知りたいくらいだ!!』

巨木の向こうから聞こえてきた声は、あたしと同じ位の 子供の声。
・・・・・・!!
そうだ、向こうの人達なら、何かいい案が浮かぶかもしれない!!


「すいませーん!! そっち、誰かいるんですかー!?」
出来る限りの大声で、あたしは 巨木の向こうの人達に 呼びかけてみた。
すると、その場に一瞬、沈黙が走る。
そして・・・・・・

『・・・向こうに 誰かいるよ!? はーい!! こっち、人いまーす!!』

こんな、巨木1本しかない 殺風景な場所には似合わない、のんびりとした口調で、向こう側の1人が応答する。

『あのねぇ!! この木、さっきフレイムの『ひのこ』で 焼いちゃおうとしたんだけど、無理だったの!!
 それで、今どうやって、ここ通ろうかなぁって、みんなで考え中!!』

向こうは向こうで、同じ悩みを抱えているってわけか。
確かに、『火で燃えない木』となると、どうすればいいのか、全くもって、想像がつかない。

「そうだ、『いあいぎり』は!?」
『最初に試した!! この木、異常に硬くて、全然歯が立たない!!
 ・・・・・・ん?』

今度答えたのは、最初の人とは違う、男の子の声。
彼等の会話を聞いていると、どうやら この少年が さっきの のんびり口調のお守りをやっているらしい。

『どしたの?』
『おかしいぞ? この木、火を受けても 焦げてすらいない!!
 もしかしたら『木』じゃ ないんじゃ・・・・・』

その言葉に はっとして、あたしは急いで『ポケモン図鑑』を開く。
思ったとおり、ポケモン反応、こいつは・・・・・・

「野性の、『ウソッキー』!!」
『ポケモンだよ!!『ウソッキー』っていう名前!!』

声がダブって、向こうも 同じことに気付いたのが よ〜く分かった。
・・・でも、どうして名前まで 同じタイミングで分かったのだろう?

『よし、そうと分かれば 話は早い!! こいつを、『捕獲』する!!
 おい、そっち側の奴!! 水タイプのポケモンは 持っているか?」
『『水タイプ』!?』
「・・・え? 一応、1匹いるけど・・・・・」

『そっち側の奴』って言い方が、多少気に入らないけど、向こう側の少年の頭は、切れるみたいだ。

『それなら、そのポケモンを使って、この『木』に向かって、『みずでっぽう』を使ってくれ!!
 おまえはアクアを使ってだ。 いいな?』
『う、うん・・・・』

向こう側の、のんびり君(『さん』かもしれない)と同じく、
あたしも 訳が分からないまま、ワニクローの入ったボールを開いていた。
何故、『木』に『水』を与えるような真似を 向こうの少年はしようとするのだろう?

『それじゃ、いくよ?』
「はぁーい。」
『せ〜ぇのっ!!』
『『みずでっぽう』!!』「『みずでっぽう』!!』

2匹の水ポケモンの水流が、巨木にぶつかる。
すると、巨木は 突然暴れだし、あたし達の上空からは、何か 茶色いものが パラパラ、ぼたぼた 降ってくる。

『2人とも、目をつぶっていろ!! アイアン、『みねうち』!!』

一瞬、パァン、という 大きな音がしたかと思うと、次にはモンスターボールの捕獲音。
「よし、もう、目を開けても大丈夫だ。」
上から降ってくる物体もなくなり、あたしは そーっと目を開けてみる。
すると、目の前になった巨木はなくなり、代わりに 土の山が出来ていた。
その上に、ストライクと一緒に立ち、手に持ったモンスターボールを見つめているのは、
まだ、あたしとそんなに年も変わらない 赤い髪が印象的な少年。


「こいつが、道をふさいでいた『巨木』の正体だ。」
赤い髪の少年は、あたしに持っていたボールを投げ渡した。
「まねポケモン、ウソッキー。 『岩タイプ』の、ポケモンだよ。」
「『岩タイプ』!?」
あたしは 思わず すっとんきょうな声をあげていた。
近づいて来た少年は、銀色の瞳で あたしが持っているモンスターボールを見つめている。

「自分のタイプをごまかす為に、こんな『木』みたいな容姿をしていたんだ。
 これだけ巨大になったのは、周りの 土やら何やらを 体中につけていたからだな。」
赤い髪の少年は、落ち着いた口調で 説明をしてくれた。



「うえ〜・・・・・ぺっぺっ!!
 もー!! シルバー、いきなりだったから、口の中に 土が入っちゃったじゃないか〜・・・・・」
土の山の向こうから、もう1人、少年の姿が現われた。
声からして、あの のんびり口調の 人物なのだが・・・・・・

顔を見て、そりゃー、驚いたわよ!!
「うそっ!? 『ゴールド』!?」
「・・・へっ?」

そう、頭に帽子をかぶってはいたけど、
その顔は ワカバタウンで見た写真の少年、そのものだったのよ。


16、シルバーの質問


ゴールドは、真っ黒な瞳をパチパチさせ、言葉を失っていた。
まあ、当然かもしれないけど。 突然 知らない女の子から 声を掛けられたら 誰だって驚く。

「行くぞ、ゴールド。」
赤い髪の少年は あたしのことなんか興味ないって いった感じで、ゴールドに声を掛けると足を北に向けた。
まるで、あたしのこと、保険の勧誘かなんかと 勘違いしてるみたい・・・

「でもさ、シルバー、あの子、ぼくのこと・・・」
「放っとけ。」
シルバーと呼ばれた少年は どうしてもあたしの事を無視したいらしい。


「・・・ちょっと待ちなさいよ!! ゴールド!!」
あたしは 目1杯の声を張り上げた。 思ったとおり、ゴールドは 黒い瞳を見開き、こちらの方を見つめている。

「あたしは ワカバタウンのクリス!! ゴールド、あんたに挑戦したい!!」
その場の勢いでポケモンバトルを申し込んでしまった・・・言いたいことはそうじゃなかった気がするのに・・・

「・・・ワカバタウン?」
2人は、予想外の反応を見せていた。
怪訝(けげん)そうな顔でこちらを見つめ、首をかしげているのだ。
「変だね?」
「・・・放っとけ、新手の ロケット団の挑戦かもしれないし・・・」

・・・ロケット団!?
この2人は、ロケット団を知っている?

「ロケット団を・・・知ってるの?」
とりあえず、たずねてみる。 あたしの ただの勘違いだったら、洒落(しゃれ)にならない。
「あ、うん・・・ ヒワダで、会ったから・・・」
ゴールドが 黄緑色の頭と首に葉っぱをつけたポケモンの後ろから答える。


「・・・連れてって。 ・・・ううん、あたし、あんた達の旅についてく!!」
当然と言えば当然だが、その時の2人の顔は、かなりの見物だったわね。
口があんぐりと開きっぱなしになり、目を見開いてこちらを見つめている。
でも、この少年達がロケット団の会ったのなら、この少年達についていけば、もしかしたら ロケット団に近づく事が出きるかもしれない。

赤い髪の少年は嫌そうな顔をしていたが、その代わりに喜んでいたのが、あたしのワニクローと、
ゴールドが連れている 黄緑色で 額の辺りと首の周りに 緑色の葉っぱをつけたポケモン、
それに、シルバーと呼ばれる少年の連れている、体がクリーム色と黒の半分ずつの 流線型(りゅうせんけい)をした 瞳の赤いポケモンだった。
ゴールドとシルバーは、それぞれ このポケモン達のことを『ミドリ』と『フレイム』というニックネームで呼んでいる。



「名前を聞かせてもらおうか?」
「・・・クリス。
 クリスタル・イブニング・グロウ・カラー。」
昔ながらの建物が立ち並ぶ街、エンジュシティ。
そこのポケモンセンターのロビーにあたしは座らされ、『シルバー』から尋問(じんもん)を受けていた。
う〜ん、シルバーって端正な顔してるから、笑ってれば 結構 カッコいいんだろうけどなあ・・・・・・

「何で、『子供のいない町』から、自称10歳の女が ゴールドのことを探しに来る?」
・・・・・・へ?

「うそっ!? あの町、子供いなかったの!?
 どーりで 何度探しても子供が見つからないと思った!!」
「質問しているのはこっちだ。 お前はどうしてゴールドを探していたんだ?
 それに、あのワニノコと、そのタマゴ・・・」
そう言って シルバーは あたしのポケモン達の方を 普通の人間とはちょっと違う 銀色の瞳で見る。

あたしは ごちょごちょ考えながら、しどろもどろに今まで遭ったことを説明した。
その説明で、どこまで分かったのかは 定かじゃないけど・・・


「・・・それで?」
あ、やっぱり分かってなかった、って思った瞬間、首の左の辺りに ちくちくするものがまとわり付き、あたしは思わず 小さく息を吸った。
・・・シルバーの手だ、この状態なら、シルバーはいつでも あたしの事を 絞め殺すことだって出来てしまう。
凍った湖のような、冷たい銀色の瞳に、あたしは一瞬そう思った。

「クリス、お前は、どうして旅をしている?
 お前の話だと、周りに流されてばかりで、自分自身がどうして旅に出たのか、全く話されていない。」
子供にしては少し低い声、嘘も、ごまかしも、シルバーには通用しそうにない。
・・・・・・そんな感じがした。


「・・・・・・ロケット団を、倒すためよ。」
これだけの一言を 全部を言いきるのに、1時間以上かかったような感覚だった。
生と死の境、一瞬、本当に自分がそこにいるのかと思ったもの。

「3年前、あたしはロケット団に捕まりそうになったの。 奴らが、ポケモンの生体実験をしているところを 偶然目撃して・・・
 ワカバに来て、壊滅したはずのロケット団が、まだ活動している事が分かったわ。
 だから、止めるのよ、もう あんな悲しいポケモンを出さないために・・・」
言葉に嘘はない、あたしは、シルバーの銀色の瞳を 睨み返してやった。


・・・・・・一瞬、シルバーの瞳が和らいで笑ったかと思うと、あたしの首に当てられていた手はなくなっていた。
不思議そうな表情であたしの事を見ているゴールドの脇を抜け、シルバーはセンターの外へ歩き出す。
こ・・・怖かった・・・・マジで絞め殺されるかと思った・・・

ほとんど一息つくまもなく、センターの入り口から男の声がしてきた。
「ゴールドと、クリス。 君達に 頼みがある。」
視線を向けると、トレーナーにズボン、金色に染めた長髪を 大きなバンダナで上げている、背の高い 男の人がいた。

その人、マツバと出会ったのが、おそらく 第2章の始まりだった・・・


17、ゴールドと、ゴールドと


「・・・今日は 変な日だぁ・・・・・」
明かりのない、闇に近い空間で ゴールドの澄んだ声が響く。
あたし達は、この『やけたとう』と呼ばれる、エンジュの古い塔に 若い男に連れこまれていた。

「悪かったな、突然 こんな所まで連れて来たりして・・・」
あたし達を連れてきた男が、ぺこっと頭を下げる。
謝るくらいなら、最初っから呼ぶなっつーの!!

「それでぇ? 一体こんな時間に こんな若い盛りの子供を連れ込んで、何しようってわけ?」
あたしは 尋ねてみた。
「ハハハ・・・悪い悪い。 俺はマツバ、このエンジュシティでジムリーダーをやっている。
 実は、俺達が今いる この『やけたとう』に、今夜・・・」
「今夜?」
聞き返したのはゴールド。


「・・・伝説のポケモンを狙って、ロケット団がやってくるんだ。
 彼等を守る為に、君達に協力してもらいたい。」

・・・・・・は!?・・・ロケット団・・・!?

「こっ、こっ、ここにロケット団が!? いつ!? ホントに!?」
「いつ・・・
 そうだな、翌朝の6:30、・・と言ったところかな?」

「6時半・・・」
ゴールドは 赤いパーカーに取りつけられた黒色のポケギアを 眠たそうな目で見ていた。
そんな、のんびりしてられるような状況なの!? あたしは不思議でしょうがない。

「ゴールド、寝てていいぞ。 今日はあっちこっち歩き回って 疲れたろ?」
シルバーの落ち着いた声が、その場の沈黙を一瞬だけ破り、また、闇の中へと消えていった。
ゴールドは眠たそうな目で シルバーの瞳を見つめると、暗い部屋の片隅へと移動した。
「うん、そうする・・・おやすみ、シルバー、ホワイト・・・」

「クリス。」
順番で呼ばれただけなのかもしれないけど、これ以上ないほどの漆黒の瞳に見つめられ、あたしは一瞬 胸が高まるのを感じた。
声を掛けた主は、黄色のタマゴを抱えて もう、すやすやと眠っている。
「う、うん、おやすみ、ゴールド。」




その晩、あたしは『やけたとう』を こっそり抜け出そうと考えた。
ロケット団が すぐそこまで迫っているというのに、こんな所でのんびりしているわけにはいかないでしょ?
・・・そう、『王子様』なんて、もう、やってこないんだから。

『・・・眠れないの?』

・・・・・・ひっ!!
塔を抜けたちょっと先くらいの場所で、不意に後ろから声を掛けられ、あたしは思わず 体を震わせる。
見ると、赤いパーカーに黄色と黒の帽子、眠たそうに目をこすりながら ボーっと立っている少年の姿があった。

「ゴ、ゴールド・・・ 先に寝たんじゃなかったの?」
「ぼくも、なんだか 起きちゃって・・・ ホワイトも同じみたい。」
ゴールドが言うと、ゴールドの足元にいた茶色いポケモン、イーブイが耳をふいっと動かす。
イーブイは、珍しいポケモンなのにもかかわらず、ゴールドとシルバーがそれぞれ1匹ずつ持っていた。
しかし、愛想のいいシルバーの『ブラック』と、マイペースなゴールドの『ホワイト』、性格は全くもって逆さまな2匹だ。


あたしは、とにかく抜け出そうとしてる事がばれないよう、平静を装ってみた。
「・・・ね、ねえ、ゴールド、笑わないの?
 あたし、ゴールドの家であなたの写真、見たんだけど、ゴールド、すごくいい顔で笑うじゃない?
 なのに、会ってから今まで、あなた1回も笑わないじゃない、どうして?」


その質問にゴールドが答えるまで、数秒間、かかった。
「んっとね・・・同じくらいの年の 女の子と話すの、初めてだったから・・・それに・・・」
「それに?」
「どうしてかは分からないけど、子供が怖いんだ。 シルバーは平気なんだけど・・・
 なんだか、すっごく嫌な事、思い出しそうな気がして・・・・・・
 ご、ごめん・・・こんなこと言われても 困るだけだよね・・・おやすみっ!!」

ゴールドは複雑そうな表情を浮かべ、風のような早さで塔の中まで掛け戻る。
残されたあたしは、しばらく考えた後、なんとなく、塔の中に戻って 明日まで眠ることにした。
・・・その行動が正解かどうかは わからないけど。



翌日、ゴールドは早々と起きて、ポケモン達のコンディションを整えていた。
「めえ〜?」
「ロケット団が来るんだってさ。 きっと、戦う事になるだろうから みんな、がんばらないとね!!」

ゴールドは ポケモンの鳴き声に言葉で答えている。
・・・あれが、おばさんの言っていた『会話』なのだろうか?


「おはよう!! ポケモンと・・・『話して』たの?」
あたしはさりげなく話しかけてみる。
振り向いたゴールドは、悪い事が母親に見つかった少年のような表情を浮かべ、緑色の草ポケモン、『ミドリ』の首を抱きしめた。

「ぼく、『化け物』じゃないもん・・・・・」
今にも泣き出しそうな表情で、ゴールドは振り絞るような声を出した。
・・・あたし、何か悪い事でも言ったのだろうか?
「なんで、そうなっちゃうのよ? もし ポケモンと話せるっているんなら、すっごい『才能』じゃない!!
 ゴールド、あなた ポケモンと人間の『掛け橋』になるかもしれないのよ?
 なんでそう悲観するのよ?」


「・・・その 能力(ちから)のせいで、ずいぶんと いじめられてたからな。」
あたしの正面から いつのまにかシルバーが登場していた。
彼は時々、いつのまにかいなくなっていたり、そうかと思うとまた現れたり、そんな行動を繰り返している。

「いじめ・・・?」
「やっぱり、覚えてないんだな? どうりで、おれのこと覚えてないと思った。
 ・・・無理ないって言えば、無理ないか・・・ずいぶん酷い目に遭(あ)ってたもんな・・・・・」


・・・その言葉で、あたしは昔、街でいじめられていた少年の顔を思い出した。
彼自身は、何も悪い事をしていないのに、何故か人と違うだけで仲間外れにされる。 考えてみれば、ゴールドもそうだったのかもしれない。

今の言葉で、少なくともゴールドは 自ら望んでこの力を手に入れたわけではない、ということだけは分かったんだ。
もしそうなら、『ポケモンと話せる』ことで、苦しんだことだって、あるのかもしれない。
・・・あたしは、単純に『他と違うから良い事だ』と思っていた自分が 恥ずかしくなった。


・・・とにかく、ゴールドに謝らなくちゃ!!
そう思って、あたしは顔を上げた、 と、同時に、心臓が凍りつくような音を立てる。
『やけたとう』の 正面の森の中に、全身黒ずくめの集団を見つけたからだ。
とっさに、首からかかっているポケギアの時計を確認する。 6時30分。

「でもさ、ゴールド、今ここで のんびり考えるような時間はないみたいよ?」
黒服の集団は、あたしの願いをよそに どんどんこちらへ近づいてくる。
胸に刻まれた『R』の文字が、はっきり見える位置まで ついにやってきた。

「6時・・・30分、ちょうど!!」



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