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18、7月9日
「・・・なんだ? このガキども・・・・・」
ロケット団の男は あたし達の事を睨んだ。
やくざに睨まれたみたいで、足がすくんで動けなくなりそうだけど 退くわけには行かない。
「伝説のポケモンは、お前達 ロケット団の手には渡さないぞ。
・・・このエンジュシティジムリーダー、マツバと、未来のポケモンマスター達が守るからな。
おとなしく引き下がった方が、身のためなんじゃないのか?」
ジムリーダー、マツバは、ロケット団達に向かって 自信満々に言い放つ。
・・・プレッシャーだな、こんな事言われると・・・
「なんや、エンジュのリーダーごときが騒いだところで、うちらロケット団は 止められへん!!
なあ、ハギさま?」
ロケット団の黒、黒、黒の制服の中、そこだけぽつんと目立つ、白い服の女達が 他の男達をかき分け、前に進んできた。
2人組の女で、2人とも黒いストレートヘア、
1人は肩の辺りまである セミロング、動き方が何か、なよなよとした感じの20前後の女と、
そして、もう1人、この女は、あたしに強烈な印象を与えていた。
「なに・・・あの女の人・・・表情がない・・・」
その女は 腰まで・・・ううん、足の辺りまである、黒く、黒く、長い髪。
女の人にしては高い背に、まっすぐ、しっかりとした眉、黒い瞳。
でも、その顔には 表情がない。 まるで、仮面か 石膏像を見ているみたいだった。
「おそらく、彼女は『感情』がないんだ。 どうしてそうなったかは、分からないけど・・・」
「そうや、流石(さすが)ジムリーダーどすなぁ・・・察しのとおりや。」
タマオと呼ばれたセミロングの女が、エンジュ特有のなまりで話す。
このタマオ、動き方なんかは しなっとして優雅なんだけど、その動きの中に『スキ』なんていうものはなかった。
初心者の あたしでも分かるくらい。
「まあええ、とにかく『やけたとう』に眠る伝説のポケモン、うちらが手に入れるんやからな!!」
タマオはそう言うと、右手を高く掲げた。
それと同時に 幾多のロケット団が あたし達めがけ・・・いや、『やけたとう』に向かってなだれ込んでくる。
「・・・ま〜た、人数で攻めてきますか。」
「ほんっと!! こりない連中!!」
あたし達はモンスターボールを構えた。 戦闘のゴングが、どこからともなく カーン と鳴ったような気がする。
「ワニクロー『みずでっぽう』!!」
ワニクローはいつもの調子で ロケット団の黒服を 水浸しにしていた。
でも、そのワニクローの背後に別のロケット団のポケモンが襲いかかろうとして、あたしは反射的にポコを出す。
「ポコ、いっけ!! (え〜と、指示、指示・・・)
ポコは・・・え〜っと・・・きゃっ!!」
「モコモコ、クリスを手伝って!! そう、『でんきショック』!!」
指示がもたついたあたしに 助け舟を出してくれたのは ゴールドの 全身ピンク色の 真っ白な体毛を首の周りにつけたポケモンだった。
「あ、ありがと、ゴール・・・・・!?」
全ての言葉を言い切らないうちに、あたしは 足の力が抜けていくのを感じた。
背筋の産毛が逆立ち、三半規管が働かなくなって どっちが上だか分からなくなる。
「クリス!!」
ゴールドの叫び声が聞こえて、ようやくあたしは 自分が宙に浮いてるってことを認識した。
さっき、あたしの事を助けてくれた『モコモコ』という名前のポケモンが、ほとんど感覚のなくなっているあたしの手を必至で掴む。
直後、あたしの体は『やけたとう』の中に放りこまれていた。
「・・・・・・めぇ〜・・・」
真っ暗な部屋の中、あたしはゴールドのモコモコの声で気が付いた。
起きあがると、全身・・・特に背中がじんじんと痛む。 おそらく、どこかに 体ごと打ちつけられたのだろう。
モコモコが尻尾についた球から光を出し、あたしは自分が『やけたとう』の中の小さな部屋の中にいることを認識した。
辺りを明るくし、自分の周りの状況を確認する技『フラッシュ』だ。
おそらく、ゴールドが 覚えさせてのだろう。
見ると モコモコは 両手であたしの持っていたタマゴを抱えていた。
「・・・もしかして、ずっと守っててくれたの? モコモコ・・・」
モコモコは、コクンッ、と1回うなずいた。
あたしはなんだか嬉しくなって、モコモコの頭を撫でる、ふかふかの体毛のついた頭は、あったかくて、やわらかい。
彼女から(図鑑で調べたら♀だった)タマゴを受け取ると、あたしは立ちあがり、ひざについた泥をはたいた。
「さあ、行こうか!!
とりあえず、ここがどこだか、調べないとね!!」
「めえぇー!!」
モコモコは、ゴールドによく似た笑顔でうなずいた。
19、奇跡の場所
『モココ』のモコモコに 『フラッシュ』の光度を上げてもらい、辺りを見渡すと、そこは、まるで大きな神殿のような場所だった。
そこら中に、謎の生物やら、ポケモンやら、道具やらの石像が立ち並んでいる。
床に じゅうたんを張ってあった痕跡があることからすると、昔の神殿か、王宮か、そんな所だったのだろう。
「もういいよ、モコモコ、光度を戻して。
とりあえず このじゅうたんが張ってあった『道』なりに行ってみよう!!」
あたしが言うと、モコモコはすぐに 最初につけた 明るさに戻した。
このポケモン、優しいのか、気が弱いのか、聞き分けがいいのか、それとも誰にでもなついちゃうのか、さっぱり分からない。
・・・今はありがたい限りだけど。
ここに吹っ飛ばされた時に ポコとワニクローとはぐれちゃたあたしにとっては。
暗い通路に、あたしとモコモコの足音と、あたしが首につけた鈴の音色だけが響いていた。
湿気の残る通路の中は、この時期でも少し肌寒い。
・・・?
長いじゅうたんの先に 他より一段高くなっている場所がある。
「モコモコ、あそこに 光を当ててみて。」
モコモコはうなずくと尻尾の明かりで 道の先にある高くなっている場所を照らした。
『・・・誰か、いるのか?』
知らない男の声、・・・そうだ、もしかしたらここにロケット団がいるかもしれないんだ。
あたしは、モコモコに『フラッシュ』をやめさせ、戦闘態勢を取る。
相手のポケモンの『フラッシュ』があたしに当たり、あたしは眩しさで片目をつぶった。
逆光でよくは見えないけど、20代くらいの男と、丸いポケモン・・・多分、プリンかビリリダマが あたし達の前に立っている。
「・・・なんだ、女の子か。
てっきり、マツバがロケット団を食い止められなかったのかと思ってあせったよ。」
逆光がおさまり、光の主がマルマインだと言う事がようやく分かる。
そのマルマインのトレーナーは、もう7月だというのにマントを羽織り、
ホテルのボーイのようなスーツを身にまとっている どう見ても『風変わり』としか言いようがない男だった。
「あんた、何者?
ロケット団なら、容赦なく倒すわよ。」
あたしは目1杯睨みつけ、左手にヒメのモンスターボールを持ち、右手で空のボールを男の前に突き出し、牽制(けんせい)する。
「失礼、失礼、私は怪しいものじゃない、お嬢さん、そんなに怖い顔をしないでくれ。
私はミナキという者だ、10年ほど前から『スイクン』という ポケモンを追って、旅をしている。
最近、この『やけたとう』に スイクンがいるという情報を聞き、探しに来たところだ。
決して、ロケット団なんかではない!!」
マントの男、ミナキは両手をうえに上げ、抵抗しない、といった意思表示をして見せた。
それを見てあたしは、突き出していたモンスターボールを 手首のバンドに戻す。
「それは失礼、あたしはクリス。
ロケット団と戦っていたら、ここに偶然、吹っ飛ばされてきました。」
ミナキのまねをして、すました口調であたしは話す。
ロケット団、と聞いて、ミナキの表情が一瞬、動いた。
「・・・ロケット団、だって? まさか、もう来てしまっているのか?」
あたしはうなずく、まだ味方と決まったわけでもないのに、心を許すわけにも行かない。
「めぇ〜」
服のそでをモコモコに引っ張られ、あたしはモコモコの存在を思い出した。
モコモコは 1段ほど高くなっている場所に登り、なにやら めえめえ鳴いて、あたしを呼んでいるように見える。
「なに? モコモコ。」
階段状になっているところを使い、あたしはモコモコの所まで行ってみる。
そこは、上を見ると 1ヶ所だけ光がこぼれている・・・差し込んでいる、というのだろうか?
とにかく、上から光が落ちている場所だった。
「なんだろね、ここ、 他の所とはちょっと違うっていうか・・・
・・・・・・あれ?」
上から差し込んでいる光が 地面に当たっている所、そこだけなんだかキラキラして見える。
あたしは、不思議に思ってそのキラキラに近づいてみた。
「なんだこれ?」
キラキラの正体は、水晶の原石のような、角張った形をした 透明な石。 これが、プリズムの働きをしてキラキラして見せてたんだ。
あたしは 石を拾い上げて眺めてみる、特に、変わったところは・・・
「クリス・・・それは・・・・・・!!」
ミナキ(すっかり呼び捨て)が 背後から天地がひっくり返りそうな声をあげるので、あたしは思わず振り向いた。
その瞬間、首につけていた鈴が、 ちりんっ と、音を鳴らした。
「え・・・?」
次の瞬間、目もくらむくらいの激しい光に包まれて、あたしはまたしても訳が分からなくなる。
手に持った石が、熱くて、ピリピリして、冷たい。
のどもとの チリチリとした感触で、その石が あたしのつけている鈴と反応しているというのが分かった。
「モコモコッ!!」
腕に抱えていたタマゴを モコモコに投げて渡す。
右手を石から離すことが出来ないし、このままだと あたしはどうなるか分からない。
『クリスタル!!』
・・・・・・次の瞬間、あたしはエンジュシティを一望していた。
今度は『やけたとう』の上空まで 飛ばされたんだ。
20、動き出した伝説
いつも踏みしめている地面の感触がなく、あたしは何もない空間を一瞬、宙に浮いているのかと思った。
でも、すぐにそれは違うって事がわかった。
景色が ぐらって動き、一瞬、目の前が灰色に変わったかと思うと、地面が ぐんぐん迫ってくるのが見える。
・・・・・・・・・・・・・・・落ちてる・・・・・・・・・・・・・・・
『怖い』って思ったけど、ロケット団を見たときや、お化け屋敷に入るときとは違っていた。
何を考えれば良いのか分からず、声も出ない。
ただ1つ、感じた。
「あたし・・・・・・死んじゃうのかな・・・?」
チリンッ
風にあおられ、首につけていた鈴が鳴る。
下から吹き上げてきた風で、あたしの体は 宙に浮いた。
黒い影が 一瞬迫ってきたかと思うと、顔や手が 柔らかい感触に包まれる。
「・・・ん、なんだ? これ・・・」
死ぬかと思い、ぎゅっとつぶっていた目を そっと、開いてみる。
あたしは、紫色の柔らかい毛に包まれ、何か暖かいもの上で 寝そべっていた。
指を動かし、生きていることを確認してみた、そうすると、目の前に見えている柔らかい毛を 幾(いく)らか掴む。
「クルルルル・・・・・・」
あたしは、2メートル以上ある 巨大なポケモンの上に乗っていた。
透明感のある水色の大きな体、触るとふんわり柔らかい、紫色のシルクのような長いたてがみ。
水晶のような形をした、透明な大きなシンボルが 額につき、表情をりりしく見せている。
白い、リボンのような尻尾が 2股に分かれ、体を包むようにひらひらとゆれていた。
巨大ポケモンの足が地につき、あたしは 地面の上に下ろされた。
ほんの数秒の出来事なのに、地面の感触が 懐かしく思える。
「あ、ありがと、助かった。」
あたしが礼を言うと巨大なポケモンは、大きな頭をあたしに近づけ 優しくほおずりしてきた。
つるつるとした 額のシンボルの感触が 気持ちいい。
「クリスタル!!」
上空から降ってきた声で、巨大ポケモンは反射的に振り向き、風のような速さで走り出した。
首に捕まっていたあたしは 引っ張られ、足が宙を舞う。
「きゃっ!!」
危険を感じ、巨大ポケモンの首を掴んでいた腕を離す。
あたしの体は 近くにあった池の真ん中にある イシツブテくらいの石の上に放り出された。
その瞬間、カメラのフラッシュのような光が瞬き、あたしは目が眩み、まばたきを繰り返した。
振り向くと、目の前で黄色の虎柄の体をした、雲のようなたてがみを持った、巨大なポケモンと少年が戦っている。
赤い髪に黒い服、あれは・・・・・・シルバーだ!!
「シルバー!!」
あたしが叫ぶと、シルバーは気付いたようにこっちを向いた。
戦っていた 虎のようなポケモンは 跳ねるように、電光石火のスピードでその場を去る。
「・・・行ったか。」
虎のようなポケモンを見送ると、シルバーは戦わせていた『フレイム』(学名はマグマラシと言うらしい)を
ボールに戻し、こちらまで歩いてきた。
「・・・おまえ、何やってんだ?
池の真ん中で突っ立ったりして・・・・・・」
シルバーは怪訝な顔で 池の向こうから 話し掛けて来た。
「知らないわよ!! ロケット団に塔の中まで吹っ飛ばされたと思ったら、いきなり光に包まれて、
そしたら、いきなり、エンジュの上から・・・落っこちて・・・」
話しているうちに、胸から首の辺りがじんじんしてきて、あたしはその場にうずくまる。
心臓が 破裂しそうなくらい どきどきしている事に、今ごろになって気付いた。
「わーった わーった!! んで、そこから出られないんだろ?
今、出してやるから、そこ動くな。」
シルバーはそう言うと、持っているモンスターボールを開き、巨大なコウモリのようなポケモン、ゴルバットにつかまり、飛んできた。
手を差し出し、空から救出しようと試みる。
「ほら。」
差し出されたシルバーの手に あたしはつかまった。 ゴルバットに指示して、ゆっくりと上昇する。
そうして触れてみると、彼の手は とても子供のものとは思えないくらい 荒れていた。
『・・・シルバーッ!!』
そんなに離れていない所から、子供の悲痛な叫びが聞こえてきた。
「ゴー・・・ルド・・!?」
シルバーがつぶやく。 言われるまで気付かなかったけど、確かにあれはゴールドの声だ。
・・・・・・そこまでは良かったんだけど・・・
シルバーの手から力が抜けて、あたしは結局、池へドボン!!
おまけに、シルバーの奴、あたしの事無視して そのまんま行っちゃったんだもの!!
・・・・・・あ・の・や・ろ・う!!
ずぶぬれの体を引きずって、あたしは池から這(は)い上がる。
コノウラミ ハラサデオクベキカ・・・・・・
あたしは シルバーが向かった方向に走り出した。
21、シルバーの贈り物
「シルバァーッ!!」
『やけたとう』の近くの森に、その姿はあった。 真っ黒なフリースに、赤い髪、見間違えるはずがない、シルバーだ。
あたしは 大股(おおまた)で 彼に詰め寄った。
「もうっ!! 勝手に行くから 池に落ちちゃったじゃない!!」
「仕方ないだろ、ゴールドが呼んでたんだから・・・」
この距離まで近づくと、シルバーのあせったような顔がよく見える。 びびったように、銀色の瞳が ふらふらと動いていた。
「あ、あと、クリスタル・・・言いにくいんだけど・・・・・」
「何よ?」
シルバーは 目をパチパチ瞬いていた。 どうやら、よほど言いにくい事のようだ。
あたしは耳を傾けてみる。
(・・・・・・・・・・・・透けてる。)
・・・な、なんですって!?
普通、女の子に向かって、そんなこというもんか!?
反射的に グーで殴りかかる。
シルバーは避けようとしたが、見事に 拳骨(げんこつ)はシルバーの頭に クリティカルヒットした。
「いってぇ――!! 何だよ、本当の事 教えてやっただけじゃねーか!!!」
「バカッ!!! この ドスケベ男ッ!!!!
だいたい、こうなったのも 誰のせいだと・・・・・」
「・・・・・・ぷっ、クスクスクス・・・」
この状況に似合わない、あっけらかんとした笑い声に、あたしとシルバーは口論を中断した。
「ご、ごめん、なんだか・・・おかしくって・・・」
笑い声の主は、ゴールドだった。
ワカバで見た写真、そのままに ゴールドは純粋な笑顔を見せる。
「・・・やっと笑った!!
会った時から 一回も笑わないから、もう笑ってくれないんじゃないかって思った。 やっぱり、いい顔だ!!」
なんだか、嬉しかった。 その笑顔を見たくて、ずっと探していたゴールドが、初めて笑ったのだ。
見ると、つられてシルバーも笑っている。
彼の銀色の瞳が細められ、とてもうれしそうな 優しい瞳に変わっていた。
あたしは、いつのまにか 自分も笑っている事に気付いた。
「はい。」
その日の夕方、あたしは小さな袋を シルバーに投げて渡した。
シルバーは銀色の瞳を ぱちっと 1回瞬いて、紙袋を不思議そうに見つめている。
「何だ、これ?」
「ハンドクリームよ、あんたいくつかは知らないけど、手、荒れ過ぎだもの!!
少しは 手入れしなさいよ!!」
シルバーは 銀色の瞳をパチパチ瞬き、紙袋の中から円筒形(えんとうけい)の入れ物を取りだし、見つめていた。
「そんなに荒れてるのか? おれの手・・・」
自分の手のひらを見つめながら、疑問形の言葉を あたしに投げかけてくる。
「『荒れてる』なんてもんじゃないわよ!!
ちくちくしてしょうがないわ、見てるこっちが痛いわよ。」
「う〜ん、しょーがねーんだよな、仕事がら・・・・・・」
シルバーは 赤い髪の生えた頭をぼりぼりかきながら、難しそうな顔をして答える。
「仕事?」
「新聞配達。」
答えは1秒で返ってきた。 答えたシルバーは、どこかすねたような表情を見せている。
「トレーナーだけじゃ、食ってけないんだよ。
お前らと違って、税金 自分で払わなきゃなんねーし・・・」
「ぜ、税金って・・・」
この世界では、基本的に子供に税金を課す義務はないのだが、
バトルなどで賞金が入ってくるトレーナーだけは、特別に20歳未満でも『ポケモン税』というものがかかっている。
トレーナーは、この税金を政府に支払う代わりに、ポケモンセンターなどの施設を無料で利用できる、というからくりだ。
「・・・・・・あんたねえ、親に勘当でもされたの?
普通、そんなの 親が払うもんでしょう?」
「・・・勘当、ね。
だったら いいんだけどな。」
意味不明な言葉をつぶやくと、シルバーは街に向かって歩き出した。
その時、彼がどうして淋しそうな表情をしていたのか、あたしには分からない。
その晩、ポケモンセンターのベッドルームに戻ると、可愛らしい包みが あたしの寝床の枕元に 置いてあった。
包みから ころんと出てきたのは、星型をした、かわいいヘアピンだ。
「・・・?」
どうして こんなものが枕元においてあったのか分からず、あたしは包みをひっくり返してみた。
そうすると、1枚の紙切れが ひらりと 宙を舞って床に落ちる。
拾い上げ、その紙に書いてある文を見ると、あたしは 自分でも気付かないうちに口元をゆるめていた。
『クリーム、ありがとな。
クリスタルこそ ちょっとは女らしくしろよ!!
怪盗シルバーより』
「・・・な〜にが、『怪盗』よ。 カッコつけちゃって!!」
明日、彼に会ったら、1番にお礼を言おう。
もしかしたら、第1印象よりは いい人間なのかもしれないし。
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