30、7月24日
「パルルルッ!!」
タンバの薬の効果は 相当なものだったらしく、翌日にはアカリちゃんは 起きあがれるほどにまで回復していた。
まだ、部屋の外に出ることは出来ないが、
同じ電気タイプだからか、すっかり仲良くなったモコモコと 電気の 飛ばしあいをして遊んでいる。
「でも、なんで、『パーカー=ゴールド』になったんだろ? ポコ、どう思う?」
あたしはなんとなく疑問に思った事を ポコにぶつけてみる、もちろん、言葉が通じているわけじゃないから、
答えが帰ってくるなんて 期待しちゃいないんだけど・・・
「キュイン!!」
ポコはネックホルダーの先についたポケギアをつついた。
あ・・・・・・そっか、ゴールドに 直接聞けばいいのか・・・
『もしもし・・・』
受話器の向こうから もうすっかりお馴染みの 澄んだ声が響いた。
でも、心なしか、いつものゴールドより 声に元気がないような気がする。
「もしもし、ゴールド? あたし、クリス!!」
『クリス? あ、ピーたろう、無事についた? アカリちゃん大丈夫?
・・・・・・あ、ちょっと待って、すぐこっちから 掛けなおすから。』
そう言うと、1度 電話は通じなくなった。 その後、1分もしないうちに ポケギアの着信音が響き渡る。
『もしもし、え〜っと、何だったっけ? あ、そうそう、アカリちゃん!!
・・・お薬、効いてる?』
はあぁ〜、ゴールド、いつだって ポケモン最優先なのね・・・・・
「うん、アカリちゃん、もう すっかり元気よ!! 熱も引いて 今ベットの上で寝てるわ。」
遊びつかれたのか いつのまにか あたしの足元で座り込んでいる モコモコの頭を撫でながら あたしは答えた。
ゴールドも安心したのか、力の抜けた声で ほうっ と1つため息をつく。
「そっか、ピーたろう、ちゃんと到着できたんだね。 よかったぁ〜。」
『ピーたろう』の言葉で あたしは もう1つの疑問を思い出した。
「ねえ、ゴールド。
そのピーたろうだけどさ・・・あれ、ピジョットよね?」
「うん。」
ゴールドは即答で答える。 レッドと入れ違いにアサギに到着した 1メートル半を越す巨大な鳥ポケモン。
「あんな ゴールドより大きいポケモンがいるんだったら、どうして 乗って帰ってこなかったの?
『空の道』がわからないから、行きに使えなかったっていうのは分かるけど・・・・・・」
鳥ポケモンは地上の磁場(じば)を感じて 街と街との間、その位置関係を認識する、と、何かの本で見た覚えがある。
だとしたら、帰りはゴールドも わざわざ海を越えなくても ピーたろうに乗って 帰ってくれば良いはずなのに・・・・・・
受話器の向こうでは 言っている意味がわからなかったのか、沈黙が続く。
「・・・ゴールド、ゴールド?」
『え、ああ、なに?』
・・・やっぱり、分かってないな、こいつ・・・・・・
「だーかーらー!! どうして ピーたろうと一緒に アサギまで帰ってこなかったかってこと!!」
『ああ、なるほど・・・要するにね、『ピーたろうと帰ってくることが出来なかった』んだよ。
タンバにつくまでに、結構 色々トラブルがあって・・・、今、病院なんだ。』
一瞬、頭の中が真っ白になった。
「病院!? 人間の?」
あまりの驚きに 声がひっくり返っていた。
パニックしている頭を 何とか落ち着かせようと 深呼吸する。
『うん、人間の。
でもさ、いろいろ いいことあったよ。 昔のこととか、思い出したし・・・』
「昔のことって・・・・・・」
『ちっちゃい頃、いじめられてた事とか、どうして いじめられてたのか、その時会った 男の子の事とか、
どうして、このパーカーを いっつも着てるのか・・・とかね。』
「・・・パーカー?」
以外にも、あたしが知りたいと思っていた事を ゴールドは自分から話してくれた。
話すことによって 自分が傷ついてしまいそうな内容なのに・・・・・・
『クリスは知ってるよね、僕が ポケモンと話せるっていうの。
ちっちゃい頃、それをみんな怖がってたみたいで、『化け物』と話せるからって、僕いっつも 仲間外れにされてたんだ。
でも、淋しかったから、近所の 同じくらいの年の子供と遊ぼうとしたら、その親が 怒って怒って!!
しょっちゅう 石、投げられてた。
それでさ、いつも 長袖のパーカー着てたんだ。 少しでも 傷にならないようにって・・・』
・・・・・・ばかだ、あたし。
『ポケモンと話せることが良い事』とか、自分に都合よく解釈してばっかりで、それが どういうことかも解かってなかった。
『能力』をもつことで どれだけゴールドが傷ついたかも知らずに・・・・・・
きっと、シルバーは知っていたんだ、ゴールドが どれだけ辛い思いをしていたのか。
「・・・・・・そっか、そういうことだったんだ。」
酷い(ひどい)よね、ゴールド、何にも悪いことしてないのに・・・・・・」
あたしは いろんな事がわかったような気分だった。 昨日見かけた 少年達の言葉を思い出し、怒りで 腕に力が入る。
『でもさ、気味悪いと思うのは 本当だから。
僕が どれだけあがこうが、叫ぼうが、『化け物人間』である事には、変わりないからね。』
どうして そんなに優しくしていられるのよ、ゴールド?
・・・・・・どうして、そんなに 強いの?
「・・・殴ってくる!!」
怒りを押さえきれず、あたしは 乱暴に電源を切ると 街に向かって歩き出した。
止めようとしているのか何なのか、後ろにモコモコとピーたろうを引きつれて 昨日の 少年達の姿を探す。
幸か不幸か、昨日見つけた場所で少年達は 昨日の『化け物人間』の話題で盛り上がっている所を すぐに見つけられた。
「見たんだよ、あの化け物人間、腰のとこにモンスターボール、くっ付けてた!!
きっと、あれで おれ達に復讐するつもりなんだ!!」
「バカ言うな!! どうせ、あいつを守ってくれる奴なんて、もういないんだ。
石でも投げとけば、また、泣いて逃げ・・・・・・・・・ん? 誰だ? おまえ・・・・・・」
少年達は 睨みつけているあたしに気付いた。
「・・・・・・あんた達、ワカバ出身?」
話しながら 1歩ずつ 少年達に歩み寄る。
「・・・え、そうだけど・・・ 誰だよ、お前・・・」
「ワカバタウンの、クリスタル。 ゴールドの『友達』よ。」
少年達は 目を丸くした。 それだけ、少年達の知っているゴールドは 友達がいなかったんだ。
「・・・・・・冗談だろ? なあ、悪い事 言わねーから、あいつは止めとけって。
ゴールド、『呪われた子供』なんだぜ?
昔、あいつの友達だった奴の かあちゃん、ポケモンの・・・・・・」
「そんなの関係あるかッ!!」
怒鳴り散らすと、少年達は ビクッと震えあがった。
追い討ちをかけるように あたしは 自慢の馬鹿力で 近くにあった大きな石を破壊する。
予想通り、ガラガラと音を立てて崩れていく石に 少年達は顔色を青くして 言葉を失っていた。
「・・・いい?
今度 ゴールドの悪口を言うような奴は このあたしが許さないんだからね!!
あたしの パートナーの『化け物』達と一緒に 全力で反撃するんだから、・・・・・・覚悟しときな!!」
それだけ言うと、あたしは きびすを返して 灯台の方へと向かった。
まだまだ、旅は終わっちゃいないんだ。
次の街へと行く 旅支度を 始めなければいけない。
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