32、21回のコンティニュー


「ワニクロー、『みずでっぽう』!!」
「むうちゃん、『でんじほう』よ!!」

ムウマの『でんじほう』を もろに食らうと ワニクローは体力を失い、ばたっと倒れてしまった。
あれから数日。
すでに 数え切れないくらい あたしはブルーさんに挑戦しては、負けている。


「・・・・・・はあ、どうして 勝てないかなぁ?」
ボロボロになったポケモン達を センターに預けている間、あたしは ボーっとそんなことばかり考え続けた。
・・・一体、何が足りないっていうんだろう? レベル? 相性? 戦略?
それとも、ポケモンへの愛情?
・・・・・・どれも、思い当たることがあり、思い当たることがない。(え? 訳分からない?)

「あー、もうッ!! 一体どうしたらいいのよ!?」
だんだん 腹が立ってきて あたしはどっかりと ソファに体を放り投げた。
負けるたびに読みふけった ポケモンバトルの参考書のせいで 頭がガンガン痛くなる。

「・・・・・・そんなに怒っていたら、可愛い顔が台無しよ?」
ポケモンの回復が終わり ボールをベルトに戻しながら ブルーさんが 気遣って声をかけてくる。
「・・・そうだ、今日は『いかりのみずうみ』にでも、行って見ない?
 ここの観光名所らしいわ、少し、気分転換になるんじゃない?」
ブルーさんの提案に あたしは 顔を少し上げた。
・・・確かに、ここ3日ほどバトル三昧で 気分がギスギスしがちだ。 ポケモン達だって、戦ってばかりでは かわいそうだろうし・・・
あたしは ブルーさんの提案に乗ることにした。
ちょっとばかり 遅い朝食をとると ポケモン達を引き連れ、ブルーさんと一緒に『いかりのみずうみ』へと向かう。



「『いかりのみずうみ』、昔、人間達が 争いばかり起こしていたころ、突然、赤いギャラドスが現われ、町を破壊し尽くした。
 赤いギャラドスが 暴れ、出来た穴に雨水が溜まったのが『いかりのみずうみ』の 元と言われている・・・
 ・・・・・・か、何だか、悲しいお話ですね。」
パンフレットを読みながら あたし達は 森の中の道を ゆっくりと進んでいった。
時々、木々の間から 野生のポケモン達が 顔をのぞかせるのが なんだか楽しい。
なんだか、久しぶりに 笑顔になったような気がした。


湖は、1面、青1色で埋まっているというわけではなかった。
あたしの予想に反し、湖に生息している コイキングが 水面をバシャバシャと跳ね、湖の色が 時々赤くなったりする。
「うん、気分転換には かなりいい場所じゃない!!
 ひろいなぁ〜・・・・・・」
あたしは ポケモン達を 全部ボールから出し、ここで ちょっと息抜きをすることにした。
ヒメが暴れないかどうか、ちょっと心配だったけど、全員、素直に水辺で遊んでいる。

ボーっと湖を見つめていた時、同じように 横で湖を見つめていたブルーさんの髪が 不意に ふわっとゆれた。
何かに気付いたらしく、振り向いたのだ。
「・・・・・・・・・ワタル、どうして?」
あたしが後ろを振り向くと、去年の優勝者、最強とも言われている ドラゴンポケモン使いの『ワタル』が、後ろに立っていた。
あまりにも 唐突だったので 驚く時間さえ見つからない。

「やあ、久しぶりだね、ブルー。 ・・・・・・そっちの子は?」
ワタルさん(ここは『さん』をつけておくべきだろう)は、あたしの方を見つめ、ブルーさんに質問を投げかける。
「クリスよ。 オーキド博士のから ポケモン図鑑を受け取った1人。」
ブルーさんは簡潔に あたしのことをワタルさんに説明した。


「ワタルこそ、どうして こんな所に来たの?」
ブルーさんの質問に ワタルさんは 笑って答える。
「もうすぐ、『あの時期』だろ?」
「・・・・・・なるほどね。」

・・・・・・・・・???
2人で勝手に納得されても・・・・・・困る。

「それに、久しぶりに ジョウトを楽しむのも いいかな、と思ったんだけど・・・・・・
 ・・・・・・どうも、そうはいかないみたいだ。」
そう言うと ワタルさんは 突然、厳しい目つきになって、湖の方を見つめた。
あたしの方は 振り向かずに 口だけで話し始める。
「クリスちゃん、だったね。 湖を見ててごらん、不思議なことが起こるよ。
 念のため、ポケモン達を 自分のそばにおいておいた方がいいだろうね。」
「???」

あたしはとりあえず、言われたとおりに 遊んでいたポケモン達を呼び集め、湖を見つめ続けた。
すると、ブルーさんも顔つきが変わり、厳しい顔で水面を見つめだす。
「・・・・・・ワタル、これって・・・」
「そう、察しの通りだろう、ブルー。 恐らく、止める事は不可能だ。」

バシャンッ

不意に 1匹のコイキングが跳ねたかと思うと、メキメキと 骨の軋む(きしむ)ような音を立て、巨大なポケモンへと『進化』していく。
きょうあくポケモン、『ギャラドス』。 体もでかけりゃ、力も強い。
おまけに 性格も暴れものという、相手に回すと これ以上 厄介(やっかい)なポケモンもいないだろうという曲者(くせもの)だ。

「・・・何よあれ!?
 コイキングが いきなりギャラドスに進化するなんて話、聞いたことないし、
 それに、あのギャラドス、『赤い』じゃない!?」
そう、普通、ギャラドスの体の色は 水に溶け込みそうな 力強さを持った青色。
しかし、目の前で 暴れまわっているギャラドスは 血のような色彩を持った、真っ赤なギャラドスだった。

33、破壊神と救世主


赤いギャラドスは 何の前触れもなく あたし達に向かって『りゅうのいかり』を放ってきた。
ブルーさんに抱えられ、何とか それをかわすと、ワタルさんが カイリューを出し、ギャラドスに対抗しようとするのが目に入る。
言う事も聞かず、ただ怒りを晴らすために ギャラドスのほうに突っ込もうとしていたヒメを 何とかボールに戻すと
あたしは 暴れまわっている 赤いギャラドスのほうへと向き直った。

「・・・・・・自分を見失ってるわ、一体、あのギャラドスに 何が起こったの!?」
バリヤードの『バリアー』で 観光客を避難させながら ブルーさんは叫ぶように質問する。
「電波による、コイキングの強制進化だろう!!
 しばらくすると、あの赤いギャラドスの『うろこ』を アンテナに 湖全体に広がってしまう!!」
ワタルさんが言ったとおり、湖にいるコイキング達は 赤いギャラドスを中心に 次から次へ、ギャラドスへと姿を変えていく。
このまま、湖のコイキング全部が ギャラドスへと変わってしまったら、どれだけ腕利きのトレーナーでも どうにもできないだろう。



「クリス、あの赤いギャラドスを どうにかして!!」
『ひかりのかべ』で『みずでっぽう』を防ぎながら ブルーさんが叫ぶ。
「ど、どうにかって!?」
「捕まえても 倒してもいい!! とにかく、暴れているのを止めさせるんだ!!」
今度は ワタルさんが叫ぶ。
2人とも、一般市民を避難させたり、進化してしまった他のギャラドスを食いとめるので 精一杯のようだ。
・・・つまり、ここは あたしが 行くしかないってこと。

「・・・・・・もうっ、こうなったら、やってやろうじゃないの!!
 ポコちゃん、『サイケこうせん』!!」
虹色の光線が 赤いギャラドスの横っ腹にヒットする。
予想通り、ギャラドスは怒り狂い、攻撃目標を こちらに定めて攻撃してきた。
バカみたいに1直線のビームを あたしは 後ろに飛んでかわす。
「・・・こーゆーとき、体、鍛えて(きたえて)おいて良かったと思うわ・・・・・・
 トゲリン、『てんしのキッス』!!」
アリゲイツになったワニクローを運び屋に使い、トゲリンは 自分の何十倍もあるギャラドスに 可愛らしく くちづけをした。
・・・とはいっても、なめちゃいけない。 『てんしのキッス』を受けるた相手は 混乱して 自分と相手のみさかいがなくなるのだ。
その効果は あたしが思っていたよりも大きかったらしく、ギャラドスは 滅茶苦茶に 暴れまわり始めた。

「・・・やば、ヒメッ!!」
なんとか『したでなめる』で ギャラドスをマヒさせようとして あたしは ヒメのモンスターボールを取り出す。
・・・が、暴れまわっているギャラドスの尾先が 取り出したモンスターボールをかすめ、ボールは はるか彼方まで 飛ばされてしまう。

・・・・・・まずいわよ、これは・・・
他のメンバーじゃ、相手の動きを封じる技、もってないもの・・・・・・

ギャラドスの殺気を持った視線を感じ、あたしは上を見上げる。
かなりのスピードで ギャラドスの尾が あたしに向かって迫ってくるのが見えた。 あまりにもいきなりだったので、体が反応できない。

「クリスッ!?」「クリスちゃん!!」

・・・バアンッ!!

辺りにすさまじい打撃音(だげきおん)が広がる。
「・・・・・・あれ?」
おかしなことに、あたしの体のどこにも 痛みとか、故障とかは起きていなかった。
恐る恐る、目を開けて見ると、本来、あたしが倒れているはずの場所に 赤いギャラドスが倒れている。
何が起こったのか分からず、あたしが目を瞬いていると、突然、カメラのフラッシュのようなものが 顔を照らした。

「めぇ〜。」
聞きなれた鳴き声。 草っぱらの影から ずいぶんお馴染みとなっている ピンク羊が現われる。
・・・なんとなく分かった。
恐らく、あそこで全身痙攣(けいれん)させている 赤いギャラドスは あのモココの仕業だろう。
モココは 倒れているギャラドスの側まで 4本足で走ると、水晶のような玉のついた尻尾で そのギャラドスを指し示す。
「・・・・・・ん? もしかして、これって、チャンス?」
あたしは 赤いギャラドスに近づくと、リュックのポケットから取り出したモンスターボールを 巨体に押し当てる。
パシュン、という、乾いた音、それに、少しの抵抗があった後、6メートルはあるだろう 巨大なギャラドスは たった数センチの丸い球の中へと収まった。


「・・・・・・ふう、やっと、他のギャラドス達もおとなしくなったよ。」
二十数体の 死んでるんじゃないかって思うくらい、動かなくなっている ギャラドスの山をかき分け、ワタルさんが歩いてくる。
草っ端で切ったのか、体中、あちこち傷だらけになっている モココの体を 力強く撫でる。
「最後の『でんきショック』、見事なものだったよ。 よく育てられたモココじゃないか。」

・・・ちょっと複雑気分。
「あの、このモココ、あたしのじゃないんですけど・・・」
「交換したのかい?」
「い、いえ、このモココは・・・・・・ あれ? あんた、もしかして モコモコだったりとか・・・」
モココは 首を縦に振る。
相変わらず、妙に人に懐いちゃうポケモンだなぁ・・・
「・・・・・・ゴールドは?」
モコモコは首を横に振る。 あたしが 辺りを見渡しても、どこにも ゴールドらしき人物は見当たらない。

「・・・もしかして・・・、あんた1匹で ついてきちゃったわけ!?
 アサギから、ここ(チョウジ)まで!?」
あたしが『?』を 5つも6つもつけそうな勢いで尋ねると、彼女は 首を縦に振った。

34、始まってしまった混乱


ワタルさんは 岸辺に落ちていた赤い物体を拾い上げると、あたしに投げてよこした。
つるつるしたその物体は 宝石みたいに透き通った 赤色をしている。
「・・・これは?」
「恐らく、君が捕まえた 赤いギャラドスのうろこだろう。
 これがアンテナ代わりになって、池にいた 他のコイキング達にも影響を与えていたんだろう。」
「レンサハンノウ、ってやつかしら?」
観光客やら 釣り場のおじさんやらを避難させていたブルーさんが 役目を終えたらしく、口を挟んでくる。


「・・・電波、よね。」
ブルーさんは 一旦、自分のポケモンをモンスターボールへと戻す。
「ああ、しかし、アンテナが必要になっていたと言う事は、それほど強い 電波ではないのだろう。
 発信源もここではないな。 恐らくは、町の方だろう。」
話している間に 1匹のコイキングが進化する。
モコモコが それを電撃で気絶させると ワタルさんが口を動かした。

「・・・きりがないな。」
「任せて!! いい案が浮かんだわ!! ・・・・・・れあちゃん!!」
ブルーさんはウインクすると 手のひらサイズの モンスターボールを開く。
中から出てきたのは レアコイル。
「私が ここでジャミングを掛けて コイキングの進化を止めておくから、
 その間に クリスとワタルは 発信源を突き止めて、止めてきて!!
 クリス、・・・恐らく、これは ロケット団の仕業だと思うの。 ・・・・・・気をつけて、油断しちゃ駄目(だめ)よ。」
ブルーさんに念を押され、あたしはうなずいた。
「よし、とにかく モコモコも来なさい!!
 ゴールドとはぐれちゃっている以上、あたしがあんたの事、預かっとくからね!!」
モコモコは 大きく1回うなずいた。



あたしは チョウジタウンに着いてから すぐに怪電波の発信元を突き止めようとしたが ワタルさんに止められた。
「・・・さっきの戦いで、ポケモン達だって疲れているんだろう?
 敵が近くなって あせる気持ちもわかるが、それで 捕まってしまっては 何の意味もないだろう?
 無茶をしないに 越したことはないんだ。」
・・・・・・・・・って。

「クリスタル様ですね? お言付けがあります。」
「へ?」
ポケモンセンターで ポケモン達を回復させている間、意外な言葉を 職員から掛けられる。
「ええと、『ゴールドに連絡するように』と、ワカバタウンのゴールド様より、承って(うけたまわって)おります。」
それだけ言うと 職員は丁寧にお辞儀をして行ってしまった。

・・・・・・ああ、きっと、モコモコのことだ。
いなくなって 心配してんだな、きっと。

あたしは ポケギアの(そういえば、電源切りっぱなしで忘れてた)ボタンを押す。

『・・・・・・お掛けになった電話は、現在、電波の届かない所にいるか、電源が入っておりません。
 しばらくしてから・・・・・・』

電源を切る。
ゴールドのことだから 電波の届かない洞窟にでも ポケモンゲットに行っているんだろうか?
「・・・しかたない。 しばらくはあたしといっしょに行動だね、モコモコ!!」
うなずいたモコモコをボールに戻し、他のポケモンと一緒に 手首のホルダーにはめると あたしはセンターの外へと歩き出す。



外へ出たあたしが 目にしたのは カイリューの『でんじは』で 怪電波の元を探っている ワタルさん達だった。
さすが有名人。 すでに 分かりやすく 人だかりが出来始めている。
「・・・・・・なるほどな。」
あたしが来たことに気付くと、ワタルさんはカイリューを モンスターボールへと戻した。
「電波がどこから来てるか、分かりましたか?」
「ああ、チョウジの みやげ物屋街の中の1件だ。
 ここは 観光名所が多いせいで みやげ物屋も 必然的に多くなっているからな・・・・・・
 『木を隠すなら森の中』、というわけだ。」

あたしはうなずくと、みやげ物屋街の方向に向かって 一気に走り出した。
ファンの女の子達の『うらみ』に近いような 視線を 横目で感じながら。
・・・・・・悪いけど、今はそれどころじゃないもんね。 怒りの言葉なら 後で いくらだって 聞いたげますよっと!!


「ポコ、サーチ!!」
目的地まで到着すると、あたしは ポコに 更に詳しい場所を探らせる。
・・・・・・見つけた。 店頭にポケモンの体の一部らしいものが 堂々と 置いてある店。 ・・・ロケット団らしいと言えばそうだけど。

「待つんだ、クリスちゃん!!
 ここから先は 安全が保証されている トレーナーの世界ではない!!
 焦り(あせり)や 油断は 即、死へとつながってしまうんだ。 落ちついて 行動するべきだ!!」
あたしは ワタルさんが 止めようと掴んだ手を 乱暴に振り払う。
「こうしている間にも、ロケット団の被害にあっているポケモンが どんどん増えているんですよ!?
 あたし、充分 落ちついています!!
 もう事は始まってしまってるんです、急がないと、間に合わなくなりますよ!!」


そう言うと、あたしは 再び止めようとする ワタルさんを振りきり、木で出来たボロっちい扉を 蹴破った。
暗い店内から 店員に変装した 悪人どもの驚いた表情が あたしに向けられている。

35、突入、また突入


『強盗対策マニュアル』にでもあったのか、力任せに 無謀にも素手で襲い掛かってきた ロケット団を1人、
2〜3メートル先の 商品棚へと叩きこむと、あたしは店員達の顔を 睨みつけた。
ほとんどが 『やけたとう』を襲ってきた 下っ端の奴らだ。
「・・・・・・入り口はどこ?」
1番気の弱そうな奴に 脅し(おどし)に近い口調で 尋ねてみる。
気の弱そうなロケット団は 口をパクパクさせ、答えようとしていたようだが、上司らしい男に 睨まれると、口をつぐんでしまった。


「ポコ。」
言われるまでもない、といった感じで ポコはアジトの入り口を調査する。
怒りのせいか、思っていたよりも早く、その場所は見つかった。
「・・・ガキが・・・何のつもりだ?」
見た中では 1番のリーダー格と思われる男が あたしに向かって言葉を吐き捨てる。
ポコに『サイケこうせん』で 威嚇(いかく)するよう、指示すると、あたしは 質素なコンクリートの床をぶち破り、答えてやった。
「『何のつもり』もないわよ、あたしが ロケット団のことが嫌いだから ぶっ潰しに来ただけ。
 それに、ポコと、ユウと、このギャラドスの敵討ち。」

モンスターボールにポコを戻すと、手すりもついていない階段を 一気に駆け下りる。
奴らが 驚いて追いかけようとした時には もう遅い。 あたしは 最後の段を4〜5つ飛ばして 地下1階まで 辿りついていた。
悲鳴が聞こえたのは・・・恐らくワタルさんの仕業だろう。



アジトの中で 真っ先に目に付いたのは 中途半端な 豪華さ・・・成金趣味とでも言っておこうか、やたらと ピカピカと光る金色のペルシアンの像。
その横を走り抜けると 警報音が アジト中に響き渡る。 どうやら、警報装置らしい。
あたしが 闇雲に走りまわって その警報装置に引っかかるたび、あたしの背後にロケット団が 追いかけてきた。
もちろん、そんなのに 構ってられる訳がない。 倒すだけの実力もない。
1対 数え切れないくらいの ロケット団の キリがなくなりそうな 追っかけっこ。
それでも、多勢に無勢で あたしは 廊下の端っこの方まで 追い詰められていた。

「・・・ふん、お嬢ちゃん、威勢がいいのは良いが、ちょっとでしゃばり過ぎたようだねぇ。
 ロケット団に立てつこうとするから こんな目に会うのさ。」
狭い廊下に 数え切れないくらいの(どこに これだけ人数がいたのか不思議でしょうがない)ロケット団員が 勢ぞろいしている。
「あ〜あ、こぉ〜んな ちっちゃい女の子1人に ずいぶんと たくさんのお迎えね!!
 まるで、『ありんこ』か、コラッタみたいじゃない?」
挑発に乗ってきた ロケット団の1人が、無謀にも ポケモンも出さずに襲いかかってくる。
あたしは それを5〜6人、他のロケット団がまき添いになるように 力を込めて 殴り飛ばした。
・・・それでも、まだ ウン10人とロケット団が うじゃうじゃしてるのに 変わりはないんだけど・・・

「・・・悪運も これまでだぜ?
 いくら お嬢ちゃんが力持ちだからって、ポケモン相手に 1人で勝つなんて無理だろう?」
ロケット団は スリープを繰り出してくる。
・・・・・・確かに、あたしだって、ポケモン・・・特に 特殊攻撃を出してくるポケモンに勝つなんて、無理な話。
1歩、また1歩と あたしは 壁に向かって 追い詰められて行った。

・・・ふと、下の方を見つめると、あたしの足元に ひし形のマークの付いた パネルが見えていた。
聞いたことがある。 警備などで たまに使われることのある『ワープパネル』って しろもんだ。
「・・・・・・使えるなぁ、これ。」
団員の1人が『?』な 顔をしているのを 確認すると、あたしは そのパネルを 思いっきり踏みつけた。
体の上下が反転するような感覚があり、あたしは入り口近くの 廊下の上に放り出される。
「・・・っしゃ!!」
すぐに 体を持ち上げると ホルダーからモンスターボールを 取り外す。
そうしているうちに 次から次へと ロケット団の連中が 宙から飛び出てきた。

「・・・・・・バカが、捕まるのが 数秒長くなるだけなのが 分からないのか!?
 どのみち、お前は・・・・・・!?」
「ご愁傷様(ごしゅうしょうさま)。」
廊下の上に 山のように積み重なったロケット団達に向かって モコモコを使い、電撃を浴びせてやる。
あたしは 怪電波発生装置を探すべく、プスプスと音を立てている 下っ端達を背を向けた。



『・・・クリス? クリスか?』
天井にあった スピーカーから 音声が流れ、あたしは天井の方に顔を向ける。
「・・・・・・その声、・・・・・・レッド!?」
かなり驚いた。
あたし達以外にも ロケット団に潜入している人達がいるとは・・・
まあ、レッドは 3年前にも同じようなことをやっていたらしいから、今回もいたって 別に不思議なことはないんだけど。
「どうしてここに!? ・・・ってか、今どこ!?」
『後で話す!! 今、そこのすぐ近くの 制御室だ!!』

それを聞くと、あたしは すぐさま また走り出した。
制御室なら、怪電波をとめることも出来るのかもしれない。


「・・・おっと、ここを通すわけにはいかないなぁ!!」
目の前に立ちはだかるロケット団を 容赦なしに 殴り倒す。
制御室の 鉄の扉を開くと、数人の気絶したロケット団達を レッドが 脇に除けているところだった。
それにもう1人、町の入り口で あたしのことを追い返した人物が なにやら 機械を操作している。

「わり、スピーカー使ったもんだから、聞かさなくてもいい連中まで ここに集まってきちまったんだ。
 お前のポケモン、大丈夫か?」
「ほとんど ポケモンバトルしてないから、大丈夫。
 それより、電波を止める機械、どこ?」
あたしは 飛行機のコントロールルームのように たくさんの ボタンだの何だのが 並んでいるパネルを見つめながら 聞いてみた。

「・・・電波?」
レッドさんは 分かっていないようで 怪訝そうな顔をしているのは想像がつく。(後ろむきなので 見えないのだ)
「ポケモン強制進化装置のことね、ここにはないわ。
 1番奥の 第2実験室に 操作盤があるはずよ。」
女の人が レッドの代わりの答える。

「あなた、一体誰?」
「ユリっていうんだ。 警察官で、ロケット団の中に入りこんで 捜査やっているらしいぜ。
 3年前にも会ったことあったからさ、中のこと、一緒に調べてたんだ。」
レッドが ユリという女の人の代わりに答える。


「ゴールドが ロケット団の中に勝手に入りこんじまったから、探してたんだ。
 あいつは、お前を追って ここに来たらしいぜ。」
『第2実験室』の 場所を調べている間、レッドの話を あたしは黙って聞いていた。
ゴールドが あたしのことを チョウジに来させないようにしているのは なんとなく感づいていた。 ゴールドがここにいるのも、当然と言えば当然か。

・・・・・・でも、次のレッドの言葉で あたしは 思考も動きも 完全に止まってしまっていた。
「だけどさ、あいつもあいつのポケモンも、捕まっちまった。
 ・・・・・・それで、さっき、ディアってポケモン、強制的に 進化させられてたぜ。」

36、最悪の事態


「・・・・・・ディアが・・・・・・進化?」
レッドはうなずく。
『ディア』というのは ゴールドの持っているポケモンのニックネーム、種類はピチュー。
そのゴールドの『友達』が 捕まり、無理矢理 進化させられた。

「・・・止められなかったんだ・・・・・・」
悔しい気持ちでいっぱいだった。 涙が出そうになるのを 必死でこらえる。
コントロールパネルを 握りこぶしで叩きつけると あたしは 2人の静止する声も聞かず、部屋から飛び出した。


「どけえぇッ!!」
仰天して 反応する暇もないロケット団達を ヒメを使い、なぎ倒しながら走る。
地図で『第2実験室』の場所は 大体分かっている。 あたしは ただ、そこに進むだけ。
思っているよりも広い アジトの中を突き進むと、ほどなくして、古びた鉄の扉を見つけた。 ・・・目的地だ。



「お嬢ちゃん、悪戯(いたずら)が過ぎるんじゃないか?」
部屋の中で 下っ端だと思われる男が 少々、イラついたような声を出す。
その傍らで『やけたとう』で あたしのことを ぶっ飛ばしたハギが 相変わらずの無表情で モンスターボールを構える。
あたしは黙って ヒメを向かわせた。 こいつらにかけてやる言葉なんて、無い。
「ヒメッ!! 『みだれひっかき』!!」
相手がモンスターボールを出す前から 大技で先制する。
ヒメは 相変わらずの 攻撃性を発揮し、やる気まんまんで ハギの方に突っ込んで行く。
その全てを ハギは ネイティの『リフレクター』(物理攻撃を半減させる技)で 防いでいった。

「随分(ずいぶん)と・・・物騒なまねをしてくれるじゃないか。」
「うっさいわね!! あたしは あんたにも、そこの無表情戦闘マシーンにも 用はないの!!
 そこを 退きなさいよ!! ロケット団!!」
『つつく』攻撃を 片手で受けとめるヒメを 気にしながら あたしは ガンガン怒鳴りつける。
下っ端の男は あたしのことを睨みつける。
「・・・ハギ様に対して、『無表情戦闘マシーン』とは、随分(ずいぶん)な 言い方じゃないか。
 彼女は、3年前、我等ロケット団が 壊滅した時、ショックで感情を失ってしまったのだ。
 その彼女に対して、失礼だともなんとも思わないのか?」

その言葉を聞くと あたしは こめかみの辺りに 怒りの4つ角が現れるのを感じた。
「何が『失礼』よ!!
 要(よう)はその女、ただ 負けたことから逃げているだけじゃない!!」
ロケット団の表情が 見る見るうちに 怒りの形相へと変わっていく。
でも、あたしは 構わず続けた。
「ロケット団のせいで、ポコは 心に消えない傷を負った!!
 ロケット団のせいで、コイキングは 望みもしないのに 進化してしまった!!
 ロケット団のせいで、・・・ユウだって、消えない傷を 作ってしまった・・・・・・
 なのに、みんな気にしないフリして、明るく振舞って、強く強く生きて・・・なのに、あんた達ロケット団は、その歴史を繰り返そうと・・・
 ・・・・・・ふざけんじゃないわよッ!!」


ヒメが『だましうち』で ネイティの 小さな体を締め上げる(しめあげる)。
「たとえ、あたしの命と引き換えになったって、ここでロケット団の歴史を終わらせる!!
 覚悟してもらうわよ、あたしの3年間、全部ここにぶつけてやるんだから!!」

「・・・・・・それは、こちらとて、同じことじゃ。」
聞きなれない女の声がして、あたしは 驚いた。 一瞬、他の仲間が 到着してしまったのかと思った。
でも、顔を上げると、そこで ほくそ笑んでいたのは、お菊人形もびっくりなくらいの 長い髪をかき分けているハギだった。
「表情を作らなければ、何を考えているのか、読まれることもないからのう、今までそうしておった。
 しかし、お前と同じく、こちらとて、サカキ様が作り上げた このロケット団を 簡単につぶすわけにはいかんのじゃ。
 アジトの存在を知ってしまったお前には、ここで 死んでもらうしかないのう・・・」
そう言うと、ハギは スリーパーを繰り出す。
何が起こったのか分からないくらいのうちに ヒメは あたしの背後へと吹っ飛ばされて行った。


「・・・どうじゃ、わらわの実力は!!
 侵入者の1匹くらい、倒すことなど造作(ぞうさ)ないわ!!」
ハギは 自信に満ちた笑いかたをしながら 気絶したヒメを 見下している。
下っ端の男も それに合わせて 笑いまくる。
「所詮、初心者トレーナーの 空回りだったなぁ!!」
・・・・・・だから、何だっていうのよ。
「お前ごときに、ロケット団が止められるわけなかろう!!」

危うく 握りつぶしそうになるほど あたしはモンスターボールを強く握り締めた。
「・・・・・・止めてやろうじゃないの。 その初心者が。
 あたしは、もっと、もっと!! 強くなってやるんだから!! あたしはッ・・・!!」
「あたしは?」
目いっぱい、モンスターボールを床に叩きつける。
中から 部屋いっぱいになるくらい、大きなポケモンが出現し、ロケット団2人を睨みつける。
「噛みつけッ!! グレン!!」
赤いギャラドス、グレンは 自分を進化させた犯人のポケモンを一睨みし、大きなあごで 目いっぱい噛みついた。
スリーパーは予測することも出来なかったのか、避けることも 防御することも出来ないまま、気絶し、ギャラドスのグレンに 床に吐き捨てられた。


「あたしは、未来のポケモンマスターだッ!!!」
驚いた表情で あたしのことを見つめている2人に向かい、あたしは 怒鳴りつけるように 言葉をぶつけた。
2人は 顔を見合わせると 突然、マタドガスを繰り出し『えんまく』を張り出した。
突然のことに 反応できず、あたしは ただただ むせ込むばかり。 気が付くと、2人は跡形もなく その場から消え去っていた。



「・・・・・・ッ!! 逃げられた・・・!!」
悔しさで いっぱいになりながらも、あたしは 何とか 怪電波のコントロールパネルを探し出す。
ピカピカと 赤や緑のランプの点灯するパネルの中を必死で探すが、どれだけ探しても、主電源が見つからない。
・・・・・・いや、もしかしたら、主電源なんてもの、初めからなかったのかもしれない。

「・・・グレン、下がってて。」
あたしは 電波の発生装置を 不思議そうに見つめているグレンを下がらせると、右手に力を込め、目いっぱい、コントロールパネルを殴りつけた。
怒りと悔しさを込め、何度も、何度も、何度も・・・・・・

そのうちに、どこかの配線が壊れたのか、装置の機械音のしなくなった頃、レッドが あたしを止めに来た。
・・・・・・紅(くれない)に染まった 右手を気遣って。

37、そして・・・


「やめろッ!! もう機械は止まってるんだ!!」
半ば、狂ったように叫んでいるレッドの声を聞くと、あたしは我に帰り、硬い鉄のかたまりを殴るのをやめる。
部屋を占領しているグレンを ボールに戻すと 左手でそのボールを拾い上げた。
あたしの右手は 血で真っ赤に染まり、使い物にならなかったのだ。
左手のホルダーしか空いていなかったので グレンを 戻すことが出来ず、小脇にそれを抱える。

「・・・ゴールドのポケモン、どこ行ったんだろう・・・?
 ここが『実験室』なら、どっかにいるはずなんじゃないの?」
熱いものが 滴り(したたり)落ちる手を引きずりながら、あたしは モンスターボールが積み重なった ダンボール箱を ひっくり返した。
1つ1つ、開けて調べてみるが、ほとんどのボールが 空で、そこにゴールドのポケモンが いるような気配はない。



「クリスタルッ!!」
赤錆(あかさび)のついた安っぽい鉄の扉が 乱暴に開き、シルバーが真っ青な顔をして 飛びこんできた。
床に広がっている 赤い水溜りを見つめると、きれいな顔を 悲しそうにゆがめる。
「・・・この バカッ!!!」
張り手を飛ばそうとして、途中で躊躇(ちゅうちょ)したようだ。 ぺたん、と あたしのほおに シルバーの手のひらが あてられる。
「だから、おまえのこと、ロケット団に近づけたくなかったんだ!! こんな大怪我するまで 無茶しやがって!!
 おまえみたいな 中途半端によわっちい奴が ちょろちょろ動きまわってんじゃねーよ!!!」
シルバーの言葉に あたしは ちょっと ムッとした。
元々、ロケット団を倒すために この旅をはじめたのだ。 ロケット団を倒そうとして、何が悪いって言うのよ?

「痛ッ!!?」
傷ついた右手を シルバーが乱暴に引っ張る。
「ちょっと、何すんのよ!?」
「いいから、動くな、じっとしてろ!!」
シルバーはポケットからハンカチを取り出すと 器用に あたしの右手の止血をはじめる。
ものの数秒で処置は終わり、あたしの手には 清潔感のある 白色のハンカチが巻きつけられた。


「・・・・・・なあ、もしかして、このモンスターボールじゃねーのか?」
シルバーのことを 珍しそうに 横目でチラチラと見ながら レッドが1つのモンスターボールを 拾い上げる。
そのモンスターボールは 消えかけの 葉っぱのマークが 細いマジックで書きこまれていた。
・・・まあ、こんなことをするのは ゴールドくらいのもんだろう。

「多分、ゴールドのモンスターボールだろうな。
 開けてみれば 分かるんじゃねーの?」
シルバーの助言にレッドはうなずき、赤白のモンスターボールを 床に打ちつける。

「・・・」
「ミドリ・・・」
「・・・ミドリ、だな。」

辺りの様子を確認しようともせず、頭に葉っぱをつけた 黄緑色のポケモンは あたしたちの横を駆け抜け、廊下のほうへと走っていった。
ウツギ博士が研究していたポケモンのうちの1匹、チコリータの進化系の ベイリーフだ。
「多分、ゴールドの所に行ったんだろうな、あいつ、勘がいいから・・・」
シルバーが口を開く。
ミドリの後を追って 2人が部屋を飛び出し、誰もいない部屋に あたしは1人、取り残される。


「・・・・・・はあ、疲れた・・・、ずいぶんと、色んなことがありすぎたもんなぁ・・・
 そうだ、一応、他のモンスターボールも 調べとかないと・・・
 まだ、ゴールドのポケモンが捕まってるかもしれないし・・・・・・」
言いながら 1つのモンスターボールを 手に取る。 表面に 青いマジックで『P−15』と 何かの 印が付けてあるボールだ。
その中から出てきたポケモンに あたしは目を丸くした。

「フイイィィッ!!」
小さな茶色いポケモンは ボールの外に出たのが久しぶりだったのか、出てくるなり大声を出し、大きく伸びをした。
しんかポケモンの イーブイだ。
イーブイは ふるふると 体を振るわせると、何を思ったのか 部屋中を駆け回る。

「ちょ・・・ちょっとちょっと・・・一体何してんのよ!?」
ダンボール箱をひっくり返して 中の書類をぶちまけ、
中身の見えない 巨大な試験管を 片っ端から 叩き壊すイーブイの行動が あたしには理解できなかった。
ふと、ぶちまけられた書類が あたしの目にとまる。
・・・どうせ、この際だ。 いくつか持ってって、あいつらの悪事を 暴いて(あばいて)やるってのもいいかもしれない。
そんなことを考えていると イーブイが 壊した試験管の中身に向かって 何やら叫んでいるのが 目に止まった。

「・・・・・・・・・タマゴ?」
割れた ガラスの欠片(かけら)のなかに 1つ、ちょっと 大きなタマゴが転がっていた。
そこに向かって 突っ込んで行こうとするイーブイを あたしは 左手を使い、引きとめる。
「何やってんのよ? あんなとこに 突っ込んでったら ガラスで大怪我しちゃうじゃないの!?
 あのタマゴなら あたしが取ってくるから そこでじっとしてなさい!!」
・・・なかなか 聞き分けの良いイーブイだ。 あたしがタマゴを取りに行く途中、騒ぎ立てもせず、ひたすらその場でじっとしている。
左手と、痛む右手をサポートに使い、落とさないように そっと タマゴを持ち上げる。
「・・・ほら。 大事な物なんでしょ?」
タマゴを渡すと、イーブイは いとおしそうに そのタマゴに ほおずりをした。
そしてすぐに あたしの 右手の怪我に気付き、心配そうに ハンカチの上から 傷口をのぞく。
・・・・・・優しいポケモンなんだ。



あたしは 青いマジックで 文字の書いてあるモンスターボールを 足で踏み壊した。
「これで、あんたは 自由だ。 そのタマゴ持って、好きに生きるといいよ。
 前の主人の所行って、また仕える(つかえる)のもありだし、野生に戻るって手もあるし・・・・・・」
そう言って 後ろを向いて外に出ようとした あたしの靴の端っこを イーブイは 噛みついて引き止めた。
あたしが振り向くと、イーブイはタマゴを抱え、黒い瞳で 何かを期待するような眼差しを こちらに向けている。

「・・・・・・それじゃ、行くとしますか? イーブイ!!」
いくつかの書類を拾い上げ、小さなポケモンと そのタマゴを小脇に抱えると、あたしは 部屋中のものが壊れまくった実験室を後にした。



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