42、9月2日


「・・・入れない? ラジオとうに?」
コガネシティに着いてから 開口(かいこう)1番、あたしが言った言葉はそれだった。
「そう、みたいだな。
 しっかり警察が ラジオ塔の入り口を固めちまってる。」
ちょっとだけ、脱力したような声を レッドが出した。


「どうしよっか?」
今度はゴールドの声。
続いて、ブルーさんの(ゴールド達と1緒に行動していたらしい)声が放たれた。
「今日は、少し休むべきよ。
 ここまで歩いてきて、全員、100%の力を出せるとは 思えないもの、ポケモンセンターにでも・・・」
「無理だぜ、それ。」
シルバーがブルーさんの提案を否定した。
「見てきたけど、ポケモンセンター、ベットどころか、床の上まで使えない状態になってる。
 野宿の方が、よっぽど疲れが取れそうな感じだった。」
それを聞いて、あたしを含めた全員が はあぁ、と ため息をついた。 どうやら、相当 疲れがたまっていると見える。

「・・・・・・ねえ、あそこ、使わせてもらえないかな?」
微妙な沈黙をかき消すように ゴールドは口を開いた。
彼の指差す先には 電力不足で まだ開港されていない リニアの駅が見えている。
「雨つゆ しのぐだけだったら、あそこで・・・」
「決定。」
ゴールドにみなまで言わせず、レッドがリニア駅へと向かってすたすたと歩き出すので みんな、それに従う。



「・・・クリスタル、起きてるか?」
すでに日が沈んでいる時間(と、いっても、まだ夜はふけていないんだけど)、シルバーの声が あたしを呼んだ。
「起きてるよ。」
他のトレーナー達は 全員深い眠りについていた(正直、早過ぎだと思う)。
あたしは 首だけを動かして シルバーの寝ている方向に視線を動かす。

猫のような銀色の瞳が あたしの方へと向けられているのが分かった。
シルバーは立ち上がると すやすやと寝息を立てているゴールドを避けて あたしのそばで腰を下ろす。
「ロケット団が ラジオ塔を占拠した『目的』って・・・クリスタル、分かるか?」
シルバーはいきなり切り出した。
一瞬、思考回路がショートを起こし、あたしはシルバーの瞳を見つめるばかり。
「さっきから考えてたんだけど、復活宣言をやるだけなら、せいぜい 番組ジャックする程度で済むはずなんだよな・・・
 わざわざ ロケット団総動員してまで、ラジオ塔を乗っ取る理由って、おれ、想像つかねーんだけど。」
「・・・・・・固まってないと、あっというまにトレーナーに捕まるから、ってのは?」
「いや、『ロケット団』として 組織を存続させたいなら、むしろ、バラバラになってた方が捕まりにくいだろ。
 今まで そうやって逃げ回ってきてたわけだし・・・・・・」

あたしは ない知恵を振り絞って、色々な可能性を考えてみた。
要求がないってことは、そこから動く意味と必要がないってことで、
人質が(ラジオ塔の局員が人質になっている)いるって事は、捕まるとまずいってことで・・・
でも、逃げた方が捕まる可能性って・・・・・・
「なんか、矛盾してるなぁ?」
あたしが何気なく放った言葉に シルバーは反応した。
「ムジュン?」
「・・・え、だって、わざわざ ラジオ塔なんて大きい建物乗っ取ってるのに、お金を要求するわけでもなく、
 かといって、特に何かをする事もなく、ただ、立てこもってるだけなんだもん。
 それって、すごく意味がないんじゃないの?」

それを聞くと、シルバーは銀色の瞳を 大きく見開き、はあぁ・・・と、大きく息をはいた。
「そうか、そういうことだったんだ・・・」
「え?」
シルバーは あたしの手の甲に軽く触れると あたしの手首からボールを取り外した。
それを、あたしの目の前に転がす。 中身は、赤いギャラドスの『グレン』。
「ロケット団は『ラジオ塔』そのものに 用があったんだ。
 ラジオ放送なんて、いわば、ジョウト全体に電波を飛ばしているようなもの、そこに・・・・・・」
「ちょっと待って、もしかして、ラジオの電波の代わりに、ポケモンの強制進化の 電波を・・・」
シルバーはうなずいた。
自分の中の動揺を抑えようとしているのか、銀色の瞳がギラギラと輝いている。

「・・・早く寝て、明日に備えておいた方がいいな。」
「どうして!? 今から行って、早めに行動しておいた方が・・・・・・」
あたしが言うと、シルバーはちょっとだけ呆れたような顔になって あたしの顔をじっと見つめた。
「クリスタルが基地の機械をぶっ壊してくれたおかげで、起動までに時間がかかるはずだ。
 中途半端な体力で行ってやられるより、今 休んで全力でつぶす方が、ずっといい。
 ・・・・・・『寝不足は お肌の大敵』なんだろ?」
「でも!!」
「シャドウの『さいみんじゅつ』を受けるのと、自分からゆっくり休むの、どっちを選ぶ?」
「・・・自分からので、お願いします。」



シルバーが「まだ暑いから」と言って、自分の上着を 枕(まくら)代わりに使わせてくれたおかげで、翌日は早くから起きる事が出来た。
大きくて外に出す事が出来ない グレン以外のポケモンを入念にチェックする。
「・・・キュイン?」
「あ・・・・・・」
ポコの鳴き声で あたしはある事を思いついた。
今の状態で あたしが出来る事、あたししか出来ない事。


「・・・・・・クリスタル?」
2番目に早起きだったシルバーが 床の上で転がっている あたしの体を抱き上げる。
観察眼がいいのか、すぐに異常に気付いたようだが、叩いてもゆすっても、あたしは反応しない。
シルバーの腕の中にあったのは あたしの体だが、『あたし』は、そこにはいなかったからだ。



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