54、9月30日


「・・・・・・で、」
シルバーは言った。
あまり自分のことを話さないので、あたしはシルバーの事は よくは知らないが、それでも不機嫌だ、ということが、はっきり見て取れる。
「何で 姉貴まで付いて来てんだよ。
 おれ1人で充分だって、何度も言ったじゃねーか。」
「あら、世間知らずの11歳君が 口答えするの?
 これでも私、勉強はちゃんとやってるんだから、法律に関しては任せなさいよ!!」
どうも、論点がずれているような気もする。

シルバーのブルーさんに対する呼び方は、いつのまにか『姉さん』に、『姉さん』から『姉貴』に変わっていた。
一体どういういきさつかは知らないが、シルバーの性格からして、あまり聞かない方がいい気もする。
「それで、なんで あたしがシルバーの家に行くのについてくることになってるわけ?」
「別に、ここ1ヶ月、クリスタルずいぶんと暇そうにしてたから・・・」
そう、今あたし達がいるのは、シルバーを引き取った養父母の家の前。
本当のお母さんが見つかった今となっては、ここでお世話になる必要も無い、ということで、それを知らせに来たらしい。

・・・そう、今日は自分のことを あまり多くは語ってくれない、風の岬のシルバーのお話・・・



「留守・・・かしら?
 呼び鈴鳴らしても、誰も出てこないんだけど・・・・・・」
ブルーさんは うるさいくらいに玄関のベルを鳴らしている。
それを見て、シルバーはため息をついていた。 玄関脇にある植木鉢の下を探ると、銀色の鍵が出てくる。
「どうせ、またどこかに金を使いに行ってるんだろ。
 ここには必要な物を取りに来ただけだから、さっさと帰っちまおう。」
そう言って鍵を開ける。
3人してぞろぞろと他人の家に上がりこんでいるわけだけど・・・ま、一応住人のシルバーと一緒なワケだから、いいだろう。
普段聞きなれないフローリングの床を靴下で歩くシルバーの足音を聞きながら、あたしは家の中を見まわした。
家自体は大きく、少し お金持ちとも思えるような雰囲気があったのだが、
いざ家の中に入ると、結構散らかっていて、とても 子供を引き取るような家には見えない。
床の上に散らばっている書類の山を避けながら 奥へ奥へと進んで行くと、何の前触れもなく背後の玄関が開いた。

「・・・・・・ッ、キャアァ!! 何なのよ、あんた達!!」
入ってきた女の人は あたし達の顔を見て、悲鳴を上げた。
恐らく、ここの家の住人だろう。 とりあえず事情を話さないと、泥棒にされてしまう。
そう思ったのは あたしだけではなかった。
「はじめまして、私達、シルバーの親権のことを 話しに来たんです。」
ブルーさんが慌てず騒がず、自分達のことを説明する。
多分、ブルーさんが来たのは正解だったろう、あたしじゃ、こうも上手く話すことは出来ない。
とりあえず、話が終わった後も歓迎されている風じゃなかったし。
「それで、あの人が帰ってきたから シルバーを返せって?
 あんまりじゃないのかい? あの子にだって、選ぶ権利はあるんだよ、それに・・・」
「それに、おれと一緒に転がり込んできた遺産を手放したくないから?」
ペルシアンのように小さな足音を響かせて、シルバーが2階からゆっくりと降りてきた。
目の前にいる女の人が それを見て顔面蒼白になっていたのを、あたしは見逃さなかった。

シルバーの銀色の瞳が 玄関口の女の人へと向けられる。
「別に、おれは父さんや母さんが遺した遺産になんか興味無かったし、今更(いまさら)返せとも言わねーよ。
 あんたが、金欲しさにおれのことを引き取ったのも知ってた。
 母と呼ぶ気もしなかったな。」
「な、何を言っているんだい、シルバー!?
 あんたがいなくなって、あたしがどれだけ心配したか・・・・・・」
口ではそう言ってるけど、シルバーの話していることが本当なのは 特に注意してみなくても 表情で分かった。
階段を下り終えると、シルバーはあたしの横に立って 話を続ける。
「そう言う割には、おれが家出して3ヶ月経ってからも、捜索願が出ていなかったな。
 1度だけ気になって、調べたよ。
 まあ、これでも感謝してるよ、ここが居心地のいい場所だったら、ゴールドに会う事も、
 ・・・・・・こいつらに会うこともなかった。」
一瞬、奇妙な事を口走ったような気もしたが、そこにはあえて何も言わないことにした。
シルバーが呆然と立ち尽くしている女の人の横を抜け、外へと向かったので 追いかけざるをえなかったのだ。
「バイバイ、叔母さん(おばさん)。」
女の人とシルバーがすれ違う一瞬、シルバーがそう言っているように聞こえた。


「いいんだ、もともと必要な物を取りに来ただけって言っただろう。」
あたしが言い出す前に、シルバーは答えを言っていた。
ポケットから1枚の紙切れと、鎖(くさり)のような物を取り出し、それをじっと見つめる。
「それが、『必要な物』?」
ブルーさんがのぞき込むようにしながら、シルバーに尋ねた。
黙ってうなずくシルバーに あたしも横から紙切れの正体を知ろうと のぞき込んでみる。

それは、今よりほんのちょっとだけ小さな シルバーとゴールドの写った写真だった。
2人とも、屈託ない笑顔をむけ、こちらに向かって 楽しそうにじゃれあっている様を見せている。
何だか、今のシルバーと見比べてみると、切なくなる。
「ねえ、シルバー、さっき『ここが居心地のいい場所だったらゴールドに会わなかった』って言ったわよね。
 もしかして、ゴールドとシルバーって・・・・・・」
「多分、考えてるまま。
 おれとゴールド、ワカバタウンでの幼なじみだから。
 それに・・・ゴールドに旅に出るように指示したのも、・・・おれだ。」
1番最後の行の言葉には、あたしもブルーさんも驚いた。
深く追求したかったが、それ以上は 何を聞いてもシルバーは教えてくれなかった。
ま、ゴールドに聞けば 色々話してくれるだろう。



それからは、それぞれの行動だった。
ブルーさんはジョウト地方の未発見のポケモンを探しに行く、と 大型のポケモンにのってさっさと行ってしまったし、
シルバーも、理由は教えてくれなかったが、同じこと。

あたしは・・・・・・トレーナーとしてのレベルを上げるために、各地のポケモンジムへ!!



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