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57、10月17日
『さあ、はじまりました コガネラジオ特別企画、新人トレーナー、ジムリーダーに挑戦!!
挑戦するのは、トレーナー暦(れき)4ヶ月!! だけど情熱なら誰にも負けない 天才トレーナー少女、クリスちゃん!!
対するは、ヒワダの若きジムリーダー、歩く虫ポケ大百科、ツクシ君です!!
この若きトレーナーたちの戦い、果たしてどちらに勝利の女神は微笑むのでしょうか!?』
アオイちゃんの可愛い声が ジムの中いっぱいに反響し、ジムの中の人間達は一斉に湧き立った。
すでに3つ目のジム挑戦となるものの、さすがに、こういう状況だと緊張する。
小さく深呼吸して、靴の先を直し、ちょっと跳ねすぎた髪を押さえつけると、
あたしは手首についているモンスターボールを1つづつ慎重に確かめ、バトルリングへとのぼった。
「・・・ポケモンリーグに出場する時も、こんな感じなのかな?」
左手のホルダーからモンスターボールを1個取り出し、あたしは その中のポケモンへと向かって話しかけた。
わずかだけど、中にいるポケモンはうなずいてくれた気がする。 そういう子だ。
『3VS3の 勝ちぬき戦、双方スタンバイが終わったようです!!
それでは、ポケモンバトル、スタートっ!!』
「モコモコッ、いっけぇ!!」
『ト』の声と同時に あたしはモンスターボールを床の上に放り投げた。
ふわふわの体毛をパチパチといわせながら登場したモコモコに 心なしかツクシは目を丸くしている。
「・・・・・・偶然? いや、おどろいたな、まさか、『また』戦うことになるなんて・・・
でも、『あの時』みたいにはいきませんよ、いけぇ、スピアー!!」
少々気になる言葉を残しながら、ツクシはどくばちポケモン、スピアーを繰り出してきた。
こっちに構えさせるヒマを与えず、無数の針がモコモコの上へと降り注ぐ、『ミサイルばり』攻撃だ。
「跳ね飛ばせ、モコモコ、『でんきショック』!!」
あたしの指示で モコモコは綿毛の中に溜め込んだ電気を スピアーの方へと向かって弾き出した。
スピアーの方にダメージはあったものの、前の攻撃で受けた『ミサイルばり』が モココ特有のふわふわの毛に絡まって 取ることが出来ない。
おまけに、動きまわると針が刺さるらしく、モコモコは痛そうな顔をしているのだ・・・
落ちつけ、クリス!! まだバトルは始まったばかりなんだ・・・
「モコモコ、『わたほうし』!!」
相手の動きを封じようと とっさに考えた作戦だったが、意外と有効だった。
モコモコが出した『わたほうし』は 刺さっていた針をも吹き飛ばし、ふわふわもこもこの綿で スピアーの動きを封じている。
「・・・くっ、スピアー、『こうそくいどう』!!」
「させない、モコモコ、『かみなりパンチ』ッ!!」
雷撃を込めた会心のストレートで スピアーは気絶して動かなくなった。
あたしが飛び上がって喜んでいると、モコモコが走りよって来る、その時だった、モコモコの変化に気付いたのは。
「・・・パルルルッ!!」
『おーっと、クリスちゃんのモココ、体毛が全部抜け落ちてしまったぁ!!
・・・・・・と、違う? えっと資料を・・・
あれは、・・・デンリュウ、そう、モココ、進化しました、デンリュウです!!』
モコモコを見ている、というよりは アカリちゃんもう1匹増えたって感じだった。
黄色い体色に長い首、ひたいと尻尾の先にきれいな丸い球がついているあたり、『リュウ』って感じはする。
「次っ、ヘラクロス!!」
ツクシは手際よくポケモンを交代させると、2匹目の虫ポケモンの 大きな角を モコモコへと向けて突進させてきた。
進化して電撃の量も上がったモコモコは、振り向くと『でんじは』なんだか『でんきショック』なんだか 分からない技を放つ。
「・・・っし、交代っ!!
モコモコ戻って、トゲリン!!」
デンリュウの入れ替わりに出てきたトゲリンは 飛行タイプの特性を生かし、なんなくヘラクロスの攻撃を受けとめた。
そのまま ふわりふわりと 次の2撃、3撃をかわすと、あたしのほうに視線を向け、指示を求める。
「『そらをとぶ』攻撃!!」
あたしが叫ぶと、トゲリンは楽しそうにヘラクロスの追ってこられない上空まで舞い上がった。
敵の位置を確認しようと あたしが下のほうへと視線を戻した時、ヘラクロスの向こうのツクシの口元が笑っているのが チラッと見えた。
ヘラクロスのほうへと視線を向けると、『構えて』いるのが見える。
「・・・いけないっ、トゲリン・・・!!」
「もう遅いですよ、ヘラクロス、『カウンター』!!」
ツクシの言ったとおり、あたしの指示は遅すぎた。
攻撃態勢に入ったトゲリンを ヘラクロスは体で受けとめ、攻撃を受けた反動を使って地面へと叩きつける。
タイプの相性のこともあってか、大ダメージを受けたトゲリンは気絶してしまっていた。
「モコモコ、『でんきショック』!!」
ほとんど 不意打ちのような形で出した攻撃は 急所に当たったらしく ヘラクロスの体力を 戦えなくなるまで奪った。
『おおっと、クリスちゃん、モコモコを再び繰り出しました!!
先の戦いで体力は相当削られているはず、一体、どういう選択なのでしょうか!?』
そんなことを アオイちゃんが言っていたような気がするが、あたしには ほとんど聞こえていなかった。
ひたいから流れた汗を 袖で軽く拭うと、息を整えて次のポケモンが出てくるのを待つ。
距離の違いでかすかにぼやける視界の先で ツクシがうっすらと笑っているのが見えた。
何かをしゃべった後、自分のモンスターボールに手をかけ、フィールドの上へと打ち下ろす。
「・・・かまきりポケモン・・・ストライク・・・」
名前だけをつぶやくと、まるで自分がポケモン図鑑になったような気分だった。
ストライクは 生まれ持った鋭いかまで モコモコへと攻撃を開始した。
1発、2発、3発・・・次々と繰り返される 鋭い鎌の攻撃はモコモコの皮膚に当たる度に 威力を増しているみたいだった。
「モコモコォッ!!」
天井から降り注ぐライトの熱で 意識が吹っ飛びそうだった。
一瞬 判断が送れたスキをついて 4発目の攻撃が モコモコに当たり、KOした。
「すごいでしょう? 『れんぞくぎり』といって、1発当たるごとに威力が倍になっていくんです。
4発も もったことはすごいと思いますけど、次の攻撃は、もっと強いですよ?」
「・・・やば、」
どうにも『まとも』な 戦い方が出来るような状態じゃない気がした。
頭がガンガンと痛みだし、鼻の頭から 汗がじわじわとにじみだしている。
こんな時、どうすれば・・・いや、それは、もう・・・・・・決まっている。
ゆっくりと 手首のホルダーに手をかけると、ボールを1つ、取り出した。
「・・・・・・そうだ、トレーナーなんだから・・・」
手に持ったハイパーボールを自分の正面へと突き出し、ふたを開けると フィールドにどよめきが起こるのが聞こえた。
出したのは、伝説のポケモンの1匹、オーロラポケモン、スイクン。
「・・・いくよ、スズノ。」
58、スズノの初バトル
『コガネラジオ特別企画、新人トレーナー、ジムリーダーに挑戦!!
さあ、対戦も終盤にさしかかり、お互いに 最後のポケモンとなったわけですが・・・・・・
クリスちゃんのポケモン、一体何なのでしょう、今まで、見たことがありません!!』
「・・・驚きましたね、でも、何が出ようと 結果は変わりませんよ。
次の1撃で、そのポケモンは 倒されるんですから・・・・・・」
ツクシの優越感にひたったような声を ボーっとする頭で聞いていた。
スイクンのスズノは・・・『スズのとう』で捕まえたからスズノなんだけど、心配そうと言うか、不安そうな顔であたしのことを見つめていた。
「・・・いい? スズノ・・・っ・・・
勝負は・・・最初の一瞬で、決まると思うから・・・絶対っ、タイミング 外しちゃだめだからね・・・」
ひたいが熱くなって 思わず手で押さえると 熱が出始めていた。
風邪でもひいたのか・・・長引かせると、やばそうだ。
「これで最後にしましょう、ストライク、『れんぞくぎり』!!」
「スズノ、『みきり』!!」
ストライクはそれまでの勢いも後押ししたのか高速で動き、フィールド上には緑色の線が出来た。
スズノの 水色の線が滑らかに動き、一瞬 虹を思わせるラインが フィールドの上に敷かれている。
やがて、緑色の線は失速し、フィールドの上にはスイクンを追って 疲れが見えてきたストライクと、
あたしの後ろでゆっくりと動きを止め始めたスズノが 対峙する形となった。
「今のうちっ、『バブルこうせん』!!」
勢いづいたスズノが ストライクへと向かって シャボンのようなあわを次々と飛ばしていく。
完全に勢いを失ったストライクは『でんこうせっか』を放ってきたが、もう、遅かった。
「『かぜおこし』。」
一気に巻き起こった旋風が ストライクの体に次から次へと傷をつけていく。
『バブルこうせん』のダメージも手伝って、ジムリーダーのポケモンは 完全に戦闘不能状態へとなっていた。
『・・・おおーっと、ストライク、倒れましたぁ!!
ジムリーダー ツクシ君、ポケモン3匹戦闘不能です、よって 勝者は、クリスちゃんです!!』
その後にも アオイちゃんが何か言っている気がしたけど、もはやあたしの耳には入っていなかった。
スズノをさっさとボールの中へと戻すと、その場にひざをつき、必至に酸素を求めて 肺の中の空気をいれかえる。
「ふん、なかなか やるやないか。
さすがに バッジを3つも取るだけはあるな。」
後ろから 老人っぽい声が聞こえてきてた。
そうだ、もともとは ガンテツさんの挑戦に乗って始まったバトルなんだ。 勝負がついたわけじゃない。
「3つじゃない・・・4つです。」
バトルしているつもりで 挑戦的な視線をガンテツさん送りつける。
すると、いかにもガンコオヤジな ガンテツさんの眉が動いた、1バトル起こるのを覚悟して、あたしは身構える。
「・・・・・・がっはっはっは、そうじゃったな、たった今、あんたはこの町のジムリーダーを倒した!!
まったく、たいした小娘や、せや、褒美(ほうび)に ワシの作った特製のボールを あんたに分けてやろう!!
後で、ワシの家にこいや!!」
そう言うと、ガンテツさんはあたしに背を向けてジムの外へ のしのしと歩いていった。
残されたあたしに アオイちゃんが話しかけてくる。
「・・・・・・ねぇ、クリスちゃん、クリスちゃんが最後に出したポケモン、あれって・・・」
ちょっとおっかなくて、好奇心も混じっている、そんな感じの声と顔をしていた。
あたしはゆっくりとうなずく。
「伝説のポケモン、スイクン。 出来れば、誰にも教えないでほしいんだけど・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・わかった。
プロデューサーには あたしから言っておく、伝説のポケモンを持っているなんて分かったら、大変なことになっちゃうものね!!」
いい答えを待っていたわけじゃなかったけど、アオイちゃんの言葉に あたしは胸をなでおろした。
大きな目でパチッとウインクすると、アオイちゃんはにっこりと微笑んで 耳打ちする。
「(・・・そのかわり、かわいいポケモンを見つけたら 時々は 見せに来てね!!)」
ちょっとだけ、ううん、すごく嬉しかった。
あたしは アオイちゃんの方に向き直ると、大きく何度も何度もうなずいた。
その後は・・・・・・まぁ、普通の行動。
他のトレーナーの例にもれなく、バッジを受けとって、長い話を聞いて・・・・・・
全て終わって ジムの長い廊下をゆっくりと歩く頃には あたしは へとへとに疲れ果てていた。
「・・・生きてるか?」
ジムを出てちょっと進んだ所で 休憩しているとき、頭の真上から 澄んだ声が降り注いだ。
返事する気力も無く、黙ってベンチの上でうなだれていると、熱を持ったひたいに 冷たいボトルがくっつけられる。
びっくりして 慌てて顔を上げると、静かな銀色の瞳が2つ、あたしのことを じっと見つめていた。
「シルバー・・・?」
訳も分からず ただぽかんとシルバーのことを見上げていると 彼は手に持ったミネラルウォーターのボトルを 差し出した。
「ジム突破、おめでとう。
なんか、クリスタルが体調崩したような気がしたから、水と薬、持ってきた。」
数秒間、だったと思う、どのくらいかも分からない沈黙が その場に流れていた。
「・・・・・・どうして、いつもシルバーは あたしのこと分かっちゃうのよ?
いつだって、そうだよ・・・苦しい時や、つらい時、いっつも、あたしの前に現われて・・・・・・」
受け取ったボトルのふたを開けると、甘い水を半分ほど飲み込んだ。
火照った(ほてった)体に 冷たい水が流れて 丁度いい具合に冷却されていく。
「・・・おれも、『化け物』だからな。」
シルバーは 自分の手を見つめながら答えた。
どうして『化け物』なのか、その理由を何度聞いても 教えてはくれなかった。
代わりに、薬の入った紙袋を あたしに手渡しただけだ。
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