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５９、１０月１９日
『あー、そっか〜、やっぱりシルバー、クリスんとこ 行ってたんだぁ。』
相変わらずの 緊張感のかけらもない声が ポケギアの向こうから聞こえてくる。
大事を取って１日ポケモンセンターでゆっくり休んだ後、次はどこに行こうか 考えようとしていた矢先にかかってきた電話だった。
「やっぱりって、ゴールド、知ってたの？」
『うん、だってシルバー、『声の調子がおかしい』って言って、こっちから・・・』
「ゴールドッ、それ以上言うなッ！！」
２対１で 楽しい会話がなされている。
あたしのポケギアを使って シルバーも話しこんでいるのだ。
『そーそー、ラジオで聞いたよ、クリスのジムバトル！！
すごい迫力のバトルだったよね、すっごく 勇気付けられちゃった！！』
ちょっとあこがれな存在のゴールドにほめられて、あたしは照れていた。
そのことについて 他愛もない話で盛り上がった後、不意にゴールドが こんな話を持ちかけてきた。
『そーだ、クリス、ジムまわってるって言ってたよね。 今僕がいる街にも、ポケモンジムがあるんだけど、こっち来る？』
「・・・ポケモンジム？ ゴールド、今どこにいるのよ？」
『フスベシティ。』
「おーそーいぃーっ、おーもぉーいぃー！！」
「何よッ、これでも体重は 平均以下なんだからねッ！！」
現在位置は キキョウシティの上あたりだろうか？ はるか下で ほとんど見えないんだけど。
今、ゴールドの言っていた『フスベシティ』へ向かうため、シルバーのクロバットの先導で 『そらをとぶ』で 向かっているところ。
ただ、もともと飛ぶのに慣れていないトゲリンと 飛ぶために自ら（みずから）の体型まで変えてしまったクロバットじゃ、スピードが違いすぎる。
ほとんどシルバーの『クロ』に トゲリンが引っ張られる形で フスベシティまで飛んでいくことになっていた。
「あっ、いたいたぁ〜、２人とも〜！！」
フスベの上空２００メートルくらいまで降りてきた時、ゴールドがこっちを見つけて 手を振っているのが見えた。
昼間の光の中だと、彼が着ている赤いパーカーは とてもよく目立つ。
あたしは ずっと引っ張られていたシルバーの手を離すと、空からゆっくりと降り立った。
「あ〜、なんだか そんなに経ってないのに すっごい久しぶりって気がするぅ・・・」
あたしが 喉の底から 言葉を吐き出すと、ゴールドはアハハと 笑って同意した。
その顔を見てると、ちょっと気になることがあって、あたしは ゴールドにそっと耳打ちする。
「ねぇ、ゴールド、一昨日（おととい）シルバーが
自分のこと、『化け物』って言ってたんだけど、一体どういうことだか、分かる？」
あたしが聞くと、ゴールドは 目をパチパチさせて まだ上を飛んでいるシルバーを見上げていた。
音もなく きれいな円を描きながら降り立ってきたシルバーをじっと見つめると、つかつかと 歩み寄って 口を開く。
「シルバー、まだクリスに話してなかったの？ 『ふぇあ』じゃないよ？」
ゴールドに軽く言われると、シルバーは ばつの悪そうな表情で 軽く肩をすくめた。
その様子だけ見ていると、すごく１１歳の子供に見えるんだけど・・・
「・・・・・・分かったよ、言えばいいんだろ？ 言えば。」
しばらく話しこんだ後、シルバーはす――っごく機嫌の悪そうな顔で ゴールドにそう言った。
２人が同時に こっちを向く。
シルバーが右手をこっちに突き出し、不機嫌そうに言い出した。
「・・・クリスに、黙ってたことがある。
おれが、『もう１人の化け物』である理由の、『能力』。」
「何よ、改まっちゃって。」
軽く言ったつもりだったが、シルバーの言おうとしていることが 相当言い出しづらいっていうのは 表情を見ていれば明らかだった。
右手を戻すと、シルバーはゆっくりとした口調で話し出した。
「おれは、多分、生まれつきのもんだと思うんだけど、手で、直接相手に触れることによって 相手の心が読めちまうんだ。
良いことも、悪いことも、いろんな事を含めてな。
クリスタルの心も、何回か読んだ。 ・・・悪いことしたと思ってる。」
あたしは言葉を失っていた。
信じていないわけじゃない、２人の表情を見ていれば、嘘じゃないってことは 明らかだ。
「ホントだよ、シルバーの この能力があったから、僕達は友達になれたんだ。
自分が『普通じゃない存在』だから、僕のことを認めてくれたんだ。」
言いようのない沈黙が その場に流れる。
『やっぱり言わなければ良かったのかな』、そう、ゴールドの表情が言っていた。
「・・・なぁ〜に 言ってんのよっ、２人して あたしを笑わそうって魂胆（こんたん）？」
あたしの言葉に ゴールドとシルバーは凍りついたような表情を見せていた。
そう言う意味で、言ったわけじゃない。
あたしは、トゲリンを手首のホルダーに戻して さっさと歩き出した。
「シルバーは、シルバーでしょ？」
そう言い残して。
「ん、っと、上手くは言えないけど、ありがとね。」
ポケモンセンターの中で 回復もかねてポケモンのコンディションを見ているとき、ゴールドが後ろから 恐る恐る話しかけてきた。
あたしは気にしないフリして、出てきたグレンの調子を見続けている。
ゴールドは その反応が分かっていたみたいで、そのまま話しつづけていた。
「僕が『化け物』っていわれて、石投げられてたのは、前に話したよね。
それで、独りで泣いてた時に なぐさめてくれたのが、シルバーだったんだ。
その時に自分の力も話してくれて、『化け物』同士、仲良くなった。 『友達』のポケモン達も、シルバーになついてくれたしね。
だから、その・・・・・・」
「変わらないよ。」
あたしは振り向かずに言った。
後ろから ひゅ、と 息をすばやく吸いこむ音が聞こえてくる。
「シルバーが何だろうが、いまさら、考えを変える気もないわよ。
もう、あたしのまわりでは おかしなことが起こりすぎてるもの、正常な考え方なんて出来なくなっちゃった。」
体調が変わっていないことを確かめると、あたしはグレンをボールに戻して振り向いた。
ゴールドは いつもの太陽みたいな笑顔で こっちを向いて笑っている。
「さっ、ジム挑戦にいこっかな！！
ゴールドに負けちゃいらんないもんね！！」
あたしは ちょっとゴールドに挑戦的な視線を投げかけると、ジムの方へと向かって歩き出した。
６０、黒猫
『そこまでっ、ジムリーダー、イブキの勝利です！！』
ジム戦開始から１５分。 あたしはフスベシティのジムリーダーに あっけなくやられてしまっていた。
やっぱり、ヒワダのジムリーダーを倒したのは偶然だったのだろうか？
クリスは所詮、クリスってことなんだろうか？
「お疲れ、負けちゃったみたいだね。」
意気消沈してジムから出てきたあたしをゴールドが迎えてくれた。
ゴールドはとっくにジムリーダーに勝って、ヒマを持て余しているらしい。
「まったく・・・どうして勝てないんだろう？
ゴールドは１回で勝っちゃったっていうのに・・・・・・」
「単純に、ポケモンを育てていた時間の差だよ。 クリス、僕より３ヶ月 出発遅かったでしょ？
そうだ、この近くに、強い氷ポケモンが たくさん生息している場所があるんだ、行ってみたら？」
「きゃあぁああ〜ッ！！！」
氷に足元を取られて、１０メートル近く、真っ直ぐに滑って、あたしは氷のかたまりにぶつかった。
勢い余って、巨大な氷のかたまりを 殴り壊してしまう。
・・・・・・今ので、確実に野生ポケモンは逃げて行ったわね。 何でいつもこうなのか・・・
「とりあえず、がんばってレベルを上げなきゃね！！
さあ、いっくよ、ポコ、グレン！！」
一気に２つのボールを開くと、『こおりのどうくつ』の中は すぐに狭くなった。
冷えた空間の中での修行、効果があるのかどうかは分からないけど・・・
そこだっ、がんばれっ、などと、心の中で応援しながら ２匹が戦っているさまを見ていた。
すると、一瞬、冷たい風が吹き抜けた気がして、後ろを振り返ると、黒い線が あたしを掠めていった。
・・・・・・野生のポケモン、だ。
「ポコ、グレン、バトル中止！！
野生のポケモンが現われたの、まだ未発見、捕まえるよ！！」
あたしは 背負っていたリュックを降ろすと、氷の間から こちらをうかがっているポケモンの気配を じっと探った。
小さな白い息をついてつばを飲み込むと、氷の奥から再び黒い線が現われて、グレンの胴体に傷をつけていく。
一瞬姿が見えたが、１メートルもない小さな黒いポケモンだった。
黒いポケモンは 再び氷の影へと隠れてしまう。
「・・・・・・もうっ、隠れては攻撃して、攻撃しては隠れて・・・！！
これじゃ、きりがない、それなら・・・グレン、『うずしお』！！」
あたしが叫ぶと、グレンは自分の周りの水分を寄り集め、大きな渦を作り始めた。
その渦の中心に黒いポケモンが閉じ込められ、やっとじっくりと姿を見ることができる。
「・・・ニャウっ！！」
ニャースに少しだけ似ている気もしたが、種類としては全く違うものと言ってよかった。
黒い体に、鋭い目つき、ひたいと胸に宝石のような物がついている。
そして、両手についた鋭い爪、言うならば、『かぎづめポケモン』！！
「・・・きゃあ！！」
相手の黒いポケモンは『うずしお』をまとったまま、鋭い爪で攻撃を繰り出してきた。
逃げるまでにはいかないようだが、攻撃するだけの余力は 充分に残しているらしい。
「このっ、ポコ、『サイケこうせん』！！」
足元にいたポコが七色の光線を放っていった。
それは相手のポケモンへと直撃したが、黒いポケモンは一切ダメージを受けた様子もなく、次の攻撃を繰り出してくる。
「うっそぉ、『サイケこうせん』が 効いてない！？
なんっつうポケモンなのよ、グレン、『かみつく』！！」
グレンが 大きなあごで黒いポケモンへと攻撃したが、あまり効いていないようだった。
『サイケこうせん』も効かない、『かみつく』も ろくに効いていない、そこまでレベルの高いポケモンなんだろうか？
・・・う〜、考えれば考えるほど分からなくなってくる。
やみくもにリュックの中からボールを１つ、掴み出すと、あたしは黒いポケモンのほうへと向き直った。
あまり効いていないとはいえ、黒いポケモンは しっかりダメージを受けているようだった。
足に力を込める。
「突っ込むよ、ポコッ！！」
ポケモンのほうへと走り出そうと 足に力を入れた途端、氷で滑って 派手にすっ転んだ。
どうも、氷の上で歩いたり走ったりということには あたしは向いていないらしい。
「あーもうっ、負けてられるか！！」
腹が立って 自分の足元の氷を 思いっきり殴りつけた。
あたしの周囲１メートルくらいに 一斉に放射状に割れ目が出来る、あたしは それを足がかりにして黒いポケモンの方へと突っ込んだ。
驚いて 野生のポケモンが一瞬動きが止めたのも手伝った。
手に持っていたボールが 黒いポケモンの胸を直撃する。
「・・・捕まえたか。」
氷の上を這う（はう）ような形で あたしは目の前のボールを見上げた。
銀色に輝く氷の上で、緑色の ぴかぴかのボールが ゆっくりと揺れている。
ヒワダジムを突破した記念にもらった ガンテツ職人特製の『フレンドボール』だった。
冷たい氷の上で ごろんと転がって そんなに高くない天井をみあげる。 冷たい洞窟の空気が すごく気持ちよかった。
「でも、あんまり長いこと ここにいるわけにもいかないわよねぇ。
ポコ、悪いんだけど、あたしのリュック、持ってきてくれない？」
「キュイン・・・」
不安そうな顔をして ポコはピンク色のリュックを首にひっかけてきた。
「じゃっ、戻ろっか、グレン、戻って！！」
緑色のボールを拾うと、グレンを手首のホルダーに戻した。
あたしの周りでキュウキュウ言っているポコを横目に 緑色のボールを開く。
黒いポケモンは すぐになついてくれた、『フレンドボール』の 効果らしい。
「・・・この洞窟をよく知ってるんでしょ、とりあえず、外に出る道を教えてよ、ルーキーさん！！
早いとこ出なきゃ、この天然冷蔵庫から！！」
あたしは 痛む足を何とか押さえると、ゆっくりと立ち上がった。
ボールが当たる直前に この黒いポケモンに太ももを引っかかれのだ。
・・・・・・シルバーに見つかったら、また 何かと文句を言われるんだろうなぁ・・・
「ニャアァ・・・」
「ん？ 気にしなくってもいいよ、ケガなんて あたしにはつきものだしさ。
とにかく、この足、治しに行かなくちゃね！！
シルバーっていって、人がケガすると すっごいうるさい奴がいてさぁ〜、ロケット団のアジトに乗りこんだ時だって・・・」
「当たり前だ、お前、どんだけ力がついてようが、男勝りな性格してようが お前女じゃねーか！！」
真正面から 赤い髪が登場し、いつもの顔がのぞきこんでいた。
どうやら、なかなか戻ってこないから、心配して様子を見に来たらしい。
・・・・・・・・・多分、この後 とんでもなく怒られることだろう。
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