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61、10月20日
「あら、懲りず(こりず)にまた来たの?」
ジムの入り口に立っていたあたしを見て、ジムリーダーのイブキは 見下したような視線で あたしのことを笑った。
1度負けてるから 何も言い返すことは出来ない。
チリチリと痛む足を引きずりながら、あたしはバトルフィールドの上に立った。
破けた服を隠すために巻いたバンダナが 熱くなる。
「大丈夫、クリスは絶対に負けないよ。」
バトル場の外で ゴールドがあたしをはげましているのか、イブキに言っているのか、そんなことを言っていた。
ゴールドは今日、別の町に出発する予定だったらしいのだが、あたしがジム戦をすることを聞くと、見に行くと言ってきかなかったのだ。
・・・数日前にここで勝った人が見てるとなると、ちょっとプレッシャーなんだけど。
「ルールはもう分かってるわよね? 4対4の勝ちぬき戦よ!!
ポケモンの交代は自由、じゃ、行くわよ!!」
イブキが先にポケモンを出した。 ドラゴンポケモンのハクリュー、そう、このジムの属性は『ドラゴン』。
あたしは 無理矢理に足に力を込めると、1匹目のモンスターボールに手を伸ばす。
昨日捕まえたばかりのポケモンが入っている 新品の緑色のモンスターボール。
「いっけぇ、みぞれ!!」
ボールを地面の上へと打ち下ろすと、1メートル足らずの黒いポケモンが ハクリューを睨みつけた。
図鑑で調べたところ、学名は『ニューラ』、タイプ『あく・こおり』 昨日捕まえたばかりの ルーキー、『みぞれ』ちゃんだ。
「へぇ、昨日とは違うポケモンね。
でも、ずいぶんと レベルが低そうじゃない、それでいいのかしら?」
そう、昨日捕まえたってことは、ほとんどレベルが上げられなかったってことで・・・
相手のハクリューとのレベルの差は 10近く開いてしまっている。
「先制だ、みぞれ、『れいとうパンチ』!!」
みぞれは自慢のスピードを生かして ハクリューに先制攻撃をしかけた。
冷気を込めた拳はハクリューの細長い体を直撃し、見る間にハクリューの白い体は氷と霜(しも)に包まれていった。
どうやら、動けないようだ。
「なるほどぉ、変温動物は 寒さに弱いってことか・・・」
動けなくなったスキを突いて『れいとうパンチ』を もう2〜3発叩きこむと、1匹目のハクリューは 戦えなくなった。
イブキの動揺する顔が ここからでもよく見える。
「あら、タイプの相性で攻めてくるってワケ?
後ろにいる男の子は そんな事しなかったけどねェ。」
イブキは2匹目のポケモン・・・キングドラを出しながら あたしに向かって挑発を仕掛けてきた。
相手の言葉に乗っちゃ行けない、そんな事はわかっちゃいるんだけど、顔が引きつり、モンスターボールを握る手に力が入る。
「落ちついて、僕が相性のいい技を使わなかったのは、ただ 持ってなかったからで・・・」
「わかってるわよ!!」
いきなり怒鳴ったので、ゴールドは驚いてしまったらしく、体を震わせた。
「わかってるから・・・黙ってて。」
2つ目のモンスターボールを床へと投げる。
入れ違いにみぞれはフレンドボールの中へと戻っていった。 どうやら、結構居心地がいいらしい。
「いくよ、モコモコ!!」
ボールから出た瞬間を狙った攻撃が命中し、水の攻撃を何とか受けとめ切ったモコモコは 大型のキングドラをじっと見据えた。
どれだけピンチにおちいっても ゴールド譲りの冷静さを保っていられるのが このデンリュウの良い所だ。
「・・・そうだ、ゴールドからもらったポケモン・・・モコモコ、『でんじは』!!」
モコモコは つぶらな瞳でキングドラのことを睨みつけると、マヒさせる効果のある 電気の波を相手へと向かって放った。
フィールドいっぱいに ピリピリとした衝撃が走る。
「そのままっ、モコモコ、『かみなりパンチ』!!」
ところが、技の指示を出しても モコモコはすぐには動いてくれなかった。 行動が一瞬遅れている。
「キングドラ、『はかいこうせん』!!」
かろうじて 体力の残っていたキングドラから 最大威力の光線が発射される。
いつもなら軽く避けられるくらいだったのに、モコモコは直撃を受け、あたしの胴体に弾き飛ばされてきた。
「大丈夫?」
ゴールドが フィールドの端まで弾き飛ばされたあたしに駆け寄ってきた。
「・・・あたしが? それともモコモコ?」
「両方!! もしかしてマヒしちゃってるんじゃないかとおもって・・・」
「・・・『マヒ』?」
あたしは ようやく気がついて ぐったりとしているモコモコの体に触れた。
すでに 戦闘不能状態だというのは 火を見るより明らかなのだが、まだ かすかに 体の何ヶ所かが痙攣(けいれん)しているのに気付く。
『マヒ』させる技を放っていたのは モコモコだけじゃなかったんだ。
「・・・・・・見落としてた・・・」
トレーナーなら、真っ先に気付かなきゃいけないのに・・・あたしは・・・・・・
「パルルっ・・・」
うつむいているあたしに モコモコはうっすらと目を開けて 小さく話しかけてきた。
「・・・ちょっと、早く次のポケモンを出しなさいよ!!
待ってるのも 楽じゃないんだからね!!」
イブキの催促する声が 妙にはっきり聞こえてくる。
「・・・ゴールド、教えて。
モコモコは 何て言ってるの? あたしは、どうすればいい?」
モコモコの首を抱いたまま ゴールドに尋ねる。
真っ直ぐな黒い瞳が あたしのことを見ているのが分かった。 少しずつ、心の中が熱くなっていく。
「・・・・・・きっともう、クリスには分かってるはずだよ。
旅をしてて分かったんだ。 『ポケモンと話せる』ことは、特別なことじゃない。」
あたしは 否定(ひてい)も肯定(こうてい)もせず、モコモコをモンスターボールの中にいれて立ちあがった。
大丈夫、大丈夫、そう、何度も心の中で繰り返しながら 手首に付いているボールを ゆっくりと入れ替える。
「そうだ、あたしは ポケモントレーナー・・・・・・
このホルダーにポケモンが付いている限り、まだ、戦えるんだ・・・・・・」
口に出してつぶやいた途端、全てがわかった気がした。
今のあたしなら きっと無敵!!
「・・・・・・・・・いっけぇ、ワニクロー!! 一緒に 勝利を掴むんだ!!」
62、甘い考え
ワニクローの体の変化は ボールを出た瞬間に分かった。
一瞬で体が大きくなり、あたしの肩くらいまでしか無かった身長は一気に追い越された。
ごつい体に似合わないすばやい攻撃は もうほとんど体力の残っていなかったキングドラの動きを 一瞬で止める。
「・・・さぁ、あと2匹だ。
気合入れてくよ、・・・オーダイルのワニクロー!!」
イブキはさっさとポケモンを取りかえると、新しいボールから ハクリューを繰り出した。
あたしは進化したワニクローの横に立ち、次の作戦を脳みそフル回転で考え続けた。
「よおっし、ワニクロー『なみのり』!!」
ボールから出てきたハクリューに ワニクローは 一気に巻き起こした水流で 流し出す作戦出でた。
確かに、ワニクローの放った『なみのり』は 相手にダメージを与えたのだが・・・・・・
「ハクリュー、『10まんボルト』!!」
「・・・えっ?」
反応する間もなく フィールドいっぱいに閃光が放たれた。
ビリビリとした衝撃が 体の中を駆け巡る。
「ドラゴンポケモンだからって『ドラゴン』タイプの技ばかりとは 限らないってことよ。
そっちのワニ君、もう 戦闘不能に・・・・・・」
イブキが言っている側から 倒れていったのはハクリューの方だった。
倒れていく4メートルの巨体の後ろで 息を切らしたワニクローが ゆっくりと倒れていく。
最後の力を 攻撃に使ってくれたんだ・・・・・・
「・・・そんなっ、ありえないわ!!
ひんしのポケモンが 相手を倒すなんて・・・・・・!!」
イブキは 驚きで顔を引きつらせていたが、あたしには それがどういうことか よくわかった。
4匹目の赤白のモンスターボールを手に取る。
倒れたままのワニクローと 目と目で合図を交わすと、ワニクローをボールへ戻し、イブキに向かって 4つ目のモンスターボールを突き出した。
「これが、あたしの4匹目のポケモンよ!! そっちは どんなポケモンで来るの!?」
直接、手からポケモンを繰り出す。
中から出てきたのは 赤いギャラドス、グレン。
ピリピリとした空気の中、イブキはあたしのことを 思いっきり睨みつけていた。
そして、最後のモンスターボールを開く。
「ハクリュー、GO!!」
驚くほどに大きかったバトルフィールドは 一瞬にして狭くなった。
2匹の竜が 一触即発といった感じで トレーナーの指示を待ち、睨み合いを続けている。
「ハクリュー、あんたが最後なんだから、負けることは許さないわよ!!」
イブキの熱さが 怖いくらいに ひしひしと伝わってくる。
「グレン、『あばれる』!!」
「ハクリュー、『りゅうのいぶき』!!」
一瞬の動きで 2人と2匹は同時に命令し、技を放った。
技は両方とも相手に命中し、2匹のドラゴンポケモンは 顔をゆがめる。
しかし、攻撃を続ける技『あばれる』を 指示されていたグレンは 臆する(おくする)ことなく、次の攻撃を打ち出していた。
ギャラドスの大きな尾ひれが当たり、ハクリューは 一瞬ひるんで後ろへとのけぞる。
「くっ、ハクリュー、もう1度『りゅうのいぶき』よ!!」
イブキが叫ぶと、ハクリューは紅色に輝く空気弾を グレンへと向かって吐き出した。
それも 真っ直ぐに命中し、まとわりつく焼けた空気で皮膚(ひふ)の表面にしびれを残したが、
我を失って 暴れているグレンを そのくらいでは止められない。
「『はかいこうせん』!!」
怒りも手伝ったのか、目を開けていられないくらいの閃光がフィールドに広がり、轟音(ごうおん)とともに衝撃が あたし達の体を包んだ。
さすがに耐えられなかったらしく、グレンは地響きを残しながら ぐったりと倒れこんだ。
「・・・やった、倒したわ・・・ハハ・・・
さぁ、わかったでしょう? これで・・・・・・」
「『でんこうせっか』!!」
残像を残しながら消えて行くグレンの下から 黒い線が真っ直ぐに走り、ハクリューを討った。
グレンとの戦いでダメージの残っていたハクリューは その1撃が致命傷となったらしく、ゆっくりと地に伏していく。
4メートルはある 大きな体の下を抜けて 小さな黒いポケモンは 姿を現した。
「・・・ニャオン☆」
「よくやった、みぞれ!!」
そう、最初に出した ニューラのみぞれ、1番レベルの低いポケモンだったんだけど、今回のバトルでは1番のカギになっている。
この子の存在を忘れていたのか、イブキは呆然と目の前の状況を見守っていた。
「・・・うそよ、こんなの・・・・・・
この私が負けるなんて・・・そう、何かの間違いなんだわ。」
イブキは目の前の状況を 把握(はあく)しきれていないようだった。
どこを見るでもない瞳で、何かをつぶやいて 動くことがない。
「レベルだって こっちの方が上だった・・・作戦だって、完璧だったのに・・・どうして・・・・・・
・・・・・・私は、認めないわ!!」
いきなり、イブキはこっちの方を睨むと、顔をしかめた。
つかつか・・・と、いうより、のしのしとこちらまで歩み寄り、あたしの目の前で立ち止まって見下ろしてくる。
「あなたに、ライジングバッジは渡せないわ。」
「なっ!?」
突然のことに 反応しきれないでいるあたしの代わりに 驚いてくれたのはゴールドだった。
フィールドの上に飛び乗り、イブキのもとまで駆け寄って 突然怒鳴り出す。
「クリスは ちゃんとバトルしてたじゃないか!!
僕にはバッジを渡して、クリスには渡せないって、どういうことなんだよ!?」
「負けて言うのもなんだけどね、その子の 甘さじゃ、ポケモンリーグに出たって通用するとも思えないわ。
さっきのニューラも、最初に出した後、まだ戦えるってのに わざわざ交代させてたじゃないの。」
名前を出されたみぞれが 不安そうにあたしの胸の中ですりよってきた。
あたしよりゴールドの方が怒ってるみたいで、怒りで顔をしかめながら イブキへと食って掛かっている。
「だからこそ、勝てたんじゃないか!!
クリスがポケモンを大事に思ってたから、レベルが低くて 無理させられないって思ってたからこそ・・・!!」
「・・・・・・だったら、ゴールド、あなたのバッジも返してもらおうかしら?
ポケモンに対する その甘い考え方、私にはとても認められないもの。
そうね、『りゅうのあな』まで行って、そこで長老に会い、その甘い考えを捨てられるのなら、バッジ、渡してあげてもいいけど?」
ゴールドは納得がいかないといった顔で イブキのことを睨み続けていた。
しかし、突然、自分のパーカーのフードの下から 黒銀色の小さな物体を取り出すと、それを外し、イブキに手渡した。
そして、ジムの外へとあたしの手を引いて歩き出したのだ。
63、ドラゴンハウス
「・・・ちょっと、ゴールド、どうして!?
わざわざ 自分のバッジまで返しちゃうなんて・・・・・・!!
べつに、あたしのことなんて気にしないで、そのまんま ほっとけば・・・!!」
ジムを出て100メートルくらいの所で あたしはゴールドの手を振りほどいて 半分怒鳴りつけるように尋ねた。
ゴールドは軽く息を整えると、自分の二の腕を掴みながら いらだたしげに口を開く。
「・・・だって、すごく、見ててどきどきした。
相手よりずっとレベルの低いみぞれちゃんが 2匹ものハクリューを圧倒したときも、
クリスに渡したモコモコが 前より、ずっと強くなってたことも、ワニクロー君が 最後に見せた意地にも、グレン君の力強さにも・・・!!
なのに、それが認められないなんて、絶対に 納得がいかない!!」
「ゴ、ゴールド、落ちついて・・・
とにかく、ポケモンセンターにいこっ? あたしのポケモン達、みんな疲れちゃってるから・・・」
ゴールドがうなずくと、さっき言ったとおりに あたし達はポケモンセンターへと向かった。
・・・やれやれ、これじゃ、どっちが資格剥奪(はくだつ)されたんだか わかりゃしない・・・
「・・・『りゅうのあな』ねぇ、ずいぶんと面倒な課題を出されたわね・・・」
ポケモンセンターでジムの中で起こったことを話すと、センターの看護婦さんは ため息をつきながら同情してくれた。
「どういうことです?」
「イブキさんねぇ、時々、自分が納得いかない負け方すると、そうやって対戦者を試すのよ。
1度言ったら聞かない強情な子だから、まぁ、行くしかないでしょうね。」
そう言って、『りゅうのあな』のある場所を教えてくれた。
まだ眉のつりあがっているゴールドを連れて、ポケモンと一緒にその場所へと向かう。
「あー、あったあった、この穴じゃない?」
小さな池の真ん中の 竜の口のような形をした岩の奥に ぽっかりと大きな穴があいていた。
あたしはボールからワニクローを取り出すと、その上へと飛び乗る。
ゴールドも小さなボールの中から 大きな水タイプのポケモン(種類は『マンタイン』、ニックネームは『カイト』らしい)を取りだし、
水の上を 滑るように進んでいく。
半分、竜に食べられちゃうような気持ちで 穴の奥へと進むと、中は ひんやりとした空気の包む 洞窟になっていた。
「おどろいたぁ、意外と中は広いのね・・・」
あたしが声を出すと、洞窟の壁に響いて 音がエコーした。
それに反応したかのように 小さな足音とカラカラという音が 洞窟の中を反響する。
「クリスッ、トレーナーがこっちを狙ってる!! 2人だ!!」
ゴールドが声をいっぱいに響かせた直後、あたしとゴールドのちょうど真ん中に 炎が轟音を立てて通りすぎた。
ワニクローの『なみのり』で なんとかその場をしのぐと、あたしとゴールドは同時に図鑑を構える。
「敵は2匹、両方ともミニリュウ!!」
「あたしは 左側の方を受け持つわ、もう1匹の方、お願い!!」
水の中から迫ってくる大きな影を あたしとワニクローは待ち構えた。
水の切れる ザバッという音と一緒に 巨大なミニリュウが 姿を現す。
「ミニリュウ、『かえんほうしゃ』!!」
「ワニクロー、『なみのり』っ!!」
相手のトレーナーの声と一緒に あたしはワニクローに叫ぶ。 洞窟の中に響き、いつもより大きく聞こえた。
ワニクローは 飛び出してきたミニリュウと入れ違いに 水の中に潜り、放たれた『かえんほうしゃ』を 無効化する。
「『きりさく』っ!!」
攻撃の勢いで 姿の丸見えになったミニリュウを ワニクローの鋭い爪が襲った。
急所をつかれたミニリュウは フラフラと力を失い、水の上に 波しぶきを立てて倒れこんだ。
横を見ると、ゴールドも もう1匹のミニリュウを倒したところみたいだ。 マンタインの頭(?)を ニコニコ顔で撫でている。
「こりゃ、ハナ、ヒナ、やめんか。」
新手かと思い、あたしは図鑑を構えて 戦いの構えを取った。
しかし、ゴールドが近づいてきて それを静止する、どうやら、敵ではないらしい。
コツコツとした 杖の音がゆっくりと近づいてきて あたし達の前で止まる。 目の前に現われたのは いくつなのか 見当もつかない老人だった。
老人は あたし達の方へ視線を向けると ゆっくりと口を開いた。
「ハナとヒナが 迷惑かけたようじゃのう・・・
それに、イブキも、か・・・どうせ、あの娘に言われて ここまで来たんじゃろう?」
妙な迫力を持った老人に言われて あたしとゴールドは 同時にうなずいた。
それと 同じくらいのタイミングで 老人の右と左に 同じ顔をした女の子が現われた。 ・・・双子だ。
「ちょうろうさま〜、」「すみませんです〜・・・」
面白いくらい ぴったりなタイミングで 双子の女の子が 老人へと向かって話しかけた。
「ふむ、よいよい、ここに来たということは イブキに勝ったということじゃろう? 負けてしまうのも無理はない。
ハナ、ヒナ、この者達と戦った時、どんな感じじゃったか?」
「すごく強かったです〜。」「ワタルお兄ちゃんと戦ってるみたいでした〜。」
またしても、答えたのは2人同時。
聞いているのかいないのか、長老はうんうんと うなずいていた。
「・・・さて、申し訳ないが、こうでもせんとイブキの気がおさまらんのでな。 ちと、試させてもらうぞ。
なーに、わしの質問に 少しばかり、答えてもらうだけじゃよ。
そこの少年、強いポケモンと弱いポケモン、どちらが大事かの?」
長老の視線が向けられると、ゴールドは目をパチパチと瞬かせ、長老のほうを見つめ返した。
「・・・・・・あの、『弱いポケモン』って・・・なん、ですか?」
ゴールドの目には とぼけてる、とか、そういった心は一切含まれていなかった。
きっと、今まで対戦以外で 強いとか弱いとか、考えたことなんてなかったんだろう。
どれだけ能力の低いポケモンでも、レベルの低いポケモンでも、強くなれる要素があることを この少年は知っている。
「ふむ・・・面白いことを言う少年じゃな、ちと、わからんが、まあ、いいじゃろう。
さて、少女・・・・・・む?」
長老はあたしのほうへ視線を向けると、ピクッと眉を動かした。
「少女、ちぃと こっちにきてみい。」
あたしは言われたとおりに ワニクローに指示して 長老のいる岸まで 上陸した。
ゴールドがそれを追って 自分も上陸する。
「少女、その首についている鈴は、どうした?」
「へ?」
あたしは長老に言われて 首についている鈴を触った。
ずいぶん長いこと付けてたから、ここにあるのが いつのまにか当たり前になってしまっている。
「あぁ、『アルフの遺跡』で ちょっと・・・」
あたしは言葉の最後を濁した(にごした)。 まさか、幽霊にもらったとも言えない。
「・・・ふむ、ちっと、それを鳴らしてみぃ。」
長老が 何かありげな視線で あたしに話しかけてきた。
あたしはそれにならって、鈴を付けていたリボンを外し、手で持って チリンと鳴らす。
「なるほど・・・、実に、実に面白い、少年少女じゃな。
少女、1つだけ尋ねよう、おぬしにとって、ポケモンとは どのような存在なのかな?」
・・・・・・あたしにとっての、ポケモンの存在?
「・・・え〜っと、仲間・・・違う、友達・・・でもない。
変かもしれないけど、あたしの、おかしな行動に いつも、この子達、付いてきてくれたんだよね・・・
いっつも仲がよかったって訳じゃないんだけど、いつもあたしとポケモン達は 一緒にいた。
うん、きっと、あたしにとって、ポケモンは『家族』、みんな、大事な家族!! ・・・・・・だと、思います。」
途中から 敬語を使うのを忘れてて、突然言葉がおかしくなっていた。
その場にいる全員が、しんと静まりかえって 沈黙が流れた。
「・・・結果は どうかしら? 聞くまでもないと思うけど・・・・・・
あなたでは 無理だったでしょう?」
その場の沈黙を破るように イブキが背後の水を切って現われた。 全員の視線が 彼女へと注がれる。
「いや、このもの達、力も技も、心も 立派なものじゃ。
2人とも、ポケモンのことを とても 大切に考えておる、合格じゃよ。」
「・・・・・・そんなっ!!」
長老の言葉に イブキは 凍りついたような表情を見せた。
「しっ、信じられない・・・わ、私だって まだ認めてもらってないのに・・・」
「いい加減に、ライジングバッジを渡さんか イブキ!!
このもの達にあって、お前にないもの、しっかり考えてみい!!」
長老にたしなめられると、イブキは体を震わせ、仕方なし、といった感じで あたし達に 竜の頭を簡単にしたような形のバッジを 投げて渡す。
そのまま、何か悔しげ、・・・っていうか、何かありげな視線をこっちに向け、マントを翻して(ひるがえして)帰っていった。
「・・・・・・すまんのう、イブキにも色々あってな。
そうじゃ、我がドラゴン一族に伝わるポケモンを おぬしに譲ろうかのう・・・」
長老はそう言うと、青いモンスターボール・・・カラーリングが違うんだと思うけど、を あたし達の方へと向かって差し出した。
ぽかんとしているあたしをよそに ゴールドはそれを受け取り、まじまじと見つめる。
そして、あたしの手にそれを乗せた。
「僕には、必要なさそうだから クリスが受け取るといいよ。 可愛いポケモンだよ。」
あたしは言われるままに それを受け取った。
訳のわからないまま 長老に別れを告げ、『りゅうのあな』を後にする。
ボールの中身は ミニリュウだった。
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