68、11月10日


来たる『11月10日』、ついに、この日が来てしまった。
バッジの数は 相変わらず5つのまま。
一応、抽選に当選して リーグ予選の出場権がもらえてるからいいんだけど・・・・・・


そう、この日は リーグ開催までに到着できる 最低の日付。
今から出発して何の問題もなく会場まで到着しても 大会の前日になってしまう。
予断は許されていなかった。
あたしはリュックを背負って リーグ会場へと向かう水路に ワニクローを乗せる。


「本当に、ギリギリまでねばったな。」
みずしぶきを上げて水路を突き進むワニクローの後ろに シルバーが進化した『グロウ』をつけてきた。
空中ではシルバーの『クロ』のスピードにあたしのトゲリンは敵わないけど、水の中なら、ワニクローの方が速い。
「結局、バッジは間に合わなかったんだよな。」
シルバーは 痛いところをついてくる。
「そうよ、でも、この半月の間にも、あたし、がんばったんだからね!!」
「あぁ。」
「前よりずっと、強くなったんだからね!!」
「あぁ。」
バサバサと音を立てる髪が邪魔をして シルバーの表情は見えなかった。
あたしは 胸の中に浮かび続けるもやを取り払おうと、ワニクローのスピードを上げる。

「あんまり飛ばすなよ、クリスタル・・・
 見ろ、グロウがばてちゃったじゃないか・・・・・・」
陸地までつくと、シルバーはランターンのグロウをボールへと戻しながら 文句を言ってきた。
そんなこと言われても、とも思ったけど、とりあえずは謝っとく。
「ゴメン、ちょっとイライラしてて・・・
 とりあえず、しばらくは電気ポケモンは モコモコに任せておいて。
 とにかく、先を急がなきゃ。」
と、走り出そうとして あたしは足を止めた。
今にも崩れそうな崖(がけ)の下に 女の人がいたからだ。


「あの、危ないですよ。
 頭の上、あのガケ、すぐに崩れちゃいそうじゃないですか!!」
あたしが話しかけると、女の人は ほがらかに笑った。
「ポケモンリーグに出場される方ですか?」
「は、はい・・・まぁ。」
一瞬、女の人の姿がゆらめいたような気がした。
不思議に思って 女の人と少しだけ、距離を取る。
「私はいいんですよ、ここで。
 だって・・・・・・・・・・・・」
女の人が腕を上げると、崩れそうだったガケが 音を立てて本当に崩れだした。
驚いて見ると、女の人の姿は 壊れたテレビのようにぐにゃぐにゃと動き出し、しまいには消えてしまった。
「だって、ここでポケモンリーグへ出場する人間をつぶすのが、私の役目なんですもの。」
何もない空間に 女の人の声だけが響く。
上を見上げると、大岩がものすごいスピードでこっちへと迫ってきていた。

「クリスタルッ!!!」
シルバーの声が響き、あたしは岩の動きを読んで かわして逃げた。
ドカドカと鈍い(にぶい)音が鳴り、崩れた岩があたしの前に山積みになった。
その間に シルバーが挟まれて 動けなくなっている。
「・・・・・・何やってんの、あんた?」
「うるさいな、誰のせいでこうなったと思ってるんだ?」
「あたしのせい!?」
ぶつぶつと文句を言いながらも、山積みになっている岩を放り投げてどかす。
その様子を見て シルバーはあきれたようなため息をついた。

最後の1個の岩をどかすと、シルバーの足はおかしな方向にねじ曲がっていた。
それをみてシルバーは 再び深いため息を吐く。
「「は〜」って、ちょっと、痛くないの!?
 あからさまに人間の足の方向じゃないじゃないの、折れてるんじゃないの!?」
「・・・だろうな。」
シルバーは冷静だった。
それを見て 今度はあたしがため息をつく。
そして、さっさと応急処置(本で見たことがある『そえ木』をして、包帯できちんと巻くのよ)を済ませ、
シルバーを背負って 会場へと走り出した。
「クリスタル、オイ、やめろって!!
 フレイムに乗って行けば、問題ない!! リーグに遅れるだろ!?」
「ケガ人はだまってなさい!!
 子供1人背負ったくらいで スピードが落ちるほど、このクリスタル、ひよわじゃないんだからね!!」

ワカバまで戻っている時間はない。
かといって、近くに骨折を治せるような医者がいるとも思えない。
野生のポケモンに襲われた時のことを考えると、ポケモンに頼るわけにもいかない。
だから・・・・・・・・・・・・


「行くわよッ!!!」
あたしはスピードを上げた。
ギリギリの勝負は おかしな話だけど、何回もやってきた。
それが、1度増えただけ、そう考えると、ずいぶんと気が楽だった。

ポケモンリーグ開催まで後10日。
それまで、あたしはこの35キロの少年を背負って 走り続けるのだ!!



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