69、11月20日


「間に合わないッ!!!」
あたしは叫んだ。
ポケモンリーグの開催は明日、受けつけは今日の夕方まで、加えてあたしたちが 今いるところは・・・

『チャンピオンロード入り口』

言わずと知れた ポケモントレーナーの登竜門(とうりゅうもん)。
野生ポケモンが住みつき、リーグへと向かうトレーナーたちを待ち受ける、そう聞いている。
本当ならここへは、2日前に到着しているはずだった。
遅れてしまったのだ、走るスピードが落ちてしまったから。


『ちょっと、本当なの!? それ!!』
ポケギアの向こうから 甲高い声の持ち主が叫んだ。
彼なら、もしかしたらいい案を持っているかもしれない。
「ウソでこんなこと言わないわよ、距離が遠すぎるの、間に合わない!!」
走りながら通信を続ける。
だけど、電波の届かない洞窟の中にはいるまで そう時間はかからなかった。
考え込んだりして もたもたしている時間はない。
「とにかく、今全力で走ってるトコだから!!
 これからトンネル入るから、もう切るねッ!!!」
乱暴にギアの電源を切ると あたしはシルバーの足を持ちなおした。
変わらないスピードを何とかたもち、走りづらい岩の道を つまづきながらも疾走(しっそう)する。

「だから言っただろうが、おれなんか抱えてたら 間に合わないって!!
 最初から置いて行けばよかったんだよ、おれなんて・・・」
「介護(かいご)される側の人間が 文句言ってんじゃないの!!
 あんな野生ポケモンうじゃうじゃの場所にあんたを置いてったら、夢見が悪いでしょーが!!!
 いい加減にしなさいよ! その自己犠牲精神(じこぎせいせいしん)!!!」
その時は気付かなかったけど、後から思えば、めちゃくちゃひどいこと言っちゃったと思う。
その言葉の後、シルバーは黙り込んでしまった。


「モコモコ、もっと照らして!!
 出来るだけスピードを上げるの、あんたじゃなきゃ出来ない!!」
モコモコが尻尾(しっぽ)の先の光度を上げると 薄暗い道の ずいぶん先まで見えるようになった。
光につられて現れた ゴローンやイワーク、それにズバット、ゴルバットなんかを倒すのは ワニクローの役目。
両手がふさがっている状態では このツートップの活躍は ずいぶんと助けになった。
しかし、そう長くも続かない。 あたし自身の体力が。

「クリスタル、オイ、大丈夫か?」
息を切らして座りこむと、シルバーは心配そうな声を上げた。
考えてみれば、ここに入ってから ペース配分というものを全く考えずに走ってきた。
クラクラするのも、心臓が破裂しそうなほどに波打つのも、当然といえば当然かもしれない。
一瞬くらんだ視界の先には シルバーの白い手が見えた。
「もういい、ここまで来たんだ。
 全員使おう、後のことを考えていられない。」
目の前で赤いボールが開くと 音もなく大きなポケモンが飛び出した。
恐らくは、シルバーのクロバット、『クロ』。
「こいつの『ちょうおんぱ』で 洞くつ中のポケモンを『こんらん』させる。
 そしたら、おまえはオーダイルに乗って行けばいい。」
あたしに二の句を次がせず、シルバーはクロに『ちょうおんぱ』を出すよう、指示を出した。
あたしには分からないんだけど、そこら辺を飛んでいたズバット、ゴルバットの動きが あからさまにおかしくなる。
すると、ワニクローがあたしの側によって 背中に乗るようにうながした。
上手く動かない腕を使い、なんとか背中につかまるけど、背中の重みが邪魔をして すぐによじ登れない。
と、思った時に シルバーは自分から降りた。
モンスターボールを開き、バクフーンを召喚する。
「ウツギ博士が、ゆずってくれたんだ。 おれは、こいつに乗って走るから。」
疲れ切ったあたしをワニクローの上に乗せる(というか、よじ登るのを手伝ってくれた)と、
シルバーは『フレイム』の上にさっそうとまたがった。
フレイムにリードを任せると、風を切るようなスピードで 3匹(モコモコもいるのだ)は走り出す。


しばらくすると、あたしは目を覚ました。
・・・・・・うん? 目を覚ました?
確かに、ここは、ワニクローの背中の上。 ドスドスという走る音が胸を伝わって聞こえてくる。
「・・・・・・シルバー・・・あたし、寝てた?」
「そりゃもう、ぐっすりと。
 いいんじゃないか? ここ3日くらい、まともに寝てなかったんだろ?」
背筋に寒気が走った。
・・・・・・・・・・・・今の時間!!!
「シルバー、時間は!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
あたしはポケギアで時間を確認した。
4時、45分。
・・・・・・・・・夕方の。
「間に合わないぃ!!!」
「落ちつけ!! もうあせったってどうしようもないんだ、走るしかないだろう!!」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ううぅぅぅ・・・・・・」
会場の明かりが見えた。
だけど、日はもう、とっぷりと暮れてしまっている。
どうしようもない気持ちにおそわれて あたしはただ、うつむいてうなだれていた。
「そうしょげこむなよ・・・
 とにかく、受け付けまで行こう、もしかしたら、ってことも あるし・・・」
「・・・・・・そだね。」
選手村までつくと、あたしはワニクローから降りて 会場受付まで走った。
まだ仕事は残っていたらしく、髪を染めたお姉さんが ガラス張りの扉を開けてくれる。

「・・・・・・・・・え?
 クリスタルさん? 何言ってるんですか、受付はもう、済ませているじゃないですか?」
「へ?」
あたしは目を瞬かせた。 他人から見たら、相当 変な顔をしていたに違いない。
「仕事が残っているから」と あたしはあっさりとその場から追い出され、薄暗い通りにたたずんだ。


「あ、いたいた、クリスッ!!」
聞き覚えのある声がして、振り向くと、ブルーさんが通りの向こうで手を振っていた。
ケガ人のシルバーともども、とりあえずはそっちの方向へと足を進める。
「あの、ブルーさん?
 一体どうしちゃったんでしょう、あたし、受け付け間に合わなかったのに、係の人が、受けつけはもう終わったって・・・」
あたしが聞くと、ブルーさんは意味ありげに笑った。
「ゴールドに、お礼いっときなさいね。
 来てそうそう大変だろうけど、明日はもう、クリスの試合が控えてるんだから、
 早く、ポケモンたちをセンターに預けて休みなさい!!」
「は、はいッ!!」

あたしはシルバーをブルーさんに任せると、ポケモンセンターへと向かって走り出した。
その先、ポケモンリーグの試合で もっと大変なことになるとも知らずに・・・



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