78、ポケモンたち


「・・・・・・一応、持ってきたぞ、クリスタル・・・・・・」
決勝戦前日、お昼過ぎにシルバーはあたしの目の前に現れた。
息を切らし、へとへとに疲れ果てている様子だ。
まぁ、その原因を作ったのも、あたしなんだけど。


「ありがとシルバーっ!!
 ホントゴメン、どうしても、これ、ゴールドと戦う時に必要になると思って・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
どうやら、返事をする気力も無くしているみたいだ。
まぁ、当たり前か、1日で数百キロメートルも クロ君を飛ばす派目にさせちゃったんだから。

「・・・・・・とりあえず、宿舎行って休んだ方がよさそうね。
 ホラ、おぶってくよ。 乗って?」
「い、いぃ・・・・・・」

・・・・・・むっ!!

「別に遠慮することないでしょ?
 こー見えても、体は鍛えてるんだからね? 男の子1人くらい・・・・・・」
「ホントいいから!!
 女の背中に乗ってくなんて・・・みっともねー・・・」
シルバーは最後までセリフを言うことが出来なかった。
何故って? そりゃ、決まってるでしょ?
クリスちゃんの一撃必殺、ダブルストレート+アッパー!!
とりあえず、気絶したシルバーを引きずって宿舎まで連れ戻すと あたしは自主トレを始めることにした。



「よっ、がんばってんな!!」
道端で挑みかかってきたトレーナーを5人倒し終わった時、話しかけてきたのはレッドだった。
ヒメの『だましうち』でフィニッシュを決めると、あたしはそっちの方向に向き直る。
「今日は あの赤髪君は一緒じゃないのか?」
・・・・・・レッドには、
あたしとシルバーってセットになっているように見られてるんだろうか?
「赤髪君って・・・シルバーなら、気絶させて部屋に・・・じゃなかった、部屋で昼寝してますけど?
 シルバーに用があるの?」
レッドは軽く首を横に振った。
「いや、用があるのはクリスの方。
 この技マシン、クリスに渡しとこうと思ってさ。」
そう言って、レッドはモンスターボールにそっくりな赤白のアイテムボールを あたしに手渡す。
ずっと握り締めていたのか、手の温度が伝わってきて 暖かい。
どうしてあたしに渡すのか分からず、レッドの顔の方を見上げてみた。
もし、お兄ちゃんがいたらこんな感じなのかな、っていう、優しい笑顔でレッドはあたしに笑いかけてきた。
「いやさ、ジョウトを旅しているときに落っこちてるのを見つけたのはいいんだけど、オレ、あんまりこういうのって使わないから。
 似たような効果を持ったのが ちょうど1つずつあったから、クリスとゴールドで、1つずつ。」
「効果は?」
「知らね。 ホントに、オレじゃ使わないんだよ。
 とりあえずやるから、後は使うも使わないも 捨てようが売っ払らおうが、クリスの勝手。」
「はぁ・・・ありがとうございます。」
・・・多分、レッドが技の効果を知らないって言うのはウソだろう。
でなきゃ、『似たような効果を持ったのが1つずつ』なんて、言えるわけがない。
多分、あたしのことを試してるんだろうな、多分、この技マシンはあたしにとって、武器になる。

「で、今日はバトルで自分をきたえるってのか?」
「え? あ、う〜ん、ちょっと違う。
 ゴールドと戦うポケモンたちは、夕方までお休みなの。 今日ばてちゃったら、全然意味なくなっちゃうから。
 その間に、あたしは控えのポケモンで トレーナー戦で戦術研究をと思って。」
それを聞くと、レッドは楽しそうに笑った。
なにか、おかしくてしょうがない、といった感じだ。
「・・・・・・そっか、考えることってみんな一緒なんだな。
 オレも、決勝の前日ってポケモンたち、みんな休ませてたよ。 それに、ゴールドもさ。
 だけど、全然意味なかったんだよな、あの時も・・・
 きっと今も・・・クリス、ポケモンたちをどこに預けてる?」
「ワニクローたち? 今なら、休んでいるはずだけど・・・広場にある、ポケモンOKの公園で。」
「多分、『休んで』ないぞ、クリス、見に行ってみるか?」
あたしはうなずいた。
以前優勝した人間の言うことだ、なんか、ただ面白がって言っている気もしない。



あたしのポケモンたちは あたしに言われたとおりに公園にいた。
ポケモンOKの公園はここだけなので、ゴールドのポケモンたちも一緒に。
だけど、総勢12匹、誰も遊んでなんて いなかった。
それぞれ、バトルの訓練をしたり、自主トレーニングで体力を上げていたり・・・
敵味方関係なく、みんな協力して。
あたしが何かを言おうと思って、草むらから顔を出そうとすると、レッドに肩を掴まれ、引き止められた。
「あれが、あいつらの気持ちなんだよ。
 今日1日、『好きにしろ』って言ったんだろ? 遊んでようがバトルしてようが、好きにさせてやろうぜ?」


あたしは うなずいた。
なんだか、胸の奥があったかい感じがして、ポケモンたちの方を向いていられなくなって。
「あたし、このまんま戦術研究、続ける。
 きっと今日は、そうするのが1番いい方法だと、思うから・・・・・・」
レッドは笑ってうなずいた。
あたしはモンスターボールを開いてヒメを出すと、人の集まるメインストリートへと走り出す。

「・・・・・・それじゃ、行こうか!!
 明日、絶対にゴールドに勝ってやるんだから!!!」



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