84、11月29日


「・・・・・・ス、クリス、いい加減に起きなさい!!
 もうお昼過ぎなのよ!?」
肩をゆすられて、あたしは目を覚ました。
ボーっとする視界の先には 白い天井が迫っている。
・・・ここ、どこ? ポケモンセンター?

「・・・・・・ううん・・・」
あたしは のそのそとベットから起きあがる。
うぅ、体中がズキズキする・・・これは筋肉痛だ・・・・・・
それでも、とりあえず眼は開かなきゃ。
そう思って目やにの張っついた目をこすりながら開くと、真っ先に見えたのは、誕生日祝いに買ってもらったピカチュウぬいぐるみと、
金色に輝く、優勝トロフィー。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
あたしはしばらく思考回路が停止していた。
なんで、あれがここにあるの? あたしそもそも、どうして家のベットで寝てたんだっけ?

「もう、起きた? クリス・・・」
お母さんがカーテンを開くと、お昼過ぎだってだけあって、眼のチカチカするまぶしい光が飛び込んできた。
1度閉じた目をまた開くと、トロフィーはまったく同じ場所で キラキラと輝いている。
夢じゃない、そう、夢じゃないんだ。


「昨夜、男の子が2人うちに来てね、クリスと、そのトロフィーを置いていったのよ。
 あんた熟睡してたし、ずいぶん遅くになってからだったから、2人ともそのまま帰ったんだけどね・・・」
「名前は?」
「名乗らなかったわ。
 だけど、きれいな金色と銀色の瞳(め)をした、優しそうな子たちだったわよ。」
・・・ゴールドとシルバーだ。
そっか、昨日、授賞式の後 あたし眠っちゃって、仕方なく届けてくれたんだ・・・・・・
会ったら お礼言わなきゃ!!
「お母さん、朝ご飯は?」
「もうお昼よ。
 下に用意してあるから、冷めないうちに食べなさい。」



パパッと朝ご飯・・・じゃなかった、昼ご飯を片付けちゃうと(あんまり量は食べないけど、早食いは得意よ?あたし)あたしは外へ飛び出した。
とりあえず 出かけるのはゴールドの家の牧場。
シルバーがどこにいるのかは知らないけど、ゴールドならそこにいるに違いない。
家から20分ほど歩くと、半年前と何も変わらない あの景色。
バックからモンスターボールを取り出して全部開くと、ポケモンたちは広い世界へと向かって走り出した。
「ふ〜ん、人に慣れたポケモンは、こういうことに関しては 学習するのが早い・・・か。」
「・・・・・・!?・・・」
驚いて振り向くと、そこには重たそうなダンボール箱を抱えたシルバー。
なんだか、いつもと印象が違って見えるのは シルバーの着ている服がいつものヤミカラスみたいな黒いフリースではなく、
さっぱりとした白いTシャツだからだろうか?
「シ、シルバー!? なんで? どして!?」
「・・・起きたばっかりだってのに、ずいぶんなご挨拶だな・・・
 おれの家から研究所に行くには、この道を通るしかないんだよ。」
言いながら 腕に抱えたダンボール箱を抱えなおす。
なにが入ってるのかは知らないけど、本当に重そうだ。
「持とうか? そのダンボール。」
「いいよ、重いし・・・」
「重いから あたしが持とうかって聞いたのよ!!
 昨日のお礼もあるしね!!」
ひょいって シルバーの腕からダンボール箱を奪い取る。
なるほど、重いって言うのも分かるわ、この重さは紙、みたい。 雑誌とか資料とか、そういうの。
呆然としているシルバーをよそに あたしは歩き出す。

「ありがとね、昨日、あたしを家まで送ってくれたのって、シルバーでしょ?」
「・・・あ、あぁ・・・・・・
 トロフィーは、ゴールドが・・・・・・」
シルバーは開いた口がふさがらなくなっている。
普段が普段なだけに、そうとう面白い光景だ。


「・・・なぁ、昨日、おれが言ったこと、・・・・・・聞こえてたか?」
100メートルほど歩いた頃、シルバーが赤い髪をいじりながら尋ねてくる。
「何を?」
「いや、聞こえてなかったんなら、いぃ。」
ずいぶんとまぁ、気になる言い方をしてくれるもんだ。
だけど、まあいいやって後ろを向いたあたしは 気付いていなかった。
首からぶら下がったロケットをいじっていた、シルバーの行動。



「それじゃ、ここでいいよ。」と言うと、シルバーは早々と去っていってしまった。
あたしはゴールドの家の前で 独り、取り残される。
まぁ、もともとゴールドの家に行こうと思ってたんだけど。
「じれったいよねぇ・・・」
「うわっ!?」
背後から突然現れたのは、ゴールド。
本当に音もなく突然と現れた理由はすぐにわかった。
どこから出てきたのか分からないレアコイルにぶら下がっていたからだ。

「あれでシルバー、自分が本当に言いたいこと言うのって苦手だから、時々イライラしちゃうんだよね。
 まぁ、それでも好きだけどね、シルバーの性格。」
「・・・ゴールド!?
 一体どこから・・・・・・」
ゴールドはレアコイルから飛び降りる、と、同時に足に引っ掛けていた買い物袋らしきものから、ぐしゃ、と嫌な音がする。
「買い物帰りだったんだ。」
「・・・いいの? 卵が割れたみたいな音がしたけど・・・」
「へーきへーき、2〜3個割れても、今日の晩ご飯が 親子どんぶりになるだけだろうし・・・」
あたしはため息をついた。
ゴールドの このマイペースさは 死ぬまで治らないに違いない。

「ディア、そんなとこにいないで降りておいでよ!!」
ゴールドは自分の家の屋根の上へと呼びかける。
同時に 黄色い小さなピカチュウがゴールドの肩へと飛び降りてきて、弾みでゴールドは買い物袋を取り落とし、ボキッ、という嫌な音がした。
「・・・大丈夫? 大根が折れたような音がしたけど・・・」
「いーのいーの、今日のお味噌汁の大根が 少し短くなるだけだろうから・・・」
あたしは再びため息をつく。
そして、本来の目的を思い出した。
「あ、そうそう、ありがとね、トロフィーとか、荷物とか・・・」
「ううん、トロフィーなら また作って郵送してくれるって言ってたし、クリスの荷物、結構軽かったから気にしないでいいよ。
 そいえばさ、クリス、どうするの? これから・・・」
「・・・これから?」
そういえば、ポケモンリーグに集中しすぎて『これから』のことなんて、全然考えてなかった。
ずっとずっと、旅をして、ポケモンたちを鍛えて・・・そんなことばっかり考えてたから・・・・・・


「僕ね、お医者さんになるんだ。
 ポケモンも人間も治せる、世界で1番のお医者さん!!!」
ゴールドはディアを抱えると太陽みたいな笑顔を浮かべた。
ずっと、ずっと先のことまで考えてるんだ、ゴールドは・・・・・・なんだか、尊敬してしまう。
「・・・シルバーは?」
あたしが何気なく尋ねると、ゴールドは意味ありげに笑う。
「聞いてはいないけどね、多分、学者さんとか、博士とかだと思うよ。
 小さい時から、よくポケモンの観察とかスケッチとかやってたから・・・・・・」
「そっか・・・」





あたしは、何をやりたいんだろう?
全ッ然!! 考えたことなんてなかった、もしかして、時間が、必要なのかもしれない。

とりあえず、今はまだ11歳。

まだまだ『子供』って言える歳。

これからじっくりと考えてみよう。

ゆっくりと時間をかけて、考えていこう。



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