バタァ…
ポケモンセンターの屋上へ続くドアを勢い良くあける
その中には息を切らしたシンの姿が
「ハァ…ハァ…」

第三十一話 I嬢の憂鬱

膝に当てられた手を持ち上げ、手すりに近づける
「!」
シンが何かに気付く
「・・・・・・イシス!・・・ハァ…無事だったか!」
最近のフル使用でボロボロの足を引きづりながら、屋上に佇み(たたずみ)空を見上げているイシスに声をかける
そのイシスの足元には―六つのモンスターボール
「ほかのやつも…無事だったみたいだな…良くやった!イ…」
『何でそんなに平気そうな顔をしてられるんですか!』
「・・・・・」
イシスが空を見上げていた顔を、こっちに向けて言う
『ホラ…笑ってる…なんでですか!』
「・・・・・・・・・」
シンが再び黙り込む
『多分…あなたがゴット団の人と戦っていたとき、『光る手』…使いましたよね?』
イシスが悲しそうな、本当に悲しそうな顔をして言う
この光る手とは、最近発見されたトレーナーの能力で、トレーナーとしての才能が優れていると、ポケモンとのふれあいの内に、習得してしまうものだ
この力を使っているとその色により、一部のポケモンの能力を桁外れに押し上げる働きがある
「・・・・・あぁ」
俯きながら(うつむきながら)答える
『今のあなたはこの力を使ってはいけません』
「わかってる」
早い回答
顔はまだ俯いたままだ
『本当に…お願いします。もしかしたら…ヒック…死ん…じゃうかも…しれませんよ…』
イシスが泣きながら言う
イシスの瞳から涙がボタボタ流れ落ちる
「・・・・・わかったよ・・・」
まさに『しぶしぶ』
そんな具合で答えて、シンはイシスの方に歩み寄ってきた
そして、イシスの目の前まで来ると
「…これから当面バトルは禁止。これでいい?」
そういってひとつのボールを手に取り
イシスの目の前に持ってきて―

ゴツッ

『痛・・・・・』
ボールでゴツンとイシスの額をたたく
「危うく戻すところだった…あの写真のネガはどこ?」
『…あなたの…ポケットの中』
シンはポケットの中を確認すると
「じゃあな…」
『ハイ…』
イシスはボールの中に収まった

第三十二話に続く…
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