第九十四話 お前なら!!


「シン!お疲れ!!」

観客席に戻ってきたシンにミキが声をかける

「あぁ…」

シンはそう言って席に着いた
余程の熱戦だったのであろうシンも息があがり、ボールはまだ、手に握られたままである
そしてその手にも、汗が握られていた

そして、少し遅れてクリアが到着する
その額にはやはり汗が
クリアは額の汗をぬぐいながら席に着いた
「クリアさん…」
ミキがそういってクリアの元に駆け寄った
そしてごそごそとバッグをあさり、中からタオルを抜き取る
ミキはそのタオルをクリアの長髪の上から肩にかけた

「お疲れ様です」


そしてミキは再びバッグを肩にかけ、
「じゃあ…行って来ます」

そういってミキは奥に消えていった



「気付きましたか?師匠」
「えぇ…」
一瞬の静けさを破り、シンが喋り掛けた

「呼吸が―」「荒いですね」
シンがそう言うと、ミキが消えて行った方を見る
が―もうミキは見えなくなっていた

「あいつ…緊張してやがる…」


そして数分後―第二戦は始まった―


「行け!ナミ!!」
「行け!リザードン!!」
両者のボールがバトル場に放たれた

ミキの反対側の台には、グリーンが―
そして―


『バトルゥ…!スタート!!!』

開始の声が響き渡る


「空を飛ぶ!!」「突進!!」

ナミの猛突進をリザードンは間一髪避けきる
ナミはすぐに体勢を立て直し、リザードンのほうを見る

「行け!」「ナミ!避け…」

ドガッ…

リザードンの巨体を体に受け、ナミは吹っ飛ばされた


・・・・・・・

「指示が遅いな…」
「ですね…」

シンがポッキーをかじりながら言う

「しゃあねぇ…」
シンがそう言って口の中のポッキーを飲み込む
そして、観客席の手すりに手をかけ、スゥ…と息を吸い込んだ
そして―


「ミキィ〜〜〜!!!!」


シンが大声でミキの名を呼ぶ
ミキも、やはり聞こえたのかシンの方を見る
「シン…?」


シンは再び大きく息を吸う
そして―


「負けても良い!!行けぇぇぇ!!!!」



ミキにその言葉は届いた
そして、何か悲しげな顔をした後、再び息を大きく吸い込んだ



「これに負けたらァ!!もう本戦に行けないのよ!!」



そう言うと再び顔をグリーンの方に戻した




・・・・・・・・


「これだから、ミキは…」
はぁ…とため息をついた後、再び息を吸い込む



「四位決定戦で師匠に勝てば良いだろ!!!!」





「でも・・・・・!!!」


ミキが言葉を失う
流石に「自信が無い!」なんて言える訳が無い
その意を察したのかシンが叫んだ



「お前なら勝てる!!!!」



「えっ?」



ミキが再び目をシンに向ける
シンはもう一度息を吸い込み叫んだ



「お前なら…!!お前なら師匠にだって!!グリーン先輩でも!!勝てる!!」


シンはそう言うと、観客席の奥に消えていった



「・・・・・・・・・・・」



ミキは何を思ったかナミを呼び寄せて、耳打ちする
そしてグリーンの方を見る

「話してる間…黙っててくれてありがと」
「あぁ…かまわん」


・・・・・・・


「行くよ…ナミ…突進!!」
「ッ!!切り裂く!!」
ナミの巨体がリザードンに突っ込んできた
リザードンはカウンターを合わせるべく、腕を大きく振り上げ、爪を立てて振り落とした
が―


遥かにナミの方が早い
ナミの巨体に突き飛ばされ、壁に叩きつけられる
腕を振ったのは、それからだった


あたりに濛々と土煙が立ち込める
リザードンはぐったりと崩れ落ちる
が、まだ戦えるようだ
太い足を地面に叩きつけ、起き上がる
が―そのリザードンに更なる攻撃が加えられた



ドガガガガッガガガ…



衝突でへこんだ壁が崩れ落ち、リザードンに降りかかった
リザードンは叫び声を上げ、崩れ落ちた岩壁に飲まれていった

「――――――ッ!!!」

グリーンが叫び声をあげる
それは、轟音にまぎれてよく聞こえなかった
その声は―リザードンに届いていた



ボオオオオオオオッ!!!



崩れ落ちて、小さな山となった岩から、強烈な炎が噴射された
「ッ!!!」
完璧に油断していた
その炎はナミに直撃し、吹っ飛ばした
今までのダメージに今の大技
もう、ナミの体力は残っていなかった


「ブラストバーン…炎タイプ…最強の技だ」



・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・


「ご苦労さん」
観客席に戻ってきたミキにシンが言う
ミキは、ドカッ と席に腰を落とすと

「ありがと…」
「ん?」

ミキが俯いたまま話しかける

「シンのおかげで…自信出たよ。ありがと」
顔を上げ、笑顔でミキがいう

「どーいたしまして。四位決定戦は三十分後だ。がんば…」
「その必要はありません」
二人の話をさえぎってクリアが言う

「へ?何で?」

「第四戦…棄権しますから」

・・・・・・・・・・・・・

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」


ミキが椅子から飛び上がる
すぐにクリアの元に駆け寄り、

「この大会で入賞するのはすっごい名誉なことなんだよ!?それなのに…」
「お前…知らないのか?」
シンが言う
まったく…と言いながらミキに近づく


「この御方。師匠は前々回のキングスダムの優勝者。もうその栄光は持ってます」
「と言う事です」

そう言うと、クリアは金色のトレーナーカードをミキに見せる
その裏側には確かに優勝を示す言葉が書かれていた



「私は棄権します。ミキちゃんは…優勝にどこまでも喰らい着いてください」
クリアはそう言うと、その場を去っていった


第九十五話へ続く…
戻る