第六話 消滅


ルビーが目を覚ましたときは、病院の中だった
アチャモが野性ポケモンをなぎ払いながら、スサノオが運んでくれたらしい
右手には、包帯がぐるぐる巻きにつけてあり、そこには『禁』と書いてあった
恐らく、『動かすな』『触れるな』とかの意味合いだろう

しばらくして、サファイアが入ってきた
やはり無言
少し気まずい雰囲気が流れたが、それはすぐに解消された
医師らしき人が入ってきた
その人は、カルテだけを持って居た
「調子はいかがですか?」
「…良好…だといいです…」
「そうですか」
その人はそう言うと、カルテを見せる
読めるわけ無いのに
「えっと…簡単に言えば、重度の火傷ですね。でも、不自然な点が幾つかあって…症状は火傷に非常に似てるんですが、その手。黒くなってるんですけど、それは、焼け爛れた後でもなく、焼け焦げた後でもなかった。という点で不明な点がありますが…まぁ、当分の間動かさなければ大丈夫でしょう」
「…ありがとうございます」



その翌日、退院することが出来た
右手の痛みは殆ど無い
が、やはり包帯はぐるぐる巻き
右手が二倍にも膨らんで見える
『二、三日しれば外していいよ』
とのこと

ルビーは、サファイアと一緒に病院の外に出ていた
目の前には、カナズミの風景が見える
そこには、この前の老人が立っていた
「こんにちは」
「・・・・・(ペコリ」
二人が礼をする
「うぬ…右手は…大丈夫かのう?」
「自分の過失によるものなので、ご安心ください。…いっつ!!」
痛みが戻ってくる
やはり、この痛みは火傷によるものではない
なにか…骨の髄から来る様な痛みが来る
「いてて・・・」
「本当に大丈夫かの・・・?」
「だ…いじょうぶ…(だと嬉しいです)」
「そうかのぅ…それで、お願いがあるのじゃが…いいかのう?」
「はい・・・どうぞ・・・」
「あの連中のことじゃ」
「?」
「あの連中は、雲に近いところ…もっとも高いところじゃ。やつらは…そこで何かをしようとしている」
「・・・それで、何故あなたに?」
「その高い建築物は、海上に建設されている確率が高いと読んだのじゃろう。もし陸にあれば、よく分かる。会場なら、竜巻や何かと勘違いするやも知れぬ。至る所の海を知り尽くしたワシに聞きに来たのじゃろう」
「確かに…それで、頼み、とは?」
「わしの知っている本当の所≠フ名前は、あまり知られていない。わしは『そら・・・』までしか言っておらん。そら、だったら、恐らく『ソライシ研究所』に向かうじゃろう。特に高いわけではないが、なにかヒントが握られていると思ってな」
「そうですか…そこまでは、どれくらいの距離があるんですか?」
「かなりの距離じゃ。だからこそ、ワシについてきてほしい」
「?」
「こちらには船がある。ワシの裏ルートを通れば、半日で流星の滝の内部に出られる」
「!分かりました。すぐ行きましょう」
「分かった。すぐに準備する!」



・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・


「…じゃあ、出すぞぉ!」
老人とルビー、サファイア、そしてピーコを乗せた船が進み始める
数秒で最高速となる
もうすでに船の先が上のほうへ向いている
「う、わぁ!!」
ルビーは右手が使えないので、必死に左手で体を支える
「〜〜〜〜〜!!!!!〜〜〜〜ッ!!!!」
サファイアはびびりっぱなし
もうすでに半泣きだ
「ご老人!!このスピードで半日走るんですかァ〜〜〜!!!」
「ワシの名前は『ハギ』じゃあぁぁぁ〜!!」
「このスピィ〜ドでェ!!走り続けるんですかァ!!」
「もっちろんじゃぁ!!」
「えぇぇぇぇぇ!!!!」
「口ィ…閉じろォ〜〜!!舌ァ噛むぞぉ〜〜!!」
直後
「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
船体が海から浮かび上がる
その船は、目の前にあった巨大な岩礁を飛び越え、まず確実に船上では味わえない振動が、三人を襲った
「ッ!!!!」
サファイアが船の外に弾き飛ばされる
「危ねぇ!!!」
ルビーが、サファイアの腕を掴み、落下を防ぐ
「フゥ・・・」
ルビーは、一息ついたあと、サファイアを船上に手繰り寄せる
「こんなのが…あと半日も…死ぬ!やばいって!ハギさん!!」
「何〜〜〜!!聞こえ〜ん!!!」
「「(泣)」」

この後半日ほど、地獄の時間が流れることになる・・・


・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・
「う、うわあああぁぁ!!」
・・・・・・・・
・・・・・・・・・
「ッ〜〜〜〜!!ッ〜〜!!!」
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
「ヤバイって!死ぬってェ!!」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
「遺・・・遺体は海へ・・・ってサファイア!落とすなァ〜〜!!」
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・



〜〜〜半日後〜〜〜


「お〜い、着いたぞぉ〜い…生きとるかのぅ・・・?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」


・・・・・・・・・

「ホントに死ぬかと思いましたよ!!」
「最近の若者は弱いのう!」
「・・・・ ・・・ ・・ ・  ・   ・」
「ちょっ…サファイア!!?意識を戻せ!オイ!!」






〜〜〜流星の滝・内部〜〜〜

「あっ…静かに・・・!」
「?」
ルビーの指差した先には、右が赤、左が青の服を着た人と、空色の服を着た人
その横には、ソライシ博士が、何かの石を抱えている
後者は、スカイ団と思われる

「オイ!オマエラ!ソノインセキヲヨコシナ!!」
と、空色の服を着た男
その男は、間違いなくカナシダトンネルで戦った男
「断る!!」
「地上の資源をすべて空高くまで上げ、地上で暮らす生物の生きる場所を奪うなど!言語道断!!!そんなことは我々!『A×M』(アクアマグナ)が許さん!!」



「あいつは…確か・・・」
「?知ってるのか?」
「はい、右が元アクア団の頭領のアオギリ。左が元マグマ団頭領のマツブサ。以前戦ったのですが…環境保護組織に変わったんですね…じゃなくて!」
ルビーは大声を上げると、三人の前に飛び出す
「おめぇらの野望はここまでだ!」
ルビーは、空色の服の男に言い放った
「フン、ムシケラメ、ココマデキタカ。ダガ、モウオワリダ。クロバット!ドロボウ!!」
「ッ!!」
すると、上空から一匹のクロバットが現れ、ソライシ博士の懐で暴れまわる
そして、すぅっと男のほうへ戻っていった
その口には『石』が
「あぁっ!隕石が!!」
マツブサのコータス、水辺で待機していたサメハダーが、男に襲い掛かる
が―
「何!?」
直後、二匹を強大な風が吹き飛ばす
「ボス!」
上空には、ボーマンダに乗った男
ボスと呼ばれたその男は
「ランド。遅いぞ」
「ハッ。モウシワケアリマセン!!」
「…隕石をよこせ。私は早くしたい」
「ハッ。ショウチシマシタ!!」
ランド≠ニ呼ばれた男は、隕石を再びクロバットに噛ませ、ボスと呼ばれた男の元へ、送り届けさせる
「ランドよくやった」
「アリガトウゴザイマス!!」
ボスと呼ばれた男は
「君達も、私たちを敵に回すとろくなことは無いよ。私の元に付けば、理想郷(ユートピア)でも、上位の待遇をされるだろう」
「ンだと!!?」
「ふん。愚民には分からんのだろう。…もう、会わないように願っていろ。さらばだ」
そう言うと、ボーマンダは大きく翼をはためかせる
その風は砂を持ち上げて、ルビーたちに降りかかった
その砂は、目くらましの役目を果たした

砂が落ちた頃、ランドもボスも居なかった
天井には、大きな穴が開いている
「あの野郎…貴重な自然を…」
「それより!追わないと!」
すると、ハギが進み出て
「そうじゃな…おぬし達!ワシの船に乗れ!!」
「「分かった!」」
マツブサ、アオギリ、そしてルビーは、船に乗り込んだ



〜〜〜船上〜〜〜


「おい!そこの…マツフサとか言ったか!!?」
「マツブサ≠セ!何だ!?」
「どこへ行けばいい!!?行き先は!!」
「恐らく…エントツ山…」
「・・・・・・・・・?」
「如何してですか?」
「いったん山を噴火させるんだ。二年前のようにな。その噴火のときに起こる火山ガス(水蒸気が主成分)を、雲を固める機械があるんだが…それで固めて、雲の上へ。そこで上空の雲を固め、理想郷の土盤を作る気だ」
「・・・そうか・・・よし、えんとつ山のふもとまで行く!もちろん・・・」
「裏ルートで。お願いします」
「了解じゃ!!」
船はさらにスピードを上げた


〜〜〜えんとつ山・裏のふもと〜〜〜


「着いたぞい」
船が止まる
船の上には、半分死体がひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ…



「うし、行くぞ」
(一番最後に)意識を取り戻したルビーが言う
「おうよ」
マツブサが応答し、前に立って歩くルビーにみんなが着いていった




登る途中で…
「サファイア」
「・・・・・・・・?」
ルビーが問う
「そろそろ…なんで喋らねぇのか、教えてくれねぇか?」
「・・・・・・・・・・・」
「言語障害があるとしても少しくらいは喋れる。声帯をやられてたら悲鳴すら上げられないはずだ。何かあるんだったら、教えてくれねぇか?相談に乗るぞ」
「・・・・・・・・・・」
サファイアは首を横に振る
「そうか」
ルビーはそう言うと、再び歩き続けた




「龍の息吹!!」
「ッ!!避けろ!!」
突如何者かによる襲撃を受ける
息吹が地を焦がし、四人は四方に散った
「・・・・・・・・・」
「「「行け!!」」」
四人がボールを放る
上空にはチルタリス、ボーマンダ、オオスバメが
「キタカ、コムシメ」
「関わらないほうが良いと言った筈ですが…仕方ないですね」
よく見ると、もうすぐそこは火口
山頂近くのようだ
ルビーが
「マツブサ、アオギリ。あんた達はあの外国男の相手をしてくれ。オレとサファイアで、あのリーダーを叩く」
「了解」「承知した」
二人が応答する
「イクゾ」
「行きますよ…」
「来い!行け!スサノオ!!!」


・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・


ヒュヒュン!ヒュ!ヒュンッヒュン!
「リーフブレード!!」
「フフ・・・火炎放射!!」
ルビー達は、手も足も出せなかった
ドラゴンタイプで上位の強さを誇るボーマンダ
それも、かなりのレベルだ
それに対し、ルビーのポケモンはジュプトル草タイプ
サファイアもまだ進化すらしていないアチャモ
二対一とはいえ、分が悪い
が、それを一転させる出来事が起こる
「なっ!?」
アチャモが光に包まれる
これは―
「進化だな…行くぞ!サファイア!!」
アチャモを包んでいた光が取り払われる
そこに立っていたのは、ワカシャモ
これならまだ、互角に戦える
「もっかい!リーフブレード!!」
ヒュヒュヒュヒュン!!!
スサノオが草の刀を振り上げる
ワカシャモは、右足を炎上させて、一気に飛び掛る
「フン」
ボーマンダは攻撃をまともに受ける
が、男はサファイアに向かってボールを投げつける
それは弧を描いてサファイアの頭上へ
ボールが割れ、現れたのは―
「な!?」
マルマイン
マルマインは、空中でエネルギーを溜め込むと、自爆せんとサファイアに飛び込む
「くそっ!!」
ルビーが光る手を発動させて飛び込む
「ッ…きゃあああぁぁぁっ!!!!!!」
サファイアが悲鳴を上げる
サファイアが声を上げたのは、これが初めてだろう
ルビーの手が今まで以上に光り輝く
そして―








ドゴオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!


マルマインは爆発した
あたりに強烈な爆風が吹き荒れ、マルマインが転がり落ちる
煙が開け、そこからは二人が立っていた
ルビーの右手の包帯は、光る手と爆風の威力によって吹き飛ばされていた
が、光る手が爆風を防いだらしく、二人に傷はない
ルビーの手の光が薄っすらと引いていく
が、第二の爆音が轟いた




ゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオ・・・・!!!


さっきよりも低く、大きな音
男の背後からは、溶岩があふれ出てきた
「なんだと・・・!!」
「・・・!?」
「まだ隕石はここにある!!何故だ!?こんなはずが・・・」
「ハァ!?ンだと!?」
男の右手には、あのときの隕石が握られていた
男はボーマンダに乗って、溶岩から逃れるように空へ飛ぶ
溶岩がルビーとサファイアに迫る
「くそっ!」
ルビーが再び右手に力を集め、迫る溶岩をいなそうとする
が―



「光が・・・・・・・・でない・・・?」

光る手は、現れなかった


第七話へ続く…
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