「うわぁぁっ!!」
第十六話 超進化
ゴウは壁に叩きつけられる
攻撃のときは発生した砂煙の中には―何も無い
ゴウを攻撃しているのは、間違いなくセト
しかし、セトの姿が見えない
目にも止まらぬスピードで移動しているのか、はたまた、別の能力なのか―
「ゴウ!目の前にクロスチョップ!!」
ゴウがやみくもに腕を振る
が、それも虚しく空を切った
ビュン、という音が鳴り響き、そのゴウにさらにセトからの追撃が襲う
無論、姿は見えない
「(・・・・もしかして・・・これがレベルスリー・・・?)」
さっき、水蒸気が出たところを見て、水タイプを持っていることは確かだろう
そして水を蒸気にするには―火が必要だ
セトのレベルスリーは『火・水』
体から出た水分を一気に熱し、体から水蒸気を出す
セトはその水蒸気を自在に操り、光を屈折させることが出来る
それにより―姿が消えている
「(そうだとすれば・・・・)」
シデは、ゴウの元に駆け寄った
そして、ゴウの幾度にも受けた攻撃によって受けたダメージを回復させると、その作戦の旨を伝えた
「出来るかい・・・?」
ゴウはコクンと頷くと、再び立ち上がる
高等な回復薬『すごい傷薬』を用いても、完全には回復し切れていない
傷薬の数にも限界がある、それと同じように―受けてもいい攻撃の数も決まる
いくら回復しても―体力という制限もある
「(恐らくチャンスは三回くらい…その三回のうちに…叩き壊す!!)」
シデはキッとセトがいるはずの方向を見、指示を下した
「ゴウ!レベルスリー!!」
ゴウの足元の地面が、突如割れ砕けた
その亀裂から突風が巻き起こった
その風が渦を巻き、ゴウをまるで繭のように取り囲んだ
すると、その風に向かって大きな衝撃が走った
恐らく、セトの攻撃
が、その風は驚異的な攻撃力を持つはずのセトの攻撃をも弾き返した
「・・・・!!行くよ!!!」
・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
岩壁に強烈な衝撃が走った
『が・・・・・・!!』
「・・・・!!!!!」
衝撃の原因は、イシスと、黒い影
壁に叩きつけられたイシス
そして、イシスの首元には、黒い影の手
その黒い影はイシスの首を絞めている
イシスは苦しそうにもがくと、必死に自分の掌を相手の腹に押し付ける
やっと腹に手が触れた、が―
バリリリリリリリッ!!!
その触れた場所から、強烈な電撃が走った
『ッ・・・!!』
痛みに耐えかね、イシスは腕を引く
『(電・・・・気・・・・・)』
だんだんと意識が遠のいて行く
『レオっ・・・・パルド・・・・・・』
「やから・・・言わんこっちゃ無い・・・!!」
その、『レオパルド』と呼ばれた黒い影は、腕の力を強める
『ぐっ・・・・かァ・・・・ガっ・・・』
イシスの脚の力が弱まってくる
そして遂に、脚が宙釣りとなる
そして―
「っ・・・気絶したか・・・」
レオパルドの腕にかかる力が一気に強まる
腕を引くと、イシスは背中を壁に擦り付けながら崩れ落ちる
目は虚ろに半開きになり、口からは泡が―
「終わり・・・やな・・・」
レオパルドはそう呟き、同じく崩れ落ちた
・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
「今だ!いっけぇぇぇ!!!」
ゴウは大きく飛び上がると、何も無いところに向かってスカイアッパーを放った
が―、横からセトの攻撃が襲い掛かる
風が盾となっているおかげでダメージは無いが、その衝撃により、進路が変わり、スカイアッパーは大振りに終わった
「(今ので壁が崩れた・・・。後・・・二発・・・!!)」
ゴウは風をクッションにして着地すると、横に転がり、立ち上がる
風の壁には、大きな凹みが出来ている
そこは薄くなっているようで、二度も攻撃を喰らえば、たちまち崩壊するだろう
「行くよ・・・!!!ゴウ!!!!」
ゴウは再び大きく跳びあがった
一メートル、二メートル、三メートル
ここまでは順調に上がった、が―
ガィィィィィィ・・・ン・・・
三メートルとちょっと上がったくらいのところで叩き落される
さらに、倒れているゴウにも追撃が―
「あっ・・・・!!」
シデが嘆くような声を出す
風の盾は――崩壊した――
「ッ・・・ゴウ!諦めるなァ!!」
ゴウは再び大きく飛び上がる
一メートル、二メートル、三メートル
やはりそこで、セトの追撃にあう
が―
「正面!カウンター!!」
攻撃を受けた直後、ゴウは空中で身を翻し、攻撃をいなす
そして、見えぬセトに向けて、攻撃を放った
攻撃の感触はあった
確かに感じた右手の痛みの後、すぐ真下の地面が砕け散った
「行っけぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
ゴウはセトを殴った後、そのまま体を一回転させ、天井を殴りつける
洞窟に響く轟音、そしてパラパラと落ちる岩の欠片
天井の岩石には深くヒビが入った
ここは海底洞窟、つまり海水を吸って多少脆くなっているので、ヒビを入れるのは容易なことだ
そして、その開いたヒビから細かい砂が留まることなく降り注いだ
その砂は、シデ、ゴウ、そしてセトに降り注いだ
「そこだぁ!!」
砂をかぶりながらシデが指差した先には、不自然な位置で屈折・停止する砂が
その砂は、少しずつ、セトの姿を模していく
ゴウはセトの姿を捉えると、腕を大きく振り上げ、飛び掛る
予想外の攻撃に、突如降り注ぐ砂
そのゴウの奇襲に、セトは完全に怯んでしまった
「気合ィ・・・パンチ!!!!」
ゴウの振り上げた腕から繰り出される気合たっぷりの攻撃は、完全にセトの腹を捉えた
セトは強烈な攻撃を腹に受け、壁に叩きつけられる
壁はセトの形にぺっこり凹み、砂煙がはれた時、そこにはセトの姿があった
姿を消す効果はもう切れてしまったようだ
「よし・・・良くやった!ゴ・・・・」
ゴウは倒れていた
そのすぐ元には、セトの姿が
「そんなっ!もう立てない筈・・・」
セトはそれを聞くと腕を、自身の衝突によって出来た凹みに向ける
シデはそれに導かれるようにその先を見ると―
やはり壁に叩きつけられたセトが
つまり―――――
セトが二体いる事になる
「なっ・・・えぇ・・・!?」
シデは驚きの声を上げる
セトはそれを見ると、足元に転がっていた石を一つ拾い、もう一体の叩きつけられたほうのセトに投げる
その石はまっすぐセトの細い腕に当たった
「・・・・・・!?」
その石はセトの腕を貫通し、支える部分をなくした当たった位置から先の腕は、ボットリと落ちる
右腕をなくしたもう一方のセトはバランスを失い、ゆっくり横へ倒れた
そのセトはグシャ…と音を立て、バラバラになった
「じゃあ・・・“身代わり=E・・!?」
セトはコクンと頷く
身代わり
それは、相手の攻撃を受ける直前、もしくは相手に隠れて発動する技
自身の身近なものや自分で作り出したもので自分そっくりの人形を作り、それに攻撃を受けさせる
人形を作る際に自分そっくりに似せるため特別な手順を踏む、その時に体力の幾分かを取られるから、次の相手の攻撃の度合いを考えて使う技だ
その身代わりにより、ゴウの攻撃は完全にかわされた
しかも、その後の追撃によってゴウは倒され、シデに戦う術はない
が―――シデの注目点は違った
「どうしてハッサムが身代わりを使えるんですか・・・?」
セト、ことハッサムは、通常では身代わりを覚えない
最近カントーを中心に本来なら覚えられない技を教えるという人物が多数現れている
その技の中に“身代わり≠烽るのだが・・・今回の場合はそうはいかない
そもそもその技は、本来使えるはずのない技
それを見よう見まねで真似し、自分のものとする
が、身代わりはカウンターや捨て身タックルのようにはいかない
身代わりで減少する体力は、およそ体力が満タンの状態の1/4といわれている
技を教えるのは人間
三回までの教えならまだしも、四回目になると命にかかわる
ポケモンの技は一度や二度見て覚えられるものではない
その上、ポケモンの中でかなり上層に位置するセトが、これを使う機会はかなり少ないはず
セトは、その身代わりを瞬時に発動し、急場を凌いだ
この一瞬の芸は、通常で身代わりを覚えるポケモンでもそうそうできやしない
ポケモンキングスダムでもそうだった
本来使えるはずのないハイドロポンプやスカイアッパー
それを難なく使いこなし、勝利を手にした
このハッサム、"セト≠ノは、他にはない特殊な能力がある
「(この勝負は僕の負けだ…どうにかしてこの能力を先に行った人たちに伝えないと…でも…弱点は…?対抗法は…?)」
負けを認めたシデの頭の中で、次々と考えが浮かんでいく
何パターンも、何十パターンも浮かぶ
が、それら全てが、同じ理由で打ち砕かれる
『もしかしたら全ての技を使えるのかもしれない』
この理由、ただ一つが全ての考えを打ち砕く
そうこう考えてるうちに―――――
――――――シデの目の前にはセトの紅い腕が――――
「(あ―――終わった―――――)」
これが走馬灯というのだろうか――――
―――強烈なスピードで迫ってきているはずのセトの腕が急に遅くなる――
―――周りの映像も急に遅く――――
―――与えられた時間の中で、目だけで辺りを見渡す―――
―――そして、視線を前に戻す―――――
ドゴッ・・・
戻したとたん、赤い腕が視線から消える
次に目の前に映ったのは、青い巨体
その巨体はセトをふっとばし、シデの目の前に着地する
その巨体の正体は―――ラグラージだった
「・・・・・!?」
「よぉ〜やく追いついた〜」
後ろから聞こえたのは女性の声
シデはその声に聞き覚えがあった
そのラグラージも――
「ミキさん・・・!」
そこに立っていたのはミキ
このラグラージ、ナミはミキのポケモン
「やっと来てくれましたか・・・」
「ごめんごめん!流石にオーレから飛ばすのは大変でさ!…ってホラ、起きたよ!」
「!!」
セトがゆっくりと立ち上がる
ナミの巨体から繰り出される突進、そして身代わり
もうすでに殆どの体力を失ってもいいはずなのに、息切れすら起こさない
「流石はセト…ってトコかな〜。でも、こっちもそう簡単にはいかないよ〜っと」
ミキはそう言うと、セトを指差しキッと睨み
「勝負よ!セト!!」
そう言い放った――――――直後
「「・・・・・!?」」
突如セトの目の前に、鏡が現れた
第十七話へ続く…
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