細く横に伸びた光は、ふっと光を失った
消えた光からは古びたボロボロの刀がこぼれた
スサノオはそれを左手で受け止めると、ゆっくりと腰に当てる

「刀・・・・・・・・・?」





「これが…真・超進化(マスター・エヴォルト)だ・・・・!!」








真・超進化(マスター・エヴォルト)
エヴォルト状態で伝説のポケモンを倒すと手に入る、エヴォルトの真の姿
エヴォルトの状態で現れていたものは光だが、これは固体
固体である分、光より強度が勝り、言うまでもなくこちらのほうが強い
形状は歴史上の武器、防具、道具の形を模す事が多く、また各自で特殊な能力を持つこともしばしば…
別のポケモンが同じ能力を持つことは無いとされている

そしてこの『刀』もその独自の武器の一つ…



スサノオは右手を刀の柄に当てると、グッと強く握る
そのまま右腕を前に出し、刀身を抜く




ギギギギギギギギィギギィィ・・・



刀身が相当さびているのか、なかなか抜けない
洞窟内に不快な音を響かせ、碧(みどり)にさびた刀を抜いた
元の白金色の面影は微塵もない
全体を碧色の錆でまとった、切れ味の悪そうな、刀


スサノオは左手に握られた鞘を横に放り投げる
カランカランと音を立て、鞘は動きを止める
両手で刀を構えると、切っ先をバシャーモに向けた



「モデル・ソード『草薙の剣』…!!」





草薙の剣(聖剣)
須佐之男命(スサノオノミコト)という神が、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)と云う大蛇を倒したとき、その体中から発見したと云われる刀、これが草薙の剣
後にこの刀はある神社に奉られる事になる
その後、この刀は日本武尊(ヤマトタケル)に渡される
そして、日本武尊が草原で焼き討ちにあった時、この刀は力を発揮することとなる――






「この刀、草薙の剣の力…それは一切の炎攻撃を無効化する力。バシャーモの攻撃を大半を封じ込めるッ…!!!」
「・・・・・・・・・・・火炎ッ・・・放射!!」


バシャーモの口から、強力な炎が発射される
発射された火炎弾は、刀を構えるスサノオにまっすぐ飛んでいく
そのまっすぐな軌道が、仇となる

スサノオはその炎を袈裟状に斬った
その炎は真っ二つになったように見えたが、その直後、炎は刀に吸い取られていった

「ま、見るのは初めてだけど、これほどとはね…」
「ッ・・・・・・・」



火炎放射は炎タイプでも上位の威力を持つ技として知られている
さらに強力な技として、オーバーヒートや大文字があるが、特攻が下がる、当たり難いなど、幾つかのリスクを持っている
それに比べて火炎放射、リスクは一切なく、威力もかなりある
かなり使い勝手のいい技、だが――

草薙の剣で完全にそれは力を失った
バシャーモは炎、格闘タイプの技を得意とする
残る技は、格闘タイプのみ、が――



「スカイアッパー!!」
「かわせ!宿り木の種!!」

腕を使う技は、一瞬腕を引かなければいけない


「二度蹴り!!」
「横に、電光石火!!」

蹴りの威力を高めるためには、蹴る足と逆の脚を使って跳び上がらなければならない
空中で二度の蹴りを繰り出すこの技にとってこれは必然的になる
強い威力で二度蹴るこの技、それに伴ってそれ相応の高さまで跳ばねばならない
つまり、跳ぶ足で思いっきり地を踏まなければならない
脚力の強靭なバシャーモの蹴りは音速
が、一瞬強く踏み込んだ直後に攻撃が来るのは分かっている
それを『電光石火』『高速移動』等の技で回避すれば―



「リーフブレード」



隙なんて簡単に突ける
もちろん、多大な動体視力と経験があってのことだが…
ルビーには、それがある



急激な真横からの攻撃を受けたバシャーモは、崩れ落ちた
バシャーモは、起きる様子を見せない



「戦闘不能・・・な訳ねぇな・・・。だったらお前が倒れてるはずだ」








スサノオも、気を失うように倒れた
「ッ!!!」「動かないでください」

横に立っていたのは、サマヨール、ミキ、シデ
サマヨールことジュジュは、両手をそれぞれスサノオとバシャーモに向けていた
恐らく、催眠術
まだ体力の残っていたバシャーモを眠らせ、倒れたと錯覚させる
そしてスサノオをその隙に眠らせる


「チッ・・・!!!!」
ルビーは懐から小さな木の実を取り出すと、スサノオに向かって駆け出した

「夢喰いで倒すのは容易ですよ。動かないでください」
シデは手を輝かせて言った
スサノオは眠っている
無抵抗の敵を倒すことなんて容易だ

「・・・・・・・・」
ルビーは動きを止めると、木の実もしまった




「ジュジュ、金縛り」
ジュジュはスサノオを動けないように見えない念動力で縛った
今ルビーの手元にはスサノオしかいない


ルビーは、負けた






サファイアが沈黙を破るように話した
「ルビー・・・・・?」
「なんだ」


「どうして…こんな事しようとしたの?」
「・・・・・・・・・・・」


ルビーはサファイア、シデ、ミキの顔を順に見ると、短くこう言った

「ノアの箱舟…」「・・・・?」





「ノアの箱舟…って神話。知ってるか?」
「え・・・?うん、まぁ・・・」









ノアの箱舟
まだ人間が微少しかいなかった時代、悪を働く人が増え始めていた
神はその悪を働く人を殲滅させるため、一部の人間と動物を船に乗せて大洪水を起こす
その洪水は40日にも渡り、悪を働く人間は完全に死滅された




「ノアの箱舟…一旦は悪はなくなったが、その後また悪を行うものが増えてきた。が、それを神はいつまでたっても罰しようとしない。だからオレが…再び大洪水を起こす…!!」


「・・・・・・・・ッ・・・」


ルビーの背後にある祠からだんだんと水があふれ、地を離れていく
その水は徐々にまとまり始める
その形は、まさにカイオーガ















「でも・・・・・・・・それ違うんじゃない・・・・・?」
「・・・・?」

サファイアが口を開いた



「大昔にあった…っていうのは、善人が余りに悪人に対して無勢だったからで…。今は、善人が悪人を助けられる…。善人が悪人を、もっと良い人に正せる…。そう思うんだ」











カイオーガを象った水が、だんだんと液体ではなくなり、カイオーガへとなっていく…








「もうマズイ…ミキさん!サファイアさん!逃げるよ!」
シデが二人の手を引き、元来た道を戻るべく走り出した




「待って!これだけ言わせてっ!!」
数歩進んだところで、サファイアがシデの手を振り解き、ルビーに向けて叫んだ






「どんな悪人も、善人に正せる…。私はっ!この訳わかんない能力の、正しい使い方を教えてもらった!それを私に教えた人は、すぐそこにいる…ルビー君だよ!そのチカラを善に使うには…どうしたら良い…?」





「・・・・・・・・・・・・そうだな」
「!!」





ルビーはそう言うと、ゆっくりと三人に背を向ける

「シデ、俺を追ってきた人は他にいるのか?」
「・・・はい、他に何人も・・・」
「そうか…すぐに逃げるように伝えてくれ。お前らもな」
「・・・!はい」





「ミキ。わざわざオーレから、ありがとう」
「ぇ…どういたしまして・・・」





「サファイア」
「・・・・・・・・・」
「今のオレなら、力の正しい使い方…出来るかもしれない…」
「・・・・・・・・・・・・」

「ありがとう」









「シデ、ミキ、サファイア!行けェ!!!!!」



第十九話へ続く…
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