三人の足音がもうルビーに届かなくなった
その音でもう三人が近くにいないことを確認すると
「さぁ〜てと…」
そう言いながら右手の黒い手袋を外した
黒い手袋の下からは、黒く染まった右手

右手の黒ずみが右腕、肩へと広がっていく


胸へ、腹へ、腰へ、脚へ―
首へ、顎へ、顔へ―



黒ずみがルビーを覆いつくした






「ヴオォォォォオッッッ!!!!!」





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「オォォ!ラァァァ!!!」

ルビーはカイオーガの上へ
そして足元、カイオーガを殴りつけた

ルビーの足に靴を通して伝わっていた感触が不意に無くなった
その感触の元、カイオーガは、そのまま吹っ飛ばされて床に叩きつけられる

足場を失う、つまり落ちる

ルビーは足場を失い、落ちた
が、足元にはカイオーガがある
ルビーの目は、さっとカイオーガに向いた

「ガアアアアアッ!!!!」

その勢いを利用して、さらに殴りつけた
『ドゥェル ジェズマ!!』
(何だ その体は…!!)




ルビーの体は、人間のそれではなかった
全身が真っ黒、黒のあざで覆われている
同じく全身から紅蓮の炎を放ち、その炎を鎧のように身にまとっている
運動能力も人間とはかけ離れている
数メートル上を浮遊するカイオーガに飛び乗る跳躍力
350kgにも達する巨体を吹っ飛ばす腕力
数メートル上空からの落下に耐える強靭な脚
どれも人間のそれをかけ離れている



「ハァ・・・・ハァ・・・」

ルビーの息は上がっていた
紅蓮の炎からのぞける肩も上に行ったり下に行ったり


「(やっぱり、闘争本能がむき出しなって力が制御できない…!むちゃくちゃに戦って勝てる相手じゃない…どうする…!)」
ルビーはそう思うが、自分自身を制御できてはいない
闘争本能だけが沸き起こり、体が言う事を利かない
(体力を温存しないと!)
頭の中ではそう思うが…

ルビーの右手が上がった
そして、再び渾身の力で殴りつけた
が―



「!!?」

カイオーガに叩きつけた右手が離れない
引こうとしても、動かない


『フェズィス グゥォゲス!!』
(小僧がッ!! なめるな!!)

右手は凍り付いている
全く気付かなかったようだ
どうやらこのチカラは痛覚を無くす力があるのか、右手には痛みは無い
逆にこれが仇となった
右腕はどんどん氷に飲まれていく


「ウオォォォオオオッ!!!」
凍りついた右腕から炎が飛び出した
腕に絡みつく氷は徐々に解け、腕も少しずつ抜けてくる
ズシュッと音を立て、水の滴る腕は外れた
その右腕は黒い体表があらわとなり、先ほどまで身を包んでいた炎も、右腕の炎だけが消えていた
「(チカラを使いすぎた…。もう右腕は・・・)」
力を失った右腕は、肩からブラリとぶら下がっていた
それとは対照的に、左腕には力がみなぎり、拳は強く握られている
「(クッ・・・・・・ソォ・・・・!!!)」






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ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・

洞窟内に響くのは、三人のそのあわただしい足音
そして吐息、それだけが異様に澄んで耳に届いた

「へぇ・・・!はぁ・・・シデ君・・・!」
「・・・!なん・・・!ですか・・・?」

「ルビーッ・・・・て・・・!三匹しか・・・!ポケモン持ってない気がするんだけど・・・!」
サファイアがふと思ったこと
もしそうだとすれば、ルビーはポケモン無しで戦ってることになる
「・・・・・!マズイ!!」
大きく地をふみ、後ろを振り向く
かなり酷使した脚にかかる膨大な負担
一瞬よろめくも、ルビーのいる、カイオーガの元へ走り――



「待って!!」
シデの肩と手首にカクンと軽い衝撃が走る
その手を握っているのは、ミキ
「待ってッ・・・!!」

途切れそうな声でシデを引き止める
「何を・・・!」「無理よ!!」


「私も、シデもッ!まともに戦えるポケモンなんて、一匹も残ってない!!」
「けど、行かないと!死んじゃう!!」


常人がポケモンと、そのうえ神とあがめられるポケモンと闘って、勝てるわけが無い
もっともそれは常人なら≠セが、ルビーでもまずは出来ないであろう

シデが何とかして残り僅かなポケモンで援護しようとする
が、それをミキが阻止すべく腕を掴み、引き止める
ミキとしても助けたいのは山々
が、お互いのポケモンはほとんど動けない状態にある
ナミとゴウはほとんど動けなくなるまでやられている
ジュジュも、ゲット仕立てで、しかも呪いで体力はほとんど残っていない
まともに戦える戦力は、ほとんど残っていない


「じゃあ…私が行けば…」
「「!!」」

今は眠っているが、ある一匹を除いて




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ルビーの目の前に氷が広がった
バリバリと音を立て、ルビーを飲み込むべく広がる
その氷の波に飲まれないように横っ飛び
氷はルビーの足元を通過してその先の岩壁をも氷漬けにした
「(恐らく、絶対零度の類…。こんなんじゃ氷漬けにされる前に圧死だな…)」
氷の進行スピードがハンパじゃない
ルビー本人、一度しか絶対零度を見たことが無いから確かなことは言えないが…
その始めてみた絶対零度のスピードより、二倍、三倍は下らない
この勢いだと凍る前に吹っ飛ばされて終わり…
掠る事も許されない

体に少しは避けることも入ってきたみたいだ
さっきも攻撃をやめてまで相手の攻撃を避けた



ルビーはすっと拳を握り、構える
氷がまるで触手のように練り動き、先端が鋭く尖った
そして、その尖った触手は、槍のように―

「(来るっ・・・・!!)・・・・・?」

驚くのも同然、氷を防御するはずの腕の寸前で、氷の進行は止まった
「・・・・・・・・・ッ!!!!?」





後頭部に強い衝撃が走る







フラっと前に倒れこむ






不覚・・・・・







後ろが隙だらけだった―――――






氷の波は自分の真横を通過していた
もちろん氷が出てくるのは前だけではない、後ろも















「いっ・・・・・・てェェェェーーーー!!!!!」


ルビーは頭を抑えて飛び上がった
「一体ナンなんだよ!こンのデカブツ!!!」





「・・・・ルビー・・・君・・・・・?」



最終話へ続く
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