ヨシノ シティ
かわいい はなの かおる まち
<各話の1番最初に飛べます>
1、ポケモンバトル 2、ミドリとフレイム 3、こころ 4、ポケモン図鑑
1、ポケモンバトル
「うわぁ〜きれいな花!!」
「きゅ〜い!!」
春先の6分咲きになった桜を見上げてゴールドは感激の声をあげた。
同じ『くさ』だからだろうか、(桜は『木』だけど)
チコリータの『ミドリ』も頭の葉っぱで嬉しさを表現している。
故郷のワカバタウンを出てから早1日、2人(1人と1匹)は となり街のヨシノシティまで来ていた。
透けるような春の青空の下、ゴールドは ウツギ研究所では見せたことのないくらいの笑顔で はしゃぎまわる。
「きもちいい〜!! こんな天気だと気持ちまで晴れ晴れしちゃうね!!」
「ふーん、よかったじゃねーか。」
「!?」
一瞬、ゴールドはミドリがしゃべったのかと思った。
口悪く、不良になってしまったのかとも。
しかし・・・・
「よう!」
「シ、シルバー・・・・・」
振り向いて見えたのは、ワカバでも見た赤い髪。
突然のシルバーの出現に ゴールドは口が開きっぱなし。
「ここに、お前がいるってことは、なんとかあの博士の説得に 成功したみたいだな。」
あまりにも普通にシルバーが喋るので、ゴールドは返す言葉もなく、ヘラヘラと笑いながらうなずくしかない。
目の前のポケモン泥棒の存在に、どう対処すればいいのか、全く考えもつかなくて。
シルバーはミドリにせがまれ、ウツギ研究所から持ってきたモンスターボールを開けていた。
モンスターボールが赤と白で半分ずつに塗り分けられているように、黒色とクリーム色で半分ずつ色の違うポケモン。
「学名は『ヒノアラシ』、ニックネームは『フレイム』に決まった。」
「フレイム・・・?」
シルバーが盗んだポケモンの名前。
どうしてシルバーは、このポケモンを盗んだのだろう・・・・・
ポケモンを捕まえるなら、この子たちをばらばらにしない方法なら、他にもあったはずなのに・・・・・
「・・で、分かるようになったか? チコリータの言葉・・・・・・」
言葉の意味を理解するまで、パチパチっと目を瞬かせる。
3秒ほどの間を置いて、ゴールドは首を横に振った。
「すぐには無理だよ、『ピーたろう』の言葉が分かるようになるのだって、1年くらいかかったんだから・・・・」
「『ピーたろう』・・・あのウツギ研究所のときのでっかいポケモンか?」
ゴールドはうなずく。
上着のすそに取り付けられているモンスターボールホルダーから1つ、ボールを取り外すと、それを顔の横に掲げた。
シルバーはそれを見て、ふ〜ん、と鼻を鳴らす。
「・・・なあ、ポケモンバトルしないか?」
突然のシルバーの提案にゴールドは眼をぱちくりさせた。
「フレイムとチコリータで1対1のバトル、気分転換になるんじゃないか?」
ゴールドの複雑気分をシルバーは見抜いているようだ。
悪戯っぽい瞳でゴールドを見つめている。
「で、でも、ぼく、ミドリとポケモンバトルなんて・・・・・・!!」
「それは おれも同じだ。 フレイムは今の今まで戦わせていない。
条件はほぼ一緒、あの小さな町から脱出したことを記念して、どうだ?
もちろん、『ポケモンの気分が乗れば』、の話だけどな。」
また少し、困ったような顔をすると、ゴールドはうなずいた。
チコリータのミドリ、ヒノアラシのフレイムに話をつけるために、桜の木の下へと走り出す。
2、ミドリとフレイム
桜の木の下で遊んでいたチコリータのミドリとヒノアラシのフレイムは
ポケモンバトルをしようというこの誘いに快くうなずいた。
「決まりだな、やろうぜ、ポケモンバトル!!」
「・・・・・うん!!」
2人は5メートルくらい離れて戦いの構えをとった。
「言っとくけど、こっちの方が相性いいんだからな!!
全力でかかってこいよ!!」
シルバーがそう言うとフレイムの背中から炎が吹き出した。
オーバーリアクションでゴールドは反応する。
「うわっ、火が出てきた!?」
「そう、フレイムは『ほのお』タイプ!!
チコリータは・・・・」
「『くさ』タイプ、でしょ? 頭に葉っぱつけてるからわかるよ。
それに、この子は『ミドリ』って名前なんだからね、間違えないで!!」
「はいはい、分かったよ。 じゃ、始めるぞ!!」
桜の咲いているのどかな風景に似合わず、緊迫した空気が2人の間には流れていた。
川の水が跳ねたのを皮切りに、それまで静かだった桜並木に子供の声が響く。
「いけっ フレイム!!」
「ミドリ、がんばれ!!」
先に『たいあたり』で攻撃したのはミドリだった。
しかし、その程度ではヒノアラシもひるまない、逆に背中から燃え上がった炎の勢いが強まっていく。
「フレイム、背中の炎で攻撃するんだ!!」
「いっ!? 下がってミドリ!!」
フレイムの背中の炎が強まってきたので、ゴールドはミドリをフレイムに近づけるわけにはいかない。
ふっと小さく息を吐くと、ゴールドは考え始める。
(どうしよう・・・・・・フレイムの炎をが当たったらミドリはやられちゃう・・・・
・・・かといって、攻撃する手段もないのに、遠距離戦にするわけにも・・・・)
立ち止まって考え込んでいるゴールドを見てシルバーはにやりと笑った。
「どうした、もう策が尽きたのか?」
「うっ・・・・・」
ゴールドは わかりやすく動揺する。
(どうする・・・・・・・どうする!?)
いつもの100倍くらい頭を使っていたのだろうか、ゴールドの頭の中はざわめきだした。
その間にも、フレイムの猛攻は続く。
「フレイム、『ひのこ』!!」
「よけて!! ミドリ!!」
最初の勢いはどこへやら、ゴールドはすっかり防戦一方となる。
(頭の中・・・・・うるさいな・・・・・)
「まだまだ、フレイム、『たいあたり』!!」
「ミ・・・・・ドリ、『なきご・・・・・・」
頭の中のざわめきはゴールドの思考を止めそうになるまで大きくなっていた。
次の瞬間、ミドリが背後へと飛んでいくのが見える。
「ミドリッ!! ・・・・・・くっ・・・・・」
頭の騒音でゴールドはたまらず片ひざをついた。
(・・・・・・ミドリ・・・・)
薄れていく意識の中でも、ゴールドはバトルのことだけを気にする。
(・・・・ぼくたち、負けちゃったのかな?
情けないな、タイプの不利をどうにかすることも出来ないなんて・・・・)
頭のざわめきはいつの間にか消えていた。
一瞬前の大騒音とは打って変わってゴールドの心は穏やかだった。
3、こころ
「・・・・・・キュウ!!!」
耳に飛び込んできた高い鳴き声で ゴールドは我に返る。
「ミドリ・・・・・・!?」
負けたと思っていたバトルはまだ続いていた。
立ちあがっているミドリの次にゴールドの視界に入って来たのは、心配そうにゴールドのことを見つめているシルバー。
「大丈夫か、ゴールド!?」
「うん、ぼくは大丈夫、ミドリは・・・戦えそう?」
ミドリは返事の代わりにゴールドの前に立った。
ゴールドはそれを見ると、さっきまでは見せなかった 自信たっぷりの笑顔でうなずいた。
目の前に広がっているのはとても静かな世界だった。
(大丈夫、戦える・・・・・)
限りなく無音に近い世界で、鼓動だけが聞こえてくるようだった。
ゴールドは立ちあがった。
「最後まで絶対あきらめない、いくよ、ミドリ!!」
迷いはなかった、ゴールドは子供特有の柔らかい指を前に突き出すと、
「先制だ! ミドリ、『やどりぎのたね』!!」
『やどりぎのたね』は、本来チコリータが覚えるはずのない技。
しかしミドリはぐるんと頭の葉を大きく回転させると、無数の種をフレイムに向けて放った。
ゴールドの中の変化にシルバーは気付いたのだろうか、眉がぴくっと動いた。
「フレイム、『ひのこ』で焼き払え!!」
シルバーがそう指示するとフレイムは背中から幾つかの炎の欠片を飛ばし、向かってくる『たね』に対抗する。
「・・・・どうした、せっかくの『やどりぎのたね』もフレイムには当たってないじゃないか?」
ミドリの放った『たね』は半数近くが焼かれ、残りは地面に転がっていた。
成す術もなく、ミドリはフレイムをキッと睨んだまま立ち止まっている。
「その程度でネタ切れなのか? そんなことじゃこの先・・・・・・・」
そう言ってシルバーとフレイムが1歩踏み出した瞬間、
「ミドリ、今だ!!」
ひざの辺りで遊ばせていた手を ゴールドがすばやく上げた。
次の瞬間、地面から硬い檻のようなものが生えてくる。
地面に残っていた『やどりぎ』、一瞬にしてフレイムはがんじがらめにされる。
それから3秒後には、ミドリの大きな葉っぱの先がフレイムの喉元に突き出されていた。
「・・・・・・へへっ、シルバーから一本取っちゃった!!」
シルバーはその銀色の眼がはっきり見えるくらい仰天していた。
・・・なにより、ゴールドのバトルに関する才能に。
ゴールドが屈託(くったく)ない表情で微笑むと、シルバーも落ち着きを取り戻したようだった。
ミドリがフレイムに巻き付いていた草を取り払うと、2人はお互いに笑顔で握手した。
周りから拍手と歓声があがって、ゴールドはようやく自分たちのバトルにギャラリーが出来ている事を知った。
「・・・・・みんな見てたの? なんだか恥ずかしいな・・・・・」
「今の今まで気付いてなかったのかよ、・・・ったく、ある意味大物だな・・・・・・」
シルバーがそう言ってまた笑った。
「あっ、やっと笑った!! よかった、全然笑わないのかと思ってた!!」
「え?」
ゴールドは戸惑うことなくシルバーの顔を見つめ、にっこりと笑う。
シルバーは顔を赤らめてぷいっとそっぽを向いた。
どうやらシルバー、『ともだち』を作るのは苦手なようで・・・・・・・・
4、ポケモン図鑑
2人の戦いを見ていたギャラリーの中に白髪の老人が混ざっていた。
名前はオーキド、3年前にポケモンに関する研究で 一躍(いちやく)有名人になった人物である。
彼は、戦いを見終わって気分揚々と引き揚げていくギャラリーをかきわけ、
その場の『主役』である2人に近づいていった。
「ふわぁ〜!! 楽しかった!!
バトルがこんなに楽しいなんて知らなかったよ!!」
満面の笑みを浮かべているゴールドを見て、シルバーも笑っている。
しかし、自分たちに近づいてくる人物を見るとその表情は一変した。
シルバーの銀色の瞳は冷たい光を放ち、近づいてきた老人に向けられる。
「どしたの? シルバー、顔が怖いよ?」
能天気な表情で質問を投げかけてくるゴールドを守るように、シルバーはゴールドと老人の間に立ちふさがった。
「何の用だ?」
冷たく言い放った言葉にもオーキド博士は動じない。
「今の戦いを見ておったんじゃよ、すばらしい戦いだったのう!!」
「用件はそれだけか? だったら・・・・・」
「いやいや、それだけではない、2人に、これを渡そうかと思っての。」
オーキド博士はそう言って、懐(ふところ)から赤い箱状のものを取り出した。
「あれぇ〜? おじいさん、どっかで聞いたことある声だね。」
ぴりぴりした緊張感をまるっきり無視したセリフをゴールドが放った。
警戒を解かずに、シルバーが背中越しに聞いてくる。
「ゴールド、知り合いか?」
「ううん、知らない人なんだけど・・・・・
え〜っと・・・・・ふん〜ふふふ・・・」
ゴールドが歌いだした鼻歌で緊張した空気はますます緩んで(ゆるんで)いく。
しばらくすると、ぽんっ、と手を叩いてゴールドは博士を指差した。
「ああーっ、思い出した!! 『オーキド博士のポケモン講座』!!
・・・・・・ってことはおじいさん、もしかして・・・・」
オーキド博士はうなずいた。
「クルミさん!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
どこからそんな発想が出てくるのだろう、可愛らしい声を売りにしている
女の子DJ、クルミと目の前の老人を取り違えるなんて・・・
「オーキドじゃ。」
それ以上はオーキド博士には言えなかった。
「・・・・・・・で、だから、何の用だっての。」
「だから、このポケモン図鑑を渡そうと・・・・・・・・」
調子を狂わすゴールドの言動でシルバーとオーキド博士は脱力していった。
ゴールドは迷いも無くオーキド博士から赤い箱状のものを受け取ると、それを天にかざしながら、
「うわあ〜、かっこいい!!」
『ポケモン図鑑』と呼ばれるそれはモンスターボールを象った(かたどった)表紙、
その表紙が縦と横に割れて中から液晶画面のようなものが顔をのぞかせていた。
子供のように(2人とも子供だが)はしゃいでいるゴールドを尻目に、シルバーは疑いの目をオーキド博士に向けている。
「お偉い博士が どうしてこんな何処(どこ)にでもいるようなガキ2人に、大事な研究道具を渡すんだ?」
「これを何に使うものか、お前さんは分かっておるようじゃな。」
シルバーの後ろではゴールドが ポケモン図鑑のふたを ぱこぱこ開けたり閉めたりしていた。
「収集したポケモンの生態系等のデータを記録する機械・・・」
「そうじゃ、それだけ分かっていれば充分じゃろ、お前さんたちにポケモン収集を引き受けてほしい。」
「ありがとー!! オーキド博士!!」
ゴールドがまた、緊張した空間をぶち壊した。
「ゴールド!! 分かっているのか!?
このじじいはおれたちにポケモンを捕まえに行けって言ってんだぞ!!」
「え〜!?捕まえたポケモン、取られちゃうの?」
「いや、わしに渡さなくても そのポケモン図鑑が記録するから大丈夫じゃよ。
君等はポケモンを捕まえてくれるだけでいい。」
「じゃあ、一石二鳥じゃん!! 『ともだち』は多い方がいいもん!!」
シルバーはそれ以上言い返すことができなかった。
ゴールドのはしゃぎようが、尋常(じんじょう)ではなかったから、『ともだち』をどれだけ待ち望んでいたか、知っていたから。
「君らは、ポケモンを始めてどのくらいかね?」
不意にオーキド博士からそんな質問が飛び出した。
「えっと、3日前・・・・かな? ミドリに会ったのは・・・・・・」
オーキド博士はそれを聞くとやさしく微笑んだ。
「それだけの時間しか経っていないのに 君たちのポケモンは良くなついているじゃないか、
立派な『才能』じゃよ、大丈夫、君たちならやれるじゃろ、お願いするよ。」
ゴールドはそれを聞くと少し照れたように赤くなって大きくうなずいた。
「それじゃ、行こっか、ミドリ!!
ばいばい!!オーキド博士!! 図鑑ありがとう!!」
まだオーキド博士のことを信用しきれていないシルバーに引きずられ、
ゴールドはオーキド博士に別れを告げた。
(そう、ポケモンと仲良くなれるのも立派な才能じゃ。
思えば、レッドもそんなやつじゃったのう・・・・・・)
そうして2人は歩き出した。
今は未だ(まだ)、何処へ行く当てもない壮大(そうだい)な旅へ・・・・・・・・
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