幕間劇、31番道路




「ねぇ、待ってよ、シルバー!!」
ゴールドはどんどん遠ざかっていく背中へと向かって悲しそうに声をあげた。
ヨシノシティと次の街をつなぐ道、31番道路に入った途端、シルバーは歩くスピードを上げ、どんどん進んでしまう。
走るスピードには自信のあるゴールドが追いつくのに必死になっている、これは不安で仕方ない。
とうとう、シルバーの姿を探せなくなってしまう。
右を見ても、左を見ても。



「・・・どぉしよう・・・・・・はぐれちゃった・・・・・・」
べそをかきかき、ゴールドはポケモンギアで地図を確認する。
迷いようのないほどの1本道、どうしてそんな場所でシルバーとはぐれたのか、考えても思いつく節もない。
とにかく、次の街へと向かって歩き出す。 もともと1人旅、『立ち止まる』なんていう選択肢はない。
「どこなんだよぉ・・・シルバー・・・・・・・」
歩く、とにかく歩く、泣いてても歩く、チコリータのミドリを連れて歩く。
「・・・・・・シルバー・・・」
早足で歩く、日が暮れる前に歩く。

「・・・シルバー?」
ゴールドの涙と足が ぴたりと止まる。
頭にかぶったモンスターボールのロゴ入りのキャップをぽんぽん、と押さえ、首をひねって考え込む。
「きゅ?」
「ねぇ・・・ぼく、シルバーに名前教えたっけ?」
「きゅう?」
ミドリは頭の葉っぱをくるくると回すと、首を横に振った。
それをパチパチと瞬きしながら見ると、「あれ?」とゴールドはもう1度首をかしげた。
「・・・シルバー、ぼくのこと『ゴールド』って・・・・・・確かに、そう呼んだよね・・・?」

しばらく空をあおいだ後、ミドリはきゅっきゅ、と首を縦に振った。
「・・・だよねぇ・・・・・・どうしてだろ?
 名前って教えてくれないと呼べないよね?」
「きゅう・・・・・・」
ミドリは困ったような視線を送りながら 首を横に振る。
ため息1つついて、ゴールドはまた、街へと向かって歩き出した。
途端、背後の草むらが がさがさと音を立て始める。



「?」
ゴールドとミドリは 同時に後ろに振り返った。
慌てて『がさがさ』は草むらへと引っ込むが、隠れかたが下手で、水晶のような球がついた尻尾が葉と葉の間から飛び出している。
「・・・・・・メリー?」
しゃがみ込むと、ゴールドは『がさがさ』へと向かって話し掛ける。
『がさがさ』は茂みのなかで体を動かして がさがさと音を立てると、恐る恐るゴールドたちの方へと顔を向ける。
ふわふわした体毛につぶらな瞳、ひつじのようなポケモンへ ゴールドはもらったばかりの『ポケモン図鑑』を向けた。
ピピッと電子音が鳴り響き、液晶画面にポケモンの写真が掲載される。

『メリープ わたげポケモン
 体に静電気がたまると、体毛がいつもの2倍ほどにふくらむ。 触るとしびれる。』

「・・・メリーじゃなかったね、間違えてごめん。
 ひとつ聞いてもいいかな、ここを、赤い髪した、黒い服の男の子、通らなかった?
 ぼくと同じくらいの大きさの・・・」
ゴールドはその場に座り込むと、『得意技』で まるで良く会う友達と話すかのようにメリープへと話し掛ける。
先ほどまで べそをかいていた少年はどこへやら、彼はすっかりご機嫌を取り戻し、にこにこと笑っている。
「めぇ、めぇ〜?」
「そうそう、目が銀色に光ってる男の子。」
「めへぇ〜。」
力の抜ける鳴き声を出すと、メリープはのそのそ歩き出す。
にこっと、太陽みたいに笑うと ゴールドはその後をついて歩きだした。
立ちすくしているミドリに にこりと笑いかける。

「ミ〜ドリッ、あの子が案内してくれるって!!」
きょとん、とミドリは目を瞬かせる、メリープの後をちょこちょことついて行く自分の主人を追いかけていく、少々不安そうな顔をして。





辺りをうろつく いじわるビードルをちょいちょいとかわすと、ゴールドは上がりやすいところを選んで段差を登った。
登りに苦労しているミドリとメリープを手伝うと、落ちないような広い場所を見つけ、一息つく。
「・・・・・・分からないことだらけだなぁ・・・」
「きゅ?」
空のはるか高くを見つめ、ゴールドはぽそりとつぶやいた。
そっと吐かれる息に合わせるように、風で木の葉がさらさらと揺れる。
ゆっくりと、視線を降ろすと、それまで自分が歩いてきた地面を見つめながら、軽く、指先で地面をけずった。
「おまじないでもあったらなぁ・・・・・・・・・なんて、言ってられないね。
 うん、友達になりたい、ぼく、シルバーと友達になりたい、聞きに行こうよ、ミドリ!!」
ミドリの宝石のような瞳と目が合い、ゴールドは立ち上がった。
次の街へのゲートは すぐそばにある、ゆっくりと歩きだし、ゴールドは後ろを振り返った。


「一緒に行こうか、君とも友達になりたいな。
 ・・・・・・・・・・・・モコモコ!」
メリープはゴールドの顔を見上げると、何だか顔を輝かせてうなずいた。
ゴールドは笑う、ちょっぴり嬉しそうに笑う。
「体の毛がもこもこしてるから、モコモコ、今日から君はメリープのモコモコ、いいよね?」
話を聞いているのかいないのか、ゴールドを差し置いてモコモコはゲートへと向かって走り出した。
バチン、と音が鳴り、詰所から悲鳴が聞こえたのは すぐ後のこと。
張りきり過ぎの新しい友達に、ゴールドはため息をついて、また、笑った。


<次の街へ>

<目次に戻る>