<各話の1番最初に飛べます> 4、キキョウジム 5、13時30分 6、攻防戦


4、キキョウジム




朝、ポケモンセンターで目覚めたゴールドの枕下に 奇妙な封筒が置いてあった。
奇怪も奇怪、全部原色の青色の封筒なんて、見たことも聞いたこともない。
封筒の表には白い文字(修正液かもしれない)の丁寧な文字で、あて先が書かれている。

『to・GOLD(ゴールドへ)』

「・・・・・・なんだろ、用があるなら 何もこんな手紙置かなくても
 ぼくを 起こして直接話せばいいのに・・・・・」
ゴールドはぶつぶつ言いながら 自分宛の封筒を開いた。
途端、もっと変な顔をする。

『おまえの実力が知りたい。
 本日12:30、 キキョウジム正面入り口まで来られたし。
                          3人目のトレーナー』

「な、なんだこりゃ?」
初めてもらった『怪文書』に ゴールドはどうすれば良いか分からなくなっていた。
これで冷静でいられる人間がいれば、顔を拝んでみたいものだが。

(受け取るべきか、無視するべきか・・・・・)







12:25
ゴールドはキキョウジムの前まで足を運んでいた。
バトルが始まるのを予想し、ミドリと、新しく入ったメリープのモコモコの体調を整えて。
「一体、何が起こるっていうんだろう・・・・・・」
ゴールドの顔には緊張がはしっていた。

12:30
「時間だ・・・・」
いつのまにか出来ていた人だかりの中でゴールドはポケギアに目をやった。
手紙に書いてあった時間から、5秒、6秒と時間は進んでいく。
辺りのピリピリした空気を肌で感じ、ゴールドは服についているモンスターボールに手を当てる。

「君もポケモントレーナー?」
「えっ? あ、はい・・・」
一瞬、ビクッと体を震わせ、ゴールドは声のした方へと振り向いた。
話しかけてきたのは、『挑戦者』にはとても見えない、いかにも『受付のお姉さん』らしい人。
とてもバトルどころではない状況、ゴールドは大きな目を瞬かせた。
長い髪の『受付のお姉さん』は、ニコニコしながらゴールドのことを見つめる。


「名前は?」
「ゴ、ゴールド、です。」
「年齢、出身地。」
「え、10歳で、ワカバタウン出身ですけど・・・・」
「はいっ、じゃあ君は25番!!
 このバッジ、無くさないようにね!!」
「へ?」

唐突(とうとつ)にバッジを渡されて 訳の分からないまま ゴールドはキキョウジムの中まで案内される。
人を待っているから、とその場にい続けようとしたのだが、勢いに押されて叶わない。
大勢の人間が集まっているベンチへと 無理矢理押し付けられると、『受付のお姉さん』はにっこりと笑った。
「それじゃ、順番が回ってくるまでは試合を見てて構いませんから、
 がんばって 勝っちゃってくださいね!!」
そう言うと『受付のお姉さん』は、風のように入り口まで舞い戻る。
呆然としているゴールドが ふと、自分が渡されたバッジに目をやると、

『ジムリーダーに挑戦! 挑戦者控え25番』

「・・・えっ!?」
その後10分間、ゴールドは動くことが出来なかった。
わぁわぁと鳴り響く人の声、薄暗い照明が広いホールの真ん中に集中される。
まるで耳に入らない男の声が響き、戦いのゴングが鳴った。


5、13時30分




『25番、ワカバタウン出身、ゴールド!!』

会場から大きな歓声があがり、観客席で硬直していたゴールドは思わず身震いした。
誰かが、ゴールドの名札を見て、席から立たせたものだから、引き返す事は許されない。
「あ・・・う・・・」
「腹くくって戦ってこい、ここまで来たらやるしかない・・・だろ?」
背後から聞き覚えのある声がし、歯鳴りが止まる。
ゴールドが辺りを見まわしたときには、想像した人物の姿はなくなっていた。
今にも泣きそうな顔をしてキョロキョロしていると、誰かに背を押され、ステージの上へと上げられる。
おどおどした動作に どっと笑い声が上がる。 ゴールドは唾(つばき)を飲み込むと、相手の顔をじっと見据えた。

(やるしかない・・・・・・・か。)

ゴールドは眉を少しつりあげてモンスターボールを構える。


『始めっ!!』

スピーカーの合図で ゴールドは持っているモンスターボールを放り投げた。
何せ、ロクに戦うこともしないので動作があまりにもお粗末(おそまつ)だが。
「がんばって、モコモコ!!」
ゴールドが出したのは わたげポケモン、メリープのモコモコ。
ふわふわした綿毛を揺らしながら、やはり戦いには不慣れな様子でステージ中央へと進む。
ポケモンバトルなら相手が要る(いる)、戦う相手を探し、1人と2匹はステージの上に目を配った。
「・・・・・・もう1人は・・・?」
「さぁ、どこだと思う?」
ジムリーダー、ハヤトは笑みすら浮かべながら、ゴールドへと謎かけをする。
パチン、と真っ黒な目を瞬かせると、ゴールドは照明すれすれのところまで視線を上昇させる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・上っ・・・・・・!
 モコモコ、『でんきショック』!!」
ステージの上をパタパタと飛び回っていた ことりポケモン、ポッポに小さな雷が当たる。
その一撃でポッポの翼は麻痺してしまったらしく、ふらふらと地面に落ちてきた。
「あれっ?」
あまりにもあっけなく1匹目を倒してしまったので、ゴールドは目をぱちくりさせる。
どうやら飛行ポケモンが電気に弱いことを 理解していなかったらしい。



「電気ポケモンか・・・セオリー通りに攻撃してきたわけか。」
「・・・え?」
ジムリーダーが ことりポケモンポッポへ手のひらを向ける。
すぐに 手のひらのなかに赤いモンスターボールが飛び込んでくる、何も判らない様子で目を瞬いたゴールドを見て、自信のありそうな笑いを浮かべた。
「鳥は、儚い(はかない)ものだ。
 大空を飛びまわっていても、ひとたび空が機嫌を損ねれば、雷に打たれて死んでしまう。
 しかし、どれだけ恐ろしいものを目にしようとも、鳥たちは空にあこがれ、また空へと飛び立っていく。
 その姿を見ていると、俺は極めようと思うんだよ、鳥ポケモン使いの頂点を!!」


ハヤトは2つ目・・・最後のモンスターボールを空へと投げる。
ボールは空中で2つに開き、立派なとさかを持った茶色の鳥ポケモンを呼び出した。
「・・・ピジョン!?」
「知っていたか・・・・・・行け、ピジョン、俺たちの戦いを見せるんだ!!」
2つ目のモンスターボールの中から出てきたのはポッポの進化系、ピジョン。
飛んでいること自体に文句を言いたくなるほど、素早く、そして細かく動きまわり、モコモコを翻弄(ほんろう)する。
「・・・・・・まずいかな、戦いが長引いたら あの鋭いつめが襲ってくるかもしれない・・・
 よし、モコモコ、もう1度『でんきショック』!!」

モコモコの放った『でんきショック』はピジョンに命中したが、
ピジョンは間一髪のところでクリーンヒットを避け、モコモコに向かって突っ込んできた。
鷹(タカ)のようなハヤトの目が ピジョンとモコモコの動きを追う。
「やはりそう来るか、ピジョン、『どろかけ』だ!!」
ハヤトがそう指示すると、ピジョンは地面の泥を舞い上げ、モコモコにぶつけてくる。
モコモコのご自慢の 柔らかい綿毛はあっという間に泥だらけになっていた。

(あれじゃ、泥に吸い取られて『でんきショック』が出せない!!)

「くっ!! モコモコ、『なきごえ』!!」
「メェ〜!!」
可愛らしく鳴いたモコモコにピジョンは一瞬ひるんだが、それでも攻撃の手が休まることはない。

「モコモコッ!?」
2発目の『どろかけ』が眉間(みけん)に当たったモコモコは その場で崩れ込むように倒れる。
ゴールドが指示するとモコモコはモンスターボールに入って、ゴールドの手に飛び込んだ。
それまでモコモコの倒れていた場所には 茶色い泥がたくさん残る。

(なんだろ、この感じ。
 ・・・・・・負けたくない、絶対負けたくない!!)

ゴールドの胸はひとりでに高鳴っていた。
服のホルダーからモンスターボールを手に取ると、大きく、大きく深呼吸する。
「いくよ・・・・・・・」
ゴールドは 2つ目のモンスターボールを投げる。
中から出てきたポケモンに、会場はどよめいた。


『おい、あれって、どう見たって草ポケモン・・・・・・』

『あの子、タイプとか分かってやってるの!?』


そう、ゴールドが出したのは飛行系には相性の悪い、『草』タイプ。
チコリータのミドリだった。
ゴールドは 自信を持った瞳でピジョンを指差す。

「勝ちに行くよ、ミドリ!!」


6、攻防戦




「・・・ゴールドと言ったな、
 おまえ、さっき 私がタイプのことを言ったからと、わざわざ対抗しているつもりなのか?」
ジムリーダーのハヤトは 挑戦的とも取れるゴールドのポケモンの選択に動揺を隠し切れなかった。
こめかみから流れる冷や汗を隠し切れていない。
一方のゴールドは 実に落ちついた顔をしていて、どちらが挑戦者なのかも分からなくなってきている。
「そういう訳じゃないよ、そのピジョンに勝とうとしたら、
 ミドリで行くのが1番いいと思っただけ。」
ハヤトの問いにゴールドはあっけらかんと答える。
顔からは、笑顔さえ浮かび始めていた。
それが相手を余計に刺激しているということを、判っているのかいないのか・・・



「どういう選択かは知らんが、その選択が命取りになる事を思い知るがいい!!
 ピジョン、『つばさでうつ』!!」
ピジョンの一撃をぎりぎりのところでかわしたミドリを見て、ゴールドは にっ と笑った。
バトル場のミドリに判るように、『とにかく逃げろ』という指示を出す。

「どうした、逃げるだけではピジョンとは戦えないぞ?」
「・・・そーだね、それじゃミドリ、『はっぱカッター』!!」
頭についた『はっぱ』を一振りして、ミドリはかなり離れたところから攻撃を仕掛けた。
それだけ距離があれば、ピジョンも軽々とかわすことができる、
ハヤトはそれを見て呆れたように笑うと、2発目の『つばさでうつ』の指示を出した。
ピジョンとチコリータでは あきらかにピジョンの方がスピードは速い。
今度は避け切れず、ミドリは硬い翼に弾かれて地面をバウンドした。
「いったぁ・・・・・・」
自分が攻撃を受けたわけでもないのに、ゴールドはミドリが攻撃を受けたのと同じ場所を抱え、つらそうな顔をする。
子供のけんかのように、うらめしそうな目で睨みつけると、まっすぐにピジョンのことを指差した。

「怒ったぞ!! ミドリ、やっちゃえ!!」
「『怒ったぞ』?『やっちゃえ』? ちょっと待って、それはトレーナーの指示か?」
複雑な顔をするハヤトをよそに、ゴールドはいたって真面目がおで、ミドリは真剣にピジョンへと突っ込んで行く。
普通、そんなことをしたって返り討ちにあうに決まっている。
ちょっと困ったような顔をしながら迎え討とうとしたとき、ピジョンの体がぐらりと右へかたむいた。
次の瞬間、ピジョンは地面に向かって急降下する。
いや、墜落したと言うべきか・・・・・・
「な、何が・・・!?」
ハヤトはピジョンへと目がくぎ付けになる。 大きく目を見開いて、息づかいが何だか荒い。
ピジョンの右の翼には、大きく丸い植物が植え付けられていた、それが足かせとなり、いばらのトゲとなり、ピジョンの動きを封じている。


「補助技、『やどりぎのたね』。
 さっき攻撃をかわしたときに 翼に仕掛けたんだよ。」
子供のような顔で、ゴールドは笑う。
ピジョンは成長した『やどりぎ』の重みで身動きが取れなくなっていた。
バタバタと翼を動かして抵抗するが、もともと空を飛ぶために軽くなった体、重い『やどりぎ』にはかなわない。
「くっ、ピジョン、『かぜおこし』!!」
ピジョンが起こした風は カマイタチを引きおこし、ミドリの体を切り裂いたが、ミドリは構わずピジョンとの距離を詰めていった。
汗など出るはずがないのに、ピジョンの頭から汗がたらたらと流れる。
「・・・・・・チェックメイト!!」
ミドリの頭の葉っぱが、ピジョンの首元すれすれの所に当てられて、
ゴールドのジム戦に決着がついた。


会場が しんと静まりかえる。
バトル場でなにが起こったのかも判断がつかないのか、何かをささやくような声がひそひそと聞こえてきた。
そのうちに、小さく1人が手を叩き始めると、連鎖を起こすように別の誰かが手を叩き始める。
「・・・・・・・・・え・・・・・・え・・・?」
辺りから巻き起こる拍手に ゴールドはあっという間に顔を赤くした。
耳まで赤くなって、泣きそうな顔になっているのを察知し、ミドリが足元まで駆け寄る。





「おめでとう。」
声が振りかかってきて、ゴールドは顔を上げた。
今まで睨むようにゴールドとミドリのことを見ていたハヤトが にこやかに笑い、他の観客たちと同じように手を叩いている。
「ジム戦突破、おめでとう。」
「あ、ありがとうございます・・・・・・」
ハヤトは目をパチパチさせているゴールドの手に 銀色に輝く小さなものを握らせた。
親指ほどの大きさの『それ』は、冷たいような暖かいような、不思議な光を放っている。

「あの・・・なんですか、これ?」
ハヤトの笑顔が凍りついた。
「いや、ジムバッジ・・・これを取るために挑戦しに来たんだろ?」
「いいえ、キキョウシティジム前で 人と待ち合わせしていたら、受付の人に間違えられちゃったんですけど・・・?」

ゴールドは『ジムリーダーに勝ったらバッジを受け取れる』という 
ポケモントレーナーなら誰でも知っているような、ポケモンリーグのシステムすら分かっていない。
その為、ハヤトはバッジを渡す場面になって
この初心者トレーナーにそういったルールを教えなくてはならなかった。




「へえ〜、ウイングバッジか・・・・・・きれいだね、ミドリ!!」
疲れきった顔をしているジムトレーナーをよそに、上機嫌でゴールドたちはくつろいでいた。
ジムの勤めが終わって、汗を拭きながらハヤトが控え室に戻ってくる。
「やあ、ゴールドと言ったな。
 君はこの先どうするつもりなんだ?」
「この先・・・・・・あんまり考えてなかったな・・・・・
 ぼく、ある人物を追ってるんです、とにかくその人を追っかけます、でも・・・・・・・」

「でも?」
ゴールドは目一杯微笑んで、
「バトルしてるとき、みんないい顔してたんです!!
 ぼくも、ミドリも、モコモコも、他の人たちも・・・・・
 だから、機会があったらまたこういうこと、やりたいなって思います!!」


「そうか、それならこの先 いろんな町に ポケモンジムがあるから、そこで腕試しをするといい。
 俺は 最強の鳥使いになるため、ポケモンと 己を鍛えるよ!」
「はいっ!!」
そう言ったゴールドの表情からは
さっきまでジムリーダーをやり込めていたような あの強気な顔は消えていた。


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