[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。


<各話の1番最初に飛べます>
10、ヒワダジム 11、進化の光


10、ヒワダジム




「ぼくは、ワカバタウンの ゴールドです!! バトルしてください!!」
ゴールドがヒワダジムでバトルできるほど回復するのに、10数日の時間が必要だった。
ヤドンの井戸で受けた傷が、なかなか回復しなかったからだ。
もっとも、退院できるようになるまでは、シルバーが毎日のようにお見舞いに来てくれたので、それはそれでゴールドは嬉しかった。
どうやらシルバーは、ゴールドが怪我したことを自分の責任だと感じているらしい。
笑顔の絶えなかった10数日、その日々に別れを告げ、しっかりと2本の足を踏みしめて目の前のジムリーダーへと向かって行く。



「こんにちは、ヤドンの井戸のこと、本当に感謝しています。
 でも、だからと言って バトルで手加減するような事はしませんよ!!」
ヒワダジムのジムリーダー、ツクシと言う名の少年はゴールドよりも年下。
見ようによっては女の子に見えてしまうほど、幼い顔立ち、だが大人びた仕草がゴールドよりも年上にすら感じさせる。
ツクシはモンスターボールを手に取ると、トレーナーの顔になる。

「バトルは、2対2の入れ替え制、ポケモンの交換は自由。 いいですね?」
「・・・はいっ!!」
緊張でこわばる肩をぐるんと回し、ゴールドは下っ腹に力を込めて叫ぶ。
本来、審判(しんぱん)がやるべきことまで ツクシは自分の手で行うと、ゴールドがボールを手に取るのを待って、叫んだ。


「それじゃ、行きますよ!! いけっ、コクーン!!」
早々に始まったバトル。 ジムリーダーツクシの最初のポケモンは さなぎポケモン『コクーン』。
琥珀色の固い殻(から)で自ら(みずから)の身を守る、大きな力を隠し持ったポケモンだ。
しっかりと自分の対戦相手を見つめると、ゴールドは自分のモンスターボールを選び、手に取った。
「コクーン、か・・・・・・それじゃ、こっちはアクアッ、がんばって!!」
ゴールドは振りかぶってモンスターボールを投げた。
中から出てきたポケモンは、ツクシのコクーンの半分もない、水色の尻尾つきのぬるぬるポケモン、ウパー。
水タイプで、虫タイプのコクーンとは 特に相性がいいわけでも悪いわけでもない。
アクアが地面の上に降り立つと、すぐさまバトルは始まった。
「コクーン、『どくばり』だ!!」
ツクシが叫ぶと、コクーンは鋭く小さな針をアクアに向け 勢いをつけて飛ばしてくる。
針はアクアの小さな頭に深く突き刺さる。 だが、それに構わず黄色いさなぎに立ち向かって行くアクアを見て、ゴールドも声を上げた。

「『みずでっぽう』!! アクア!!」
自分に刺さった針もろとも、太くはないが激しい水流を小さな水ポケモンは吐き出す。
ぐらりと傾いた(かたむいた)コクーンを見て、ゴールドは小さくうなずいてもう1度アクアへと視線を向けた。
途端、背筋に氷でも入れられたかのように身震いする。

(・・・・・・・・・・・・嫌な・・・・・・予感・・・?)

「アクアッ、もういっかい『みずでっぽう』!!」
嫌な考えを振り払おうと、ゴールドは腹の底から叫んだ。
身を低くして アクアは確実に水流をコクーンへと命中させる。

(・・・嫌だ・・・・・・・・・嫌だ、負けたくない!!)

「アクア!! 早めに 勝負(かた)をつけて!!」
むきになってゴールドは叫ぶ。 針を受けた小さな仲間を見て、体に電流の走るような嫌な感覚を覚えて。
3発目の『みずでっぽう』が当たると、ツクシのコクーンは倒れた。
その代わり、代償もしっかりとついてくる。 風に吹かれた草のようにアクアはふらふらと揺れ、バトルフィールドの上に倒れ込んだ。
ゴールドが彼を抱き上げると、キレイな水色の顔がうっすらと黒ずんでいる。
「・・・『どくばり』に当たったんだ。 これ以上戦ったら辛いよね、アクア・・・」
まったく戦えない、というわけではなさそうだが、息をするたびにひゅっひゅと小さく音がする。
直視していることも出来ず、ゴールドはアクアをモンスターボールの中へと戻し、ツクシの次のポケモンが出てくるのを待った。



ツクシは驚くほど冷静に倒れたコクーンをボールへと戻す。
しばらくは動けないであろうポケモンの入ったモンスターボールを 軽くひたいに当てると、もう1つのモンスターボールを手に取った。
「防御力の高いコクーンを これだけ速く倒すなんて、さすがですね。
 でも、勝負は最後まで分かりませんよ?
 僕の2匹目のポケモンは・・・・・・これです、ストライク!!」

そう言ってツクシは宝石のように光るモンスターボールを投げる。
繰り出されたのは、草によく似た緑色の大きなポケモン、両腕から伸びたキラリと光る鋭い鎌(かま)を振り上げると、ゴールドへと向かって甲高い声で吠える。
ゴールドがとっさにポケモン図鑑を向けると 小さな画面に『ストライク』と表示される。

(・・・・・・さっきのコクーンって子より、ずっと大きい・・・
 最後のポケモンなんだから、きっと・・・ううん、すごく強い。 気をつけてかからないと・・・)


ゴールドは気を落ち着けるため、目をつぶって大きく深呼吸した。
唇の先から飛び出した風をくるくると回すと、熱くなっている胸を押さえ腰のボールホルダーに手をかける。
繰り出すポケモンは、もう決めていた。
「こっちも、最後のポケモン・・・・・・モコモコ、行くよ!!」
赤いモンスターボールが宙を舞う。
地面へとぶつかって弾けると、ツクシのストライクの半分もない小さなポケモンが 負けじと鳴き声をあげた。
ふわふわの毛を身にまとった、ひつじポケモン メリープ。

「・・・さぁ、第2ラウンドの始まりだ!!」


11、進化の光




体格の差は誰が見ても明らかだった。
ゴールドのメリープ、モコモコよりも相手のストライクの方が2倍も3倍もある。
勝ち目が薄いのはわかっているはずなのに、それでも、ゴールドたちは まっすぐストライクの方を見つめ、戦闘態勢を整えていた。
1分もしないうちの戦いに備え、大きく深呼吸。
「落ちついていこう、モコモコ。」
眼は凍りつくような光を放っている。 だが、ゴールドの声は落ち付いていた。
それを信頼してか、メリープのモコモコもしっかりと相手を見据え(みすえ)、姿勢を低くかまえ、ゆっくりとうなずく。
そこから次の行動が起こるまで、約4秒。



「いけっ、ストライク!! 『れんぞくぎり』!!」
ツクシが叫ぶと、ストライクの緑色の体は滑るようにモコモコへと接近し、鋭い鎌(かま)でモコモコの金色に輝く体毛を切り裂く。
先ほどの冷静さはどこへやら、びくりと体を震わせてゴールドはツクシを睨み付ける。
「あーっ、何すんのっ!!
 メリープは、このふっかふかの毛が命なんだからね!!」
先ほど言った「落ちついていこう」はどうしたのか、と背中越しにモコモコに視線で訴え(うったえ)られるが、気付かない。
腕をぐるぐると回し、トレーナーらしからぬテンションでモコモコへ1つ目の指示を出す。


「もー、怒ったからね!! モコモコ『フラッシュ』!!」
ゴールドは目をつぶり大声で指示を出すと、モコモコは辺りに目の眩む(くらむ)ほどの閃光を放った。
再び目を開けると、ストライクのふらついている姿。
「よし、眩しさ(まぶしさ)で目がくらんでる今がちゃーんすっ! 『でんきショック』だ、モコモコッ!!」
「させません、ストライク『でんこうせっか』!!」

ゴールドいわく『ジマンの体毛』に電気を貯め始めたモコモコに、ストライクは言葉通り、電光石火のスピードで攻撃を与える。
すると電気をたっぷり蓄えて(たくわえて)いた体毛がはじけ、大量の静電気が流れ出した。
モコモコはストライクを見上げ、うっすらと笑う。
「『でんじは』!!」
静電気はストライクを覆い(おおい)つくし、神経に異常を来たす。
ストライクは弾かれたようにモコモコから離れるが、『まひ』した状態を隠せるほどの体力は残っていなかった。




「・・・まさか、狙っていたんですか?
 ストライクが『でんこうせっか』を使うのを見越して(みこして)・・・・・・」
いつもの笑顔を取り戻し 足もとのモコモコの頭をなでるゴールドを見て、ツクシは驚いた表情を見せる。
ゴールドは顔から真剣味が消えるものの、明るい表情を取り戻して明るい声で受け答える。
「ストライクが『でんこうせっか』を使ったのは、予想外だったけど。 うん、それじゃ、まっけないぞぉ~っ!!
 モコモコ、『でんきショック』!!」
肩をくるくると回し、ゴールドは笑顔を見せ指示を与えた。
あまり威力はない白い光が 動きの鈍く(にぶく)なったストライクの羽根を襲う。
ぐらりと動いたストライクに対し、ジムリーダーの鋭い瞳が光った。
「『にらみつける』!!」
ストライクが指示の通りに モコモコを鬼のような剣幕で睨みつけると、モコモコはその迫力に驚き、一瞬ビクッとたじろいだ。
その隙をついて、ストライクは『れんぞくぎり』を使い、またしてもモコモコの体毛を切り裂いていく。

「あーっ、またやったな!! モコモコ!!」
子供のように(子供だが)ぎゃーぎゃーと騒ぎながら ゴールドはモコモコにもう1度『でんきショック』を撃つよう、言った。
それが当たりそうもないことにすぐに気が付くと、指示を『フラッシュ』へと切り替える。
行き場のなくなった電気エネルギーが綿毛のなかに溜まったらしく、ふわふわの毛はどんどん膨らみ(ふくらみ)はじめた。
先ほどストライクに切り裂かれた部分から、パチパチと音を立てて火花が散っていく。

「ストライク、『れんぞくぎり』!!」
光と電気が弾け出すのにも関わらず、ツクシはストライクにモコモコを攻撃させる。
3発目の『れんぞくぎり』は、1発目とは比べ物にならないほどの威力。
切り裂いた範囲は、体毛だけにとどまらず、モコモコの皮膚も、一緒に切り裂いてしまっている。
思わず距離を取ったモコモコも ゴールドも、驚いた表情を隠すことはしなかった。
「・・・え!?」
「どうやら、虫タイプの技に対しては 知識がないみたいですね。
 『れんぞくぎり』は、相手に当てれば当てるほど、威力が倍になっていく技、
 恐らく、あと2回も攻撃を受ければ、そのメリープだって耐えられるものじゃないでしょうね。」
丁寧にツクシが説明すると、ゴールドは一瞬押し黙って、それからにっこりと笑った。
横目でちらちらとモコモコを気にしながら、目いっぱいの笑顔を見せる。



「・・・そうなんだ、すごいね!!」
「バッ・・・バカにしているんですか!? 誉めるのはもっと後になってからの話ですよ!!
 そう、このボクが勝ってから!! ストライク!!」
まぁ、普通バトルの真っ最中に相手がにこにこ笑い出したら、あまりいい気分はしないだろう。
4度目の『れんぞくぎり』の命令が下るが、『まひ』して動きが鈍くなっている分、ゴールドがモコモコに指示を出す時間も与えられる。
「モコモコ、『フラッシュ』!!」
ゴールドが3度目の『フラッシュ』を指示し、バトルフィールド全体が、目も眩むような閃光(せんこう)に襲われる。
薄目でモコモコの戦いを見ていたゴールドは、ストライクの鋭い鎌が地面に突き刺さっているのを一瞬確認した。
息をのんで、次の指示のために目いっぱい息を吸い込む。



「モコモコ、『でんきショック』!!」
ゴールドは 力の限り叫んだ。
間髪入れずにモコモコがそれに応え、『フラッシュ』並みの光を放つ。 自分のポケモンなのだが、その光の予想もつかず、ゴールドは目を瞬いた。
一瞬の光は消え、眩んだ(くらんだ)眼も段々と治まってくると、動かなくなったバトルの状況が少しずつ見えてくる。
警戒されていたストライクの反撃は、来ない。
さらに視界がはっきりしてくると、ゴールドはもう1度目を瞬く。
今度は 驚きの意味で。

「モコ・・・コ?」
とっさに開いたポケモン図鑑に出て来た名前を ゴールドは読み上げる。
部屋の中に作られた大地の上で横たわっているストライクを前に 息を切らしているのはメリープよりも1周り大きなポケモン。
水から上がったポケモンのようにブルブルッと体を震わせると、体にまとわりついた毛がまとまって落ちた。
ピンク色の皮膚の目立つ見知らぬポケモンはゴールドへと振り返ると めえぇ、と声を上げる。
その声を聞いた瞬間、ゴールドはバトルフィールドへと走りだし、ふわふわの毛のえりまきに抱き付いた。
「モコモコッ、えらいっ!!」
「めえぇ~。」
ぽんぽんと頭を叩き、ゴールドは顔を上げる。
暖かい綿毛越しに ジムリーダーのツクシの穏やかな笑顔が真っ黒な瞳に映った。

「このメリープ『進化』したんですね。
 今まで、かなりの数を戦ってきたのでしょう? それだけ強いポケモンなら・・・僕が負けてもしょうがないですね。」
穏やかな笑顔で笑うと、ツクシは上着のポケットからてんとう虫のような形をした銀色のバッジを取り出す。
ストライクをモンスターボールへと戻し、ゆっくりとした足取りでゴールドのもとへと歩くと、
その右手を取って、自分よりも少し大きな手に 銀色に光るバッジを乗せた。
「インセクトバッジです、あなたに差し上げます。」
針が刺さらないようにそっと、ゴールドは渡された小さなものを持ち上げた。
親指と人差し指の間でてんとう虫型のバッジは まるでそこに来るのを待ちわびていたかのように楽しそうに光る。
それを立ち上がって服につけると、ゴールドは微笑んだ。

「ありがとう!!」
笑顔で礼を言って、ポケモンリーグへ行くための儀式を手早く済ませ、
進化したモコモコを連れて ゴールドは笑顔でジムを出る。
そう、笑顔で・・・・・・

・・・笑顔で・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・笑顔で・・・



・・・・・・笑顔で・・・・・・・・・・・・?




「ふぇ~・・・・・・」
「めえぇ~!?」
ヒワダジムを出てから約100メートル、ゴールドは 突然腰を抜かしてその場に座り込んだ。
進化したとはいえ、モコモコが驚かないはずもなく、慌ててかけよる。
「めぇ~?」
「・・・え? 『どうしたんだ?』って?
 うん、緊張が解けたら、急に・・・力が抜けちゃって・・・・・・」
ふうせんがしぼむときのような声を出して、ゴールドはやっとこさっとこ返事をよこした。
進化したときにむき出しになった、ゴムのような肌をそっとなでながら やたら青い空を見上げて同じような声を出す。

「・・・・・・苦手なんだよ、子供。」


<次へ進む>

<目次に戻る>