幕間劇、ウバメの森




一面、木々が生い茂り、空も見えないほどの『ウバメのもり』。
深い深い、この森のどこかに 『神様』が住んでいる。
人々の間では、いつしか そんな噂がたっている。


「・・・だから、森の中に 祠(ほこら)があるのじゃが、決して、悪さをしてはいかんぞい。」
『ウバメのもり』を 通りぬけようと、たまたま通りかかった少年を引きとめ、
長々と 森の神話を話していた老婆は、そこで一息ついた。

「ようするに、良い子にしてなさい ってことでしょう?
 もう行っていい? 良い子にしてるから!!」
じっと座って 老婆の話を聞いていた少年、ゴールドは 老婆の話に 区切りがついたのを見計らって、口を開いた。
「やれやれ、若い者は 急ぎすぎていかんのう・・・・・
 まあ、ええじゃろう、 くれぐれも、悪さをするんではないぞ!!」

ゴールドは大きくうなずくと、老婆に『さよなら』を言って、森に向かって駆け出した。
その後ろ姿を見送りながら 老婆は 独り言のようにつぶやいた。
「・・・澄んだ瞳をした少年じゃのう・・・・・」



「うっわ〜・・・ 本当に真っ暗だ!!
 モコモコ、『フラッシュ』!! 弱めにだよ!!」
森の中を モコモコに照らさせて、ゴールド達は 森の中をひたすら歩く。

「めぇ〜?」
何か、辺りを きょろきょろ見渡しながら歩くゴールドを、モコモコが疑問を感じて、『話しかけて』きた。
「え? あ、うん・・・・・
 不思議なんだ、こんな遠くまで 来たことないはずなのに・・・・・
 『ここ』に、ぼく、来たことある気がする。 デジャブってやつかな?」

ゴールドは 相変わらず 辺りをきょろきょろ。
トレーナーがそれでは、ポケモン達が 落ち着けるわけもない。

「キュイ?」
「ん? どうしたの、ミドリ?」
モンスターボールから外に出ていたミドリが 何か異変に気付き、前方に警戒態勢を取った。

「ま、まて〜!! カモネギ〜!!」
前方から 飛んで来たのは、口にネギのような植物をくわえ、猛スピードで迫ってくる かるがもポケモン、『カモネギ』。

「モコ・・・・ミドリ『たいあたり』!!」
途中で 攻撃するポケモンを変えたのは、ミドリがいつも以上にやる気を出していたから。
その指示に応えるように、ミドリは いつも以上の勢いで 小さな体を カモネギにぶち当てた。

ふらふらと 地面に落ちてきたカモネギを ゴールドが抱き上げると、
それと同じタイミングで 暗い森の向こうから 若い男が走ってきた。
「あ、ありがとう!! 
 炭の材料にする 木を切っている途中で、相棒のカモネギが 逃げ出してしまって・・・・・
 本当に 助かったよ!! ありがとう!!」
男は、ゴールドから カモネギを受け取ると、ぺこぺこお辞儀をしながら 町の方角へその姿を消していった。

(どうして、あのカモネギ、逃げ出したんだろう?
 ・・・・・・カモネギの言葉も、分かれば 聞き出せたのに・・・)



「ふう、ありがとね、ミドリ!! 君のおかげで カモネギ、捕まったよ!!
 ・・・・・って、あれ、ミドリ?」
お礼を言おうと ゴールドがミドリの方を向き直ったとき、一瞬、ゴールドは 自分の眼がおかしくなったのかと思った。
ミドリの体が光り輝き、急激に成長したのだ。

「・・・・・ミ、ミドリ!?」
ミドリの頭の葉っぱは 以前よりはるかに大きくなり、
首の周りにも、きれいな緑色の楕円形の葉っぱが 生え揃い、スパイスのような 刺激的な香りが漂ってくる。

「・・・もしかして、ミドリ、進化したの!?」
『ポケモン図鑑』には、新しいページが追加されていた、学名は『ベイリーフ』。
今まで、検索できなかったことからして、恐らく新種のポケモンなのだろう。

「・・・・・びっくりしたぁ、いきなり進化するから・・・そっか、『ベイリーフ』か、・・・・・
 これからも よろしく!! ベイリーフのミドリ!!」
差し出した手に気付かず、ミドリは、その大きくなった体を ゴールドの胸にポンッとぶつけてきた。
ゴールドは 思いのほか温かい ミドリの首を やさしく抱きしめた。


「あ、ねえ あれ、森の入り口にいたおばあちゃんが言ってた、『神様の祠』じゃない?
 もしかしたら、神様がミドリのこと、進化させてくれたのかもしれないね!!」
ゴールドが指差す先には、古ぼけた 木でできた小さな祠があった。

「神様 神様、ミドリを進化させてくれて ありがとうございました!!
 無事に、旅が出来るように これからも見守っててください!!」
ゴールド達は、祠の前で パンパンと手を合わせると、一礼して 次の街へ歩き出した。

・・・そう、『森の神様』に、見守られながら・・・・・・


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