<各話の1番最初に飛べます>
5、涙 6、2匹のイーブイ



5、涙




「今、何て言った?」
どこにでもあるような きわめて普通の 朝食の風景。
ゴールドと、シルバーは ポケモンセンターの1階で 少し遅い朝食をとっていた。

「だから、うちが ゴールドに迷惑かけたお詫びに、今日の昼飯おごったるっちゅうたんや!!
 何か、不満でもあるんか?」
「お昼?」
ゴールドが 口にご飯粒をつけながら、不思議そうにたずねた。

「せや、めっちゃ美味い 飯屋さん、知っとるんやで!!
 こないだ、タマゴんことで 迷惑かけたお詫びや、遠慮せんと、どんどん食ってや!!」
アカネは コガネ人特有の カラカラとした口調で、答えた。
「・・・シルバーも、一緒でいい?」



「ほんっとーに 信用できるんだろうな!? あのチャラチャラした女・・・」
コガネの中にある、小さな公園の中で ゴールドとシルバーは、お昼になるまで時間をつぶしていた。
「だーいじょーぶだよ。 アカネさん、一応ジムリーダーなんだし、ミドリも 警戒してなかったしさ。
 それより、今朝 一体どこいってたの? シルバーの姿が 見つからなかったから、ずいぶん探しちゃったよ・・・」
「あ、悪い・・・『仕事』に行ってた。」
「『仕事』・・・・・?」

「ゴールド、シルバー!! そろそろお昼の時間やで!!
 早よ、飯屋に いこーやー!!」
アカネの 軽い声が、コガネの小さな公園の中に 響き渡る。
ゴールド達は、遊ぶのを中止し、キンキンする声の持ち主の方に向かって、駆け寄った。

「なあ、ところで『ゴールド』や『シルバー』って、・・・本名なんか?」
大通りの道の真ん中で、アカネが 誰でも思うよう疑問を口にする。
「そーだよ。『ゴールド・Y・リーブス』。 『若葉のゴールド』は、正真正銘、ぼくの本名。」
「へーっ、めっずらしい 名前やなぁ!! ・・・・・そっちの『シルバー』くんは?」
「・・・・・・・・・」
シルバーは 黙っていて答えない。



フォークやら箸やらが カチャカチャと 音を鳴らし、小さな食堂の中を いつもより にぎやかなものにする。
「おかわりーっ!!」
食べ始めてから30分、ゴールドは3杯目の『おかわり』を要求していた。

「な、なあ、シルバー・・・くん?
 ゴールドって、いっつも あんなに食うんか!?」
あまりの ゴールドの食べる速さに アカネは驚愕して、思わず シルバーに耳打ちする。
「『いつも』は、あそこまでは食べない。 ・・・・・だけど、あいつ 鉄の胃袋だから・・・・」
シルバーは『当たり前だろう』といった表情で、2枚目のお好み焼きに 手を伸ばしていた。
猛スピードでがっつくゴールドに反比例するように、シルバーの 食べるスピードは 意外にも遅い。

「でもゴールド、ホンマ、よう食べるなあ!! まるで、化けもん みたいや!!」

カシャンッ

アカネのいった一言で、ゴールドは 持っていた箸を取り落とした。
同時に、アカネのほおに シルバーの 平手打ちが飛ぶ。
「な・・・!? 何するんや、シルバー!?」
「バカッ!! 『その一言』が どれだけゴールドを傷つけてるか・・・・・!!」
「バ、バカやって!?」

ゴールドは、持っていた茶碗を 机の上に コトンと置くと、
「・・・ごちそうさま、・・おいしかったです。」
それだけ言うと、逃げるように その店から飛び出した。
「ゴールド!!」
シルバーも それを追って 店を飛び出す。



いつの間にか、ゴールドは 知らない道の中まで迷い込んでいた。
「・・・・・ん? あんさん、ゴールドやないか?」
聞き覚えのある声が、後方から飛んでくる。 ・・・マサキの声だ。

「せやせや!! 昨日、コガネジムで勝ったんやってなあ!!
 おめでとさーん・・・・って、 そういう 雰囲気やないみたいやな、どしたん?」
ゴールドは、マサキの方に向き直る。
マサキの 飴色の瞳を見ていると、無意識のうちに、ボロボロ 涙があふれてきた。

「・・・分からない。・・・・・わかんないんだけど、なんだか、怖い・・・・・
 嫌なこと、思い出しそうで・・・・・なんだか怖いの・・・」
泣き声こそ出さないものの、道のど真ん中で 震えながら ボタボタ涙を流すゴールドに、街の人たちの視線は 集中していた。
「・・・何か、よう分からんけど、とにかく どっか 別んとこ、いこ?
 そこで、ゆっくり話し、聞いたるから・・・・」


「・・・・・なるほどな、飯屋で そんなことがね・・・・・」
マサキは、謎の機械をいじりながら、ゴールドの話を親身に聞いていた。
「アカネさんが 悪いわけじゃないっていうの、分かってるんだけど、
 でも、なんだか すっごく嫌な感じがして、それで、『怖い』って思って・・・・」
ゴールドは、謎の機械を 手で撫でながら 何とか、気を落ち着かせようと 2、3度深呼吸をする。

「ま、ここでしばらく 気、落ち着けていき!! そのうち・・・・・・ん、何や? ・・・コウモリ?」
『コウモリ』の 一言で、ゴールドは窓の外を反射的に 見つめる。
「クロ・・・? ・・シルバー!?」


次の瞬間、謎の機械が バチバチッ と 嫌な音をたてた。
「・・・・・!?
 アカンッ!! ゴールド、早よ、この装置から・・・・・!!」


その後、一瞬、ゴールドには何が起こったのか、見当すらつかなかった。
ただ、気が付いたら シルバーに支えられて立っていたのと、部屋中が 真っ黒に焦げていたのと、
それと・・・・見たことのないポケモンを、両手に2匹、抱えていたことだけだ。


6、2匹のイーブイ




「だ、大丈夫か!?」
真っ黒焦げの部屋の中、謎の茶色のポケモンを2匹も抱え、ゴールドはその場に へなへなとしゃがみこんだ。
「び、びっくりした〜・・・・・一体、何が起こったの!?」
いつのまにか 後ろに立っていたシルバーに、ゴールドはようやく話しかけた。

「『タイムカプセル』が、誤作動起こしたらしいんや。 いきなり 爆発起こしよった!!」
マサキからの説明を聞いても、ゴールドは 訳がわかっていないようで、まだ 目をぱちぱちさせている。
「『何が起こったのか』は、こっちが聞きたいくらいだ。
 おれが ここについた途端、部屋が爆発して ゴールドが飛んでくんだから・・・」


「えっと・・・、よくはわかんないけど、・・・・・・無事、なんだよね?
 シルバーも、マサキも、タマゴも、ぼくも・・・・・・
 ・・・この、小っちゃいポケモン・・イーブイ、も・・・・」
「イーブイ?」「ポケモンやて?」
シルバーとマサキ、声を出したのは2人同時だった。
確かに、ゴールドの腕には 小さなイーブイが2匹、すやすやと眠っている。

「なんで・・・イーブイが・・・?」
マサキが ゴールドの腕の中を覗き込みながら、不思議そうにつぶやく。
「分からない。 バンって衝撃があって、気が付いたら この子達、抱えてたの。
 ・・・・・きっと、大丈夫、・・・この子達、あったかいから・・・」
ゴールドは 少し寂しそうな目をして、ちょっとだけ濡れているイーブイの頭を くしゃっと撫でた。
ヒワダでの、目覚めない眠りについたピカチュウのことを、思い出したのだろうか?


「シルバー。」
しばらく続いた沈黙の後、ゴールドが 不意に口を開いた。
「ん?」
「手持ち・・・空いてる?」
「・・・まさか、おれに そのポケモンを引き取れ・・・と?」
ゴールドの考えには、時々、良いのだか悪いのだか 分からない所がある。
その場にいる人間全員が、複雑そうな表情で ゴールドのことを見つめていたのは、言うまでもないだろう。

ゴールドは シルバーの少し荒れた手を掴んで、イーブイの頭にそっと当てた。
小さなイーブイの顔は、シルバーの手ですっぽり覆い隠せるほど、小さい。
「前に、シルバー言ったよね。
 『研究所の中で一生過ごすくらいなら、おれが最強のポケモンに育て上げる』って・・・
 フレイムは強くするのに、この子は研究所に任せるの?」
ゴールドの眼は、先程までとは違い、しっかりした強い光を放っていた。

「ぼく、がんばるから!!
 ちゃんと話、聞けるようになったら どうしたら幸せか、聞いとくからさ、だから、それまで・・・・」
「おれ達が、親代わりになって、このポケモンを育てる。」
全てを言い終わらないうちに、シルバーが ゴールドの言いたい事を 先に言った。


そうこうしているうちに、2匹のイーブイは 大きな黒い目を、ぱっちりと開いた。
長い耳を パタパタ動かし、不思議そうに辺りの様子を探っている。
「こんにちは!!」
ゴールドは、精一杯の笑顔で イーブイに話しかけた。

笑いかけたゴールドに対し、1匹は愛想よく笑い返し、もう1匹は、まだ おねむといった感じであくびで返す。
シルバーが おそるおそる1匹、抱き上げてみるが、特に怖がる様子もなく、イーブイは あっさりとシルバーになついた。
「決まり?」
「・・まあな。」
2人のトレーナーは、それぞれのイーブイを モンスターボールの中に収めた。



「それじゃ、どーも お世話になりましたっ!!」
翌日、黄色と黒の ぎざぎざ模様のタマゴを抱えると、ゴールドはマサキやアカネに向かって ぴょこんとお辞儀した。
「ゴールド、ごめんなぁ、昨日・・・・・」
「・・何がですか?」
ゴールドは、何もなかったかのように あっさりと返す。

「じゃーねっ!! またバトルしよ!!」
ゴールドは 元気一杯に叫ぶと、北に向かって 歩き出した。


「挨拶、済んだのか?」
しばらく行くと、街の出入り口のゲートの壁に、お馴染みの赤い髪の少年の姿。
「うん!! それよりさ、ホントなの?
 しばらく一緒に旅していいって・・・・・」
「嘘言ってどうすんだよ。
 こいつらが 1人になっても大丈夫なくらいになるまでは、その方がいい、それだけだ。」
そう言って、シルバーは足元で にぎやかに動き回っている 2匹のイーブイを 横目で見やった。

「それじゃ、行くとするか。」
「そだね!! 行くよ!!」

「ブラック!!」「ホワイト!!」

同時に 名前を叫んで、思わず2人は 顔を見合わせた。 昨日、全く別々に考えた、イーブイのニックネーム。
その答えが、似ているようで、全く正反対。

まるで、自分達を映したような結果に なってしまっていたのだから・・・・・

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