幕間劇、水晶色の少女




『はいっ!! 今週の虫取り大会、栄えある優勝を勝ち取ったのは・・・・・・
 ストライクをゲットした、シルバー君!! みなさん、拍手!!』

コガネの北の、ここは『しぜんこうえん』。
そこのど真ん中で 虫取り少年やら、エリートトレーナーやらから 喝采を浴びているのは、
他ならぬ、ワカバからゴールドを連れ出した少年、シルバーだった。

「よかったねー!! シルバー、優勝しちゃうなんて、すごいじゃん!!」
まるで、自分の事のように 笑顔で話すゴールドと違い、シルバーはひたいに手を当て、ただただ沈黙していた。
どうして こんな事になっているのか、それを説明するには、
2人が 虫取り大会に出場するところから 話さなければならない。


「虫取り大会? わーっ!! おもしろそ〜!!」
ことの始まりはその言葉だった。 もちろん、それを言ったのはゴールドだ。
「ねー、シルバー・・・」
「だめ。」
みなまで言わせず、シルバーは否定した。
ここで時間をくっていたら、次の街につく前に日が暮れてしまう、という考えからだ。

しかし、30分後には 2人とも、何故か 大会出場者記録に名前を記入していた。
どうしてそうなったのかは、2人の様子を見ていた イーブイの『ホワイト』と『ブラック』しか分からないだろう。
「むっしさん、むっしさん、ど〜こかなっ?」
「おい、ゴールド・・・・・ おれ達が探しているのは、『虫ポケモン』だぞ?
 どうして、そんな草の根分けるような 細かい探し方をするんだ?」

虫取り大会の制限時間は、いつのまにか シルバーのお説教タイムへと変化していた。
「いいか? そもそもポケモンを捕まえる時にはだな、こうやって、まずはポケモンを弱らせる!!
 出来れば、眠らせたり、麻痺させたり出来れば もっと捕まえやすい。
 それで、そうやって弱ったポケモンに、モンスターボールをぶつけるんだ!!
 ・・・・・ほら、捕まった。」
そうやって、実演しながら シルバーが捕まえたのは、体格の良い、立派なストライク。
そして、まるで シルバーがポケモンを捕まえるのを待っていたかのように、直後に 大会終了を告げるチャイムが鳴ったのだ。


「さあ、早く次の街まで行くぞ!!」
シルバーは思わぬ時間の浪費に いらいらした様子でゴールドに叫んだ。
すでに正午を回っていて、急がないと 到底今日中には次の街に着きそうもない。

それでも、旅に障害はつき物なのである・・・

「・・・なんだよ、この大木・・・
 今までこの道にこんな『木』なんて、なかったのに・・・」
ここは『35番道路』。 キキョウ、コガネ、そしてゴールド達がこれから向かう『エンジュシティ』の3方向に向かって道がつながっている連絡道である。
辺りを囲うようにして、岩壁がそびえ立っている細いこの道のど真ん中、
そこに 通りを邪魔する形で 正体不明の巨木が立っていたのである。

「ミドリ、ちょっと大きいんだけど、この木を『いあいぎり』で切ってくれる?」
ゴールドはモンスターボールから黄緑色のポケモンを呼び出した。
ゴールドより少し背が低いくらいの 首の周りとひたいに 緑色の大きな葉をつけたポケモン。
ベイリーフの『ミドリ』、ウバメの森で『進化』した、ワカバタウンからずっと一緒のゴールドの『友達』である。

そのベイリーフは、ひたいの大きな葉を振りかざすと、巨木めがけてすばやく切りつけた。 『いあいぎり』という、細い木などを切り倒す大技だ。
しかし、巨木は傷1つつかず、ミドリの頭は反動で大きくはじかれる。

「こまったねえ・・・ミドリの『いあいぎり』が効いてないよ・・・」
事態をあまり深刻に考えておらず、ゴールドはのんびりした口調で頭をひねっている。


「フレイム!! この木を焼き払え!!」
イライラしたようにシルバーは自分の持っているモンスターボールを開いた。
しかし、出てきたポケモンはゴールドがしょっちゅう見ていた、あの 丸っこく 愛らしい姿ではなく、
どちらかといえば『かっこいい』の言葉が似合うような、しなやかな流線型のポケモンへと入れ替わっている。

「あれ? この子、フレイム?
 なんか、前 見たときと形が変わってるけど・・・1回り大きくなってるし・・・」
「一昨日『変化』した。 『ヒノアラシ』から『マグマラシ』に。」

「・・・変化? 『進化』じゃなくて?」
聞きなれない言葉に、ゴールドはきょとんとした顔で シルバーにたずねた。
「ああ、それは、ポケモンの進化は 『進化』じゃないから。 正式に言えばポケモンのそれは『変態』に当たるんだ。
 だから、おれが個人的に『変化』って呼んでいるだけだ。 気にするな。」
シルバーは 出来るだけ分かりやすく説明したつもりだった。 しかし、ゴールドは分かっていないようだ。


「・・・まあいい、フレイム『ひのこ』!!」
シルバーは 存在が忘れ去られそうになっていた巨木のほうに向き直ると、フレイムに命じて 木に炎を浴びせた。
どうやら、巨木を焼き払うつもりらしい。

しかし、炎による白煙が切れた先には、今まで通り平然と立っている巨木があるだけだ。
「ねえ、この木、火が効いてないよ!? どーなってんの!?」
「おれに聞くな!! こっちが知りたいくらいだ!!」
2人は 完全にパニックを起こしている。

『すいませーん!! そっち、だれか 人いるんですかー?』

突然巨木の反対側から 甲高い声が聞こえ、2人は顔を見合わせた。
そう、この巨木に困っているのはゴールドとシルバーだけではないのだ、
「向こうに誰かいるよ!? はーい、こっち人いまーす!!」
子供のように(子供だが)はしゃぎながら、ゴールドは『木の向こうの人』に大声で返事を返す。

「あのねぇ!! この木、さっきフレイムの『ひのこ』で 焼いちゃおうとしたんだけど、無理だったの!!
 それで、今どうやって、ここ通ろうかなぁって、みんなで考え中!!」
先刻ともあまり変わらぬのんびりとした口調で、ゴールドは現状を説明する。

『そうだ、『いあいぎり』は!?』

再び、巨木越しの甲高い声。
「最初に試した!! この木、異常に硬くて、全然歯が立たない!!
 ・・・・・・ん?」
シルバーが『木の向こうの人』に答える途中で、巨木に ふと目を向けた。

「どしたの?」
ゴールドがたずねる。
「おかしいぞ? この木、火を受けても 焦げてすらいない!!
 もしかしたら『木』じゃ ないんじゃ・・・・・」
確かに、巨木は火を撒かれたのにもかかわらず、焦げ目1つ付かず、平然とした様子で立っている。

ゴールドはシルバーのその言葉に、はっとして『ポケモン図鑑』を開き、巨木に向けてサーチ機能を開始した。
ピピッという、電子音と共に、図鑑にポケモン反応を示す画面が浮かぶ。

「ポケモンだよ!!『ウソッキー』っていう名前!!」
『・・・野性の、『ウソッキー』!!』

『木の向こうの人』と同時に、ゴールドは 巨木の本名を言い当てた。
それと同時に『木』の幹に手を当てていたシルバーが、目を開く。
「よし、そうと分かれば 話は早い!! こいつを、『捕獲』する!!
 おい、そっち側の奴!! 水タイプのポケモンは 持っているか?」
「『水タイプ』!?」
どうして『木』に『水』をやるのか、訳がわからずゴールドは目をぱちぱちさせる。

『・・・え? 一応、1匹いるけど・・・・・』
「それなら、そのポケモンを使って、この『木』に向かって、『みずでっぽう』を使ってくれ!!
 おまえはアクアを使ってだ。 いいな?」
「う、うん・・・・」
ゴールドはとりあえずうなずいた。


ゴールドは自分の背の高さほどもあるアクアを呼び出すと、目をつぶって、大きく1つ深呼吸をした。
「それじゃ、いくよ?」
『はぁーい。』
「せ〜ぇのっ!!」
「『みずでっぽう』!!」『『みずでっぽう』!!』

アクアの『みずでっぽう』と『木の向こうの人』の『みずでっぽう』、2つの水流がぶつかると、突然ウソッキーは暴れだした。
それと同時に、シルバーの赤い髪と黒い服が 巨大なポケモンに向かって弾丸のように飛び出す。
「シルバー、・・そのポケモン・・!!」
「2人とも、目をつぶっていろ!! アイアン、『みねうち』!!」

モンスターボールから飛び出したのは、先ほど虫取り大会で捕まえた かまきりポケモン『ストライク』。
シルバーの言葉で 条件反射のように目をつぶったゴールドには、『アイアン』の刃がウソッキーに当たる瞬間、
火花が散る瞬間が、まぶたの裏に焼き付いていた。


「よし、もう、目を開けても大丈夫だ。」
シルバーの言葉に、ゴールドはそっと瞳を開ける。 目の前にあったのは、茶色い、土や砂で出来た・・・山。
その向こう側にでもいるのか、シルバーの姿は見えない。

(また・・・おいてけぼり?)

ゴールドは不安になって 山の反対側へと急いだ。



「いたっ!! うえ〜・・・・・ぺっぺっ!!
 もー!! シルバー、いきなりだったから、口の中に 土が入っちゃったじゃないか〜・・・・・」
砂やら何やらでざらざらする口で、ゴールドはシルバーに抗議する。
続けて いきなり自分の前からいなくなったことに文句を言おうとしたが、その言葉は別の人間の言葉によって、かき消された。

「うそっ!? 『ゴールド』!?」
自分の名前を呼んだのは、見ず知らずの少女。
「・・・へっ?」
ゴールドは訳がわからず 目をパチパチさせた。


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