6、相棒の戦い




「こーんにーちわー!!」
ゴールドは エンジュシティジムの大きな扉をノックしていた。
旅の目的の1つ、『各地のジムリーダーに挑戦する』という目的を果たすために。

中からマツバの(前の話でも紹介したが、エンジュのジムリーダーはマツバだ)返事がなく、ゴールドは仕方なしに 勝手に扉を開ける。
ジム内は薄暗く、ゴールドは べそをかきはじめたピチューの『ディア』をなだめながら 奥へと進まなければならなかった。


「・・・どういうことだ?」
マントの男は マツバに掴みかかるような勢いで 食って掛かった。
「だから、今、言っただろう?
 『彼女達』は、伝説のポケモン達に 見こまれたんだよ。
 あの子供達には、そういった資質があるということだ。 ミナキ、君よりもね。」
「・・・認めない、認めないぞ、私は!!
 私が10年がかりで 必死に追いつづけていたスイクンを あんな 何も苦労していないような少女が 手に入れるなど・・・」
マントの男は、怒りの形相をあらわにしつつ、薄暗い部屋を後にした。
すれ違いざまにゴールドは 自分が睨みつけられたような気がして、ビクッ と体を震わせる。

「やれやれ、『何も苦労していない少女』、か。
 ミナキ、お前は 彼女の『苦労』を 何も知らないからそんな事が言えるんだよ・・・
 ・・・・・・おや。」
黄色いポケモンを抱え、赤いパーカーを着てこっちを見つめている少年に マツバは気付き、顔を上げた。
「いつからそこにいたんだい? 全く気付かなかったよ。
 用もないのに『ここ』に来るわけがないから・・・・・・ジムリーダーに挑戦、てことかな?」
ゴールドは無言のままうなずいた。
マントの青年の視線が気になり、まだ 心臓が高く波打っている。


「勝負は1対1だ。
 君が どのポケモンを使うのも自由だが、俺としては、君のピジョットと 戦ってみたのだがな。
 ・・・・・・どうだい?」
マツバの言葉を聞くと、ゴールドは『しまった』という顔で、自分の額をぴしゃりと叩いた。
「・・・そっか、マツバさん、ピーたろうの存在 知ってるんだっけ。
 ロケット団 相手にした時に、戦わせちゃったもんな〜・・・」
ゴールドは 苦虫を噛み潰したような顔をしたまま 古びたモンスターボールを開いた。
中から出てきた巨鳥に 戦ってもいいかどうか、たずねてみる。
「・・・戦ってもいいらしいです。 こっちは ピーたろうで行きます。」

「そうか、ありがとう。
 それでは、こっちのポケモンは・・・こいつだ、ゲンガー!!」
マツバが取り出したのは、夕焼けで出来た影のような 黒い体の シャドウポケモン、ゲンガー。
ゲンガーはにやりと笑うと、薄暗い部屋の中を ぐるぐると飛び回った。


黒い影が ゴールドとピーたろうの間を切りぬけ、ゴールドのジム戦のゴングが鳴った。
「ゲンガー『ナイトヘッド』!!」
ゲンガーの体から 黒い衝撃がピーたろうめがけ 放たれる。

「『でんこうせっか』!!」
ピーたろうは『ナイトヘッド』を紙一重でかわし、その巨体を ゲンガーに向け突進させる。
しかし、その攻撃はゲンガーをすり抜け、ピーたろうは壁に当たりそうになり、急ブレーキをかける羽目になった。
「・・・うそだろ? ピーたろうの体、すり抜けちゃったよ・・・」

「このジムのタイプは『ゴースト』、ノーマルタイプの技は、ゲンガーの気体の体には当たらないぜ。 さあ、どうする?」
「・・・ずるい、そっちから ぼくのポケモン選択しといて・・・・・・」
ゴールドは ほおをぷくっと膨らませ、反論の意を示した。
ゲンガーはピーたろうのまわりを旋回しながら その体に少しずつ傷をつけていく。
1つ1つの攻撃は弱いのだが、連続して攻撃されると いかにレベルが高いポケモンでも耐えられるものではない。
目の前で傷ついていくピーたろうを見て、ゴールドはいつしか言葉を失っていった。


「ピーたろうッ!!」
ゴールドは 何の前触れもなく叫んだ。 腕に抱いていたディアが 驚いて体を震わせるくらいに。
「いいかげん、こっちだってピシピシピシピシ攻撃されたら怒るんだからな!!
 反撃だ、ピーたろう『かぜおこし』!!」
ゴールドが叫ぶと、ピーたろうは大きな翼を動かし、ゲンガーめがけて突風を起こす。
ゲンガーの気体の体は吹き散らされ、一撃でゲンガーは ピーたろうと同じだけの傷を負った。

「やるな、しかし 2度は同じ手は受けないぞ!!」
「・・・僕だって、何度も何度も同じ手を使うほど 単調なトレーナーじゃないんだけどね。」
ゴールドは 右手の人差し指を ピッと前に突き出した。



30分後・・・・・・
ゴールドはエンジュシティの街中で クリスとばったり遭遇した。
「あっ、ゴールド、今日 ジム戦やるって言ってたよね、終わったの?」
「うん!! ばっちり勝ってきたよ!!」
ゴールドはディアと一緒に にこっと笑って見せる。
パーカーのフードをめくると、そこには薄紫色の『お化け』のような形をしたバッジが キラキラと輝いていた。
「へーっ、すごいじゃない!!」
クリスは いつのまにか頭についていた 星型のヘアピンをさわりながら 感嘆の声をあげる。
「あ、そうそうクリス、あのね・・・」
ゴールドはシルバーに言われた事を思い出し、切り出した。


薄暗い部屋の中、マツバは1人、たたずんでいた。
「フッ、まさか『あんな技』が使えるとはな・・・
 彼らが 伝説のポケモンに選ばれた訳、少しだけ、分かるような気がするよ・・・」

マツバは受話器を取り、どこかに電話を掛ける。
「ああ、俺だ、マツバだ。
 思ったとおり、彼らは アサギの方に向かうようだよ、あの少女も一緒だ。
 ・・・思ったとおりにやるがいいさ、俺の千里眼を打ち破るような少年達だ、この先 どうなるかは、俺にも想像がつかないさ。」


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