幕間劇、タマオとサクラ




翌日、ゴールドは 何とかクリスとアサギに行かれる事になったので、
その旅立ちの準備をする為に、エンジュ中の 店を巡っていた。



「え〜っと、食料はパンと、乾物、缶詰、それに水に・・・」
「ぴぃ〜う!!」
「・・・ん、何? ディア。」
左耳をディアに軽く引っ張られ、ゴールドは ディアが小さな手で指し示す先を見た。
そこにあったのは、赤や青や緑や黄色の 色とりどりに着色された 丸いあめ玉がぎっしり詰まった大きなポット。

「ピピ、ピチュー・・・」
「ほしいの?」
ディアは うんうん、と 大きくうなずく。
荷物に少々余裕があったので、ゴールドは 明るくライトアップされたコーナーへと足を運んだ。


円筒状のガラスケースの中に ころころと詰まった丸い物を、ディアは小さな瞳をキラキラと輝かせながら見つめていた。
「なんか、こういうとこ来るのも、久しぶりだな!!
 ・・・あっ、ディアは 初めてなんだっけ。」
旅に出てから 久しく来ていなかったお菓子屋に、ゴールドは胸の奥が うずうずするのを感じた。
ゴールドだって、親元を離れて旅をしているとはいえ、まだまだ子供なのだから 甘い物は好きだ。

「な〜にが いいかな♪
 イチゴにレモンにメロンに・・・・・・あっ、これ 辛くって 前食べられなかったやつだ!!
 よーし、今度こそ 全部なめて・・・」
透明なあめ玉の入ったガラスケースに手を伸ばした時、ふくらはぎに つるんとした感触があり、ゴールドは思わず身震いした。
慌てて視線を下へ向けると、全身真っ白で ひたいに宝石のような物がつき 尻尾の先が二股に分かれている
背がゴールドの腰くらいある 四つ足のポケモンが 足元ではしゃいでいる。


「こ〜ら、ラン!!
 あまり 店の中でふざけんとき、他のお客に 迷惑かかっとるやないか!!」
トレーナーらしき人物が 店の外から現われ、白いポケモンはトレーナーのも足元まで走って戻る。

(トレーナー付きのポケモンだったんだ。
 どうりで見たことない種類だと・・・・・・・・・あれ?)

「あっ・・・・・・!!!」
白いポケモンのトレーナーの顔を見て、ゴールドは店のガラスケースを 全部割ってしまいそうな大声を出しそうになった。

肩の辺りで切りそろえられた黒髪、おっとりした表情を作り出すたれ目、上品な動きに、エンジュ訛りの話し方。
ゴールドの目の前にいたのは『やけたとう』でゴールド達を散々苦しめた ロケット団幹部らしき女、タマオだったのだ。


「・・・!?」
「動くな、動いたら そのイーブイ けしかける。」
ゴールドの事を 完全に無視して ショッピングを楽しむタマオの足に、ゴールドはホワイトを接近させ、
他の人間に聞こえないような 小さな声で話しかけた。

「な、なんなんや!? あんた・・・・・・」
「・・・とぼけんなよ、タマオ。
 『やけたとう』で 散々やられておいて、なんでまだ エンジュシティに残ってるんだよ?」
「・・・・・・タマオやて?」

目の前にいる女性は 目を輝かせながらゴールドの方を向いた。
ゴールドは バトルになるんじゃないかと、腰についているモンスターボールを構える。
しかし、なぜか嬉しそうな顔で ゴールドを見つめているタマオ(らしき人物)を見て、戦闘準備に入っていたポケモン達を 元の位置に戻した。



「双子おぉ〜!!??」
店の外で(さすがに店の中で話すのはヤバイと判断したらしい)ゴールドは すっとんきょうな声をあげた。
一緒になってホワイトも 開いた口がふさがらなくなっている。

「せや、うちはサクラ、タマオの双子の姉どす。
 このエンジュで 舞妓をやっとったんやけど、5年前にタマオ、家を飛び出してもうたんや。
 せやからゴールドはん、タマオを見たんやったら、どこにいるのか 教えてくれへんか?」
「え・・っと、あの、その、タマオ、さんとは『やけたとう』で会っただけなんで、
 ちょっと、どこにいるかまでは・・・・・・」

さすがのゴールドも、瞳を輝かせながら聞いてくるサクラに、まさか『ロケット団になっている』とは言えず、あいまいな答えを言った。
「そう・・・どすか、すみまへんなぁ、お手数おかけして。
 ほんなら、もし、なにか分かったら、ここに連絡しておくんなす。」
サクラは、そう言うとゴールドに 電話番号の書かれた紙を手渡した。


「ホンマ、わがままな妹をもつと、姉は苦労するわぁ・・・・・・
 ゴールドはん、これ、お詫びのしるしや。 タマオ・・・また 何か しはったんやろ?」
そう言うとサクラは、ゴールドに何か箱状のものを 押し付けるように渡す。
それは、ポケモンが波の上を自由に動きまわる技、『なみのり』を教える為の『ひでんマシン』だった。

「・・・受け取れません!!
 最初に迷惑かけちゃったの、ぼくの方だし・・・・・・」
「ええんや、それお客さんがくれた物なんやけど、うちら 使わへんから 今日売るつもりやったし・・・
 ゴールドはん、トレーナーとして 旅しとるんやろ、せやったら、その機械、使うやないんどすか?
 とにかく、受け取っとき、・・・・・・ほんならな♪」



しゃなりしゃなりと帰ってゆく サクラの後ろ姿を見て、ゴールドは 新たな誓いを立てていた。
「・・・ロケット団も、ただ悪いだけっていうわけじゃない、ってこと・・・だよね。
 もっと、あいつらのこと調べなきゃ。
 ・・・・・・それに・・・」

ゴールドは ディアとホワイトの方に向き直って、笑いかけた。
「サクラさんのためにも、タマオを ロケット団から引きずり出さなきゃね!!」
この考えには、ゴールドのポケモン達も賛成だったようだ。
2匹とも、頭が地に付くくらいに 大きくうなずいた。


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