アサギ シティ
とおく はなれた いこくに もっとも ちかい みなとまち



<各話の1番最初に飛べます>
1、帰らないジムリーダー 2、アカリの病気の治し方 3、大海原へ



1、帰らないジムリーダー




「うわぁ・・・・・・、潮の匂いがする・・・」
海の見える岬に立ち、ゴールドは 潮風を体1杯に吸い込んだ。
エンジュを出てから早5日、ゴールド達は ようやくアサギシティに到着していた。
すでに、日が暮れて 星のちらつく時間になっていたが。

「ゴ、ゴールド・・・・・・
 あんた、これだけ歩いたり走ったり 繰り返しといて、よく そんなに はしゃぎ回れるわね・・・」
へばり顔で のろのろと ゴールドの背後から現われたのは、クリスタル。

すっかり眠ってしまった 途中で タマゴから生まれた子供の頭ほどの大きさの
赤と青の穴明き三角模様の入った殻をつけたポケモン『トゲリン』を抱え、ぜえぜえ言っている。
エンジュからここまで 一緒に歩いてきたのだが、『体力おばけ』の ゴールドのペースに合わせられるわけがない。

「あれぇ〜? ねえクリス、あれって『灯台』だよね。
 もう暗くなってるのに、どうして光ってないのかな?」
ゴールドは 海沿いで 闇に溶けかけている高い建物を指差し、不思議そうにたずねる。
「知らないわよ、明日調べればいいことだし、もうポケモンセンターに行きましょうよ・・・」
「・・・そうだね。」



・・・・・・翌日・・・・・・

「それじゃ、ぼくは ジムに行ってくるね!!」
ゴールド達は、昨日の灯台のことなどすっかり忘れ、アサギシティで 思い思いの行動に出ていた。
そもそも、目的の違う2人だから、街についてからの行動は別になる。
そんなことは 2人とも確認せずとも分かっていたので、お互いに止める事はしなかった。


「さあ〜て、ミドリ、モコモコ、アクア、ホワイト、ディア、ピーたろう!!
 用意はいい? 乗り込むよ!!」
ゴールドは 自分の中のエンジンをふかし、ポケモン達に発破をかけると、アサギジムの扉を 元気よく開けた。
しかし、扉の向こうで 待っている者はいなかった。
それどころか、ジムは まるで夜逃げでもしたかのように 1面、何もないのだ。

「あ、もしかして、ジムに挑戦しに来た方ですか?」
突然、背後から声を掛けられ、ゴールドは驚いて 小さく飛び上がった。

振り向くと、そこにいたのは 胸の辺りに大きなリボンのついた白いワンピースの似合う、
腰まである長い髪の1部を 丸い髪留めを使ってこめかみの辺りでちょこんと2つに分けている女の子だった。

「あの、すいません・・・
 今ジムは 開けないので、挑戦はちょっと・・・・・・」
女の子は ゴールドの横を通り、ジムの入り口に置かれた机から 何かを取り出していた。


「・・・あの、ジムリーダー、ですか?」
「ええ、私はミカン、アサギジムのジムリーダーを務めてます。
 ですが、今は・・・アカリちゃんの看護があるので、ジムは休業状態なんです・・・」
ミカンは 浮かない顔をしながら、机の中から薬の入ったビンを取り出すと、きびすを返して 来た道を戻り出した。

「・・・ちょっと待って!!」
ゴールドは海の方へ向かって歩き出したミカンの後を小走りに追いかける。
ミカンは止まる様子がなかったので、ゴールドは歩きながら質問した。

「あの、『アカリちゃん』って・・・?」
「岬の灯台に住み、灯り役をやっているデンリュウの名前です。
 最近、病気にかかってしまって・・・私が 看護をやっているのですが・・・」
「・・・良くならないの?」
「はい。」
ミカンは うつむいて歩きながら答えた。

「・・・連れてってよ、その子のとこまで。
 ぼく、何の役にも立たないかもしれないけど、何か役に立てるかもしれない。」
ミカンは 歩きながらゴールドの方を見た。
小さな少年は 真剣なまなざしで ミカンの答えを待っている。

「・・・トレーナーの方に そう言ってもらえると 心強いですね。」
ミカンは 歩く速度を速めた。



「あれれ?」
昨日、明かりの灯っていなかった灯台のもとで、女の子が1人、腰をおろして座っている。
首につけた鈴に、前に突っぱねた髪。 それは、近くまで行って確認するまでもなく、クリスその人だった。

「あれ、ゴールド?
 あんた ジム戦に行ったんじゃ・・・」
クリスは 近づいて来たゴールド達の存在に気付くと、目をパチパチさせながら 立ちあがった。
「クリスこそ。 ぼくてっきり、街に行ったとばかり思ってたけど・・・
 ・・・どうして?」


訳が分からず、横で『?』な 顔をしているミカンをよそに、2人の会話は続いていた。
「どうしてって、そりゃあ・・・」
「う〜ん。」

「灯台のポケモンが病気になったって聞いたから・・・」「灯台のアカリちゃんに、何か出来ることないかと思って・・・」

声のダブり具合で、ゴールドとクリスは お互いの顔を見合わせた。


2、アカリの病気の治し方




「・・・こちらです。」
ミカンが扉を開けるのと同時に、ゴールドは肩につかまっていたディアをクリスに預け、病気のポケモンの方へと向かった。
医者が静止するのも聞かず、ベットの上で寝ているデンリュウの『アカリ』の額に手を当てる。

「・・・大丈夫、ディアやトゲリンに移る病気じゃないよ。
 クリス、入っても平気だよ。」
ゴールドは入り口の方を向くと、唖然としているクリスやミカンに 呼びかけた。


「悪性の電気が 体の中にたまっちゃう病気だと思うんだ。
 ウイルスによるものじゃないから、他のポケモンに移る心配はないんだけど でも、この病状が長く続くと、危険だよ。」
アカリの汗を拭きながら、てきぱきと話すゴールドに 周りの人間は 驚きの色を隠せなかった。
誰が、この 11にもならない 小さな少年に これだけの知識があると 予測つくだろうか?

「体力があるなら、外で はしゃぎ回ってるうちに治っちゃうから あまり 大したことにはならないんだけど、
 ・・・灯台の中にいて、ずっと 外に出てなかったんでしょ、アカリちゃん?」
「き、君・・・・・・、一体、どこでそんな知識を・・・」
医者が ゴールドが話すのを中断させる。

「前に、家にいたポケモンが 同じ病気にかかった事あったから・・・
 ・・・そうだ、おかあさんなら 治し方知ってるよね、・・・ちょっと聞いてくるから!!」
ゴールドは ポンッ、と手を叩くと、ポケギアをかけるために 部屋の外へと出ていった(電波がアカリに影響する可能性があるかららしい)



ピピピピ・・・ピピピピ・・・

『もしもし、ゴールド?(相手先が分かる機能がついているらしい)
 どうしたのよ、1ヶ月も連絡ないと思ったら、いきなり電話かけて来たりして・・・』
ポケギアの向こうから、懐かしい声が響く。
「うん、あのさ、前にメリーが 電気がたまっちゃう病気にかかったことあったよね。
 その時、おかあさん どうやって治してたの?
 ぼく、あの時のこと、よく覚えてなくて・・・・・・」

「メリーがって・・・・・・1年前のあれ?
 あれならね・・・」
ゴールドの母は その時の治し方を、事細かに教えてくれた。
どうやら、タンバにある 腕利きの漢方薬屋に 薬を処方してもらったらしい。

「そっか、それじゃ『海の向こうのタンバシティの薬屋さん』に行けばいいんだね?
 ありがと、おかあさん!!」
『あっ、ちょっと『なみのり』ができるポケモン、あなた持ってるわけ?
 あそこへは・・・・・・』
「だーいじょーぶ!! ちゃんと『なみのり』できますよ〜だ!!
 それじゃねッ!!」


勢いよく切れた 電話の向こうで ゴールドの母は 呆れ半分、安心半分で笑っていた。
「やれやれ、家の子も ずいぶん世間サマの荒波にもまれたみたいね。
 すっかり明るくなっちゃって・・・前は これでいいのかと思うくらい おとなしい子だったのに・・・」



「・・・じゃあ、そのタンバシティってとこに行けば、アカリちゃんの薬がもらえるの?」
クリスは2匹の幼少ポケモンを抱えたまま、ゴールドに聞き返した。
「うん、だからこれから そこまで行って、お薬をもらってこようと・・・」
「あの・・・」

すっかり『もう大丈夫』ムードの2人の中に、浮かない顔をしたミカンが 口を挟んだ。
「・・・どうやって行くのですか?
 灯台が使えないので、タンバ行きの船は 全面運休しているのですが・・・」
この言葉に、はしゃぎまわっていた2人は ぴたっと おとなしくなる。

(・・・そっか、それで おかあさん、『なみのり』が使えるポケモンがいるか? ・・・って・・・)

「ポケモン達に手伝ってもらうから、大丈夫!!」
ゴールドは 満面の笑顔で返した。 『絶対大丈夫』なんて保証は全くないが、そんなこと言っても、不安にさせるだけだ。



「それじゃ、クリスは モコモコとアサギで待っててね。
 ぼく、タンバまで 行ってくるから!!」
ゴールドは 赤白のモンスターボールをクリスに預けると、にこっと微笑んだ。

クリスは どうしてそれが渡されたのか分からず、ゴールドに突っかかった。
「ちょっと、どうして あたしにこのポケモン預けるわけ?
 海なんて水タイプのポケモンだらけだから、電気タイプは 持っていった方が安全でしょ?」
「だって、灯台の明かりがないと、アサギまで戻ってこられなくなっちゃうでしょ?
 モコモコ、クリスに懐いてるみたいだし、帰ってくるまで クリスが持っててよ!!」


ミドリが見つけてきたボートにロープを取りつけると、ゴールドは それを海の方へ押し出し、乗り込んだ。
アクアのぬるぬるした背中では 海に落ちる可能性もあり 長距離航海には向かないので、ボートを引かせて向かうことにしたのだ。

「それじゃ、行ってくるね!!」
5匹のポケモンを連れて、ゴールドは海へと旅だった。
それが、どれだけ 大変な旅になるのかも知らずに・・・・・・


3、大海原へ




ゴールドが どこまでも続く青色を見続けて、すでに半日が経過していた。
先ほどから雲行きが怪しくなり、果てしなく続く不安を よりいっそう大きいものへと変えてゆく。

「アクア、空、曇ってきたね・・・」
灰色の空を見つめながら、ゴールドは アクアに話しかけた。
もちろん、船を進めるのに必死なアクアが 答えられるわけがない。 誰かに話していないと 気が狂いそうだったのだ。

夏場の暑さでやられないよう、ディアもモンスターボールに戻してしまったので、ゴールドは360度続く水平線を見つづけるしかなかった。
進めど進めど 同じ景色が続くので、ゴールドも気が遠くなってくる。



「・・・・・・!? 戻れ、アクア!!」
時間的に タンバまでの行程を 大体3分の1くらい行った辺りで、ゴールドは突如顔色を変え、叫んだ。
小さな手の上で光るモンスターボールを、青い顔をして見つめている。

「・・・体に塩がついて、侵食し始めてるじゃないか・・・
 どうして、こんなになるまで、何にも伝えなかったんだよ・・・」
モンスターボールの中のアクアは、力尽きたのか ぐったりとしたまま動かない。
ゴールドは 小船の底を ごんッ と、こぶしで殴りつけた。

(・・・そっか、もともと 海に住むポケモンじゃないから、海水に慣れなかったんだ・・・
 ぼくが・・・ぼくが、もっと 早く気付いていれば・・・・・・)

頬を伝って、熱いものが船底に ポタッと落ちた。 それと一緒に 冷たい雨がゴールドの首筋にはねる。
こんな所で泣いていても、体力を取られるだけで無意味な事だ、と 頭では分かっていても、自力で止める事が出来ない。
「・・くっ・・・バカ・・・・泣くな、ゴールド・・・」
灰色の雲で 空と海の境界線が見えなくなった 果てしない空間の中で、小さな少年はボロボロと涙を流しつづけていた。


「・・・フイッ!!」
腰につけていたボールの中から、茶色いポケモンが 指示もないのに勝手に飛び出す。

「・・ホ・・ワイト・・・?」
小さなポケモンは、ゴールドのことを キッと睨むと、突然 その額に向かって『ずつき』で攻撃してきた。
攻撃は 見事命中し、ゴールドは額の痛みにうずくまった。

「・・・痛ったー!! 何すんだよ、ホワイト!!」
「フィッ、フィフィ、キュ!!」
言葉が通じているわけではないが、何を言いたいのかは 大体分かる。
ゴールドは 額を押さえたまま 押し黙った。

「ごめん、ぼくが悪かったよ。 こんなとこで泣いてたって しょうがないもんね・・・
 とにかくアクアが泳げないんだから、他のポケモンを探すしかないよね。
 ホワイト、手伝ってくれる?」
この考えには、ホワイトも賛成のようだ。自分の頭ほどの大きな尻尾を振り、戦闘態勢を取ってやる気があることをアピールした。


さらに、1時間ほどが経過した。
ゴールドは食料として持ってきたパンを、海に向かって パラパラと撒いている。
雨が降り始め、2人(1人と1匹)の体力を奪うが、それでも 彼らは止める気はないようだ。

「やっぱ、浅いとこだと メノクラゲくらいしか見つからないね・・・
 船を引っ張るくらいの大きいポケモンって、なかなか見つからないんだ・・・」
ゴールドが弱気な発言をすると、ホワイトがまた睨みつける。
次第に荒れ始めた海の上で、それでもなお、2人は命がけの『ポケモン探し』を続けていた。


ザバッッ!!!

大きな影が上空をかすめ、ゴールドとホワイトは 思わず目で追った。
2メートルはあろうかと思われるポケモンは、黒色に染まった海の中に沈むと、船の周りを 旋回し始める。

「・・・ホワイト!!
 今の、おっきかったよね、捕まえよう!!」
ホワイトは『当たり前だ』といった感じで、すでに揺れる船の上で 腰を低く構え、いつでも飛び出せる態勢に入っていた。
ゴールドも立ちあがろうと試みるが、船がぐらぐらして、すぐにひざを落とした。

海の中を進むポケモンは、海中に影こそ見えるが、2人は 水中に攻撃する手段を持たないので
次に ポケモンが飛び出す瞬間を狙うばかりで、自分からは何も出来ない。
「フィフィ、フィーフィキュイ!?」
「『ぼくが海に飛び込んで様子を見てくれば』って!?
 ホワイト、むちゃくちゃ言うなよ、ぼくは・・・・・・」

次の言葉を続けようとしたのと、イーブイの言葉を理解したのに気付く前に、
ゴールドの足元は大きく揺れ、波が暴れまわる海の上に ゴールドは放り出された。

(・・・・・・泳げない・・・のに・・・)

激しく荒れる 海の向こうの島のような影、自分が作った水泡と 海越しの空を見ると、
あっという間に ゴールドは気を失い、暗い海の底へと沈んでいった。





『なんで、泣いてるんだ?』
頭の中に どこかで聞いた覚えのある 少年の声が響く。

(・・・・・・だれ・・・?)

ゴールドは頭の中で尋ねる。 しかし、声だけの少年は 答えなかった。
心の底が暖かくなる『その声』は 思い出すだけでも安心できる。
ゴールドは、次第に 夢の底へと沈んでいった。

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