幕間劇、海の間の名も無き島で




『・・・とにかく、ゴールドは ボクと遊ぶって約束してるんだから、
 もう2度と こんなことしないでよ!?』
ゴールドよりも いくらか小さい子供のような声が『その場所』に木霊(こだま)した。

息を吸おうとしたとき、のどの奥で水泡がはじけて ゴールドは軽くむせ込む。
体全体、力が入らないが その咳がスイッチとなり、ようやく うっすらと目を開ける事が出来た。
『・・・目覚めたようだな。』
今度は、少々 年をとったような、男の声。

『うん、それじゃボクは もう行くから。 またね、ゴールド♪
 早く 記憶が戻るといいね。』
ゴールドのほおに ぺんぺん、と 軽く叩くような感触を残すと、その物体は、いずこかへ去っていった。
子供のような声の主は なんとなく 以前会ったような気がするが、思い出そうとすると 頭が痛くなる。



『ゴールド、ゴールド!! おい、大丈夫なのか!?』
ゴールドは 柔らかい肉球で ほおを何度かつつかれた。
「ホ・・・・・ワイ・・ト・・・?」
目がかすんで ほとんど前が見えないし、ほおをつついた主が そう決まったわけではないが、ゴールドは なぜか直感でそう思った。

『そーだよ、・・体、平気か?』
「・・・・・・気持ち悪い・・・・」
ゴールドは わざと甘ったれた声を出す。
ホワイトは自分より ずっとずっと小さなポケモンだが、今は なんにでも甘えたい気分だ。

「・・・ねえ、ホワイト、ぼく・・一体・・・どうなってたの?」
『嵐が来て、海に放り出されてたんだよ。 覚えてないのか?
 そのあと あのでっかいポケモンに助けられてさ、今 アサギとタンバの中間の ちっこい島の中!!』
ゴールドは頭の中で これまでの状況を整理した。
体力が低下したせいで 著しく思考回路が鈍るが、それでも少しずつ 自分の置かれている状況を把握していく。


「・・・・・・・・・つまり、・・・」
ゴールドは ゆっくりと起きあがる。
体中の血液が 不規則な流れ方をして 頭ががんがん痛くなり、ゴールドは 思わず目をつぶった。
「ぼく達は まだ タンバまで着いてなくって、アカリちゃんも治ってない。
 おまけにポケモンも捕まえたわけじゃないから、まだ誰も、全然助かってない。
 ・・・・・・そういうことだよね? ホワイ・・・・・?!」

目の前で ゴールドのことを心配して 覗きこむように見つめているポケモンを、ゴールドは思わず 見つめ返した。
『・・・・・・何だよ?』
ポケモンの常識に逆らって 人間の言葉で ゴールドに突っかかってきたポケモン。

それは、ゴールドとホワイトが エンジュの街で見た、
全身真っ白な短い毛で被われ、ゴールドの上半身ほどの大きな体、
先が2つに分かれた長い尻尾、長い耳に、紫色の透き通るような瞳、そして、額についた赤い透き通った宝石。
ゴールドが 今まで知っていた どのイーブイの進化系とも違う、全く別の種類のポケモンが『ホワイト』としてそこにいた。

「え・・・あの、ホワ・・・イト?」
ゴールドは 突然変貌した 自分のパートナーに おそるおそる声をかける。
『え? ああ、さっき海で・・・な。
 別に気にする事ないだろ、心まで変わってるわけじゃないしさ。』

ゴールドは首の辺りがくすぐったくなり、進化したホワイトのしなやかな体を ぎゅっと抱きしめる。
『な、な、なんだよ!? 気持ち悪いな!!』
「怖かったぁ〜・・・・・・」
ようやく ホワイトが ゴールドの体を突き放すと、ゴールドは また ぽろぽろと涙を流し、泣いていた。


『それよりさ、助けてもらったんだから、ちゃんと 礼ぐらい言うべきだぞ?』
「・・・誰に?」
ホワイトは 長くなった首を フイッと動かし、ゴールドの背後を示した。
「・・・後ろ・・・?
 ・・・・・・・・・・・・どっひゃあぁ〜!?」


天まで届きそうな、巨大な流線型の体、銀色の羽根に包まれた翼、空気も切り裂きそうな鋭角な羽の付いた長い尻尾。
どんなポケモンにも似ていない、力強い印象を受けるポケモンが ゴールド達のことを見下ろしている。

『シツレイだぞ、ゴールド。
 ルギアは、海の『神様』なんだから、そんな 顔見ただけで驚いちゃ・・・』
「・・・ルギア?」
ゴールドはきょとんとした顔で ホワイトに尋ねる。

『私の名前だ。』
巨大なポケモンが 人間の言葉を発し、ゴールドはまたまた仰天した。
「しゃ、しゃべれるの!? って、あーッ!!
 そーいえば ホワイトも、さっきから、ヒトの言葉、・・・・・・えっっ!?」
自分を取り囲んでいる奇妙な状況に ゴールドはようやく気付き、ようやく 我を取り戻す。
『て・れ・ぱ・しぃーだよ。 頭で考えたことを 直接 相手に伝えるんだ。
 もっとも、ルギアのほうが、オレより ずーっと力が強いんだけどさ!!』
ホワイトがひねくれ口調で 呆然となっているゴールドに説明する。


「ほえ・・・あの、えと、・・・ども ありがとう、ルギア!!」
しばらくの間を置いて、ゴールドは ようやく口を開いた。
『礼を言うのは 相手が違う。 私は この島にお前達を呼んだだけだ。
 お前達を ここまで運んできた その『マンタイン』に、礼は言うべきではないのか?』

ゴールドはルギアが差した先・・・自分の足元を見つめた。
今まで 自分が地面だと思っていた場所、そこは2メートルはあろうかと思われる、ルギアほどではないが 大きなポケモンの背中だった。
海中に隠れて顔は見えないが、ざらざらとした群青色の皮膚の上に、ペンキで塗ったような白い2重の丸模様が4つ、
背中に2つと、翼のような形をしたひれ、左右のそれぞれ1つずつについている。

「ありがとう、えーっと・・・」
『マンタイン。』
「マンタイン、ありがと。 捕まえようとしてたのに・・・優しいんだね。」
ゴールドが 1杯の笑顔で微笑むと、足元のポケモンは 照れたようにゆらゆらと揺れた。



『・・・それで、』
ルギアが口を開く。(・・・と言っても、実際には口は開いていないのだが)
『お前達は、これからどうするのだ?
 私も、いつまでも よそ者のお前達を この島に置いておくことは出来ないのだが。』

「そりゃ、・・・ねえ?」
ゴールドは ホワイトと視線を合わせた。
『オレ達、アサギシティの 灯台のポケモンの薬をもらう為に 海を渡ってたんだから、タンバまで行かないと。
 だけどさ、ここまで来る間に手伝ってた奴、海水に慣れなくて 体、崩しちまったから・・・』

ホワイトの言葉に反応するかのように 足元のポケモンが動き、ゴールドは態勢を崩しかけ、思わず 群青色の体を掴んだ。
ルギアが、優しい口調でゴールドたちに伝える。
『マンタインが、お前達を タンバまで運ぶと言っているぞ。』
「ルギア・・・この子の言葉、分かるの!?」

驚いたゴールドに対し、ホワイトが口を挟んできた。
『オレより力が強いって言ったろ?
 ルギアは 全部の奴とコミュニケーションが取れるんだよ。』
「そっか、強いんだ・・・ルギア・・・」
ゴールドが感心して しげしげと顔を眺めると、ルギアは優しく微笑んだ。





「それは、お世話になりましたッ!!」
ゴールドは 広々としたマンタインの背中から、ルギアに向かって ぺこっと1礼した。

『ゴールド、お前のような人間なら こちらも歓迎だ。
 気が向いたら、また遊びに来い、この羽根が お前を導いてくれるはずだ。』
ルギアはそう言うと、自分の羽を1枚抜き、ゴールドに渡した。
手のひらに納まるほどの小さな羽根は、キラキラと銀色に輝いている。


「・・・あれ、ルギア、どうして ぼくの名前を・・・?」
『さあ、どうしてだろうな。』
ゴールドは よくは分からなかったが、とりあえず笑顔を作ると、マンタインに タンバまで行くよう『お願い』した。


5時間後、彼等は 荒波に囲まれた町までたどり着く―――――


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