<各話の1番最初に飛べます>
4、3人の主人公 5、誘い 6、お早い回復で…
4、3人の主人公
『うん、アカリちゃん、もう すっかり元気よ!!
熱も引いて 今ベットの上で寝てるわ。』
受話器の向こうから クリスの はきはきした声が響いた。 病院の電話の前で ゴールドは にっこりと微笑む。
「そっか、ピーたろう、ちゃんと到着できたんだね。 よかったぁ〜。」
『ねえ、ゴールド。
そのピーたろうだけどさ・・・あれ、ピジョットよね?』
電話の向こうからは 疑問形で話す クリスの声が聞こえる。
「うん。」
『あんな ゴールドより大きいポケモンがいるんだったら、どうして 乗って帰ってこなかったの?
『空の道』がわからないから、行きに使えなかったっていうのは分かるけど・・・・・・』
クリスの長ゼリフの意味を ゴールドは15秒くらい考え込んでいた。
『・・・ゴールド、ゴールド?』
「え、ああ、なに?」
『だーかーらー、どうして ピーたろうと一緒に アサギまで帰ってこなかったかってこと!!』
ゴールドは あごと肩で受話器をはさみ、ポンッと手を打った。 どうやら、クリスの言った意味が 理解できたらしい。
「ああ、なるほど・・・要するにね、『ピーたろうと帰ってくることが出来なかった』んだよ。
タンバにつくまでに、結構 色々トラブルがあって・・・、今、病院なんだ。」
『病院!? 人間の?』
クリスの すっとんきょうな声が ロビーに木霊する。
「うん、人間の。
でもさ、いろいろ いいことあったよ。 昔のこととか、思い出したし・・・」
ゴールドは 電話の向こうからは 見えないと分かっていてはいたが、にこっと微笑んだ。
『昔のことって・・・・・・』
クリスが まるで お化けの話を聞くときのような声をだす。
「うん、ちっちゃい頃、いじめられてた事とか、どうして いじめられてたのか、その時会った 男の子の事とか、
どうして、このパーカーを いっつも着てるのか・・・とかね。」
『・・・パーカー?』
「クリスは知ってるよね、僕が ポケモンと話せるっていうの。
ちっちゃい頃、それをみんな怖がってたみたいで、『化け物』と話せるからって、僕いっつも 仲間外れにされてたんだ。
でも、淋しかったから、近所の 同じくらいの年の子供と遊ぼうとしたら、その親が 怒って怒って!!
しょっちゅう 石、投げられてた。
それでさ、いつも 長袖のパーカー着てたんだ。 少しでも 傷にならないようにって・・・」
ゴールドは まるで他人事のように 淡々と話す。
クリスは その話に ショックを受けたようで、しばらく会話が停止していた。
『・・・・・・そっか、そういうことだったんだ。』
しばらくして、ようやくクリスが口を開く。
『酷い(ひどい)よね、ゴールド、何にも悪いことしてないのに・・・・・・』
受話器の向こうで プラスチックが パキッと割れるような音がする。
「でもさ、気味悪いと思うのは 本当だから。
僕が どれだけあがこうが、叫ぼうが、『化け物人間』である事には、変わりないからね。」
ゴールドはクリスをなだめるように 優しく言った。
『・・・殴ってくる!!』
3秒の間を置くと、クリスは突然そう言って 受話器を乱暴に戻す。
「・・・・・なんだ?」
受話器の向こうからは、ツー ツー ツー という 機械的な音ばかりが響いていた。
「・・・・・・一体、なんだったんだろうなぁ?
クリス、何かおかしなこと してなきゃいいけど・・・・・・」
ゴールドは ぶつぶつ言いながら 病院の廊下をとことこ歩く。
本当ならば、すぐにでもポケモンセンターに行って ポケモン達の調子を調べておきたいのだが、
シジマの事件の事もあり、看護婦のおばさんたちがゴールドに監視の目を向け、とても抜け出せるような状況ではない。
「まっ、いいか。
モコモコもいることだし、クリスなら大丈夫でしょ。」
ゴールドは1人で納得し、病室の白いドアを ゆっくりと開く。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「失礼しましたッ!!」
見知らぬ少年が部屋の中にいたので、ゴールドは自分で開けたドアを すぐさま バタン、と閉めた。
(な、なんだぁ? 部屋を間違えちゃった!?
・・・・・・あれ? 204号室、ゴールド・Y・リーブス様・・・・・・ここで合ってる。)
「オイオイオイ・・・ゴールド、おまえの病室、ここで 合ってるってば。
オレ、おまえのこと待ってたんだよ!!」
部屋の前で 百面相をしているゴールドに 部屋の中から出てきた少年が 苦笑いしながら話しかける。
「へ・・・ぼくに?
あの、お兄さん、どちらさまですか?」
ゴールドが質問すると、目の前にいた少年は 一瞬不思議そうな顔を浮かべ、その後笑顔で自己紹介しだした。
「・・・・・・れ? 覚えてないのか? ま、いっか、ずいぶん前の出来事だったし・・・
オレは マサラタウンのレッド、これでもポケモントレーナー!!」
ゴールドより2つか3つくらい年齢が上のような体型。 赤い服、赤い帽子、あちこちを旅してきたことを伺える日焼けした肌。
澄んだ栗色の瞳を緩ませると、レッドと名乗る少年は ニッと 力強く笑った。
5、誘い
「とにかく 入れよ。 病人が休まなくっちゃ、病院の意味がないだろ?」
ゴールドはレッドに促され(うながされ)、病院のベットに ちょこんと座り込む。
病室の中には レッドが連れこんだのか、毛並みの良いピカチュウが1匹、窓辺で海を眺めていた。
「それで、お兄さんが マサラのトレーナーだというのは 分かったんですけど、
・・・・・・僕に 何の用ですか? いつから ここで待ってたんですか?」
ゴールドは 面会用の椅子に座ったレッドを 初っ端(しょっぱな)から 質問攻めにする。
「いつから・・・って、ほんの15分くらい前からだけど?
ロビーで見たら、電話中みたいだったからさ・・・」
「・・・そうじゃなくて、いつから タンバで待ち構えてたのかってことです!!
最近、海が荒れてたみたいで 船も休航してるじゃないですか!!」
「別に『待ち構えてた』訳じゃないんだけど・・・
オレ、アサギでクリスに『ゴールドがタンバに行った』って聞いたから、追いかけてきたんだぜ?」
「変なこと言わないでくださいよ!!
どうやって あの嵐の海を越えて来たって言うんですか!?」
ゴールドは 何でもないように答えるレッドに 食って掛かる。
実際、サーファー達も海に出るのをためらうくらい、ゴールドが出た海は荒れていた。
ゴールドがタンバに到着するまで 嵐は止まなかったのだから、ゴールドの疑問も無理はない。
「・・・だって、オレはポケモントレーナーだから。
こいつらと一緒にいれば、どんなことだって乗り越えられるんだ!!」
レッドが あまりにも自信たっぷりに話すので、さすがのゴールドも それ以上、追求する気にはなれなかった。
「・・・・・・それで、レッドさん・・は、僕に何の用ですか?」
ゴールドは何とか気を取りなおして、話題をもとに戻す。
「あ、そうだった。 ん〜っと、どっから 話せばいいんだっけ・・・・・・
あ〜そうそう、あのさ、『やけたとう』で 伝説のポケモンに会ったって、本当か?」
唐突(とうとつ)に話を切り出されたので、ゴールドは あからさまな警戒態勢を取ってしまう。
「うあちッ!! いってー・・・なんだよ、ピカ!!」
窓辺でくつろいでいたピカチュウが レッドに向けて電撃を放つと、レッドのポケットから 何かをくわえてゴールドに見せた。
それは、赤い表紙、そして、形は若干(じゃっかん)違うものの ゴールドの『それ』と同じ・・・
「・・・これ、ポケモン図鑑!? どうして、レッドさん、これを・・・・・・」
驚いた様子で尋ねるゴールドを見て、レッドはどうやって説明すれば良いのかようやくわかったようで、『ああ』と大きくうなずいた。
「オレも、オーキド博士から『ポケモン図鑑』を受け取ったんだよ、3年前に。
それでさ、本題に入っていいか?
あのさ、ロケット団が伝説のポケモン達を狙っているらしいって、オレの所に連絡が入ったんだ。
3年前の話だけど、ロケット団が活動していた時にも、そういうことはあった。
今回の話も、ロケット団が復活した今となっては、真実味がありすぎると思わないか?」
ゴールドは大きくうなずく。
「ロケット団が 伝説のポケモン狙っているっていうのは 多分本当だと思います。
半月前に、実際に『やけたとう』が ロケット団に襲われたんです。」
レッドはゴールドの話をまじめに受け止めると、話を続けた。
「・・・それも、話で聞いた。
それでさ、今はまだ、その伝説のポケモン達は ロケット団には捕まっていないみたいだけど、このまま放っておくと、いつか捕まってしまうかもしれない。
だから、その前に・・・・・・・・・」
「ロケット団を倒す。」
ゴールドが 口を挟む。
もとより、シルバーにロケット団の話を聞いたときから ゴールドはそのつもりだった。
レッドはその言葉に 人差し指をすっと立てて 話を続ける。
「・・・それもあるけど、選択肢はもう1つ、『ロケット団に捕まる前に伝説のポケモンをオレ達が捕まえる』。
これは、おまえ達じゃなきゃ、出来ないことなんだ。」
レッドの言葉に ゴールドは首をかしげた。
「・・・どうしてですか?
ポケモンはポケモンなんだから、別に、僕じゃなくたって捕まえられるでしょう?」
「おまえじゃなきゃ、だめなんだ。
1ヶ月前、オレはある調査で『アルフの遺跡』ってとこに行った。 そこで会ったポケモンが言ってたんだ。
『伝説のポケモン、エンテイに ゴールドが選ばれた』・・・ってさ。
そりゃ、もしかしたら ちからずくでモンスターボールの中に押し込むことは 出来るかもしれないけど、
オレだってトレーナーだ。 ポケモンの気持ちくらい、尊重したいからな。」
ゴールドはその言葉を聞いた後、しばらく黙っていた。
不思議な気分だった。 今まで 1度だって自分が『選ばれた』存在だなんて、思ったことはなかったからだ。
「『エンテイに選ばれた』ことを、どう受け止めるかは ゴールド、おまえの自由だ。
ただ、ボスを失って前後不覚になっているロケット団が この先どんな行動に出るか、誰も予測がつかないから・・・
だから、オレは ロケット団をぶっ潰すまで、ゴールドについていきたいと思ってるんだ。
今日はその相談をしにきた。」
ゴールドは沈黙を続けていた。
事態が 自分で思っているよりもずっとずっと大きい気がして、どう答えればいいのか、考えもつかない。
「答えは、急がなくてもいいさ。
エンテイだって、『伝説のポケモン』って呼ばれてるくらいだ、そう簡単に捕まりはしないさ。
体が治ったら、ジム戦だってあるんだろ?
オレは、ゴールドが答え出すまで 待ってるからさ。」
その言葉を聞くと、ゴールドは 何だかちょっとだけ安心したような気分になった。
「それじゃ、オレはそろそろ・・・・・・」
「・・・・・・あっ、レッドさん!!」
ピカチュウを肩に乗せて 病室から出ようとするレッドを ゴールドは引きとめた。
「なんだ?」
「レッドさんって、トレーナー、なんですよね? ポケモンリーグとかって、でたこと・・・・・・」
レッドは、振りかえると にかっと 自信を持っているような笑い方をした。
「優勝した。」
「・・・・・・・・・へっ?」
ゴールドに二の句(にのく)を継がせず、レッドは 病室の白いドアを閉めた。
6、お早い回復で・・・
「ふ・・・あぁぁ〜・・・・・・・・・・あれ?」
翌朝、ベットから降りたゴールドは 自分の体調の変化に 思わず両手を見つめた。
医者が『5日はかかるだろう』と言われた疲労だったのにも関わらず、たった2日で全身の痛みが消えていたのだ。
ゴールドはベットから降りて ぴょんぴょん跳ねたり、腕や足をしきりに伸ばしたりしてみた。
なんだか、とても調子がいい。
「・・・へへっ、これなら どんな事だって 乗り越えられちゃいそうだね!!
ねえ? ディ・・・・・・・」
ベットの方に向き直って 初めてゴールドは 今、ポケモン達が自分の近くにいないことに気付いた。
先日、ポケモンセンターに預けたまま、病院にカンヅメ状態で、引き取りに行かれないのだ。
「っはよ!!(おはよう) ゴールド!!」
まだ 朝も早い時間だというのに 窓辺から話しかけてきたのは(面会時間にならないので中に入れないのだ)レッドだった。
「おはようございます、レッドさん!!」
「『レッド』でいいって、年だってそんなに違わないから、タメ口でも。
なんか、調子よさそうだな、体、もういいのか?」
ゴールドは腕を曲げて、『元気いっぱい!!』のポーズをとってみせた。
「はい!!
・・・・・・じゃなかった、うん、もうすっかり元気!!」
レッドはその言葉を聞くと、意地悪っぽく微笑んだ。
「そっか、それじゃ、これは もういらないかな〜?
今朝取れたばっかりの ハピナスの『コウ』特製の、『栄養満点・採れたてタマゴ』!!」
「いるっ!!」
ゴールドは子供のように(子供だけど)はしゃいだ。
「・・・・・・だけどさ、そんだけ 体が大丈夫なんだったら、もう病院にいる必要、ないんじゃないか?」
特製の目玉焼きを 嬉しそうにほおばっているゴールドに レッドは何気なく質問する。
「うん。 もう全然大丈夫なんだけど、
でも、ここ入る時にお医者さんが『5日から1週間はかかるだろう』って言ってたから・・・
・・・・・・出してくれるかどうか・・・」
「・・・ゴールド、ほっぺたの辺り、黄身でべちょべちょだぞ?
だったら、オレが 話し、つけてやろうか?」
レッドの提案に ゴールドは目をぱちくりさせた。
どう考えても、13〜14位の少年の話を まともに取り合ってもらえるとは思えない。
「・・・大丈夫?」
「へーきへーき!! そこはもう、権力で 押しきっちゃうからさ!!」
・・・1時間後、ゴールドは見事に退院できていた。
「・・・・・・レッド、一体 どんな手を使ったの?」
「秘密。
それよりも、さっさとジム戦行こうぜ!!
ゴールドのポケモン達だって、早くゴールドに会いたくて うずうずしてんじゃねーか?」
レッドの言うとおり、ポケモンセンターで ゴールドの帰りを待ちわびていたポケモン達は
ゴールドがセンターに自分達を引き取りに来るなり、最大級の歓迎をした。
抱きついたり、顔と顔をこすり合わせたり、『のしかかり』で 愛情表現をしてきたり・・・・・・
『おせーよ!! ゴールド!!
まったく、こっちは ディアがビービー泣き出して、なだめんの大変だったんだからな!!」
ホワイトが テレパシーで檄(げき)を飛ばしてくる。
「ごめんごめん、でもさ、5日が2日に早まってんだから、ちょっとは 優しくしてくれたっていいじゃん?」
『まったくもう・・・・・・おまえ、俺達のトレーナーなんだから、ちょっとは気をつけろよな!!
・・・・・・おかえり。』
「ただいま、ホワイト!!
タンバジム、すぐにでも行きたいと思ってるんだけど、そっちこそ 体調は万全だろうね?」
『当たり前!!』
「それじゃ、行こう!! タンバジム!!」
ゴールドが叫ぶと(明らかにセンターの人から睨まれている) ポケモン達は一斉にモンスターボールの中に戻った。
器用に それを全部受け止めると、パーカーについたボールホルダーに取りつける。
最後にカイトの入ったモンスターボールを受け取ると、ゴールドはレッドの方に向き直り、笑顔で話しかけた。
「それじゃ、タンバジム行ってくる!!」
「え・・・ああ、うん、気をつけて。」
考え事をしていたように レッドは気付いたような口調でゴールドを送り出した。
自分のポケモンをセンターに預ける最中、ジムに向かって走り出すゴールドの背中を見ながら レッドはつぶやいた。
「・・・・・・あれは・・・・・・『サン』?
・・・まさか、な。」
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