<各話の1番最初に飛べます>
7、小島のジム 8、小さなエース



7、小島のジム




「おう、ゴールド。 体はもういいのか?」
タンバジムで自己鍛錬を行っていたシジマは ゴールドを見るなり、鼓膜の破裂しそうな大声で話しかけた。
「はい!! もうすっかり元気になりました!!
 ジム戦、受けてくれますよね!!」
ゴールドも シジマに負けじと 腹の底から大声を出す。
「おお!! もちろんじゃ!! まっとれ、今 準備してくるわい!!」



「もう 他のジムでもやったと思うが、使用ポケモンは 両者2体ずつじゃ。
 どちらかのポケモンが 全員倒れるまで行う!! いいな? ゴールド。」
ひたっすらに 黄土色の地面の広がるフィールドで シジマは地面が張り裂けんばかりの大声をあげた。
「わかりました!! 早く始めましょう!!」
ゴールドは 赤と白のモンスターボールを構えた。

『始めッ!!!』

場内のアナウンスが流れると同時に ゴールドは持っていたボールを 振りかぶって放り投げた。
「ミドリ、『やどりぎのたね』!!」
ゴールドは開始するなり いきなり奇襲をかける。
ミドリは まだボールから出て来ているかどうか分からない影に向かい、苔色の種を弾き飛ばした。

「・・・なるほどな、いきなり攻撃とは、良いスピードをしておるわい。」
シジマは 年のせいか広い額をぬぐった。
『やどりぎのたね』は、間1髪のところでかわされ、フィールドの上で茶色い玉となって転がっている。
「だが、わしのオコリザルとて、毎日修行を積んできたんじゃ。 そう簡単にやられはせんぞ!!」

ぎりぎりのところでミドリの攻撃をかわしたのは 顔の真ん中に大きな鼻をつけ、茶色い毛が突っ立った、
いつも額に怒りの4つ角をつけている ぶたざるポケモン、オコリザル。

オコリザルは頭から湯気を立て、フシューッ といった鼻息も荒く、足で地面を蹴り上げている。
「オコリザルの怒りは 絶好調のようじゃな。 一筋縄ではいかんぞ? さあ、どうする?」
シジマは ゴールドを挑発する。


「どうした? 来ないのなら、こっちからいくぞ!!
 オコリザル、『からてチョップ』!!」
シジマが怒鳴ると、オコリザルはミドリに向かって突進し、前足(手?)を 振り下ろす。
「今だミドリ!! 『はっぱカッター』!!」
ゴールドは オコリザルの『からてチョップ』が ミドリに振り下ろされる直前、ミドリに向かって叫んだ。
ミドリが出した『はっぱカッター』は オコリザルの額に命中し、茶色のポケモンは フィールドの端まで吹き飛ばされた。

「・・・ごめん、ミドリ。 もうちょっと 早く言ってればよかったね。」
ゴールドの言葉に対し、ミドリは 軽く首を横に振った。
その額には、はっきりと 打撲の跡が残っている。 『からてチョップ』が命中したのだ。
ゴールドは オコリザルのほうを見た。 『はっぱカッター』でずいぶんと体力は減ったようだが、かろうじて まだ起き上がっている。
「・・・ミドリ、まだいける?」
「りーふ!!」
ミドリは長い首で ゆっくりとうなずいた。


「オコリザル!!」
シジマの叫ぶ声が聞こえ、ゴールド達が反射的に構える頃には もうオコリザルはミドリに掴み(つかみ)掛かっていた。
「・・・速いっ!?」
「『ちきゅうなげ』じゃあ!!』
オコリザルは ミドリを掴んだまま飛びあがると そのままミドリを下にして落下する。
「『たいあたり』!!」
ゴールドはとっさに指示を出した。
ミドリは 反射的に長い首を使い、オコリザルに頭突きすると、体の位置を入れ替えようと必死で暴れまわる。

「ミドリ!!」「オコリザル!!」
2匹のポケモンは 同時に地面に墜落した。
ゴールドが駆け寄ると、ミドリは脳震盪(のうしんとう)でも起こしたのか、目を回し、動けなくなっている。
「同時・・・か、やるの、ゴールド!!」
目を向けると、シジマはオコリザルをボールに戻していた。
ゴールドはミドリのひたいを軽く撫で、「おつかれさま」と言うと、赤と白のモンスターボールの中にミドリを入れた。



「さあ、休んでいる暇なんぞないぞ!! 2匹目じゃあ!!」
シジマは 持っているもう1つのボールを足元に投げる。
中から飛び出したのは 小柄ながら、引き締まった黒い肉体、腹には渦巻き模様を持ったポケモン。
おたまポケモンの『ニョロボン』だった。

「あ〜・・・薬屋から帰る時に 僕の前に出してきた子だ・・・」
ゴールドはあまり驚いた様子もなく、次に出すポケモンを選んでいる。
「・・・だったら、この子ッ!!」



ゴールドがモンスターボールを投げると、シジマとニョロボンは『!?』といった表情で ゴールドと出てきたポケモンを見比べた。
「・・・ゴールド、まさか本気で そのポケモンで戦うつもりなのか?」
シジマが 信じられないような声で ゴールドに質問する。
「そうですよ?
 こねずみポケモン、ピチューの『ディア』!!
 ジム戦は 今日が初めてなんですけどね。」


8、小さなエース




「それじゃ、ディア、お願いします!!」
ゴールドは 30センチあるかないか分からない位の 生まれてから1ヶ月も経っていないポケモンに向かって ぺこっと頭を下げた。
ディアは にこっと笑うと、相手を威圧するような 黒い体のポケモンに向かって戦いの構えを取る。
・・・ポケモンの 天性的な本能なのだろうか?



「その小さな体で 何をするかは知らんが、手加減はせんぞ!!
 ニョロボン、『ばくれつパンチ』じゃ!!」
ニョロボンは大きく振りかぶると 太い腕をディアの小さな体に向かって打ち下ろしてきた。
ディアは 体が小さいせいもあってか、ぎりぎりで避けるが、地面の振動で1メートル近く転がった。

「ディア『でんじは』!!」
ゴールドが叫ぶと ディアは小さな電気袋の中に電気を貯め、ニョロボンに向かって打ち出した。
ディアの打ち出した電撃は 特殊な波となり、ニョロボンの体をしびれさせる。


「よ〜し、それじゃ『てんしのキ・・・・・・え?」
ゴールドは『てんしのキッス』という 相手を混乱させる技を使おうとしたのだが、ディアは 激しく首を横に振る。
明らかに『いやいや』のポーズである。
「ぴぃう〜・・・」
ディアは目で訴える。
「・・・嫌なの? ・・・・・・それじゃ、『でんきショック』!!」

ゴールドが仕方なしに別の技を指示すると、ディアは途端に元気になり、ニョロボンに向かって目一杯の電撃を放つ。
生まれたばかりのポケモンのものとは思えないほど 強力な電撃は命中し、ニョロボンは 瀕死寸前のところまで追いこまれた。
「気合じゃ ニョロボン!! 『のしかかり』じゃあ!!」
シジマが怒鳴ると、ニョロボンは起きあがり、ディアの3〜4倍はある体を 小さな体目掛け 打ち付けてきた。



「・・・・・・ディアッ!!」
―――ニョロボンの引き締まった肉体に ディアの小さな体は押しつぶされた、 誰もがそう思った。
「・・・終わったな、早い所 その小さなポケモンをセンターまで連れて行ってやることじゃ。」
静まり返った空間に シジマのかすれ声が響く。


「・・・・・・ぴぃう!! ピチュー、ピピィ!!」
フィールドの上から響いてきた 甲高い鳴き声に 一同の鼓動は早まる。
「ディア!!」
小さなポケモンは 前の戦いでミドリが外した『やどりぎ』の中に身を潜めていた。
茶色の枝と 黄土色の土で 保護色となって見つからなかったのだ。

「すぐに攻撃が来るよ!! ディア、『でんきショック』!!」
ゴールドは急いで指示を出す。 『今』以上のチャンスは そうそう訪れないだろう。

「ぴぃ!!」
ディアは顔を上に上げ、空気中の電気を集め始めた。
雷エネルギーが体に溜まり、ひし形の耳は ピンと真っ直ぐに立つ。
「い!?」
ゴールドは 体中の産毛が逆立つのを感じた。
今まで同じ『でんき』タイプのモコモコと何度も戦ってきたが、モコモコが ここまでエネルギーを蓄積したことは1度だってない。
体にたまっている電気の量が 尋常(じんじょう)ではないのだ。


「ひるむな ニョロボン!! 『じごくぐるま』!!」
ニョロボンの黒い体が ディア目掛けて 突っ込んでくる。
ディアは1度 きゅっと目をつぶると、自分自身目掛けて走りこんでくるニョロボンを睨みつけた。
そして、体中に溜まった 大量の電気を一気に放出する。





「・・・・・・な、何が起こったの?」
耳を壊すような爆発音、目を眩ませる閃光がフィールドいっぱいに広がり、ゴールドは しばらく何が起こったのか把握できなかった。
おそるおそる チカチカする目を開くと、目の前には黒い体が なおさら黒くなっているニョロボンが転がっている。
それだけではない、さっきまで 黄土色をしていたフィールドの地面も
半分近く・・・ディアの立ち位置より前は 真っ黒焦げになっていた。

「・・・ニョロボン!!!」
シジマが倒れたまま ピクリとも動かないニョロボンに駆け寄る。
その行動を見て、ゴールドはようやく我に返った。

「・・・そうだ、ディア!!」
ゴールドはフィールドの上で ぼーっと立ったままのディアに駆け寄った。
「・・・・・・ぴぃう?」
1メートル近くまで近寄ると、ディアはゴールドの存在に気付いたらしく、顔を向けた。
自分自身でも驚いたらしく、目をひっきりなしに瞬かせ、顔が少々、火照った(ほてった)ように赤くなっている。



「あの・・・シジマさん、ニョロボンは・・・・・・」
ゴールドは おそるおそる聞いてみた。
「大丈夫じゃ、ただの戦闘不能状態、ジム戦は おまえの勝ちじゃな、ゴールド!!」
シジマは ボロボロのニョロボンをボールに戻すと、ゴールドの方に向き直り、にっと笑う。

「・・・さあ!! 負けちまったもんは仕方ない!! 早いとこ、ポケモン達を回復させてやらにゃ!!
 ほれ、受け取れ、タンバジム公認、ショックバッジじゃ!!」
シジマは茶色の拳(こぶし)の形をしたバッジを ゴールドに投げてよこした。



「ほれ、何をしておる!!
 ゴールド、おまえもポケモンセンターに行くんじゃろ?」
「・・・あっ、そうだった!!
 早く ミドリとディアを回復させないと!!」

ゴールドは ディアの小さな体を ひょいっと抱き上げた。
まだ、少々ピリピリする電気の残った体は 先程まで ジム戦でエースとして戦っていたとは思えないほど 軽かった。

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