<各話の1番最初に飛べます>
1、後となっては笑い話 2、鋼のポケモン



幕間劇1、後となっては笑い話




41番水道、アサギとタンバをつなぐように どこまでも青い海が続いている。
しかし、海はいつも穏やかと言うわけではなく、特にこの41番水道は しょっちゅう荒れ(あれ)て、わたるのが困難なことで有名だった。
今回はそんな 海の上に ゴールドの叫び声が響き渡った所から 話は始まる・・・・・・


「いやだあぁぁ、振り落とされちゃうよぉ〜!!!!
 止めて、とめて、 とぉ〜!めぇ〜!てぇ〜!!!!!」
大きな渦を巻く海流をくぐり抜け、1匹の大きなポケモンが 海の上を渡っていく。
その上で 死にそうな声を出して 必死に助けを求めているのは ゴールドだった。
「なぁ〜に 言ってんだよ、ドラは 止まったら沈んじまうぞ?
 ゴールド、おまえ、ここでドザエモン(水死者のこと)になりたいのか?」
「いやだあぁぁッ!!!」
レッドは 潮風を体いっぱいに受けて 嬉しそうな声で ゴールドに話しかけた。
もちろん、ゴールドの抗議が届くはずもなく、ドラゴンポケモン、キングドラの『ドラ』は 一向にスピードを落とす気配はない。

「この分だったら、あと2〜3時間もすれば アサギまでつきそうだな。
 ・・・よっしゃ!! ドラ、スピードアップだ!!」
「いィ〜やあぁぁッ!!?」
レッドはレッドでスピード狂。
ゴールドの叫びもむなしく、大きなポケモンは ぐいぐいスピードを上げ、海の上を進んでいった。



(こ、こんなことなら、カイトでゆっくり行くんだった・・・・・・)

「な? 速く着いただろ?」
レッドは 遊園地のアトラクションに乗った後のように すがすがしい声でゴールドに話しかけた。
「・・・・・・し、死ぬかと・・・思った・・・
 なんか、・・・『あっち』のほうで・・・・・・死んだはずの ばあちゃんが・・・手を振ってたよ・・・」
「だ〜いじょ〜ぶだって、ドラの安全性は このオレが保証するって!!」
レッドは放心状態のゴールドを見て ケラケラと笑っている。
結局、『2〜3時間』と言ったレッドの言葉を無視したように 1時間半で(さらにスピードを上げたらしい)2人はアサギまで到着していた。
本来なら、まる1日は かかる距離を、だ。 ゴールドが 混乱するのも、無理はない。

「ふぇぁ〜・・・・・・『よみ』のくにまで いってきました〜・・・
 おばちゃんとか〜、へるぅとかぁ〜、タツとかにぃ・・・」
ゴールドがぶつくさ 独り言をつぶやいていると、それまでケラケラと笑っていたレッドが 突然、表情を変えた。
「・・・今、何て言った?」
「ふぇ?」
「ゴールド、今、『タツ』って・・・・・・」

レッドの豹変した表情を見て ゴールドはようやく我に返った。
半泣きして 涙のついたほおを軽くこすると 少々寝ぼけた声で 質問に答える。
「言ったよ。 ハクリューの『タツ』。 3年前の夏に 家に預けられたの。
 生物実験で『じょうちょふあんてい』だから、優しくしてあげなさいって、おかあさんに言われてた。」
「・・・それで?」
レッドは先をうながす。
「一昨年(おととし)、落石事故で・・・・・・行方不明に・・・」
言いながら ゴールドはうつむく。 その体は震えていた。

「・・・・・・そっか。」
しばらくすると、レッドは口を開いた。
「優しい奴だったろ?」
ゴールドは レッドの方に向き直った。
迷いもなく 真っ直ぐにこちらを見つめる瞳に向かって『知ってるの?』と、口を開こうとした時、
別の声によって ゴールドの言葉はさえぎられる。



「あら? お帰りになられてたんですか?」
澄んだ声で ゴールドの質問を帳消しにしたのは ミカンだった。
ゴールドが はじめに彼女を見たときより、顔色も良くなり、表情も明るい。
彼女の横には 数日前まで 具合悪そうにベットに横たわっていた デンリュウ、アカリちゃんの姿があった。

「元気になったんだ!!」
ゴールドは 自分が質問しようとしていた事を忘れ、アカリちゃんの回復を喜んだ。
長い首に抱きつき、嫌そうな顔をするまで 撫でまわす。
「あっ!! そーだ!!
 ピーたろうにモコモコにクリスにジム戦!! どうするの?」
デンリュウの長い首に抱きついたまま ゴールドは ミカンに質問した。
1度に4つも質問を受け、ミカンはさすがに混乱しているようだ、長いまつげのついた瞳を パチッと瞬き、次の言葉を考えている。
「え〜と・・・とりあえず、ピジョットなら、私が預かってますわ。 ジムのほうに来てくだされば、お返しします。
 クリスさんと モコモコは・・・・・・」
「じゃー、ジム戦だッ!!」
ゴールドはみなまで言わせなかった。
いつもの笑顔でアサギジムの方まで走り、少し離れたところで『はやく!はやく!』と、2人を催促している。



「はい、こちら、お預かりしていた『ピーたろう』君です。 確かにお返ししましたよ。」
相変わらず ほとんど何もなく、ひたすらだだっ広いジムの中で ゴールドは ピーたろうの入ったモンスターボールを受け取った。
手に取るとすぐさまモンスターボールを開き、巨鳥との再会を喜ぶ。

「・・・んで、どうするんだ?」
ひとしきり喜びを味わったのを確認すると レッドがゴールドに話しかけてきた。
「何が?」
「ジム戦。 今すぐやるのか? それとも、体調を整えて 別の日にするのかって。」
「アカリちゃんが回復したので、私なら、いつでも受けつけられますが・・・」
付け加えるかのように ミカンが口を挟んだ。


ゴールドが答えるまで 時間はかからなかった。
ピーたろうをボールの中に戻すと、自信に満ちた笑顔で はっきり言った。
「今すぐ、お願いできますか?
 思っていたより 早くアサギに来られたから、ポケモン達の体力も 充分残っているはずです!!」


幕間劇2、鋼のポケモン




「いいですか? そちらのポケモンいくら使っても構いません!!
 こちらのポケモン、1体を倒したら、ジムバッジを差し上げます!!」
ゴールドが 豆粒くらいの大きさに見えるまで距離を置いて ミカンは叫んだ。
つまりは、叫ばないと声が届かないくらいまで 遠い所から話しているのだ。


「それでは、ジム戦を始めます!! 行きなさい!! ハガネールッ!!」
ミカンがモンスターボールを投げる。
「『でんこうせっか』!!」
相手の影が見えるか見えないかのうちに ゴールドは自分が持っていたモンスターボールを開き、最初のポケモンに指示を出していた。

ガアンッ!!

「キャウ!! フィーウ!!」
開始早々『でんこうせっか』で相手のポケモンを攻撃しようとしたホワイトは ゴールドに抗議した。
それもそのはず、10メートルはあろうかという 巨大なポケモンは まるで鉄か鋼のように固い金属音を響かせ、
ホワイトの攻撃を はじき返したのである。
「ごめん、ホワイト。 『でんこうせっか』が 効かないとは思わなかった・・・」

目の前に構えているのは 先程も記述(きじゅつ)したように 10メートル近くある 巨大な蛇のようなポケモンだった。
体中が金属色に被われ、いかつい体に一層、迫力をつけている。

「最近 発見されたばかりの新種、『ハガネール』、イワークから進化しましたの。
 アサギジムのミカン、得意なタイプは『はがねタイプ』。 ・・・・・・行きますッ!!」
ミカンの自己紹介が1通り終わると、ハガネールは巨大な体を うねらせながらホワイトに巻き付いてきた。
「伏せてッ!! ホワイ・・・・・・ッ・・」
言っている途中で ゴールドの心臓が 1度、大きく波打った。
耳鳴りがする。

(・・・・・・そうだ、『あの時』も、・・・・・・こんな感じだった。)

ゴールドはバトルの状況を 目で確認する。
岩と岩が連なったような体の間を 何とか ホワイトがくぐり抜けてきたのが見える。
「ホワイト!! 出来るだけ、時間を稼いで!!
 『切り替える』!!」
ホワイトのシオン色の瞳が こちらに向けられているのが見えた。
その場にひざまずき、瞳を閉じて 周りの音だけに集中する。

岩と岩がうねる音、砂を蹴って走りまわる足音、外の木々の葉と葉がこすれる音、さざなみの音、
ミカンが指示を出す声、レッドの応援・・・・・・ホワイトの、叫ぶ声。

(・・・・・・大丈夫、行ける!!)

「戻れ!! ホワイト!!」
ゴールドは『でんこうせっか』で 必死に逃げ回っているホワイトをボールに戻す。
その瞬間、見えていたのは ハガネールが攻撃を外し、そのまま地面の下に潜って行く所だった。
ゴールドは空を仰ぎ(あおぎ)、ふぅ、と1つ息をつくと 別のモンスターボールに持ち替え、そのボールを まるでフリスビーか水きりのように
アンダースローで 勢いをつけて 投げ飛ばした。
「カイトッ、行けッ!!」
モンスターボールがワンバウンドすると バンッという大きな音とともに勢いをつけたマンタインが 大きなヒレを使い、宙(そら)を泳ぎ始めた。
予想外の展開に 地面の下から出てきたハガネールは 攻撃を外してしまう。
巨大なポケモンのために用意された 必要以上に大きなフィールドを カイトが大きな翼を使い、ゆったりと旋回したのを確認すると、ゴールドは叫ぶ。
「カイト、『バブルこうせん』!!」
カイトは空気の流れに逆らわず、ゆらりゆらり、宙を泳ぎ回ると 虹色の泡を 巨大なポケモン目掛け、発射した。
ダメージは 想像以上のものだったらしく、ハガネールは体に当たり、バチバチと弾ける泡を嫌がり、必死に暴れまわる。

「・・・やっぱり、『イワーク』から進化したポケモンだから、体に『じめん』タイプが残ってる。
 『バブルこうせん』の水分で 体の中の土が溶け出してるんだ。」
ゴールドは独り言を言っただけであったが どうやらミカンに聞こえたようだ。 そのものズバリを言い当てられ、ミカンは顔をゆがめた。
「・・・くっ!! 最後まで勝負は分かりませんよ!!
 ハガネール、『すなあらし』!!」
ハガネールはカイトのことを睨み、地面の上で暇を持て余していた砂を 一気に巻き上げた。
砂が当たって『バブルこうせん』の泡は 命中する前に弾け、風圧でカイトは 何度も吹き飛ばされそうになる。
「さあ、これで マンタインの攻撃は当たりませんよ!!
 勝負は まだついていないんです!!」
「カイト!! 当たらなくていい、『バブルこうせん』を とにかく撃つんだ!!」
ゴールドは 首が痛くなりそうなくらい高い所で ふらふらしている カイトに向かって叫んだ。
カイトは指示通り、四方八方、滅茶苦茶に『バブルこうせん』を 撃ちまくる。 その全てが 砂に当たって弾け、細かい水の粒へと変わっていった。
「無駄です、これだけの砂の中で どうやって その泡をハガネールまで当てるつもりですか?
 早目にポケモンを交代した方が、賢明(けんめい)なのではないでしょうか?」

「・・・ック。」
ゴールドは何かをつぶやいた。
「え?」
「チェック!!
 カイト、『なみのり』!!」
ゴールドが 指で弧(こ)を描くと、カイトは残った力を振り絞り、全力でハガネールの周りを 旋回し始めた。
それと同時に 先ほど弾けていった『バブルこうせん』の水の粒が 大きな水流となり、鋼と砂で出来た体を苦しめる。
やがて、水の力に耐えきれなくなったハガネールは 地響きと砂煙を上げながら バトルフィールドに横たわった。
ゴールドの勝ちが決まったのである。



「はあ、さすがですね。 完敗しちゃいましたよ!!」
バトルが終わって気が抜けたのか、肩の力が抜けた様子で ミカンは銀色のバッジを ゴールドに手渡した。
「考えてみれば、アカリちゃんの時の あの知識の量を見た時点で 負けることは分かっていたのかもしれませんね。
 医者すら持っていなかった知識、荒れた海へと出かける勇気、なにより、ポケモンのことをいたわる優しさ・・・・・・
 それが、ゴールドさんには、あります。
 ・・・・・・きっと、ゴールドさんなら ポケモンリーグでも活躍できますわ!!
 あの、上手く言えないけど・・・・・・がんばってくださいね!!」
それを聞くと ゴールドは 引きこまれそうな笑顔を浮かべた。
「ありがとう!!」


「さぁ〜ってと!! くぅ〜りぃ〜すぅ〜、は どこ行ったんだろ?」
ジムを出ると ゴールドは 夕焼け色に染まった潮風を 胸いっぱいに吸い込みながら つぶやいた。

「なあ・・・」
背後から レッドが話しかける。
「『クリス』って、確か、あの髪を横で2つに分けてる子だろ? 頭に星くっつけた・・・・・・
 あの子なら、チョウジタウンに行ったと思うけど・・・・・・ロケット団追っかけて。」
「え・・・・・・!?」
レッドの言葉で ゴールドの笑顔は 一瞬にして凍りついた。

「だってさ、クリス、『ロケット団を倒すために旅をしている』って言ってたから、
 チョウジの方で ロケット団らしい人物を見かけたって、ブルーからこの間、連絡があったところだし、そっちの方へ行ってみれば?
 ・・・・・・って、オレが・・・」
「なんッちゅーことッ!!してくれるんですか!!!???」
ゴールドに怒鳴られ、さすがのレッドも のけぞってしりもちをついた。
いつも温和なゴールドだけに、たまに怒られると 誰しもが 驚いてしまう。


「『クリスをロケット団に近づけないように』って 僕言われてるんだから!!
 そうか、モコモコ、クリスについていったから だから、いなかったんだ。
 ・・・うわぁ〜・・・・大変だぁ、早く追っかけないと!!」
すっかりパニックを起こし、ゴールドの言葉は もはや 独り言だか 聞かせているのか 分からなくなっている。
手早く もらったバッジを襟(えり)の下に取りつけると ゴールドは ポケモンセンターへと向かって走り出した。

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