チョウジタウン
ようこそ! にんじゃの さとへ!



<各話の1番最初に飛べます>
1、ようこそ、忍者の里へ!! 2、捕らわれた主人公 3、過去にあったこと 4、助け舟 5、『怪盗シルバー』 6、つらい選択 7、四天王登場!



1、ようこそ、忍者の里へ!!




「父上ぇ〜!! はやくいきましょうよ!!」
チョウジタウンの入り口で 1人の少女が楽しそうにはしゃいでいる。
この町では よくある風景だ。
チョウジタウンでは 何百年と昔から 今へと伝統を受け継ぎ、それをテーマパークとして成功させていた。


「早く行ってあげれば?
 今日が 最後の 家族サービスになるかもしれないんだろ?」
人数は4〜5人と言ったところだろうか、傍目(はため)から見ていても 奇怪な格好をした集団の中の 1人の青年が口を開いた。
ホテルマンのような スーツにネクタイ、加えて顔を見せるのを嫌うのか、黒いマスクで顔を被っている。

「そうよ。」
今度、口を開いたのは女だ。 露出のたかい 黒いワンピースで身を包み、ウェーブのかかった長い髪を 肩の前にたらしている。
「今日遊びそこなったら、あの子はジムリーダーとして、あなたは四天王として、挑戦者と戦う毎日が待っているんだもの。
 場合によっては 今日が父親として あの子と遊べる最後のチャンス、早く行ってきなさいよ!!」
「・・・そうだな、では、行ってくる。」
先ほどから 青年や女に話しかけられていた 中年の男はそう言い残すと 娘と一緒に人ごみの中へと消えて行った。

「・・・・・・ワタルは、どうした?」
話に混ざっていなかった 体格の良い男が ここで口を開く。
「さあ? 『彼』も、こっちの方が故郷だからね。
 久しぶりに 帰郷(ききょう)を 楽しんでるんじゃないかな?」
マスクの青年が答えた。





「う〜ん、1ヶ月弱、かぁ。 思ったより 時間かかっちまったなあ・・・・・・」
レッドは ゴールドのポケギアで 時間を確認しながら不服そうにつぶやいた。
「・・・・・・自転車が壊れるまで スピードを上げたりするからでしょ・・・・・・
 ・・・死ぬかと・・・思った・・・・・・坂道入っても、ブレーキかけないんだもん・・・・・・」
ゴールドは 魂の抜けたような声を出すと ふらふらと そこら辺の草っ原に横になった。
ついでに 腰に付いているモンスターボールから 出せるだけポケモンを出してしまう。

『うぁ〜・・・ついたついた、きぶんわりィ〜・・・・・・』
「ぴぅぃ〜・・・・・・」
ホワイトとディアは 出て来るなり 乗り物酔いでダウン。 ゴールドの上に ぼてっと横になった。
他のポケモンたちも多かれ少なかれ、振動で目を回している。


「・・・・・・っとに、サンに似てんな、こいつ・・・」
レッドは ゴールドのわきを枕にへとへとになって休んでいる ホワイトの背中を撫でながら(ホワイトの尻尾に叩かれつつ)つぶやいた。
『・・・誰だよ? 『サン』って・・・』
「『だれ?』だって、ホワイトが。」
ゴールドが通訳する。

「オレの持ってるエーフィ。 今は ちょっと預けてていないんだけどさ・・・・・・」
『ふ〜ん。 ・・・・・・・・・ん?』
ホワイトが何かに気付いたように 首を持ち上げた。
「どしたの? ホワイト・・・」
ゴールドが すっかり『おねむ』モードに入っているディアを持ち上げながら ホワイトにたずねる。
『・・・ブラックが 近くにいる。』



「・・・ってことは・・・」
いつのまにか ごろごろしていたポケモンたちも ゴールドの周りに集まってきた。
『シルバーが、近くにいるってことだよな。
 ・・・ってことは、かなり高い確率で ロケット団も近くにいるってことで・・・・・・
 まずいぞ、早く クリスを見つけないと・・・』
ゴールドはうなずく。

「・・・どうした?」
レッドが口を挟んできて 初めてゴールド達は トレーナーが 1人じゃないことを思い出した。
「な、なんでもない。
 乗り物酔いで 気分が悪くなっちゃったから、早く、ポケモンセンターに行こうって!!」
「・・・おいおい、大丈夫か?」
「えと、へーき? 歩ける? ホワイト・・・」
ホワイトは とりあえず うなずいておいた。
「うん、それじゃ、行こっか!!」

『・・・ゴールド、最近ウソつくこと 多くなってねーか?』
歩く途中で ホワイトがテレパシーで話しかけてくる。
(しかたないでしょ、文句なら ロケット団に言って。)
ゴールドは 口パクで ホワイトに伝えた。



「クリスタル様ですね? はい、確かに3日ほど前から こちらに泊まっていますよ。」
チョウジのポケモンセンターで ゴールドはレッドに内緒で クリスが ここに来ているかどうかを確かめた。
「あの、今、クリスは・・・」
「女の方と一緒に『いかりのみずうみ』を 見に行かれたようです。
 ・・・・・・何か、おことづけでも?」
受付の女性の澄んだ声で質問され、ゴールドは一瞬戸惑った。

「あ、それじゃ、クリスが戻って来たら、『ゴールドに連絡するように』言ってもらえますか?」
「かしこまりました。」
受付の女性は ゴールドの言葉を きれいな字で メモ帳に書き留めた。


2、捕らわれた主人公




『んで? これから どうするんだ?』
ホワイトは すっかり酔いも冷めて 自分の部屋を確保し これから行動するために荷物を整理しているゴールドに向かい、
水をピチャピチャ飲みながら 質問した。
「とにかく、何とかして シルバーに連絡を取ろうと思う。
 ことが ずいぶんと大きくなっているみたいだから、僕達だけで動いても 動きが制限されるし、迷惑をかけるだけだよ。
 シルバーのことは 僕とクリスしか知らないんだから、レッドに知られる前に・・・」
「・・・だぁ〜れに 知られるって?」
ゴールドが青い顔をして振り向くと 部屋の扉にレッドが寄りかかってこちらを睨んでいる。

「・・・まったく、なんだか様子がおかしいと思って来てみれば・・・・・・」
レッドは扉を閉めて ゴールド達に1歩ずつ 詰め寄る。
「一体、1人で何やらかすつもりなんだよ? 口ん中、もごもごさせたりして・・・・・・」
「・・・ディア!!」
「えっ? ・・・うわッ!!」
ゴールドが名前を呼ぶと、ディアは小さな電撃でレッドを攻撃した。
その隙に 用意しておいたかばんを掴むと、ホワイトとディアをボールへ戻し、窓から外へと抜け出す。


ゴールドは1キロくらい離れた所まで来ると ようやく足を止めた。
周りは みやげもの屋やら、食べ物屋やらが建ち並び、人と人がこすれあうくらい ごった返していて、隠れるにはもってこいの場所だ。
「・・・今日ばかりは こういう場所があってよかったって思うよ、ホント。」
ゴールドは ホワイトをもう1度モンスターボールから 呼び出した。
ブラックの気配で シルバーの居場所を探るためだ。

「やあ、坊ちゃん!!
 おいしいしっぽに 大きなキノコ、おおきなしんじゅは いかがかね?
 今なら安くしとくよぉ〜、ここでしか買えないんだ、買っといて損はないぞぉ〜!!」
上下とも真っ黒な服に身を包んだ 怪しげな売り子が ピンク色の三角錐(さんかくすい)状の物体を ゴールドの目の前に突き出してくる。
ゴールドは ピンク色の物体をちらりと見やると ふぅ、と1息ついて つぶやいた。
「・・・・・・まさか、そっちから 出向いてくるとは・・・」
「んん? 何を言ったんだい?」

ゴールドは 黒服の売り子の方へ向き直ると にっこりと笑い、大声で話し出した。
「おじさん!! その売り物、ロケット団からの 産地直送?」
ゴールドの言葉に 辺りはざわめき、売り子は顔をゆがめる。

『ゴールド、後ろッ!!』

ホワイトが異変に気付き、ゴールドに警告した時にはもう遅かった。
次の瞬間、背中に『何か』が 突き刺さり、ゴールドは その場に倒れこむ。
「おやぁ? このお客さん、気分が悪くなったようだ。 店の中で休ませないとなァ!!」
売り子は 何やら口をパクパクさせている ゴールドの腹にひざ蹴りを入れ、そのままゴールドを担いで 怪しげな店の中へと消えていった。





(・・・・・・あれ?)

ゴールドは暗闇の中で 目を覚ました。
『・・・・・・・・ルド、ゴールド!!』
何か、小さなものに 体をゆすぶられる。 ゴールドが寝返りをうって 起きあがると、目の前がだんだん 明るくなってきた。

「・・・まったく、何やってんだよ? 今日は 母さんと遊びに行く予定だろ?
 グースカ寝てたら 遊ぶ時間減っちまうじゃねーか!!」
目の前で 小さな少年が たいした迫力もなく ぷんぷんと怒っている。
ゴールドは目を瞬いた。 自分の体も 目の前の少年と同じくらい、7〜8歳の少年と化しているのだ。
「ほら、行くぞ!!」
目の前にいる少年は ゴールドの手を引くと町外れまで 歩き出した。


『・・・・・・おもいだした?』
突然、辺りの景色が 溶けるように消えていき、ゴールドは 再び暗闇の中に放り出された。
目の前で自分に話しかけてきたのは 8歳のゴールド自身。
『あの事件のせいで、君は いろんな思い出を『ぼく』と一緒に置いてきちゃったよね。
 でもさ、もう、時期が来たんじゃないかな? 思い出してもいいんじゃないかな?』
「・・・・・・どう言うこと?」
ゴールドはたずねた。 何があったのか、自分でも身に覚えがない。
小さなゴールドは 純粋な笑い方をすると 口を やわらかく動かした。

(ヒサシブリニ アエタンダカラ マタ イッショニ ワライタイネ)

「誰に? ねえ、僕は、一体 何を忘れているの!?」
目の前の少年は 笑ったまま答えなかった。
ゴールドの疑問を残したまま また 辺りの景色は変わって行く。



「すごかったな!!」
先ほど ゴールドのことを起こした少年が 瞳を輝かせながらゴールドに話しかけてきた。 正確に言うと、8歳のゴールドに向かってだが。
「うん!! まいこさんたち、ゆらゆら、ふわふわって きれーだった!!」
(8歳の)ゴールドは 笑顔で答える。

「そっかぁ、ゴールド達は 舞子さん達の踊りがわかるか!!
 よっし、今日は おばちゃんが つきあっちゃる!! いっぱい 遊ぶぞぉ〜!!」
ゴールドと もう1人の少年の頭を ぐしゃぐしゃっと 女の人が撫でた。

肩くらいまで伸びた 赤みのある茶髪、銀色の瞳。

(・・・・・・そうだ、この時だ・・・『この事件』で 僕は・・・・・・)

「よし!! それじゃ、手始めに『茶店めぐり』でも しよっか!!
 シルバー!! ゴールド!!」
女の人は腰に手を当てると 力強く ニコッと笑った。

(・・・この人は、シルバーの お母さん・・・・・・)


3、過去にあったこと




「ふぁあぁぁ・・・・・・、もう食べられにゃい・・・・・・」
ゴールドは ふくれたお腹をさすりながら 1つ大きなあくびをした。
「ほんっと、よく食べたよなぁ、2人とも!! さあって、そろそろ宿に 帰ろっか!!」
シルバーの母は にっこりと笑うと 立ちあがった。


「た、た、大変だァ!! 舞台の方で、でっかいポケモンが暴れてる!!」
夕方近くになり、空気が少しひんやりしはじめた頃、気の弱そうな男が ゴールド達のいる方へ走りこんでくる。
血相を変え、今にもその『大事件』のことで 卒倒(そっとう・突然倒れること)しそうな 様子だ。
「舞台の方・・・・・・って、昼間、舞子さんを見てきた所、だよね。」
『おばちゃん』はつぶやいた。 ゴールドとシルバーは 2人そろってうなずく。
「トレーナーとして、ほっとくわけには いかないなぁ!!
 今から行くけど、2人は危ないから 後ろの方に下がっとくんだよ!!」
「はーい!!」「わかった。」
シルバーの母は 優秀なトレーナーだった。 何か起きた時、彼女の活躍を後ろから見ているのも ゴールド達の楽しみの1つだった。



ゴールド達がたどり着いた時には 切り立った崖(がけ)に囲まれた 舞台の真ん中で 巨大なポケモンが暴れまわっていた。
「いわへびポケモン、イワーク。 タイプは『いわ』・『じめん』。
 OK、今日もぶっちぎりで いくわよ!! GO!! タツッ!!」
『おばちゃん』は 自分の7〜8倍もある巨大なポケモンにひるむことなく、自分も巨大なポケモンを呼び出した。
ドラゴンポケモン、ハクリューの『タツ』、ゴールドの家に預けられたポケモンを 外へ出して元気にするために 彼女が預かっているのだ。
「タツ!! 中にいる人達を 避難させるのが最優先!! イワークを中にいれるなよぉ!!」
タツはうなずくと 淡い空色をした体を 自分の2倍はあろうかという巨大なポケモンに 巻きつけていく。
その間に 1人、2人と 中で逃げ遅れていたのだろうか、舞子さん達が次々と逃げ出してきた。
1通り 中の人達が避難し終わったのを確認すると、彼女は タツに『まきつく』を 止めるように命じる。

「チェック メイト!! タツ、『バブルこうせん』!!」
『おばちゃん』が叫ぶと、4メートルはある巨大なポケモンは 次々と水色の泡を発射した。
岩と土で出来た体に 厚いまくで被われた泡が弾けると イワークは泡を嫌がり、体をくねらせる。
「モンスターボール!!」
赤と白の球体が当たると 見上げるほどの大きさだったポケモンは 消え去ったかのように姿を消した。
彼女のモンスターボールが イワークの体を捕らえたのだ。
子持ちのトレーナーは 舞台の真ん中で転がっているボールを拾うと にっこりと笑った。


「うわぁ、周りの岩盤が落ちそうになってるよ・・・・・・
 危ない 危ない、舞子さん達、避難させといて正解だった・・・」
シルバーの母は 遠巻きに見守っていた舞子さん達の方へ向かうと まるで独り言のようにつぶやいた。
1通り辺りを見渡すと、『あること』に気付き、シルバーに向かって質問する。
「シルバー、ゴールドが見当たらないけど、どうした?」
「・・・・・・あれ? さっきまでここにいたのに・・・・・・あ、あそこだ。」
シルバーが指差した先は 先ほどまでバトルフィールドと化していた 舞台の端だった。
『おばちゃん』は ゴールドの位置を確認すると 急いで後を追いかける。

「ゴールドッ!!」
ゴールドは 舞台の端にそって付いた手すりにそって そろそろと奥に行こうとしている所を 捕まった。
「なにやってるんだよ!! この家は今すぐにでも 上から 岩が落ちてきそうで危ないんだ!!
 近づいたりしたら・・・・・・え?」
遠くまで連れ戻そうと ゴールドの肩に手をかけたとき 彼女の表情は変わった。
「・・・中に、逃げ遅れたポケモン?」
ゴールドはうなずいた。 舞子さんの飼っているポケモンの1匹が まだ家の中にいるというのを 彼女等が話していたのだ。
「アヤメって言うんだって、早く助けないと、アヤメちゃん、つぶされちゃうよ!!」
「・・・よし、わかった!! おばちゃんが すぐに助けてくるから、ゴールドは下がってな!!」
そう言う間にも 轟音(ごうおん)が響き渡り、伝統芸能の舞台は 刻一刻(こくいっこく)と 終わりの時を迎えようとしている。

「ゴールド、遠くに行かないと、もうじき崩れるぞ!! この家!!」
シルバーが ゴールドの手を引きながら 叫ぶ。
体力はシルバーの方が上だ、ゴールドは引きずられながらも 必死で抵抗した。
「でも、まだ、中におばちゃんと、アヤメちゃんが!!」
「バカッ!!」
耳をつんざくような音に負けじと 大声でシルバーはゴールドのことを怒鳴りつけた。
「母さんが ポケモンの救出を しくじるわけないだろ!!
 ここでお前が危険な位置にいたら みんなの邪魔するだけじゃねーかッ!! 早く行くんだ!!」


全てを言い終える前に ゴールドとシルバーは レスキュー隊の手によって 遠く離れた所まで引き離されて行った。
轟音(ごうおん)を立て、岩が木造の 建物を押しつぶして行く様を レスキュー隊の 腕の中から見つめていた。


『・・・・・・思い出した?』
幼い子供の声で ゴールドは 自分が再び 闇の中へ引き戻されていることに気が付いた。
それでも、2年前に自分自身が味わった 悪夢のような出来事から比べると この闇の空間の方が安心できる。
ゆっくりとまぶたを開けると 8歳のゴールドが まっくろな瞳で もうすぐ11になる 自分を見つめていた。
「うん。 この後、僕は1週間寝こんで、今までに起こっていた嫌なこと、すべてを君と一緒に忘れていった。」
『おばちゃんは、けっきょく見つからなかった。
 シルバーは 遠い『しんせき』の家に 預けられたんだって。 起きた時には もういなかったけどね。』

「・・・・・・ありがとう。」
ゴールドは 自分自身にかける言葉が見つからず、結局、その一言だけが ようやく出ただけだった。
小さなゴールドは ゆるやかに首を横に振ると 誰よりも純粋な笑顔で 目の前にいる自分に 笑いかけた。

『もう、『おっき』する時間だよ!!
 つらいことがあっても、ぼくのことを わすれないで・・・・・・』




ゴールドは 強くほおを叩かれ、目を覚ました。
手首が壁に繋がれ、身動きが出来なくなっている。
「目ェ、覚ましたか?」
目の前で タマオが憎しみのこもった瞳で ゴールドのことを見つめていた。

過去を思い出しても 思い出さなくても、自分自身が 置かれている状況は 何も変わらないのだ。


4、助け舟




ゴールドは 資料室のような部屋の中に 拘置されていた。
壁から突き出している 鉄の輪に 両方の手首を手錠で繋がれ、身動きが取れない。
「あんた、どういうつもりや?
 いつもいつも ロケット団の邪魔ばっかりしよって、ホンマ・・・・・・」

ゴールドは視線を 足元からタマオの瞳へと移した。
「・・・何や?」
「タマオ、もう、やめない?」
ゴールドが力なく口を動かすと タマオは怪訝(けげん)そうに 眉(まゆ)を動かした。

「いくら ここにいたって、反抗したって、アヤメは帰ってこないよ。 それに、サクラさん、心配してる。
 ね? もう、帰ろうよ・・・・・・・・・」
その言葉を聞くと、タマオは顔をゆがめた。
「な、なんで あんたが アヤメやサクラ姉さんのことを 知っとるんや?」
「僕も あの崖崩れの現場にいたから。 サクラさんには 偶然会った。」


ゴールドは 1度ゆっくりと目を閉じると 再び漆黒の瞳をタマオへと向けた。
今度は 先ほどまでの 弱々しい視線と違い、瞳の奥に 力強い光がこもっている。
「ここでロケット団やってても、何もいいことはない。 それは 僕が保証するね。
 もうすぐ 僕の仲間が ここを つぶしにやってくる。
 そうなれば、きっと警察やら何やらもやってきて、ロケット団は終わるね、きっと。」
タマオの端正(たんせい)な顔が ますます 憎しみにゆがんでいった。
「心細いからって べたらめ言ったって そんなのが うちに通用すると 本気でおもっとるんか?
 ここへはロケット団以外、だれも入られへん!! あんたを助けに来る仲間なんか、どこにもおらん!!」
「絶対来る。」

・・・・・・パアンッ!!

タマオの白い手が ゴールドの 柔らかいほおを 打った。
一瞬、真っ白へと変わっていく視界の中で ゴールドの瞳は 普段はあまり見かけない 黒いポケモンを目にする。
「・・・アヤメ?」
ゴールドの言葉に反応する前に ひざから力が抜け、タマオは ゴールドの足元に倒れこんだ。



「・・・・・・まったく、何やってんだよ?」
「シルバー!!」
黒い服に 全身黒色のポケモン。 見た目は まるで闇から生まれたような様相だったが、その少年は ゴールドにとって 確かに『光』だった。
倒れたタマオの後ろで これまた全身黒色の 頭と腕が離れているポケモンが ふわふわと浮いている。
ゴースの進化系、『ゴースト』。 恐らくは シルバーの『シャドウ』だろう。
「また、『さいみんじゅつ』を使ったの?」
「前にも言ったはずだろ、ロケット団を 眠らせるのは おれの専売特許。
 ・・・・・・っとに、ロケット団を挑発して 逆に とっ捕まるなんて・・・・・・おまえらしいっちゃ、お前らしいけど、無茶し過ぎだぞ?」
ストライクの『アイアン』で ゴールドの手錠の鎖を切りながら シルバーはゴールドに説教を始める。

『まったくだよ!!
 たまたま シルバーにテレパシーが通じたからよかったようなものの、もし言ってる事が 全然通じなかったら どうするつもりだったんだ!?』
シルバーの後ろから 長い尻尾を揺らしながら 不満満々な声を出しながら シルバーに同意したのは ホワイトだった。
隣で ホワイトによく似た 全身黒色の 額と4本の足と尻尾に 白い輪っか模様の入ったポケモンが 甘えた声を出している。
『ん? ああ、こいつ、ブラック。 最近『変化』したんだとさ。』
ホワイトが説明してくれた。
それにしても、ホワイトが白色のポケモンへと進化し、ブラックが黒色のポケモンに進化するなんて、まるで冗談のような話だ。


「・・・さてと。」
ゴールドの両手が 壁から開放されると(鎖の切れた手錠が手首についたままだが)シルバーは肩の力を抜き、ゴールドの方に向き直った。
「早くこんな物騒な所、脱出しようぜ?
 ロケット団の事は おれに任せといて、ゴールドは とにかく体を休めるんだ。」
ゴールドは シルバーの銀色の瞳を見つめると ふぅと1つため息をついた。
「そういうわけにもいかないんだよね・・・・・・捕まった時に モンスターボールが盗られてる。
 みんなを助けてからじゃないと、僕は ここを出るわけにはいかないみたいだ。
 ・・・・・・ごめんね、シルバー、僕 迷惑かけてばっかりだ。」

ゴールドの話を1通り聞き終わると シルバーは しばらく沈黙を続けた。
シルバーの 月のようにやわらかい銀色の瞳が まるで氷のような冷たいシルバーへと変わっていく。
「・・・だったら、『怪盗シルバー』が ロケット団から お前のポケモンを奪い返すしかないな。
 急がないと、お前のポケモン、危ないぞ。
 特にディア、あいつは ロケット団で 実験を受けていたピカチュウの子供なんだ。 生体実験されかねない。」
シルバーの声は冷たかった。
ゴールドは 赤く筋のついた手首をさすると 大きくうなずく。



アイアンをボールに戻すと シルバーは1度ゴールドの様子を見てから 大きく深呼吸した。
「言っておくけど、おれのスピード、半端じゃねーからな。
 ゴールド、はぐれるんじゃねーぞ!!」
「・・・・・・分かってる!!」
屈伸(くっしん)運動をして 固まった足の筋肉をほぐすと ゴールドはシルバーが いつ走り出しても大丈夫なように身構えた。

「・・・行くぞッ!!」
2人のトレーナーは 眠ったままのタマオを背に ロケット団の基地の奥へと走り出した。


5、『怪盗シルバー』




ロケット団の基地内部は 2人の少年が 中を走りまわっているせいで 騒然となっていた。
ゴールドはポケモンが1匹しかいないため、無茶は出来ないが、それをカバーするように シルバーが多彩な技で ロケット団を次々と倒して行く。
それも、ポケモンだろうが人間だろうが お構いなしに、だ。
トレーナーとして 行動していると思いこんでいるロケット団にとって これは たまったものではない。

「シルバー、みんながどこにいるか、分かるの?」
ゴールドは 走りながら たずねた。 いくら シルバーが基地の内部の構造を知っていて 奥へ進むことができようとも、
肝心のポケモン達が見つからないのでは 全く意味がないのだ。
まして、ロケット団員達に ポケモンを捜していることを 感づかれたら ゴールド達が見つけるより先に ミドリ達を隠され、打つ手がなくなってしまう。
「・・・1番奥の『実験室』、銀色の扉の部屋だ!!
 前に、ピカチュウが 捕らえられていたのも そこだった!!」
シルバーは やや息を切らしかけながらも 一気に叫び、手錠付きの ゴールドの手首を 強引に引っ張った。
そのまま 勢いをつけると ゴールドを壁に向かって 叩きつけるように 突き飛ばす。
「・・・・・・うわっ!? わああぁぁぁッ!!」



何が起こったのか把握できないうちに ゴールドは 暗い廊下の中へと 転がって行った。 体が 壁を通り抜けたのだ。
「・・・・・・ッたた・・・・・・、一体、何が・・・・・
 ・・・そうだ、シルバー、シルバー!?」
ゴールドは 自分がすり抜けてきた壁を叩く。 しかし、ドンドン、という 低い音が廊下いっぱいに響くばかりで ゴールドが再び 壁を抜けることも
シルバーが 同じところから 壁をすり抜けて登場することもない。

『廊下が 短く見えるほうに向かって 走れ!! ・・・・・・だってサ。
 シルバーから伝言。』
振り向くと ホワイトがすました顔で ちょこんと座っていた。

『ここ、もともと『ニンジャヤシキ』で、あっちこっちに 仕掛けがあるんだとさ。
 向こう側からは いくらでも こっち側に入れるみたいだから あそこで食い止める気みたいだぞ、シルバーは。』
「・・・・・・そんな・・・」
愕然(がくぜん)とするゴールドを ホワイトは睨みつけた。
『・・・走れ、ゴールド!! シルバーには ブラックが 就いているんだから、絶対に 負けたりしない!!
 オレ達には 迷ってる時間なんてないんだ!!』


ゴールドは奥歯を食いしばると きつく握りこぶしを固め、立ちあがった。
「・・・・・・走るよ、ホワイト。」
ホワイトがうなずいたのを 確認したのかしなかったのか、ゴールドは一気に走り出した。
その姿は 赤い服のせいもあってか ウインディにも 似ている。
『・・・って言うか、あんだけ腕のいいトレーナーの下についといて、ロケット団ごときに 負けてるようだったら、ブラック、あいつ、ぶっ飛ばす!!
 あいつが そんなに よわっちい奴だったら、おんなじ血が流れてるオレは どうなるんだよってさ!!』
「『おんなじ血』?」
『いつか言おうと思ってたけどさ、ブラックとオレ、兄弟だから。
 あいつは オレの 双子の弟!!』
「・・・おとをとぉ〜!?」



ゴールドが仰天している間に ホワイトは 奥の奥に立て掛けてある 銀色の扉を『でんこうせっか』で 蹴破った。
『ディア、ディア、どこだ!?』
追って ゴールドが『実験室』の中に立ち入ると 中はさすがに ビーカーやら試験管やら・・・・・・実験器具でいっぱいだ。
辺りを確認しながら 奥へ奥へと ゴールド達が歩いて行くと 実験台のかたわらに ロケット団員が1人、にやついたかおで こちらを見つめていた。


「・・・・・・ツバキ・・・」
「お久しぶり、『ゴールド・Y・リーブス』、だったわね。」
ロケット団幹部、ツバキは ゴールドの顔を見て クスクスと笑う。

「・・・どうして、僕の名前を知っている?」
ゴールドは 異常なほど 冷静な声でたずねた。 ここでパニックを起こす事は 即、捕まってしまう事を 意味するからだ。
「残党とはいえ、ロケット団の結束力は 並じゃないのよ。
 1人の 新米トレーナーの素性を調べることくらい カンタンなことね。」
ツバキは また クスクスと笑った。 この緊迫した状況を まるで 楽しんでいるようだ。
「僕の友達、返して。」
他にも 色々なことを言おうかとも思ったが ゴールドはその1言だけで 終わらせた。
不気味に光る ツバキのとび色の瞳を 真っ直ぐに見つめ、いつでも戦えるように ホワイトを構えさせる。

「・・・・・・いいわよ、どうせ、どこにでもいるような クズポケモンばかりなんだから。」
ツバキは そう言うと、ゴールドの足元にモンスターボールを放った。 ・・・・・・3つだけ。
拾っている間に攻撃されないよう、ホワイトに 厳重な警戒態勢をとらせ、慎重に3つのボールを 確認する。
中のポケモン達・・・アクア、カイト、ピーたろうは 実験に使われたような様子はなかったが、いずれも、瀕死寸前まで 痛めつけられていた。
「・・・2人、足りない。 ミドリと ディア、返してくれるまで 僕は 帰らないからね。」
痛々しい姿の3匹を ホルダーにしまうと ゴールドはツバキのことを睨みつけた。

ツバキは ゴールドのそんな姿を見て 軽く嘲笑(ちょうしょう)する。
「そうもいかないわね。 あのベイリーフは もともと 我等(われら)ロケット団が ウツギ研究所から奪おうと計画していたポケモンなわけだし・・・」
「・・・え!?」
ゴールドは ツバキの言葉に驚いた。
ミドリの事を盗もうとしていたのは シルバーだったはずである。

「事情が呑みこめてないみたいね。 いいわ、今日は 私には良い日みたいだから、特別に教えてあげる。
 どういうわけか、1年半ほど前から あの赤い髪の少年がアジトの中へ忍び込むようになった。
 そう、銀色の瞳と、月の出ている日に忍び込むから『怪盗シルバー』と ロケット団内でコードネームがついたわね。
 最初は そこら辺から捕まえてきた 実験用のポケモンを逃がすだけの ただの正義感の強い少年だったわ。
 でも、そのうちに ロケット団の機密事項を 知ってしまった。
 あのベイリーフ・・・もとい、チコリータ、ヒノアラシ、ワニノコは ロケット団が 以前から 盗もうと計画していたポケモン達だったのよ。
 『怪盗シルバー』は いつからか このチョウジから 姿を消したわ。
 そして、ロケット団が ウツギ研究所へポケモンを盗みに行った時、チコリータとヒノアラシは
 2人の少年によって 既に ワカバタウンから 遠く離れた街へと 避難させられていたわ。
 ・・・・・・これが、どういうことか分かる!?」

ゴールドは 言葉を失っていた。
ホワイトが捕まってしまうのではないか、と 不安になるくらい 長い間の 沈黙が続く。
「・・・そういう ことだったんだ。
 ウツギ博士に 電話しとかなきゃなぁ・・・・・・」
1分近くの 沈黙を破り、ようやく、ゴールドが口を開いた。

「何を 訳の分からないことを言っているのよ!?
 ・・・・・・ああ、それと、あなたが連れていた ピカチュウみたいなポケモンも 返せないわよ。
 だって、この サンプルP−011の 子供は・・・・・・」
ツバキがそう言うと 薬品棚の影から 黄色い小動物が 飛び出してくる。


「・・・・・・・・・ディ・・・ア・・・・・・?」
それは、確かにディアだった。 顔色はあまり良くないが、きちんと 自分で呼吸をして 動いている。
喜ばしい 感動の対面のはずだった・・・・・・だが・・・

「・・・ぴぃう・・・ぴぃか、ピカチュ・・・」
長く 真っ直ぐに伸び 先端が黒くなっている耳、ぎざぎざの 雷をかたどったような尻尾、一回り 大きくなったいる体。

「ポケモンエボリューションシステムが 初めて成功した 記念すべき サンプルのポケモンなんだもの!!」
耳に取り付けられたピアスのような機械で自由を奪われ、ツバキの傍ら(かたわら)で おびえたような瞳で ゴールドのことを見つめていたのは
あの 小さな体いっぱいに 電撃と愛情をためていたピチューではなく、
すがるような瞳で ゴールドに助けを求めている 子供のままの心のピカチュウだった。


6、つらい選択




「ピカチュウ、『10まんボルト』。」
ツバキが言い放った冷たい言葉に ディアはピクッと体を震わせた。
怯えた瞳で ツバキの口元を見つめ、『嫌だ』の意思表示として 首を横に振るわせる。
ツバキは そんなディアの様子を見下すと 軽く握りこぶしを絞めた(しめた)。
途端、バシンッ という 嫌な音とともに ディアは 苦痛に顔をゆがめる。

「・・・・・・ホワイト。」
ゴールドは 1歩前へ踏み出すと、無言のまま 口だけを動かし、ホワイトに意思を伝えた。
ホワイトは複雑そうな表情を浮かべる。 数秒して、ホワイトは テレパシーを解き、黙ってうなずいた。
「ディア、かかって来い。」
ゴールドは言い放った。 ディアは 今度はゴールドの言葉に驚き『いやいや』と 首を横に振った。
それを 黒い瞳で 見届けると、ゴールドは 落ちついた声で口を動かす。
「これは、命令だ。」



ディアは 今度はホワイトのほうへと視線を動かした。 ホワイトはそれを見ると 黙ったまま うなずく。
「ぴぃう・・・・・・ピカチュ、ピカチュウ・・・・・・」
ボロボロと涙を流しながら ディアは前へ 進んできた。 ピンク色の残る電気袋が パチパチッと 音を鳴らす。
ゴールドはそれを見ると 無表情のまま うなずき、口を動かした。
「ホワイト、『でんこうせっか』。」
ディアが反応する間もなく、ホワイトは ディアの体を 機材の山の中へ弾き飛ばした。
石綿(いしわた)の山を払いのけ、ディアが立ちあがると すぐ近くまで ホワイトが歩み寄っている。
「ピカチュウ、『たたきつける』だ。」
言われるまでもなく、ディアは怒りのこもった尻尾で ホワイトのほおを 思いっきり張り飛ばした。
力がないのか、体格の差なのか、ホワイトは その場に踏みとどまり 涙でにじんでいる ディアの顔を 無表情で見下ろした。

「哀しいものね、今までさんざん 可愛い可愛いって甘やかしてきたポケモンを
 いざ敵に回したら 躊躇(ちゅうちょ)することなく 攻撃できるなんて・・・
 所詮、トレーナーなんて そんなものってこと。 実力だけが この世界でものを言うのよ!!」
「・・・・・・黙ってろ、オバさん。」
嘲笑するツバキを ゴールドは一言で黙らせた。

「ディア、目、つぶってろ。」
ゴールドはディアの瞳を見つめ、口だけで言葉を発した。
ディアは 一瞬、戸惑ったが 言われたとおりに 目をつぶり、その場で静止する。
自分の言う事を聞かせようと ツバキが動かそうとした手を ゴールドは背後から 掴みかかり、動きを止める。
「今だ!! ホワイト!!」
次の一瞬 ツバキとゴールドの目の前を 無数の星が飛び交い、ディアの耳を掠める。
ディアの耳についたピアスは弾け飛び、小さなポケモンは ロケット団の手から 解放された。



「・・・・・・お前、まさか、初めから これを狙って・・・!?」
ツバキの言葉を聞こうともせず、ゴールドは ホワイトを ボールに戻す。
「ディア、この部屋いっぱいに『10まんボルト』を 撃ってやれ。 お前を苦しめたもの、全部 壊すんだ。」
ゴールドが 戻ってきたディアに 指示を出すと、ディアはうなずき、ほお袋に 電気を溜めはじめた。

「・・・・・・な!? 何を 血迷ったことを 口走っている!?
 そんなことをしたら、お前だって、ただでは 済まされ・・・・・・」
ディアの 電気を溜める様を 見つめながら、ツバキは 叫ぶ。 しかし、ゴールドの 異常なまでに 落ちついた瞳を見ると、押し黙ってしまった。
ゴールドは 両手首についた手錠をじっと見つめると、優しげな瞳でディアを見つめ、つぶやいた。
「僕も、ディアを苦しめてしまったのには 変わりないんだ。
 あの子が 自分の手で 全部壊しちゃえばいい。 これが、ディアの『おや』としての 僕の選択だ。」


ゴールドが言い終わると ちょうど、ディアの 電気の蓄積が終わったらしい。 ツバキのことを 怒りのこもった瞳で見つめ、振り向いた。
「ピカアァァーッ!!」
ディアは 大きな声で叫ぶと、ゴールドに言われたとおり、部屋いっぱいに電撃を放った。
立ち並んでいる 試験管やフラスコが 次々と音を立て 割れていく。
ツバキが 電撃に耐えきれず、ガラスの上に倒れこんだのを確認すると、ゴールドは 自分の手首を見つめた。
バチッ、と 手錠が音を立てたかと思うと、ゴールドの体に いつもの何倍もの 衝撃が走る。
一瞬 体が痙攣(けいれん)したかと思うと 足の力が抜け、冷たい床の上に ゴールドは倒れこんだ。





「ぴぃう!?」
ゴールドまで 攻撃を受けることに気付いていなかったらしく、ディアは驚いた顔で ゴールドに駆け寄った。
必死で 顔を揺さぶったり、髪の毛を引っ張ったりして、ゴールドの反応を待つ。
ゴールドに『攻撃宣言』を受けたときのように ボロボロと涙を流しながら 必死に顔を揺さぶり続けると ゴールドのほおが ぴくっと動く。
「・・・・・・ディア?」
深い黒色をした瞳が ゆっくりと ディアに向けられる。
『心配ないよ』と言う代わりに 優しく微笑むと、ゴールドは かろうじて動く右手で ディアを 自分の方に引き寄せた。

「・・・全力は 出せなかったんだ。 ・・・・・・優しいね、ディアは。」
ディアはゴールドの腕の中で ふるふると 首を横に振った。
ぽんぽん、と 優しく頭をたたくと ゴールドは もう1度 優しく微笑み、ディアを抱きしめる。


「・・・・・・大丈夫、ディアは 何があっても 僕のポケモンだよ。
 ディアの『おや』は 僕1人だけだ・・・・・・」
その言葉が 誰に向かって放たれたのかは 誰にもわからなかった。
ゴールドの視線の先では いくつもの白い靴が 部屋に入りこんでいたのだ。


7、四天王登場!!




「・・・・・・まったく、何て ガキどもだ!!
 たった一撃で ツバキ様を倒し、この部屋の実験道具を めちゃめちゃにするなんて・・・・・・」
ゴールドの目の前の 白い靴が(正確には ロケット団員の下っ端が)苦々しげに 言葉を吐き捨てた。
数人のロケット団に運ばれ、ツバキの姿が 部屋からなくなると 下っ端は 楽しそうにゴールドのことを 見下ろした。

「ふん、でも、このガキも、ここで 悪運尽きたってワケだ。
 ロケット団に たてつこうなんて考えるから こうなるんだぜ!!」
ゴールドの首筋に 何か重たいものが のしかかる。 すると、途端にゴールドは 気分が悪くなり、寝転んだまま 咳き込み(せきこみ)はじめた。
ベトベトンが ゴールドに 毒を流し込んだのだ。


「・・・・・・ふざ・・けんな・・・・・・、
 まだ、ミドリの・・・・こと、返してもら・・・って、ないんだ・・・・・・
 ・・・返ってくる・・・まで・・・、負ける・・・もんか・・・・・・!!」
言葉が途切れ途切れになりながらも、ゴールドは ベトベトンを跳ね除け、態勢を立て直した。
ロケット団員は そんなゴールドの様子を見て 嘲笑する。
「そんなに『友達』が大事か?
 だったら、俺様が おまえの『お友達』もろとも、この世から消し去ってやるよ!!」
ベトベトンが 最大の攻撃を加えるために ドロドロとした腕を 高く構える。 ゴールドは 攻撃を避けようと 手足に力を込めるが、
マヒした足と 力の入らない腕のせいで 思うように体が動かない。
見上げると ベトベトンの『ヘドロこうげき』が すぐ目の前まで迫ってきている。
ゴールドは腕の中で震えているディアを 強く抱きしめた。



「ネイティオ、精神攻撃だ、『サイコキネシス』!!」
背後から響いてきた 若い男の声とともに 目の前で攻撃を加えようとしていたベトベトンが 突然、動かなくなった。
太い4本の腕が ゴールドを抱え、後ろに飛びのくと、ベトベトンは ゴールドの見ている前で ばったりと倒れていく。

「・・・・・・まったく、3年も前に 解散、解散、って騒いでいた組織が、今更復活するなんて・・・
 時代遅れも いいトコなんじゃないの?」
ハイヒールの音を響かせながら 髪の長い女が 部屋の中へと入ってくる。
「誰だッ!! 貴様等は!!」
忍者のような黒い服を 身にまとった中年の男が ゴールドの口に 青緑色の苦い粉を流し込むと、口を開く。
「我らは、四天王・・・」

「・・・し、四天王!?」
ロケット団の男は仰天し、急いで逃げようと ゴールドを跳ね除け、扉へと向かった。
すると、扉に 白い糸が張り巡らされ、実験室は 出入り不能となる。
「あ〜んど、今年から セキチクに就任になった、新米ジムリーダーの アンズちゃんでぇ〜っす!!」
大型のクモのようなポケモン、『アリアドス』を引き連れ、ゴールドと ほとんど年も違わないような少女が 中年の男の影から ひょっこりと姿を現す。
最後に、髪の長い女が パチンッと指を鳴らすと ロケット団の背後から 黒いポケモンが現われ、『だましうち』で 気絶させた。


「よくやったわ、へるる。」
髪の長い女は 攻撃したポケモンを モンスターボールの中へと戻した。
「油断するな、カリン。」
4本腕のポケモンのトレーナーの 体格の良い男が カリンと呼んだ髪の長い女をたしなめる。
「大丈夫よ、シバ。 ここまでのロケット団達は みんな この帽子の男の子と、あの髪の赤い男の子が 倒してくれたみたいだし。」
カリンと呼ばれる女は ゴールドの方を見やった。
ゴールドは 横目でそれを認識すると、中年の男の服のすそを ろくに動かない手で 引っ張る。
「・・・・・・どうした?」
「・・・あの、これ、飲み込んでも大丈夫・・・なんですか?」
ゴールドはそう言うと、口の中を指差した。
舌の先で 先ほど口の中にいれた 青緑色の粉が かたまりになっている。
「あきれた!! この状況でも 危険性を感じられるワケ!?
 それはねぇ、コガネシティのカンポーや特製の『ばんのうごな』!!
 そりゃ、苦いけど、父上がトレーナーに 変なもの飲ます訳ないじゃない!!」
アンズと名乗っていた少女が 代わりに答えた。
ゴールドはアンズの眼を見ると、口に含んでいた薬を のどの奥へと流し込む。 すると、激しい苦味と一緒に 毒が抜け、体が楽になるのを感じた。
「・・・・・・あり・・がと・・・」
ゴールドが礼を言うと、5人は笑った。

「礼を言わなきゃらないのは、こっちの方じゃないかな?
 君が ロケット団の正体を見破らなければ 僕達は この事に気付きもしなかっただろうからね。 ああ、飴(あめ)、なめる?」
紫色の髪をした男が ゴールドの口に ピンク色のドロップスを近づけた。
返事をする気力もなく、ゴールドは それを 黙って口の中に転がした。 口の中で 砂糖の甘味が ゆっくりと広がる。
疲れと甘さと安心感で眠くなってきたが、ゴールドはそれを振り払うと、無理矢理 足に力を込め、ふらふらと立ちあがった。
「どこへ行く、そんな体で。」
シバと呼ばれた 体格の良い男が ゴールドの肩を掴み、引きとめる。
ゴールドは 掴まれた手をディアに振り払わせると 歩きだし、つぶやくように 言葉を放った。
「・・・・・・ミドリの・・・とこ・・・
 きっと、・・・待ってる・・・から・・・・・・」



不意にディアが ゴールドの腕の中で 鼻をヒクヒクと動かしたかと思うと、ゴールドの腕を跳ね除け、『クモのす』の張られた扉に向かって飛び出した。
「りぃーっふ!!」
『クモのす』を突き破り、ディアの歓迎を受けながら ゴールドの腕の中へと飛びこんできたのは
他でもない、探していた ミドリそのものだった。
「・・・ミドリ!? よかった、探してたんだよ!!
 ケガしたとこ、ないよね? ロケット団に変なことされてないよね?」
ミドリは 嬉しそうに うんうん、とうなずく。 それを見ると、ゴールドは ほうっ、と 目元を緩ませた。

「・・・・・・よかっ・・・た・・・・・」
ゴールドの視界が ゆっくりと暗くなる。
色々な人達、ポケモン達の 心配する声を耳にしながら ゴールドの体は 冷たい床の上に横たわった。

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