<各話の1番最初に飛べます>
10、白銀の世界 11、白と赤と金色と



10、白銀の世界




「こ〜んにちわぁ〜・・・」
扉が開かれるごとに 少しずつ小さくなる声。
ここ、チョウジのジムリーダーのヤナギは ゴールドが 本来なら戦えるような体調ではないはずなのを知っているのだ。
思いっきり叱られ(しかられ)そうな予感がして ゴールドは ちょっと、おびえる。

「誰だね?」
辺りを見渡すと そこはさながら スキー場のような 白銀の世界が広がっていた。
その中ではとても目立つ 赤い服を羽織った(はおった)少年は ゆっくりと奥へと進んでいく。


「ジムの、挑戦に来ました。」
ゴールドは奥にいる老人に話しかける。
「・・・体は、もういいのかね?」
「はい。 どういうわけか。」
驚くほど ゴールドは落ちついていた。 1面、雪の敷き詰められた空間を 1歩、また1歩と 真っ直ぐに歩き出す。

ジムリーダー、ヤナギは だまったまま 青いモンスターボールを開いた。
中からは 雪の中へと溶け込みそうなほど真っ白な体毛を持ったポケモン、オーロラポケモンのジュゴンが 姿を現す。
ゴールドも黙ってボールを開く。
・・・・・・ピカチュウの ディアだ。


誰が言い始めるでもなく、ジム戦は始まっていた。
ジュゴンは『オーロラビーム』を放ち、雪で埋もれた試合場を 更に氷漬けにしていく。
ディアは 得意のスピードでそれを避け、電撃で 軽くジュゴンをしびれさせながら 雪の上を走りまわった。
「・・・・・・あまり、長くは戦えないな。」
ゴールドは 温度差で白く染まった自分の吐息を見つめ、つぶやいた。
ロケット団との戦いで 暗くなった気分を変えようと思い、ジム戦の日を早めたのだが・・・・・・
この寒さである、小型のピカチュウが そう長い間 動き回っていられるとも思えない。

「ジュゴン、『れいとうビーム』!!」
ヤナギは 自分のポケモンに指示する技を変えた。
『オーロラビーム』より 更に冷たい氷の息吹(いぶき)は 何とかかわしたディアの背後に 巨大な氷のオブジェを作り出す。
「・・・まずいな、あんなの、1発受けちゃったら、動けなくなっちゃう・・・
 ディア!! 接近して『10まんボルト』!!」
ジュゴンが もう1度放った『れいとうビーム』をかわすと、ディアはスピードを生かし、ジュゴンのふところまで飛びこんだ。
ほおの電気袋をパチパチいわせると その電力を 目の前にいる大型ポケモンへと集中させる。
「『オーロラビーム』!!」
ディアが電撃を放つ一瞬前に ジュゴンは小さなポケモンに 氷のエネルギー体を吐き出した。
体に溜めていた電気の力とも重なって ディアは 数メートル先まで吹き飛ばされる。
「『かげぶんしん』だ!! ディア!!」
追い討ちをかけるかのように 放たれた『れいとうビーム』を避けるため ゴールドは 倒れているディアに大声で叫んだ。


「・・・・・・見てみなよ、ディア。」
ゴールドは 自分の足元に避難している 小さなポケモンに向かって話しかけた。
小さなピカチュウは なんとか直撃は間逃れたものの、細い耳は先の方が少しだけ凍っている。
「相手のジュゴン、さっきディアが電撃を放ったときに『マヒ』してる。
 こっちも、結構 ダメージ大きいけど、まだ、勝負がついてるわけじゃないみたいだよ。」
「・・・ぴぃう、ピカチュ、ピィ、ピカピカチュ?」
ディアの『言葉』に ゴールドはうなずいた。
「今は、相手を倒すこと!! そしたら、一旦休んで、おいしい物食べて、いっぱい笑おうね!!」
2人は 一瞬だけ、笑った。

「GO!!」
目と目で合図を交わすと、ディアは体の一部が凍っているのも気にせず、ジュゴンへと向かって走り出した。
相手のジュゴンが『れいとうビーム』を放つために エネルギーを溜め始めるのを見ると 自分もほお袋に電気を溜める。
「『でんきショック』だ!! 胸びれを狙って!!」
ディアは言われたとおりに ジュゴンのひらひらした胸びれに 電撃を放った。
溜めるエネルギーの違いで行動が一瞬遅れたジュゴンは バランスを崩し、あさっての方向に『れいとうビーム』を飛ばす。
ディアは 余った電気を使い、もう片方の胸びれも しびれさせる。


「・・・ジュゴン、戦闘不能。 ジムリーダーなら分かりますよね?」
通常なら 腕にあたる位置が両方とも動けなくなり、雪の上に伏せる形となったジュゴンに ディアの 電気を込めた尻尾があてられる。
ディアに適当な方向に放電するように指示すると ゴールドはヤナギにジュゴンをボールに戻すよう、促(うな)がす。
「何故(なぜ)、とどめをささなかった?」
ヤナギは ジュゴンをボールへと戻した。
少しだけ、怒りのこもったような瞳で ゴールドを睨みつける。
「人やポケモンの命がかかってるわけじゃないんだから、攻撃しても 痛いだけでしょう?」
ゴールドは戻ってきたディアを抱きかかえると 少しだけ笑った。


「・・・甘いな、いつか、その甘さは命取りになりかねんぞ。」
ヤナギは次のポケモン、いのししポケモンの『イノムー』を繰り出す。
大型で ふさふさとした茶色の毛に全身被われた 四つ足のポケモンだ。
ゴールドはディアの耳元で『ありがとう』、と小さくつぶやくと そのディアをボールへと戻した。
「そうかもしれない。
 でも、これが僕達のやり方だから、たとえ、それで僕が危なくなったとしても、止める気はないよ。」

ゴールドは小さく笑うと 腰のモンスターボールを1つ取り出した。
振りかぶって 相手から2〜3メートル離れた所に放り投げる。
中からは たいようポケモンのエーフィ、『ホワイト』が 雪に溶け込むような白色の体毛をまとい、登場した。


11、白と赤と金色と




『なぁ〜んで カイト(マンタイン)じゃないんだよぉ!!
 あいつ、土のニオイがするぞー? あいつなら 攻撃、ヨユーでかわせるじゃんか!!』
ホワイトは出てくるなり ゴールドに文句の嵐を浴びせる。
ゴールドは肩を少し動かして 力を抜くと 微笑んで子供をなだめるように話し出した。
「・・・カイトはもともと 南の方の海にいたポケモンなんだから、こんな寒いとこじゃ、かわいそうでしょ?
 翼も持ってるから、あんまり氷とかには強くないだろうしね。」
『オレだって、寒いの苦手なんだけどなァ・・・』
ぶちぶち言いながら ホワイトは突進してきたイノムーを 何とかかわす。


『・・・さぁ〜ってと。』
ホワイトは イノムーを1睨みすると、ぼんやりと 淡い黄色に輝いていた額の宝石のような物から 光を消した。
ゴールドの頭の中からノイズが消え、2人は迷うことなく ヤナギとイノムーを見つめる。
「イノムー、いのししポケモン、恐らく、タイプは『こおり』、『じめん』だね。
 ・・・いくよ、ホワイト!!」
ホワイトは ゴールドが指示する前に『でんこうせっか』で 巨大な いのししポケモンへと向かって突っ込んでいく。
無論、ゴールドの最初の指示もそれだった。 ホワイトは分かっていたのだ。
「いいよ、ホワイト!!
 次は『スピードスター』!!」
ゴールドが叫ぶのと同時に ホワイトは 星型光線を発射する。
跳びながら撃ったので『スピードスター』は 撃ち下ろす形となった。 無数の星が イノムーの巨大な体へと向かって降り注ぐ。

「うわ〜・・・ほとんど効いてない。
 相当体力高いよ、あのイノムー・・・・・・」
ゴールドは『スピードスター』を ほぼ全弾食らって なおも平気な顔をしているイノムーを見てつぶやいた。
「・・・ふむ、なかなか頑張ってはいるようだな。
 しかし、まだまだ詰めが甘い、エスパータイプがエスパー技を1つも使って来ないというのは、どういう訳だね?」
「ばれてるな、こりゃ・・・」
ゴールドは舌をちょびっとだけ出した。
ホワイトはレベルが低く、まだ、エスパータイプの技を覚えていないのだ。


「どぉ〜おっしよっかな?」
特に深く悩む様子もなく、これからの作戦を考えるゴールドに ホワイトは不安げな視線を送った。
「ふぃ〜う・・・」
「ん? 大丈夫 大丈夫!! レベルも相性も体力も 作戦で何とかするって!!」
ちょっとだけ、ゴールドは気が晴れてきた。
勝つ可能性が 限りなく低くなっているバトル。 それをひっくり返すのが 楽しくてしょうがないのだ。

「・・・悪いが、のんびりと考えているような暇はないぞ。
 イノムー、『とっしん』だ。」
スピードは遅いが 力は限りなく高いイノムーの『とっしん』を ホワイトはジャンプしてかわす。
イノムーは 前の戦いでジュゴンが作った 氷のオブジェを破壊し、その欠片(かけら)は ゴールドのほおを掠めた(かすめた)。
「・・・ん、決まり!!
 ホワイト、『スピードスター』!!」
ゴールドは笑顔で指示を出した。 ホワイトは疑問の表情を残しながら とにかく『スピードスター』で 敵を攻撃する。
「フィフィ!? ふぃ〜う?」
ホワイトの とてつもなく疑問系な『言葉』に ゴールドは 人差し指を口の前にあてた。
『作戦だから教えられない』のサインだ。

「ホワイト、『でんこうせっか』!!」
イノムーの柔らかい茶色い毛に ホワイトは突っ込む。
「・・・何度やっても 無駄だというのが分からないのか?
 その程度の実力では、この先 トレーナーとして、やっていけないぞ。 イノムー、『とっしん』だ。」
今度は イノムーの巨大な体がホワイトへヒットする。
ホワイトは勢いよく吹き飛ばされ、2つめの氷のオブジェを破壊しながら 壁に激突した。


「・・・この辺で 終わりにしないか?
 君も これ以上自分のポケモンが傷つくのを見るのは 辛いのではないか?」
ゴールドは ヤナギの質問には答えなかった。
ホワイトの名を呼ぶと 相手のイノムーの顔を キッと睨みつける。
「これ以上は 無駄なようだな。
 イノムー、終わらせろ、『ふぶき』だ。」
冷たい空気の渦を イノムーが作り出したのを見ると、ゴールドは不敵に笑い出した。
ホワイトが 立ち上がったのを確認すると、最後の氷のオブジェの下の近くまで走り出す。
「ホワイト、『すなかけ』!!」
「ふぃ!?」
ホワイトは 思わず聞き返していた。
辺りに砂なんてないのだ。 そんな中で『すなかけ』をするなんて、何をすればいいのか、さっぱりわからない。
「いいから、早く!! 本格的に『ふぶき』が起こる前に!!」
ホワイトは仕方なく 辺りの雪を蹴り上げた。
すると、『ふぶき』の風に乗って 先ほどイノムーやホワイトが壊した氷のかたまりが 辺りに吹き飛ぶ。
鋭角(えいかく)な 氷のナイフは『ふぶき』を起こしたイノムー、そして ホワイト、ゴールドやヤナギをも 傷つけていった。
「今だ!! ホワイト、『でんこうせっか』で こっちまで!!」
3つ目のオブジェの下で ゴールドは叫ぶ。
言われたとおり、ホワイトはオブジェの下へと走りこみ、そこで 風を避けるようにうずくまった。
「それで、いいよ。」
ゴールドは ホワイトの白い背中をそっと撫でた。 冷え切っている。



「・・・・・・一体、どういうつもりなんだね? 君は・・・」
バトルは終了していた。 ヤナギとゴールドの目の前には 巨大な氷のかたまりを いくつも体に受け、倒れているイノムーがいる。
『ゴールド・・・』
駆け寄ってきたホワイトを ゴールドは抱き上げる。
「・・・イーブイの時より、ずいぶん重くなったんだね。
 大丈夫だった? 足、しもやけ しちゃったりしてないよね。」
『いや、オレのしもやけより、ゴールド・・・』
ゴールドの額(ひたい)からは 血が流れている。
無茶な作戦で 氷のかたまりが ぶつかりそうになったヤナギを ゴールドがかばったのだ。
「大丈夫、顔は 他より血が出やすいだけなんだ。
 見た目より、ひどいケガじゃないよ。」
「・・・だからといって、」
ヤナギが口を挟む。

「だからといって、対戦相手をかばって 自ら怪我をする理由にはならんな。
 ポケモンバトルは 相手を傷つけあう戦いだ。 君の優しさは そのうちに命取りになりかねんぞ。」
ゴールドは優しく笑った。
「そうかもしれない。 でも、勝ちは勝ちだから。
 僕は 後悔なんてしていないから、これからも 同じやり方でいくつもり。」
ヤナギのしわだらけの手から 氷のような青銀色のバッジを受け取ると ゴールドはもう1度笑って 白銀のジムを後にした。
1時間も経っていないはずなのに、外の金色の光がまぶしい。

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