<各話の1番最初に飛べます>
8、タイムトリップ 9、風の親子 10、ピリオド 11、ただいま。



8、タイムトリップ




バフッ!!

ゴールドの目の前は 真っ白だった。
色々な衝撃で 少しの間だけ体を動かすことが出来なかったが、まもなく、全身の力を使って『その場所』から 起きあがる。
そこは 病院だった。


「・・・いったぁ・・・・・・一体、何が起こった?
 確か、クリスが ラジオ塔から落ちそうになって、助かったと思ったら、今度は僕が 落ちちゃって・・・・・・くっ・・・」
1人でぶつぶつと言いながら 腕に刺さっている針を 自分の力で引き抜く。
赤く染まった針を 床の上に放り投げると、カランッと 軽い音が響いた。
息を整えると 袖をまくり上げ、ポケットに入っていたハンカチで 穴の開いた腕を きつくしばる。
2つベットのある病室を ぐるっと見回すと ゴールドはとりあえず 病室を出ることにした。



病院のガラス張りの自動ドアを ゴールドが抜けた時、病院の中から 絹を裂くような 女の悲鳴が聞こえてきた。
ゴールドが 先ほどまでいた病室からだ。
開いた窓から 駆けつけてきた男との会話が 漏れてくる。

『どうした!?』
『せ、先生、大変です!! 患者さんがいなくなってしまって・・・代わりに・・・』
『・・・・・・血!?』

「・・・あぁ、僕のだ。」
ゴールドは小さくつぶやいた。
病院へと背を向けて また、歩き出そうとした時、後ろから声を掛けられる。
「待てよ。」
振り向くと ゴールドよりいくつか年が小さいくらいの男の子が ゴールドの事を睨みつけていた。
切り忘れているのか、わざとなのか、少しだけ伸びた赤い髪は 肩まであり、銀色の瞳は まっすぐにゴールドのことを見つめている。

「(・・・シルバー?)
 や、やあ、どうしたの? わざわざ僕に声を掛けるなんて・・・」
ゴールドは動揺を隠すように ぎこちなく 取り繕って(とりつくろって)みた。
もちろん、その程度で シルバーがごまかせるはずもない。 シルバーの疑問の視線は ますます強まっていた。
「おまえ、これから どこに行くつもりなんだ?」
目の前にいるシルバーは 疑問系で言葉を投げかけてくる。
「え、え〜っと、あ、そうそうッ!!
 お見舞いが終わったから、これから、お買い物して帰ろうかなぁって・・・・・・」


ゴールドは適当に言い訳をすると 逃げるようにその場から走り去った。
しばらく走り続けると 本当に繁華街(はんかがい)が見えてくる。
「・・・・・・はぁ、一体なんだったんだ?
 ここも、全然知らない土地だし、それに、シルバー、なんで あんなに小さく・・・・・・」
額(ひたい)に浮いた汗をぬぐいながら ふと、ガラスの中で見世物になっている
テレビ画面を見つめていると、ちょうど、夕方のニュースを報道している所だった。

『昨日、エンジュシティをを襲ったガケ崩れは 舞台を全壊させ、今なお、崩壊の可能性を残しております。
 なお、この事故で 女性1名が行方不明・・・・・・』

ゴールドは顔をそむけた。
テレビのニュースは、2年前、自分が遭遇した事故と あまりにも似すぎていて、聞いている事が出来ない。
足を速めて その場から逃げ去る。
空を見上げると、1000人以上に時を教える液晶画面が 年号、日付までを 黒い画面に映し出していた。
「・・・・・・えっ?」
画面を見上げて ゴールドは固まる。
そこに書いてあったのは 自分が今生きている時間よりも 2年も前のものだった。
「・・・何かの 間違いじゃないか?
 まさか、2年も前・・・なんて・・・・・・」
慌てて 近くにあった売店で 新聞を購入する。 そこの日付も、液晶の物と変わらず、2年前を指し示していた。


「・・・・・・1個足りない。」
近くにあった公園のベンチで ゴールドはつぶやいた。 主語は『モンスターボールが』だ。
今の状況をポケモン達と話そうとしたところ、ホルダーに4つ(ミドリ、ホワイト、ディア、カイト)、ボールが収まっているはずなのに
3つしかなかった。 カイトのボールが足りないのだ。
『・・・でぇ? どーしてメンバーが足りないんだ?
 それに、ここどこなんだよぉ?』
モンスターボールの中から登場したホワイトが いつもと変わらぬ口調で のんびりと話す。
ゴールドはとりあえず、今いるポケモン達を 全部出した。
残りのミドリ、ディアも いつもと違う匂いに 辺りをキョロキョロと見渡している。
「ピーたろうは ブルーさんに預けっぱなし、アクアはラジオ塔の屋上、カイトは行方不明。
 それで、ここは2年前らしいよ。
 ホワイト、見覚えない?」
ゴールドはホワイトの質問に答えた後、万に一つの可能性に賭けて 尋ねてみた。
しかし、ホワイトの答えは・・・・・・
『分かるわけないじゃん、オレ、ゴールドと初めて会った日が 誕生日だもん。
 ゴールドが知っている以上の景色、見たことないよ。』
・・・・・・というものだった。

ゴールドは 足の反動を使って立ち上がると 街頭テレビを見上げた。
光る画面からは『エンジュのガケ崩れ、行方不明の女性未だ発見できず』のニュースが報じられている。
「・・・行こうか。」
「ぴかちゅ?」
『どこに?』

「エンジュの 崩れちゃった舞台へだよ。
 まだ、『行方不明』って報じられてるなら、おばちゃん、まだ生きてるかもしれないもん。」


9、風の親子




意外にも 目的地は歩いて一時間もしないところにあった。
ゴールドは夜になるのを待って、『立ち入り禁止』の看板をくぐり抜ける。

「・・・さて、どうやって おばちゃんを探そっか・・・?
 ホワイト、耳は良い方?」
『あったりまえだろ? オレ様を誰だと思ってるんだよ!?
 耳の良さと ハンサムな顔だけは 誰にも負けねーんだからな!!
 ん〜・・・っと?』
ホワイトは 耳をピクピクと動かしながら 辺りの様子を探っていく。


『ああ、聞こえた聞こえた、生きてるニンゲンの音。
 でもさぁ、ゴールド、なんだか変なんだけど、ニンゲンの音が たくさんするっていうか・・・』
たくさん? と、ゴールドは 目を瞬かせた。
『そぉそぉ、たとえばさ、そこの、ガレキのかげで 息を殺してるちっこいヤツ、とかね。』
話を聞いて ゴールドはすぐさま 瓦礫(がれき)のそばまで走り寄る。
隠れている人物は 逃げようとしたようだが、ゴールドの足の速さには敵わなかった。
「・・・なんだ、シルバーか、驚かさないでよ。
 こんなとこにいちゃ、危ないじゃんか、早く帰らないと、まずんじゃない?」
(8歳の)シルバーは ゴールドの口の動きを見るうちに だんだんと顔を引きつらせていた。
2〜3秒すると、一転して 締った顔になり、月明かりできれいに光る 銀色の瞳を ゴールドの方へと向ける。
「あ、あんた何者なんだよ!?
 おれ、あんたに 名前、名乗っちゃいないし、あんたが出てきたら、ゴールドは消えちまうし・・・
 あんたがもし、死神なんだったら、おれ・・・・・・」

泣きそうな顔をして 殴りかかってきたシルバーを ゴールドは肩を掴んで 引き止めた。
「触らないで。」
そのまま、指先で触られないように ゆっくりとシルバーの体を 元にの位置に戻す。
「心配しないで、『ゴールド』は 絶対に帰ってくるよ。
 僕は・・・・・・え〜と、とりあえず、『怪盗シルバー』とでも、しておこうかな?
 君の、おかあさんを 助けに来たんだ。」
「・・・母さんを?」
「そう、とりあえず、・・・シルバーは ここで じっとしてて。」
小さなシルバーを ディアに任せると、ゴールドは瓦礫の山を睨みつけた。
すばやく動けないミドリを ボールへ戻し、それをきつく握り締めると、ホワイトを連れて 危険な山を登り出す。

「・・・ふぃーう、ふぃふぃふぃ、きゅう・・・?」
「え? 『シルバー以外にまだ人がいる』って?
 シルバーのお母さんじゃないの?」
ぴょんぴょんと ゴールドとホワイトは まるでウサギのように 瓦礫のくぼんだ所まで跳ねながら降りて行く。
「ふぃふぃ、きゅい、きゅぅう!!」
「・・・・・・もっとたくさん?
 まさか、だってここ、もうただの瓦礫の山だけじゃないか、こんなとこに、どうして人が・・・あれ?」
1番下までたどり着くと、ゴールドの靴の先に なにか固いものが当たった。
拾い上げてみると、それは、水晶玉のように 透明な球体で、端に、何か赤黒いものがこびりついている。
ゴールドは目を細めて、それをじっと観察してみる。

「・・・これ、血?」
「ふぃ?(分かるのか?らしい)」
「満月で、結構明るいからね。
 シルバーのおかあさん、近くにいるんじゃないの?」
それを聞くと、ホワイトは耳をピクピクと動かし始める。
しかし、ホワイトが生存者の音を 聞き取るよりも ゴールドが瓦礫の間からのぞく 白い腕を見つけ方が早かった。

「いたっ!! 手、まだあったかいよ!!
 ホワイト、ミドリ、瓦礫どかすの、手伝って!!」
ミドリをモンスターボールから 再び呼び出すと、ゴールド達はすぐには崩れそうもない 無難な瓦礫からゆっくりと どけはじめた。
15分ほど作業を続けると、眠っているのか気絶しているのか、まぶたを動かすことのない顔がのぞく。
木片がかすったのか、いくらか血の出た後があり、わき腹の辺りで木材がクロスしていて ゴールドがいくら力を入れても 動かない。
「・・・どぉしよ。 子供の力じゃ、動きそうにないよ・・・・・・
 ピーたろうか、アクアか、力の強い子がいれば、よかったのになぁ。
 今からでも、レスキュー隊呼んでくるかな・・・」
ゴールドはぶつぶつとつぶやき、あまり緊張感なく立ちあがった。

「ぴぃうッ!!」
夜の静寂(せいじゃく)の中に ディアのするどい 悲鳴が響き渡る。
ゴールドはその場をミドリに任せると、声のする方、シルバーのいる方へと向かって 全力疾走で駆け出した。
「・・・ロケット団!?」
瓦礫の上から シルバーの赤い髪と 2人の小さな体を無理矢理に押さえつける 黒服の男達が視界に入った。
ロケット団の集団は ゴールドの叫び声を聞きつけ、逆光で照らされる 少年の姿を目にとらえる。

(そうだ、2年前だったら、ロケット団が残っていても 全然おかしくないんだ・・・
 早く倒さないと、シルバーのおかあさんが・・・・・・!!)

ゴールドは帽子を目深に被った。
今、ロケット団に顔を知られると、後々 まずいことになりかねない。

『・・・ゴールドとレッド、体型とか顔立ちとかは 結構よく似てんだよ。』

シルバーの言葉が 頭の中に響く。 今はその言葉を信じたかった。
「その子から 手を離せ、ロケット団ッ!!
 離さないなら、・・・・・・オレが相手だ!!」
ちょっとだけ レッドに口調を似せて話すと、ロケット団の2〜3人がどよめきを起こした。
そのスキをついて、ディアの『でんきショック』で シルバーを開放する。
「・・・すげぇッ!! 『怪盗シルバー』、一流のポケモントレーナーなんだな!!」
シルバーが 感激の声を上げた。

「・・・で、これからどうやって戦うんだ?」
「考えてない。」
「は?」
ゴールドは眉をひそめて ロケット団の方を睨みつけた。
10数人いるロケット団に対して、こちらはディアとホワイト、2人しか戦える状態ではないのだ。


10、ピリオド




「ディア、『でんきショック』!!」
洗練された ピカチュウの電撃で 7割方のロケット団のポケモン達は バタバタと倒れていった。
しかし・・・・・・


「・・・はぁ、やっぱり、そう都合よくはいかないか。
 残っちゃったよ、『じめん』タイプ・・・」
たいして緊張感もなく言い放つゴールドに対して、サナギラスを連れたロケット団は 眉間にしわを寄せた。
「言ってくれるじゃねぇか、そんな バカみたいな攻撃力を持ったピカチュウなんかに ホイホイ負けるほど、
 俺達は 落ちぶれちゃいねぇんだよ!!」
「よくゆーよ、こういう電気量にしちゃったのは、ロケット団のくせに・・・」
ゴールドは ディアをモンスターボールへと戻した。

「さぁ、そこを退いて(どいて)もらおうか?
 この舞台で、今から俺達が『とうめいなスズ』を 探すんだ、じゃまなんだよ、はっきり言って。」
言葉を発したロケット団に対し、ゴールドは 夜空よりも真っ黒な瞳で 睨みつけた。
「そういうわけにも行かない。
 まだ、生存者がいるんだ、ロケット団が 何やろうが興味ないけど、助けるまでは帰るわけには行かないんだ。」
ゴールドの言葉と同時に ポケットに入れていた水晶玉が 少し熱くなる。
1歩踏み出すと、りん、という、強い音が 辺りに響き渡った。

「・・・ふん、そういうことか、お前がすでに『とうめいなスズ』を手に入れた、と。
 そういうことなら、お前を倒して、奪うだけのことッ!!」
ロケット団員は まだ開けていないモンスターボールを開いた、
中からは 山ほどもある 苔(こけ)色をした 目つきの悪いポケモンが登場する。
「対レッド用に 特別に育成された、きょうあくポケモン、バンギラスだ。
 ちょっとやそっとの攻撃じゃ、こいつには通用しない、まあ、観念するんだな。」
ロケット団が言い終わるか言い終わらないかのうちに バンギラスは 謎の光線をゴールド目掛けて 放ってきた。
シルバーを抱え、何とかそれを回避すると、その場にシルバーを降ろし、ゴールドは 1人で瓦礫の山を登り始めた。

取り残されたホワイトが 瓦礫の上のゴールドに向かって抗議する。
『オイッ!? 一体どうするつもりなんだよ、オレを置いてって!!
 まさか1人で『おとり』になるつもりじゃ ないだろな!?』
「・・・ポケモンがしゃべった!?」
『あ゛・・・(シルバーのこと忘れてた)』

崩れた舞台の上では 激しい攻防が繰り広げられていた。
「・・・ちィッ、チョロチョロとすばしっこいネズミが!!
 バンギラス、さっさと焼き尽くせ!!」
「ぼ・・・オレを攻撃したら、スズも 一緒に壊れちゃうんじゃないの?」
得意のスピードで ゴールドはバンギラスの放つ『はかいこうせん』を 1回、また1回と避けて行った。
その度に、ゴールドの背後や足元が 崩れたり、焼けたり、爆発したりしている。
「構うか!! 壊れたら、修復しにセレビィが現われる!! その時を狙えばいいだけのこと!!」
「・・・『セレビィ』ってのが何なのかは 知らないけど、確かに、言うとおりだね。
 まずいな、僕1人じゃ、あいつの相手、できないし・・・」
炎や 崩れた瓦礫で だんだんとゴールドの逃げ道がなくなってくる。
それでも 新しい逃げ道を見つけては そこに走りこむゴールドに バンギラスは ついにしびれを切らして みずから突進してきた。

(悔しいな・・・・・・こんなにも『1人の力』が 弱いとは思わなかった。)

「誰かッ!!!」
逃げ道がなくなり、ゴールドは 叫んだ。
途端、昼間のように空が輝き、全員は 一斉にそちらを向いた。
「・・・・・・に・・・じ?」
ゴールドの鼻先に 柔らかい物が降ってきて、乗っかる。 光の当たり方で 次々と色の変わっていく きれいな羽根だった。
呆然と『それ』を見つめていると、バンギラスの注意が 自分からそれていることに気付き、ゴールドは再び走り出す。

「ミドリ!!」
瓦礫の影にいたミドリは ゴールドの声に反応した。
強い光に包まれて 黄緑色の体が 淡く輝く。
木材や屋根がわらの階段を 2段、3段飛ばしで駆け下りてくると、ゴールドはミドリのそばで ポケモン図鑑を開いた。
「真夜中なのに・・・こんなに強い光・・・・・・
 原因はどうだっていい、今なら、ミドリの力を120%解放できる!!
 ミドリ、どんな攻撃でもいい、一番強い技を、バンギラスに向けて撃つんだ!!」
ミドリは 力強い足取りで 一歩前へと踏み出す。
淡い光はだんだんと 激しい光へと変わっていった。

「・・・っりゅうぅぅッ!!!」
ミドリから エメラルド色の光が放たれ、バンギラスの体を貫通する。
レベルが低くて 覚えられるはずのない『ソーラービーム』という 技だ。
バンギラスは土けむりをあげ 大きな体を瓦礫の上へと横たえる。
「・・・・・・ちぃっ!! ひけ、ひけぇッ!!」
ロケット団は 悪人らしく 逃げ腰で帰っていった。
後には ゴールドとミドリ、シルバーとホワイト、それに、気絶したままの シルバーの母親だけが残される。


「・・・りゅうぅ?」
だんだんと弱くなって行く光の中、ミドリは ゆっくりとゴールドの方に振り向いた。
ゴールドよりも小さかった体は ずいぶんと大きくなり、今では ゴールドを見下ろすほど。
夕焼けのような赤い光に 首の周りを飾っている花びらのような物が きれいに 照らされている。
「メガニウム・・・・・・お手柄だよ、ミドリ!!」
ゴールドが微笑むと、ミドリも笑い返した。

『大丈夫か? こっちからだと、そっちの様子見えないんだけど・・・』
頭の中に ホワイトのテレパシーが響き渡る。
「ホワイト? うん、大丈夫だよ、ミドリが進化して助けてくれたし・・・・・・」
『進化?』
「そう、ずいぶん体、大きくなってさ、かっこいいよ!!」

『・・・・・・体が大きくなった?
 だったら、ただでさえ ミドリの力、強いんだから、どけられなかったガレキ、何とかできるんじゃ?』
ホワイトの声が聞こえると、ゴールドはミドリと顔を見合わせた。


11、ただいま。




「ホワイトぉ、大丈夫? ロケット団に襲われたりしなかった?」
ゴールドは 気絶したままのシルバーの母親を メガニウムへと進化したミドリの背中に乗せて、瓦礫の上の歩きやすい所を選んで歩いてきた。
最後の1、2段を一気に飛び降りると、その場に腰を下ろしてゴールドのことを待っていたホワイトの所へと 駆け寄る。
「シルバー、どうしちゃったの?」
ゴールドの視線の先には 眠ったように動かないシルバーの姿があった。

『光にあてられたときに 気絶しちゃったんだよ。
 呼んでも反応ないし、命に別状はなさそうだから、とりあえず放ってあるんだけど・・・・・・』
「何言ってんだよ!?
 もしかしたら、日射病とかかもしれないじゃんか、早く病院へ運ばないと!!
 ミドリ、後からでいいから、病院まで付いてきて!!」
それだけ 言い残すと、ゴールドはシルバーの体を抱きかかえて 病院へと走り出した。
風のように走るゴールドに ポケモンとはいえ、誰もかなうはずがない。
ホワイトとミドリは その場に取り残されていた。


『・・・・・・まったく、あいつシルバーのことになると、急にムキになりだして・・・
 早いとこ、行こうぜ、ミドリ。』
ミドリがうなずいて歩き出そうとした時、パタパタとした 細かい足音が 闇の中から響いてきた。
「えらいこっちゃぁ〜・・・サクラ達、みんなして いなくなってまうんやから・・・
 あら? 見かけへんポケモンやな、上に乗っとるんは・・・・・・人か?」
駆け寄った女の人は 気絶したシルバーの母を見るなり 大声を上げる。
なんやなんやと 大騒ぎしたあげく、彼女を抱きかかえて 治療のために どこかへといってしまった。

「遅いよ、ミドリ、ホワイト・・・
 シルバー、とっくに病院に届けてきちゃったよ?」
数分としないうちに ゴールドがてくてくと 歩きながら戻ってきた。
すぐに、シルバーの母親がミドリの背中の上にいないことに気付き、目を瞬かせる。
「・・・あれ? おばちゃんは?」
ホワイトが口を開いて何かを言おうとした時、ゴールドのポケットの中でなにかが リン、と音を立てた。
ゴールドが ポケットから音のする物体を取り出す。 それは、先ほどの水晶玉だった。
「おかしいね、動かなきゃ、鈴は鳴るはずないんだけどなぁ・・・」
ゴールドが 首を傾げる(かしげる)と、また、リン、と 鈴がなる。
さすがにおかしいと思い、ゴールドは鈴を持っていないほうの手を ぶんぶんと振り回した。

リン・・リン・・リン・・・・・・

「・・・ぷっ、くくく・・・あのねぇ、鈴は『自分の体が』動いたときに、音を鳴らすんだよ?
 分かった、セレビィ?」
水晶玉・・・『とうめいなスズ』は、2〜3秒の間を置くと、ゴールドの手の上で輝き出した。
見る見るうちに ディアほどの大きさになると、きれいな黄緑色をした小さな動物が ゴールドたちの目の前に姿を現す。
「ビィ?」
小さなポケモンは 黒色で縁取られたきれいな瞳を ゴールドの方へと向けた。
40センチほどの小さな体で2頭身、頭には触角、背中には まるでレースのような透明な羽根が ちょこんと付いている。
『ス、スズが、ポケモンに化けた!?』
ホワイトがすっとんきょうな声を上げる。
その様子を ゴールドはクスクスと笑い、にっこりと笑いながら説明し始めた。
「これが、『とうめいなスズ』の正体だよ。
 ときわたりポケモン、セレビィ、ウバメの森の『神様』・・・・・・」
『セ、セレビィ?』
「ビィ!!」
セレビィと呼ばれた 小さなポケモンは 片手を上げて挨拶した。
「奇妙なことにね、このセレビィと僕が最初に会ったの、2年後なんだ。
 きっと、さっきのロケット団騒動のせいで、僕達が『ここ』に呼び出された時に 会ったんだろうね。」
ゴールドは訳の分からない説明を始めた。
ホワイトとミドリは 目をパチパチとさせている。


「・・・・・・さ、て、と!!」
ゴールドは一度、話をしきりなおすと ホワイトとミドリの方に視線を向けた。
表情が 少しだけ大人びている。
「帰るよ。」
『は?』
「だから、僕達の時代まで、帰るって言ってるの。
 このままじゃ、『この時代』のぼくは、いつまでたっても帰ってこられないじゃないか。
 セレビィに手伝ってもらって、僕達が もといた時代まで帰るんだ。
 いいよね? セレビィ!!」

セレビィは 少しだけ淋しそうな表情をすると、笑って、大きくうなずいた。
それを見るとゴールドは 半ば強制的にミドリとホワイトを モンスターボールへと戻し、腰のホルダーに取りつけた。

辺りの景色が大きく変わり、ゴールドたちの体が光に包まれる。
体が、自分の物でなくなったような感覚を味わった後、ゴールドは 深い緑の森の中に 静かに落とされた。


『おかえり。』
小さな 男の子のような声が ゴールドの頭の中に響いてきた。
顔を向けると、ウバメの森の祠(ほこら)の上で、大きな目をくりくりとさせながら セレビィが 楽しそうな顔でこちらを見つめている。
「・・・ただいま。
 シルバー達、心配してるかな、結構長いこと、留守にしてたもんね。」
『その子達なら、少し前に ここに来たよ?
 ポケモンセンターってトコに 行ったみたい。』

ゴールドは笑うと 小さく手を振って祠(ほこら)に背を向けた。
「そっか、ありがと!!
 また、遊びに来るよ、その時は遊ぼうね!!」
セレビィも笑う、そして、何も話すことなく、体を宙に浮かせると ウバメの緑色の中へと消えていった。

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