幕間劇、トライアングル
「クリスとシルバー?
そういえば、見かけないわね、どこいっちゃったのかしら?」
コガネシティのポケモンセンターにいたブルーは ゴールドを見るなり幽霊を見るような表情を浮かべたが、
ゴールドがそんな事気にせずに質問を進めて行くと、そう答えた。
ゴールドの記憶の中には 2年ほど前に今のコガネシティへ来た記憶がある。
『その時』に会った『ブルー』も、自分を見て驚いていた。
ブルーにとっては 突然人の体が小さくなったり大きくなったりしているように見えたのだろう、驚くのも無理はない。
「・・・エンジュシティ・・・」
何を考えたわけでもなく、突然、ゴールドの口から言葉が漏れた。
ブルーが何かを言っていたが、それを聞くこともなく センターの外へ飛び出す。
自動扉の所で 女の人とぶつかった。
「・・・ゴールド?」
聞き覚えのある声で ゴールドは振り向いた。
見覚えのある ルビーのような赤い髪が瞳に映る、シルバーではなかった。
「・・・お・・ばちゃん?」
彼女の横で レッドが不思議そうな顔をしている、そんなことすら気にせずに ゴールドは『おばちゃん』に駆け寄り、ガラスの扉に激突した。
ちょっとだけ赤くなり始めた顔を押さえながらも ゴールドは笑顔になる。
「よかったぁ、ホワイトに聞いたら、知らない人に連れ去られたって言うから・・・
・・・生きてたんだぁ・・・」
安堵(あんど)の息をつくゴールドを見て 目の前にいる赤い髪の女の人は 銀色の瞳の入った目を瞬かせた。
レッドが前に出てきて ゴールドの視線の高さで話し出す。
「あのさ、ゴールド、言いにくいんだけど、この人、2年より前の記憶がないらしいんだ。
それで、おまえのことも シルバーのことも、覚えてないって言うんだよ。」
ゴールドは一瞬、目を丸くしたが すぐにまた笑顔になって『おばちゃん』の方に向き直った。
黒曜石(こくようせき)のように真っ黒な瞳で ゴールドはニコニコと笑っていた。
「それでもいいよ、行方不明だったおばちゃんが見つかったんだもん、生きてたから、それでいいよ。」
そう言うと、つかつかとブルーの方に歩み寄った。
おもむろにブルーの持っている1つのモンスターボールを掴むと、一気に外に走りだし、ボールを開く。
「いっくよぉ!! ピーたろう!!」
ボールから出てきたのは ゴールドの言ったとおり、ピジョットのピーたろうだった。
ゴールドは ひらりとその上に飛び乗ると レッドが何か叫ぶのも聞かず、大空へと飛び出した。
行き先は、エンジュシティ。
「・・・さすがに、ばてちゃったか。
1回、ポケモンセンターに休みに行こうか、ピーたろう?」
5分もしないうちに ゴールドはエンジュへと到着していた。
大きな 古い建物を見上げるゴールドのその横では苦しそうに はあはあと酸素を取り入れているピーたろうの姿がある。
ゴールドはピーたろうをボールに戻し、代わりに、自分が持っているポケモン、ミドリ、ディア、ホワイトを全部出した。
ピーたろうの回復をするために センターへと足を向ける。
時期のせいか、センターの中の植物達は なんだか元気がなかった。
同じ植物だからか、メガニウムのミドリはしおれかけて何枚も花びらを落としている花瓶(かびん)の花をのぞきこむ。
「・・・ミドリ?」
2つ、3つと 花瓶の中にある花が 再び咲き始めた、ゴールドが目を丸くしている間に センター中が甘い『におい』で一杯になっていく。
ポケモンセンターにいる誰しもが その『におい』に酔いしれた。
ゴールドは嬉しさで胸が1杯になって、思わずミドリの首に抱きついていた。
「すごい、すごいよ、ミドリ!!」
それ以上は なにも言わなかった、ただ、黙って うんうんとうなずくばかりだ。
ゴールドは ほう、と小さく息をついてセンターを見まわした、大きなセンターの中にある植物は そのどれもが活気付き、綺麗な花を咲かせている。
「ねぇ、外行こうよ、ミドリ!!
『スズのとう』の近く、きっとエンテイが暴れまわって 焼け野原だよ?」
ゴールドの言葉を合図に ホワイトとディアが外側に走り出して 自動ドアを開いた。
そこに滑りこむように ゴールドとミドリが大きなドアを潜り抜ける。
「ふぃーう、ふぃふぃう、ふぃ?」
「・・・『どうして、スズのとうにエンテイがいるって分かったか』って?
記憶、かな、2年前、のね。」
ゴールドは優しく笑うと 日本建築風の9重の塔を見上げた。
竹で出来た柵を飛び越え、赤茶けた毛を持った 2メートル以上もある大きなポケモンが ゴールドの前に降り立つ。
エンテイだった。
「・・・久しぶり、かな? エンテイ・・・
クリスとシルバー、見なかった?」
エンテイは目元を緩めると 自分の後ろにある大きな建物を首で指した。
ゴールドも笑って礼を言うと、『伝説のポケモン』ともいわれているエンテイを通りすぎ、柵を乗り越えでスズの塔へと向かった。
「ああ、いたいた、クリスにシルバー。」
見上げるほどの高さの塔の下に 2人は立っていた。
ふらふらになりながらも笑っているクリスを シルバーが心配そうに見つめている。
近づくことが はばかられるような気がして、ゴールドは なんとなく建物の影に隠れた。
「・・・・・・あ〜あ、見ちゃいらんないなぁ。」
誰にも聞こえないような小さな声で ゴールドは ぼそっとつぶやいた。
おろおろとしながら 何をするわけでもなくクリスのことを見つめているシルバーを見つめながら、ポケットの中を探る。
なぜか、クリップが出て来た。
「ディ〜アッ!! このクリップに電撃込めて、クリスの脚(あし)あたりにぶつける、って出来る?」
ゴールドが笑顔で話しかけると、ディアは嬉しそうにうんうん、と うなずいた。
小さなクリップを放り投げ、電気を込めた尻尾で弾き飛ばす。
予想通りに 電撃クリップはクリスの脚に命中し、バランスを崩したクリスは シルバーの腕の中に倒れこんだ。
「・・・これでよし、と。
ねぇ、絶対シルバー、クリスのことスキだよね、なのにさ、全然行動に出さないんだもん。」
ゴールドは悪戯っぽい笑顔を浮かべると、ディアとホワイトの方に向き直った。
すると、自分のポケモン達に混じって、エンテイまで一緒になってうなずいている。
「ね。」
ゴールドは自分のほおをちょっと押さえると、どこへ行くでもなく歩き出した。
30分くらい、エンジュシティを歩き回った後、ゴールドはポケモンセンターへと戻ってきた。
ガラス張りの扉をくぐると、ずいぶんと見なれた シルバーとクリスの顔が ゴールドの瞳に映る。
「ただいま。」
発した言葉は、その1言だけだった。
シルバー、クリス、両方とも まるで人間以外の物でも見るかのような表情で ゴールドのことを見つめている。
「・・・・・・ゴールド?
・・・どこいってたんだ、一体!? さんっざん、みんなに迷惑かけといて!!
おまえがいなくなっている間にこっちで一体何があったと・・・・・・!!」
先に口を開いたのはシルバーだった。
開口1番、耳の痛くなるような説教が ゴールドを襲う。
ゴールドはその全てを ニコニコと笑いながら聞いていた。
「・・・・・・やっぱり、2年前か? おまえが行ってたのって・・・・・・」
1通り怒鳴り終わった後、クリスに聞こえないよう場所で シルバーはゴールドに尋ねてきた。
「うん、ごめんね。」
『ごめんね』の意味を理解したのか、シルバーは首を横に振る。
「生きてただけ、良かったよ、あの落石事故だって、おまえのせいじゃない。
むしろ、こっちが礼を言う立場なんだから、おまえはもう謝るなよ。」
ゴールドはうなずくと 黒い瞳をシルバーの方へと向けた。
少しだけわくわくした顔で 2年前のことを何から話そうか考える。
「・・・こっちの方が早いッ!!」
シルバーはそう言うと ゴールドのひたいを軽く指先で弾いた。
その途端、顔を真っ赤にして、ゴールドとクリスを見比べる。
「・・・・・・見てたのか?」
「あ、ばれた・・・」
楽しそうにクスクスと笑うゴールドに シルバーはものすごい勢いで突っかかった。
「ゴールドッ!! てめぇ、おれがあーゆーの苦手って分かってて・・・ッ!!
どーゆーつもりなんだよッ!? あーッ、逃げるなッ!!」
ポケモンの病院、ポケモンセンターは ゴールドとシルバーの鬼ごっこの会場へと変わっていた。
しばらく、笑いは止みそうにない。
<次の街へ>
<目次に戻る>