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5、10月17日(3) 6、最後のジムバトル



5、10月17日(3)




「ミドリOK、アクアOK、ホワイトOK、ディアOK、カイトOK、ピーたろオッケー!!
 それじゃ、いこっか!!」
10月17日、ゴールドは 念入りにポケモンたちの最終チェックを終えると、元気よく立ち上がった。
今日からフスベシティのジムが 開けられるのだ。
ここのジムを制すれば ポケモンリーグへ出場できることになるゴールドは 気を抜いていられない。


待っている間に聴こうとラジオをつけると、ちょうど特別番組の始まるところだった。

『さあ、はじまりました コガネラジオ特別企画、新人トレーナー、ジムリーダーに挑戦!!
 挑戦するのは、トレーナー暦(れき)4ヶ月!! だけど情熱なら誰にも負けない 天才トレーナー少女、クリスちゃん!!
 対するは、ヒワダの若きジムリーダー、歩く虫ポケ大百科、ツクシ君です!!
 この若きトレーナーたちの戦い、果たしてどちらに勝利の女神は微笑むのでしょうか!?』

「・・・クリスだ。」
ゴールドは全身の血液が湧き立つような気持ちで聴いていた。
それをさえぎるように ジムの係員がバトルの準備ができたことを ゴールドに伝えに来る。
ラジオの電源を入れたままで ゴールドは立ち上がった。
小さな時計から聞こえてくる歓声は ゴールドの心をも燃えあがらせる。


「あら、ラジオ?
 ずいぶんと余裕を持ってるみたいね、挑戦者さん?」
ジムリーダーのイブキはラジオをつけっぱなしでフィールドに立ったゴールドを笑った。
決して いい意味には取らなかっただろうが、ゴールドは笑い返す。
「すみません、なんか、勇気を分けてもらえるような気がして・・・・・・
 このまま戦ってもいいですよね?」
「まぁね、勝負は3対3よ、あ、入れ替え制ね。
 それじゃ、始めるわよッ!!」
ゴールドは大きくうなずくと、1つめのモンスターボールを構えた。

『モコモコッ、いっけぇ!!』

ラジオ放送から聞こえてきたのは 元気よく始めのポケモンを繰り出す クリスの声。
「モコモコか、・・・じゃ、僕は・・・ディア、がんばれっ!!」
ゴールドは手に持っていたモンスターボールを戻し、改めて腰のホルダーから ポケモンを繰り出した。
飛び出したディアは 長い耳をパタパタと動かしながら にっこりと周りの人間に愛想を振りまく。
「・・・ずいぶんとなめられたもんね、ピカチュウなんて、所詮、ペット用のポケモンでしょ?
 私は手加減しないわよ、ハクリュー!!」
イブキは持っていた青色のモンスターボール、スーパーボールをおもむろに足元に転がすと、手に持っているムチをしならせた。
その瞬間、ゴールドとディアの目の前に 巨大な壁が出来たかと思うほどの大きさ、
白い蛇(へび)を思わせるポケモン ハクリューが姿を現す。
それほどの大きなポケモンが相手だというのにも関わらず、ゴールドとディアはあせったりはしなかった。
いつもの笑顔を向けると、一気に戦闘態勢を取る。

「ディア、『でんじは』!!」
上手くタイミングを掴んだディアは 先手を取った。
その小さな体を活かし、ハクリューの長い体をくぐり抜けてシビレを起こさせる電流を放つ。
ゴールドと目で合図を交わすと 自慢のスピードを活かし、ハクリューの周りを走り出す。
「・・・・・・ちょろちょろと・・・!!
 ハクリュー、『でんじは』で動きを止めなさい!!」
イブキは手に持ったムチを ピシリと鳴らした。
それに合わせるように ハクリューがひたいについた角(つの)の先で 電撃を流し始める。
「ディアッ!!」
ゴールドが叫んだのとハクリューの『でんじは』が発射されたのは同時だった。
細かな電気の波が フィールドいっぱい 覆い尽くす(おおいつくす)。
「・・・こんな小動物、大技を当てれば どうってことないのよね。
 ハクリュー!! 『はかいこうせん』!!」
『でんじは』の影響を受けて 一瞬動きが止まったディアに ハクリューは狙いを定める(さだめる)。
ゴールドが技の指示を出そうとしたのか叫んでいたが、間に合っていなかった。
『はかいこうせん』の一撃で あっというまにディアの小さな体が フィールドの外まで 弾き飛ばされる。


『・・・・・・、モコモコ、『かみなりパンチ』ッ!!』
『決まったぁ!! クリスちゃんのモココの 『かみなりパンチ』!!
 ツクシ君のスピアー、これには耐えられな〜い!! クリスちゃん、まずは 1ポイント先取!!』

ラジオの歓声が妙に空しく(むなしく)響くなか、ゴールドはディアの元まで走りより、小さな体を抱き上げた。
耳を近づけると かろうじて小さな吐息が聞こえてくる。
ゴールドは少しだけ微笑むと、ディアの小さなひたいを軽くなでた。
モンスターボールにディアを戻すと フィールドの3分の1を占めている 巨大なポケモンを睨みつける。

『おーっと、クリスちゃんのモココ、体毛が全部抜け落ちてしまったぁ!!
 ・・・・・・と、違う? えっと資料を・・・
 あれは、・・・デンリュウ、そう、モココ、進化しました、デンリュウです!!』

「・・・モコモコ・・・・・・」
ラジオからDJの興奮した声が キンキンと響いてくる。
慎重に、ボールを指で探ると ゴールドは 野球のピッチャーのようにアンダースローで 勢いを付けてボールを投げ飛ばした。
祈るような 気持ちで。
「カイトッ、真下に『バブルこうせん』!!」
モンスターボールがカンッと何かに当るような音をたてた瞬間、大きな音とともに、辺りを乳白色の霧が包んだ。
技になるほど 濃い霧でもなかったが、その影響でフィールドの上は むせ返るような湿気に包まれる。
その薄い霧の中から 2メートルはある 巨大なポケモンが飛び出してきた。

「せーこうッ、クリスに負けてらんないもんね、カイトッ!!」
ゴールドは 4メートル以上ある 巨大なポケモンのために作られた
大きなフィールドの上をぐるぐると旋回する 自分のポケモンに 自信のある微笑みを投げかけた。

「・・・マンタイン、『みず』、『ひこう』タイプ。
 今度は空中戦にでも持ち込もうってワケ?
 言っておくけど、ハクリューは 空中戦に屈する(くっする)ようなポケモンでもないからね!!」
イブキのムチがしなった。


6、最後のジムバトル




出現したマンタインは 滑るようにジムの中を飛びまわると ハクリューへと向けて『バブルこうせん』を放った。
たいしたダメージはなかったらしいが 泡のはじけた感触がかたい皮膚を しびれさせる。
その様子を見ていたイブキは 眉をしかめていた。
「・・・面倒くさいわね、ハクリュー、さっさと片付けなさい!!
 『はかいこうせん』!!」


「・・・・・・え?」
イブキのイライラした声を聞いたゴールドは 肩透かしを食らった気分だった。
ハクリューは空を飛びまわっているマンタインに 照準を合わせることはできているのだが 肝心(かんじん)の光線が出てこない。
強力過ぎる威力(いりょく)の『はかいこうせん』は 1度にそう何発も撃てるものではないのだ。

「カイト、とにかく 早目に1匹目を倒してしまおう!!
 この間覚えさせた技、使ってみて!!」
ゴールドは視線を上げて 上空を旋回しているカイトに指示を出した。
その瞬間、カイトの飛行スピードは早まり、辺りは 一斉に白い『何か』に包まれた。
空中に散っている『何か』に包まれると ハクリューは体中の力を奪われたらしく 大きな体を支えきれずに 倒れた。
「・・・・・・な、ハクリューが!?」
「上出来ッ!!
 『こごえるかぜ』攻撃、きれいに決まったね!!」
ゴールドは はるか上の方でゆっくりと飛び回っているカイトに向かって 親指を立てて『GOOD!!』のポーズをとって見せる。

イブキは 明らかに不機嫌な顔をしていた。
恐らく、今まであまり ピンチに陥った(おちいった)こともなかったのだろう。
黙ったまま 2つ目のモンスターボールを床の上へと設置する。
白いじゅうたんのように雪の降り積もったフィールドの上に ムチのしなる乾いた音が鳴り渡った。

『・・・油断大敵ッ、クリスちゃんのトゲリン、ヘラクロスの『カウンター』で 相性の差すら ひっくり返されてしまったァ!!
 続いて 先ほど進化したばかりのデンリュウ、モコモコが そのヘラクロスにとどめをさします!!』

ゴールドは 相変わらず歓声の鳴り響くポケギアに手を触れた。
ボールから勢いよく飛び出したキングドラが ゴールドの漆黒の瞳をじっと睨みつけている。
ゴールドは一瞬の沈黙を見送った後、上空のカイトへと向かって 赤白のモンスターボールを向けた。
「交代だよ、カイト!!
 モンスターボールに戻って!!」
カイトはその声に合わせてぐるりと旋回すると ゴールドの手元まで接近してモンスターボールの中へと戻った。
入れ違いに 反対の手で持ったモンスターボールを 白いフィールドの上に放り投げる。

「アクアァ、出番だよっ!!」
高く放り投げられたモンスターボールから飛び出したヌオーは ぽってりとした体に似合わず
軽く空中で1回転して どすんと 尻から着地した。
「ここは サーカスじゃないのよ、ふざけないで頂戴(ちょうだい)!!」
イブキのムチが鳴ると どういうバランス感覚で立っているのか分からない(キングドラに足はないのだ)キングドラは
雪の上を滑って 一気にアクアの所まで詰め寄ってきた。
繰り出される炎(『りゅうのいぶき』という技らしい)を アクアは ゆっくりとした動きで次々とかわしていく。
「ふざけてるわけじゃないよ。
 笑顔も 勝利へ駒(こま)を進めるための 1本の剣なんだ。
 アクア、『じしん』攻撃!!」
ゴールドは再び笑い、キングドラへと向かって指差した。
アクアが『しこ』を踏むように 足を踏ん張ると 積もった雪を舞い上げて地面が揺れ始める。
それに足を取られたのか(先ほども書いたようにキングドラに足はないのだが)バランスを取りきれず、キングドラは転倒する。
「今のうちィ、アクア『のしかかり』!!」
「キングドラ『はかいこうせん』よ!!」
アクアが 突進していったところに キングドラは強力な光線を放つ。
突然のことだったので ゴールドが指示を出すひまも アクアが自分で避けるひまもなかった。
すさまじい破壊力の光線は アクアの体を直撃する。

「クゥゥ・・・・・・・」
「アクアッ!!」
5メートル以上飛ばされたアクアは その場に倒れこんだ。
ゴールドが反射的にイブキの顔を見ると 彼女は勝ち誇ったように笑っていた。
「『笑顔も勝利へ駒を進めるための剣』・・・よく言ったものね。
 でも、どうやら勝利の微笑みを手に入れるのは 私になりそうよ。」
ゴールドは 雪の溶けはじめた地面へと視線を落とすと 真っ直ぐにキングドラへと視線を戻した。
空いている左手で 軽くリズムを取り始める。
「・・・・・・? 何やっているのかしら?」
その問いに ゴールドは答えなかった。
ひたすらにトントンと 指先でリズムを取り続ける。
「アクアッ、『じしん』攻撃!!」
左手を真っ直ぐに前に突き出すと ゴールドは叫んだ。
途端、全員の足場となっているフィールドが 激しく揺れ始める。
すでにダメージの溜まって(たまって)いたキングドラは その一撃に耐えきれなかった。


「次は・・・・・・」
「もういいわ、私の負けよ。」
「え?」
突然のイブキの言葉に ゴールドは目を丸くした。
イブキはポケットの中から 竜の頭をかたどったような形のバッジを取りだし、ゴールドに投げてよこす。
「あんた、『図鑑を持つもの』だったのね。 そのヌオーの体力も それで調べたんでしょう?」
イブキに言われ ゴールドは自分の右手を見つめた。
その手には 赤い表紙のポケモン図鑑がにぎられている。

「昔から、ずっと勝てない相手がいてね、私の従兄弟(いとこ)なんだけれど・・・
 その人も 図鑑を持ったトレーナーには どうしても勝てなかったのよ。
 もう、3年も前の話なんだけれどね・・・・・・」
ゴールドは すっかり疲れ果てて座りこんでしまった アクアの頭をそっとなでるとイブキの方へと向き直った。
ラジオから試合終了を告げる声が聞こえ、歓声がより一層大きなものへとなる。
「さっ、もう行きなさいよね!!
 あんたの顔見てると、負けたこと思い出して すっごく腹立つんだから!!」
イブキは眉をしかめると、手に持ったムチを ピシリと鳴らした。
その音に反応するように ゴールドはアクアをボールへと戻して 走り出す。

その顔は笑っていた。

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