<各話の1番最初に飛べます>
4、イツキ 5、キョウ 6、シバ 7、カリン



4、四天王に挑戦!
  〜ゴールドの場合―――イツキ




ゴールドは2つのモンスターボールを握り締めて会場へと入っていった。
予選と『四天王に挑戦!』、2つの予選が同時に行われるこの日、1番観客で混み合うスタジアムだ。
すでに四天王の1人が待っているスタジアムに 主役が会場入りすると 会場中の人々は盛り上がった。

『さあ、今年もやってまいりました、第4回ポケモンリーグ!!!
 こちら、本戦会場では ただ1人、ジムバッジを8つ集めることに成功した
 ワカバタウンのゴールド選手が 四天王に挑戦します!!!』

実況の盛り上がった声を聞くと、ゴールドの気分も高揚してきた。
2つの手に力を込めると 会場入り口から一気に走って フィールドの真ん中で『お客様』に手を振る。

『3年前に たった1人の挑戦者を出しただけのこの『四天王に挑戦!』のコーナー、
 記憶に新しい方もいらっしゃると思いますが、ルールの説明をさせていただきます!!
 試合形式は2対6、チャレンジャーは『四天王』が次々と繰り出してくる2匹ずつのポケモンを
 自分の持ちポケモン全てを使って 倒して行かなければいけません。
 4人のトレーナーが2匹ずつ、つまり 事実上は8対6の バトルになるわけです!! 
 試合中の交代は チャレンジャーのみ許されています!!!
 なお、ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、
 3年前の成功者、そして第1回のリーグ優勝者の映像は ただいまエキシビジョンに流れておる マサラタウンのレッド選手です!!』

「・・・・・・・・・・・え!?」
ゴールドは自分の真上にある 巨大なテレビ画面を見上げた。
そこには 自分の旅の手助けをしてくれた レッドが見知らぬトレーナーと戦っている姿が大きく映し出されている。
「そういえば、『優勝した』って、言ってたような・・・
 本当のことだったんだ、だったら、なおさら負けられないってことだね。 ねぇ?」
ゴールドが赤白のモンスターボールへと向かって話しかけると ボールはカタカタと音を立てて揺れた。
「『レッド』もいいけど、こっちを無視しないでくれるかな?
 今の君の対戦相手は、このボク、イツキなんだから!!」
「そーでした、ごめんなさい。」
ゴールドはいたずらっぽく笑うと、立ち位置まで走った。


意外にあっさりと審判の旗は振られた。
「行けッ、ヤドラン!!」
「ホワイト、1番手を頼むよ!!!」
ホワイトは出てくるなり走りだし、相手をかく乱させる作戦に出た。
力強く4本の足で踏み出し、『でんこうせっか』で ヤドランの体に小さな傷をつける。
「チョウジで会ったよね、あの時には自己紹介出来なかったから、今名乗っておくよ!!
 ボクの名前はイツキ、世界各地を回ってエスパーポケモンを極めた、四天王の1人さ!!」

「・・・・・・・・・むっ!?」
「どうしたの、ナツメ?」
地までつきそうな長い黒髪をした女性に 茶髪の女の子は話しかけた。
「いや、今 挑戦的な言葉を察知(さっち)したような・・・・・・」

ゴールドは 手を口に当てて早くも考え出した。
初っ端(しょっぱな)から エスパー対エスパー。 普通の戦い方では決定的なダメージなど与えられないのだ。
「考えているみたいだね、この状況をどうすればいいか・・・
 だけど、ボクがこの状況を予想しなかったと思うかい? ヤドラン、『のろい』!!」
イツキが指示を出したことによって、ゴールドとホワイトは同時に身構えた。
しかし、ヤドランが何かを仕掛けてくる様子はない。
いつも通り、のろのろと動きまわっているだけだ。 ホワイトはまた『でんこうせっか』を仕掛けようと 足に力をこめる。
「ホワイト、『じこあんじ』!!」
全く予想していなかったゴールドの指示に ホワイトは一瞬だけ戸惑う。
しかし、しぶしぶながらも主人の命令に従う、
すると、素晴らしいスピードを誇っていたはずのホワイトの動きが 重りでも付けられたようにのろのろと遅くなった。
「ん、気付いちゃったか。」
「・・・スピードを犠牲(ぎせい)にして、力を上げたみたいだね。
 ホワイト、『でんこうせっか』を使って!! そうすれば スピードは関係なくなる!!」
言われたとおりに ホワイトは『でんこうせっか』のスピードでヤドランへと向かって攻撃を仕掛けた。
「おや、『のろい』の効果には気付いたのに、作戦は気付かなかったのかい?
 ヤドラン、『のしかかり』!!!」
ホワイトがヤドランの大きな体に傷をつけた瞬間、ヤドランは真っ直ぐ前に倒れこんできて、ホワイトを押しつぶした。
一瞬のことでよけることの出来なかったホワイトは 悲鳴を上げる。
「残念、致命傷にはならなかったか。」
「・・・・・・戻って、ホワイトッ、ディアと交代する!!!」
ゴールドの奥歯がカチカチと鳴っていた。
手早くポケモンを交代すると、ディアの『10まんボルト』でヤドランを気絶させる。


「・・・チッ、ヤドラン、戻れ!! ネイティオ、今度はお前だ!!!」
ゴールドとイツキの口元が 同時にゆがんだ。
「ディア、戻って!! ミドリ、交代だよ!!!」
一瞬後で交代されたミドリに向かって『サイコキネシス』が放たれた。
元々力の強かったミドリは それを踏みとどまって耐える。
「・・・メガニウム? 一体、どういう選択をしたつもりなんだい?
 ネイティオ、『そらをとぶ』んだ、タイプ選択の間違いを 教えてやれ!!」
「もういいっ、戻れ、ミドリ!!!」
ネイティオが飛びあがる直前、ゴールドはミドリをモンスターボールへと戻した。
さらに入れ違いにモンスターボールを投げる。 中から飛び出したのは、再び、ピカチュウのディア。

「・・・・・・・・・しまった!!」
「ディア、『かみなり』!!!」
ゴールドの言葉の一瞬後、会場の真ん中に付いていたエキシビジョンが 大きく揺れ動いた。
破裂したような音と一緒に 閃光が会場を襲う。
直後、雷に打たれたネイティオが ふらふらと墜落してきた。

『ネ、ネイティオ、戦闘不能!! 四天王、交代です!!!』

ディアに向かってゴールドが何かを叫んでいるのも聞こえないくらい、会場は大きく盛り上がった。
あまり浮かない表情をしている少年をよそに 試合は次々と進んで行く。


5、四天王に挑戦!
  〜ゴールドの場合―――キョウ




「交代だよ、キョウ。
 あのボウヤ、ポーッとした顔してて、意外とあなどれない。
 ・・・・・・気を付けなよ。」
イツキと入れ違いに入ってきた男は 無言のままうなずいた。
黒い忍び装束(しょうぞく)に身を包んだ男は 青いスーパーボールを構えた。


一方、ゴールドは暗い表情で うつむいてうなだれていた。
前の戦いで出した ディアすらそのままで。
さすがのディアもゴールドの変化に気付いたらしく、足元まで近寄って 不安そうに表情を伺って(うかがって)いる。
ゴールドは ひざまずいてディアを抱き上げると、苦しそうな顔でつぶやいた。
「・・・・・・い、・・・たい、痛いよ、ディア、ホワイト、ミドリ・・・
 ねぇ、へーきなの? どうして、痛いまんまでディアたちは笑ってられるの?」
パタパタと耳を動かしていたディアは ぷぅと ほおをふくらました。
あるかないかくらいの小さな爪でゴールドのほおを引っかくと、腰に回り込んで モンスターボールを全部開けてしまう。

『・・・・・・どうしたのでしょう、ゴールド選手!?
 自分のポケモンを 全て出してしまいました、これは、かなり不利になってしまうことです!!』


ゴールドがなにも言わないうちから、アクアがフィールド上に上がって行ってしまった。
呆然とした表情で ゴールドはそれを見つめている。
『・・・ゴールド、次、そんなこといったら、許さねーからな。』
バトルが始まった瞬間、ホワイトがテレパシーを使って 冷たい表情で話しかけてきた。
すっかり固まっているゴールドに 指示を出すようにうながしながら。
あわててゴールドは 相手のフォレトスに『なみのり』を撃つように アクアに指示を出す。

「・・・手の内を明かすとは・・・レッド以上に、変わったことをする少年だ。
 良いだろう、この四天王の1人、忍びのキョウ、全力でお相手いたす!!!
 フォレトス、『メガドレイン』!!」
クヌギダマの進化系、フォレトスはアクアの体力を吸い取り始めた。
強力な『草』タイプの技に アクアはふらついて力を失っていく。
『・・・・・・ほら、何やってんだよ!! アクアが倒れちまうぞ、命令!!』
「あ、アクアッ、う、『うずしお』!!!」
ゴールドがとっさに指示した『うずしお』で フォレトスとアクアの繋がり(つながり)が断ち切られた。
そのスキに ゴールドは『じしん』をアクアに撃たせる。
「・・・時々、不安になるんだ。
 僕とみんなは、『言葉』って形でしか、繋がっていないんじゃないかって・・・・・・」
ゴールドは 誰にも聞こえないくらいの小さな声でつぶやいた。
キョウは 倒れかけたフォレトスに『まきびし』を撃たせ、次へつなぐことを図る(はかる)。
「アクア、『なみのり』!!
 その地面に散らばっているものも、巻き込んじゃって!!!」
ゴールドの声で アクアは水の流れを引き起こした。
地面に流れている多くの『まきびし』を洗い流しながら、津波はフォレトスを襲う。
その攻撃で フォレトスは動かなくなった。
どうやら、『ひんし』状態になったらしい、あまり普段から動かないので 判りにくいのだが・・・


『・・・そーだよ、それでいい。
 言っとくけどなぁ、オレたちはバトル、好きでやってるんだ!!
 お前だって同じだろ、んな暗い顔してたら、勝てるバトルも勝てなくなっちまうっての!!!』
ゴールドはその言葉が聞こえたのか聞こえなかったのか、軽く息をついた。
軽く頭を振ると、指先で『1』の形を作る。
「そーだね、ごめん、みんな。
 ・・・・・・ここから、ガンガン行くよ、ピーたろう!!」
傷つき、フラフラになっていたアクアはモンスターボールへと戻った。
代わりに 張りきって地面を蹴りこんだピジョットのピーたろうが 大空へと舞い上がって相手のクロバットを睨みつける。
「ピジョット・・・空中戦へ持ちこむつもりか・・・
 受けて立つ!! クロバット、『どくどく』を放て!!!」
キョウが叫ぶと、クロバットは黒い液体をピーたろうへと向かって放った。
素早い動きで放たれた液体を避けきれず、ゴールドの見ている前でピーたろうは毒に侵されてしまう。
ゴールドは奥歯をかみしめると叫んだ。
「ピーたろう、『つばさでうつ』!!」
ピーたろうはスピードをつけて クロバットへと突進した。
強い筋肉で守られた翼は クロバットを直撃して大きなダメージを与える。
「クロバット、『かげぶんしん』!!」
「ピーたろう、もう一発『つばさでうつ』攻撃だ!! あと2発も当てれば倒せる!!!」
クロバットの影が一瞬揺らめいたと思ったら、空中で何かが激しくぶつかる音が響き渡った。
その一瞬後、クロバットの姿が一瞬沈み、また飛び去っていく。

「・・・・・・当たっただと?
 完全に姿は隠したのに・・・・・・何故(なぜ)だ?」
「このピーたろうは、『特別』なんだ!!
 僕と同じ、『化け物』・・・3年間、ずっと一緒の、1番のパートナー・・・」
ゴールドは叫び、もう1度『つばさでうつ』の指示を出した。
またしても『かげぶんしん』を使っているはずのクロバットに命中し、クロバットはフラフラと地面に激突する。



「ピーたろう、ボールに戻って!!
 あとで『どくけし』をあげるから、少しの間休んでて!!」
ゴールドはボールに戻ったピーたろうを受けとめると、もう1度 自分のポケモンたちの顔を見渡した。
そして、目と目で合図を交わし、大きくうなずく。
「みんな、ゴメン、それに、ありがとう。
 僕は戦うよ、迷わずに、真っ直ぐに。 少なくとも、この大会の間はね!!!」
ポケモンたちも大きくうなずいた。

「・・・さて、次の人が出てきたよ?
 次は、誰が行く?」
ゴールドが尋ねると、1匹のポケモンが前へと進み出た。
『オレが行く!!』
それは、前の前のバトルで傷ついていたはずの ホワイトだった。


6、四天王に兆戦!
  〜ゴールドの場合―――シバ




「・・・懐かしいものだな、また、子供の相手をすることになるとは・・・」
リングに上がった大男は ゴールドを見るとつぶやいた。
小さすぎて見えるボールを構え、大きな手を構える。

「1ラウンド戦った後だけど・・・・・・
 大丈夫なの? ホワイト・・・」
フィールドの上に立ったホワイトは 尻尾を揺らして大きくうなずいた。
『戦闘体勢』に入ったホワイトに テレパシーは通じない。


『さぁ、四天王もすでに3人目!!
 ゴールド選手の次の相手は ポケモンと共にその身をきたえた ポケモン界のパワーファイター、シバです!!!』

「・・・そういうことだ、オレたちは、いつも己(おのれ)を限界まで鍛えてきた。
 そうして強くなったオレたちに 半端な力が通用すると思うか?」
ゴールドは大きく息を吸いこんだ。 ほんの少しの間だけ息を止め、再び吐き出す。
そうしてシバを見つめるゴールドの瞳は 自信に満ちあふれていた。
「ほう、恐れはなさそうだな、良い眼をしている。
 行くぞ、ゴールドとやら!! オレたちのハイパーパワー、受けてみよ!!!」

シバはハイパーボールを開いた。
中から飛び出したポケモンは 角を持ったポケモン、そして、出てくるなり頭のてっぺんに付いた角で クルクルと回転し始めた。
「さかだちポケモン、カポエラーだ。
 3年前にオレの前に現れた少年と同じ、ロケット団すら倒したその実力、見せてもらおう!!!
 カポエラー!!!」
シバが叫ぶと、カポエラーはホワイトへと向かって飛び掛ってきた。
真っ直ぐに向かってきた相手を ホワイトは避けようともせず、真っ直ぐに迎えうつ。
「ホワイト、『サイケこうせん』!!!」
2つの攻撃は 同時に命中した。
カポエラーはよろめくし、ホワイトの方は3メートル以上も吹き飛ばされる。
「ホワイ・・・ッ、『でんこうせっか』!!」
ゴールドは一瞬ためらったあと、攻撃の指示をした。
それというのも、おびえた声を出したゴールドを ホワイトがものすごい剣幕(けんまく)で睨みつけたから。
澄んだ声に反応したホワイトは ヤケを起こしたようなスピードでカポエラーへと突っ込んで行く。
後一瞬でカポエラーに命中するかと思われたとき、カポエラーの姿が消え、ホワイトは前につんのめって倒れた。
「・・・今のは、『みきり』!?
 厄介だな、確実に避けられちゃうとなると・・・・・・
 ホワイト、『みきり』は2度目はない!! もう1度『でんこうせっか』!!!」
ホワイトはすぐに体勢を立て直し、カポエラーの体に小さな傷をつけた。

「カポエラー、『あなをほる』!!」
低い声が響き、カポエラーは高速で回転し始めて 深く、地中へと潜り出した。
一瞬にして姿が見えなくなり、フィールドでは まるでホワイトが独りで戦っているように見える。
「・・・ホワイト、地面によく注意して!!!
 耳を澄ませる(すませる)んだ!!」
ゴールドとホワイトが完全な警戒態勢に入ると、ピリピリとした緊張感が、会場全体を襲った。
その天性的な集中力は 会場の大騒ぎすらも静めてしまう威力がある。
「今だっ、足元に『いあいぎり』!!!」
ホワイトはゴールドが叫ぶのと同時に動いた。
空中に飛び上がりながら 自分の足元を目一杯 切り付ける。
ちょうど、地面から飛び出したばかりのカポエラーは 不意打ちを食い、気絶してしまう。


「それ以上、戦う気・・・? ・・・無茶だ、ホワイト!!!
 2回もバトルを繰り返して、もう、戦える体じゃないんだろう!!?」
ゴールドが叫ぶ。
彼の読み通り、ホワイトは相続く戦いで すっかり疲れきっていた。
しかし、ホワイトは首を横に振り、戦う姿勢を止めない。
今にも倒れんばかりの おぼつかない足取り、上がった息、全身の傷を持ってしても、真っ直ぐにシバの事を睨んでいるのだ。
「行け、カイリキー。」
シバは無表情のまま、ポケモンを呼び出した。
ホワイトを睨みつけるとにやりと笑い、4本の腕から素早いパンチを繰り出し、牽制(けんせい)する。
どう見ても、ケガ人相手に手加減をするような雰囲気(ふんいき)ではなかった。

「戻って、ホワイト、戻って!!!」
ゴールドがいくら叫んでも、ホワイトは戦う姿勢を止めない。
ついには、ゴールドの声を無視して カイリキーの方へと突っ込んで行く。
「・・・・・・ふっ、いまさら仲間割れか、未熟なトレーナーのようだな・・・
 カイリキー、『ちきゅうなげ』だ。」
技にもならない技を向けたホワイトを カイリキーは力いっぱいに持ち上げた。
それを見て ゴールドは声を上げる。
「・・・・・・・・ホワイト・・・・・・・キネシス・・・」
ホワイトの体が 地面へと向かって墜落して行った。
その一瞬一瞬が、スローモーションのように、コマ送りのように ゆっくりゆっくりと見えていく。
「・・サイコ・・・・・キネシス・・・・・・・・ホワイト、『サイコキネシス』!!!」

ホワイトが地面にぶつかる瞬間、会場に閃光(せんこう)が走った。
髪を震わすような波が 下から上へ、会場を伝わって行く。
しんと静まりかえったスタジアムの中、ゴールドの震える指の先には エスパータイプ最大の技を受け、倒れているカイリキーの姿があった。
そして、静かな表情でその傍(そば)で立ち尽く(つく)しているホワイトの姿も。



「ホワイト、今度こそ 命令だ。
 『戻れ』、これ以上無茶したら、いっくらホワイトでも許さないよ。」
ひたいに浮いた汗をぬぐいながら言うゴールドを見つめ、ホワイトは 笑った。
ふらふらと、今にも倒れかねない足取りでゴールドの足元までたどり着くと、その場でばったりと倒れこむ。
「・・・ホワイトッ!!!?
 こんな・・・こんな、いつもなら、とっくに倒れてるくらいの傷じゃないか・・・どうして・・・・・・」
ホワイトは うっすらとまぶたを開き、ルビー色の瞳をゴールドへと向けた。
『ホラ・・・オレさ、特殊能力っつたら・・・ただ、他の種類の生き物と、話せる・・っかりで
 い・・つも バトルの時、足・・引っ張って・・かだったから、たまにはさ、・・・』
そこまで言ったとき、ホワイトは気絶して眠り込んでしまった。
ゴールドは気付けとして『ミックスオレ』をホワイトの口に流し込むと、ホワイトをモンスターボールへと戻し、四天王サイドを睨んだ。

(・・・・・・・・・強くなりたい、いつも、誰かを守っていられるくらいに!!)

ゴールドの表情が一転する。
誰もいないフィールドを 風が駆け抜けて行った。


7、四天王に挑戦!
  〜ゴールドの場合―――カリン




「あらま、来てたんだな、シルバー。」
特別に用意された、しかしお粗末(おそまつ)なベンチの上を シルバーの銀色の瞳が見つめた。
その足には、なぜかギプスがはめられ、腕には松葉杖(まつばづえ)。
「・・・確か、レッド・・・っだったか?
 さっきまでは、クリスタルの試合を見ていたんだが、どうも、終わりそうだったから、こっちに来た。」
「そっか、ま、座れよ、いちお(一応)、ケガ人みてーだし。
 結構おもしれーことになってるぞ、このまま行けば、ゴールドの『100%』が、見られるかもしれない。」


「お久しぶり、その節(せつ)は、どーも。」
四天王の4人目、長い髪のウェ〜ブをなびかせたカリンは ゴールドに向かって軽く会釈(えしゃく)した。
「あたくし、四天王のカリン!
 あたくしが愛しているのはね・・・・・・」
カリンは ハイパーボールを開いた。
中から フラワーポケモンのラフレシアが出てきて、クルクルと回る。
「やっぱり ヒ・ミ・ツ!! 当ててごらんあそばせ☆」

ラフレシアはフィールドに出ていたミドリへと向かって『しびれごな』を噴射(ふんしゃ)した。
突然の不意打ちに ミドリは避けきれずにシビレが回ってしまう。
「草対草・・・・・・でも、『どく』タイプを持っているだけ、ラフル(ニックネームらしい)の方がが有利。
 でも、それはタイプの上だけで物事を考えた場合。
 あるんでしょ? この不利な状況をどうにかするだけの秘策が、あなたには?」
「・・・そうだね。 タイプの優劣(ゆうれつ)だけじゃ、バトルは決まらない。
 ・・・・・・・・・ミドリッ!!」
ゴールドが腕を振ってミドリに命令を下すと、ミドリは体を目一杯振り上げ、ラフレシアを踏みつぶした。
『のしかかり』攻撃で 体が半分近くフィールドに埋まってしまったラフレシアは 何とかその中からはいずり出す。
そして、ラフレシアは地面から何とか抜け出すと、フラフラと千鳥足(ちどりあし)で歩き出した。
「どうやら、『マヒ』してしまったみたいね・・・
 やるじゃない、でも、あたくしの手だって、これで終わりではないのよ!!!」
指示を出すために カリンの細い腕がしなる。
「ラフル、『ようかいえき』!!!」
ラフレシアからドロドロの黒い液体がミドリ向かって放たれる。
ミドリはラフレシアから遠ざかり、少しの距離(きょり)を取ると、『はっぱカッター』で反撃にでた。
届かない『ようかいえき』を当てようと 突っ込んでくるラフレシアに ミドリはゆっくりとした動きで遠ざかる。
その間、いくつもの技をミドリが打ち出しているのにも関わらず、ゴールドは目立った動きを見せなかった。
口先でぶつぶつと何かをつぶやき続けているだけだ。


「・・・・・・あれが、ゴールド?
 いつもと、ずいぶんと様子が違う・・・あいつ、一体何を?」
シルバーは ほとんどミドリの1人舞台となっているフィールドを見つめながら レッドへと尋ねた。
「あれが多分、ゴールドの『100%』、なんだろうな。
 あいつは、ポケモンと心を重ねて、意思を通じ合わせることが出来るんだ。
 苦しいバトルが連続して、今、その才能を発揮している、あれだけ小さな声で指示を出して、それをメガニウムに届けているんだから・・・」

2度目の『のしかかり』が ラフレシアに命中した。
再び距離をとって 雄叫び(おたけび)を上げるミドリを見て、カリンは舌を鳴らす。
「これじゃ、キリないわ!!
 ラフレシア、最大攻撃よ、『はなびらのまい』!!!」
カリンの声を合図に ラフレシアはグルグルと回転し始めた。
扇風機(せんぷうき)のように回る その巨大な花の間から、無数の花びらが現れ、ミドリに向かって攻撃する。
「ミドリ、『こうごうせい』!!」
ゴールドはようやく叫んだ。
ミドリは喜んで首を縦に振り、真昼間の太陽の光を集め、自分の体をいやしていく。
「チェック・メイトだよ。 四天王のおねえさん?」
「・・・え?」
ゴールドは笑った。
その瞬間、ぐるぐると回転を続けていたラフレシアが、空を飛んで地面に激突した。
『はなびらのまい』の副作用、『こんらん』状態で 自滅してしまったのだ。

「・・・・・・読まれた? あたくしのラフルの手を・・・?
 嘘(うそ)よ、『こんらん』したポケモンが自滅するかどうかなんて、親のトレーナーでも分かりっこないもの。
 証明して見せるわ・・・・・・四天王として!! へるる!!」
カリンは 次のポケモンを繰り出す、最後のポケモンは ゴールドの背ほどもある巨大なダークポケモン、ヘルガー。
ヘルガーはフィールドの上へと降り立つと、ミドリのすぐ横へと向かって 牽制(けんせい)の炎を吐いた。
ミドリは それを避けようともせず、真っ直ぐに立って受け流す。
「・・・おねえさん、僕のポケモン、ちゃんと見てた?
 炎ポケモン相手なら、シルバーとの戦いに備えて、ずっと練習してきたんだ、だから・・・・・・」
ゴールドはミドリをモンスターボールへと戻した。
代わりに飛び出すのは、それまで死んだように寝そべっていた カイトポケモン、マンタインのカイト。
『たきのぼり』を使って 大きく空中へ舞いあがると、そのままフィールドの上を旋回(せんかい)し始めた。
「相手が『炎』タイプである限り、負けることはない。
 カイト、『なみのり』!!」
大きく渦巻いた波を ヘルガーは大きく飛びあがってかわした。
「いいわよぉ、へるる、そのまま『かみくだく』!!」
ヘルガーは大きな体を生かしてカイトを地面へと叩きつける。
そして、鋭い牙を使い、骨をも砕く勢いで カイトの翼に噛みついた。
「あたくしの愛しているのは『あく』タイプ!!
 ワイルドでタフな感じ、素敵でしょ? それに、とぉ〜っても強いのよ!!」
カリンが次の技をヘルガーに指示しようとした時、黒い色をした脚の下から、カイトの姿が消えた。
すぐにそれが ポケモン交代によるものだと理解し、ヘルガーが次に出てきたポケモンに牙を向けた時、
激しく地面が揺れ、ヘルガーは気絶した。
「・・・たとえ、どんなタイプがついていようともね。
 アクア、ご苦労様、ヘロヘロなのに こき使っちゃってごめんね?」
ゴールドは アクアに向かって笑いかけた。 数時間ぶりに見せた、太陽のような笑顔で。

『・・・・・・へ、ヘルガー、ダウン、ダウン!!
 ゴールド選手、『四天王に挑戦!』、ッ突破しましたッ!!!
 実に、3年ぶりの快挙です!!!!』

会場は一気に沸き立った。
その、特別な力を持って戦った、普通の小さな少年に。

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