<各話の1番最初に飛べます>
8、×□○☆△!? 9、今になって… 10、クリスタル



8、×□○☆△!?




「ゴールド!!」
バトルを終え、会場からとことこと歩いてきたゴールドを シルバーは呼びとめた。
すぐにゴールドは気付き、嬉しそうな顔をしてシルバーの元へと走って寄ってくる。
そして、2人は同時に 奇妙な顔をした。
「どーしたの、それ!?」「何があったんだよ、それは!?」
2人は同時に叫んだ。
それぞれ、シルバーの足、ゴールドの顔を指差して。


「・・・・・・へ、僕の顔に、何かついてる?
 もしかして、キョウさんと戦ったときに、『ヘドロばくだん』がくっ付いたとか?
 それとも、カリンさんのヘルガーの『かえんほうしゃ』で、やけどでもしてる?」
それだけ心当たりがあるのも問題だと思うが、シルバーは「それどころではない」と言った感じで 首を横に振った。
いつも 言葉できちんと説明するシルバーにしては、珍しい行動だ。
「そうじゃなくて・・・おまえ・・・その眼・・・」
「め?」
シルバーに言われて、ゴールドは自分のまぶたを 軽く指で押さえた。
特に痛みがあるわけでもなく、何が起こったのかすら、ゴールド自身はわかっていない。
「じゅーけつ(充血)してる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや・・・・・・」
シルバーは完全に言葉を失っていた。
それを見て、ゴールドは軽くため息をつく。

『集計結果が出ましたので、発表いたします。
 Aブロック通過ワタル選手、Bブロック通過タケル選手・・・・・・Mブロック通過ミサキ選手、
 Nブロック通過、ステージネーム・エンジェルクイーン選手、Oブロック通過タカシ選手、
 Pブロック通過、クリスタル選手!! 以上、15名、が予選通過です!!!』

ポケモンリーグ予選のアナウンスが流れると、ゴールドは顔を輝かせた。
どうも、クリスが予選通過したことが よほど嬉しいらしい。
「ま、いーや、夕ご飯の時に ゆっくり話そ?
 僕クリスも誘ってくるね、6時半に、街の真ん中のレストラン『シロガネ』の前で集合ね!!」
呆然としているシルバーに手を振ると、ゴールドは会場へと向かって走り出した。



「クリスッ!! 放送聞いたよ、予選通過おめでとう!!!」
ゴールドがたどり着いた時、ちょうどクリスは会場の外へ出ようとしているところだった。
クリスもゴールドのことを見て おかしな顔をするが、すぐにいつもと変わらない笑顔をゴールドに向ける。
近づき、クリスとハイタッチ(クリスの力が強くて、手が『ギンギン』したらしい)すると、クリスは口を開いた。
「ありがと、ゴールドの『四天王に挑戦!』は・・・・・・聞くまでもないみたいね、おめでとっ。
 あっ、そういえば受け付け、いつのまにか登録されてて・・・ブルーさんに聞いたら、『ゴールドにお礼言っときなさい』って、
 ・・・・・・どういうこと?」
ゴールドは顔を赤くした。
いまさら、『女装してクリスの代わりに受付を済ませた』とも、言い出せない。
「・・・頼むから、もう遅れないでね。」
「う、うん、よく分からないけど・・・ありがと・・・」

「・・・・・・で、クリスを夕ご飯に誘ったんだけど・・・」


ゴールドは5杯目のみそ汁をすすった。
相変わらず、シルバーは奇妙な目をしながら 茶碗に半分だけ盛られたご飯に手をつける。
「ね〜、なんかあったの?
 全然話してくれないから、すっごく気になるんだけど・・・」
「それはそうと、ゴールド・・・・・・よく食べるわね。
 いくらセルフサービスで値段が変わらないからって・・・そのご飯、9杯目でしょ?」
「ふりかけがあると、おいしく食べられるよねっ!!」
シルバーは 深くため息をついた。
それまで、ずっと無言でいたのだが、ようやく、ゆっくりと口を開く。

「・・・・・・ゴールド、スプーンもらってこい。
 カレー用の、銀のやつ。」
ゴールドは目を瞬かせると、食器コーナーへ行って 「またか!?」という給仕(きゅうじ)の視線をよそに スプーンを持って帰ってきた。
それをシルバーへ渡そうとすると、シルバーはゴールドにスプーンをつき返す。
「それ使って、自分の顔 覗いて見ろ。」
ゴールドはスプーンの背に自分の顔を映した。
ゆがんだ鏡には 不思議そうな顔でゴールドのことを見つめる『金色の瞳』の少年がいる。
精神的な衝撃でゴールドは、スプーンを取り落とした。
「・・・・・・・・・シルバー、お店のライトがまぶしすぎるなんてこと・・・」
「ない。 クリスタルが 異変を認めるようなら、決定的。
 3人同時に、夢は見ない。」
同時に2人に見つめられ、クリスは黒い瞳を瞬かせる。
「・・・な、何・・・・・・ふたりして じろじろ見つめちゃって・・・
 そんな、金銀コンビな眼で見つめられると・・・すごく、プレッシャーなんだけど・・・」
「・・・・やっぱ、きんいろい? 僕の眼・・・」
クリスはうなずいた。
それを見て、2人は同時にため息をつく。


「・・・・・・おかーさん、驚くだろうなぁ・・・
 いきなり変わるんだもん・・・」
ゴールドはもう1度ため息をつく。
「なに、それ、ゴールドがやったんじゃないの?
 あたし、てっきり・・・・・・」
2人は同時に 首を横に振った。


9、今になって・・・




『眼が金色になった?
 あらそう、それは大変ねェ・・・・・・』
「『あらそう』って・・・おかあさん、驚かないの?」
翌日、ゴールドは 事実を伝えるために 自分の母親へと電話をかけていた。
驚いて倒れるくらいかと びくびくしながらプッシュホンを押したのだが、意外にも全く母親は驚いていなかった。
『驚かないわよ。
 だってゴールド、あなた、元々、金色の瞳を持って 生まれて来たんだもの。』
「へ!?」


ゴールドは電話の前で硬直した。
11年間、ずっと自分の瞳の色は黒だと信じて生きてきた、それが、全く真正面から否定されたのだ。
『驚いたわよ、お母さんもお父さんも 黒い眼をしていたのに、ゴールドの瞳が開いとき、お日様みたいな金色していたんだもの!!
 視力は ちゃんとあったみたいだから、お母さん、気にしないことにしたんだけどね。』
「・・・・・・なに、それ・・・僕、そんなこと、1度も・・・・・・」
ゴールドの 受話器を持つ手が震える。
『・・・ホントに、覚えていないのね。
 あのね、ゴールド、あなたが2つの時、このワカバに・・・・』
「やめてッ!!!」
叫び、耳をふさいでうずくまったゴールドの手から落ちた受話器を シルバーが見事にキャッチする。
「すみません、シルバーです。 ちょっと、ゴールドが話が出来ないみたいなんで、代わりに聞かせてくれませんか?
 あ、ゴールド、レッドが話があるんだと。 ロビーに待たせてるから 行ってこいよ。」

ゴールドはうなずくと、シルバーの気遣いに感謝しつつ、ロビーへとゆっくりと歩いた。
意思に反してあっさりとロビーにたどり着くと、その真ん中で落ちつきなく 歩き回っていたレッドと目が合う。
「よっ、ゴールド!!
 ・・・・・・なんだなんだ、すっげー表情暗いぞ? そんなんじゃ・・・」
励まそうとしているのか、レッドはゴールドのほおをつかむ。 途端、レッドの顔が輝いた。
「・・・うわっ、すっげー! やわらけー!!! い〜肌してんな〜、大福もちみたいだ!!!」
「あろ、らんか(なんか)、はらひ(話)が あったろれわ(あったのでは)?」
レッドは気付いたように ゴールドから手を離す。
「あぁ、そーそーそーそーそー!!!
 シルバーから話聞いてさ、ちょっと、心当たりがあったから・・・・・・」
「心当たり?」
レッドはうなずき、自分のモンスターボールを開く。 レッドの足元に現れたのは、2本足の黄色い宇宙人のようなポケモン、エレブー。
エレブーとレッドは 目と目で合図を交わす。
すると、エレブーはゴールドへと向かって 隆々(りゅうりゅう)と筋肉のついたのついた腕を上げた。
「ビィ!!」
「あ、うん、こんにちは。 あの、レッドは なんのご用事なの、ビー君?」
それを聞いて、レッドは笑った。
ゴールドとエレブーの肩を同時に叩いて、背の高さを合わせるため、ひざをついてしゃがみこむ。

「そう、こいつは 最近オレが捕まえたポケモン、エレブーの『ビー』だ。
 捕まえたのは、カントー地方にある 発電所の近く、ジョウトにはいないポケモンだ。
 なのに、どうして こいつの名前をゴールドが知っているんだ? どうして、初めて見たポケモンの言葉が分かった?」
「え・・・」
ゴールドは言葉を失った。
レッドの言葉がゴールドに伝わるように、エレブーの言葉も分かってしまったのだ。
説明を求められても 答えようがない。
「・・・・・・オレは、ブルーやグリーンほど頭がいいわけじゃないけどさ、オレなりに考えてみたんだ。
 おまえの能力、『心を重ねる』こと。 それが、どういうことなんだか・・・」
「心を・・・重ねる?」
ゴールドは金色の瞳を瞬かせた。
いつも、伝わっているのは『言葉』だと思っていたので、またしても混乱しているのだ。
「あぁ、・・・知り合い・・・のおじさんがさ、言ってたんだ。
 おまえのこと、『ポケモンと精神を同調させることによって、ポケモンと会話することが可能になる、おかしな奴』ってさ。
 あの時も、そう、瞳の色、変わってたよな。 あいつと同じ色に。」
「あの時?」
ゴールドは混乱し、すっかりオウム返しに言葉を続けるだけになっていた。
「・・・そーだ、忘れるようにしたんだっけ・・・あのさ、さ・・・」


「ゴールド!!」
レッドの言葉を シルバーがさえぎった。
唐突にゴールドの腕を引くと、レッドから奪って(うばって)ホテルの方へとずかずかと歩いていく。
「・・・ちょっと、どうしたの、シルバー!!?」
ゴールドが叫ぶと、シルバーはようやく気付いたように 痛いほどに握っていた手を離した。
辛そうな瞳で ゴールドの方へと向き直る。
「ゴールド、おれがこれから話すこと、おまえにとって、かなり辛い話になると思う。
 ・・・・・・・・・・・・聞くかどうか、おまえが決めろ。」
「話? ・・・・・・僕の、昔のこと?」
シルバーはうなずいた。
ゴールドは複雑そうな表情を浮かべた後、口を開く。
「知りたい。 自分のことなのに、知らないなんて、辛いばっかりだもん。」

シルバーはそれにうなずいて答えた。
「・・・だよな。
 さっきの電話で、おまえの母さんから、話を聞いてきた。
 ゴールド、2つの時に『事件』が起きるまでは、きれいな、金色の瞳をもった子供だったんだってさ。
 ポケモンたちとも 仲が良くって、誰も子供のいない町なのに、いっつも、楽しそうに『化け物』と遊んでたらしい。」
ゴールドは息を呑んだ(のんだ)。
「・・・・・・事件って?」
「おまえが、2つの時、田舎町を開拓しようとする集団が、家族連れでワカバへやってきた。
 マウンテンロードを切り拓いて(きりひらいて)、マンションにしようって計画書を持って・・・・・・
 おれたちも、その一団の中の、1組の親子だったんだ。」
ゴールドは うつむいて、青い顔をして黙り込んだ。
震える体を気にしながらも、シルバーは変わらぬ口調で話し続ける。
「マウンテンロードは、ゴールドが、ゴールドの『友達』のポケモンたちとの遊び場所だった。
 同時に、野生のポケモンたちにとっては、住みかでもあるわけだ。
 山に入ってきて、里を荒らす大人たちを、ゴールドは 止めようとした。
 山にいた『友達』の、ドンファンやエアームド、果ては、『はかいこうせん』を使う、リングマまで引き連れて・・・
 当然ながら、山は『開拓者』たちと、山を守ろうとするポケモンたちの 戦いの場となった。」

「・・・もしかして、その戦いで、誰か・・・・・・倒れた?」
ゴールドは色あせた写真を目の前に突きつけられたような様子で シルバーに尋ねる。
それに、シルバーは 暗い顔をしてうなずいた。
「あぁ、おれの・・・父さんが。」
「・・・・・!!! ・・・・・・僕のせいだ・・・」
ゴールドは頭を抱えてうずくまる。
シルバーが肩に手を置くと、判りやすすぎるほどに 震えていた。
「ゴールド、聞け。 それは、違う。」
「でも、僕なんでしょう!? 僕が、シルバーのおとうさんに攻撃するように、ポケモンたちをけしかけたんでしょう!?」
「違う!!!」
シルバーが怒鳴り、ゴールドは体を震わせ、黙り込んだ。
思い出したくないことを思い出すような、そんな顔をして シルバーはゆっくりと口を開く。
「おれも、忘れてたんだ。
 あの日、本当は止められてたんだけど、おれ、こっそり父さんの後についていったんだ。
 山がうなるくらい、そこに住んでいるポケモンたちが殺気立っていて、大人たちも・・・銃を手に持ってた。
 1発、銃声が響いた後、ポケモンと人間の戦いが始まって・・・その真ん中に、おれと同じくらいの男の子・・・ゴールド、おまえがいた。」
「・・・だから、」
「話は 最後まで聞くもんだぞ?
 確かに、ポケモンたちは人間に向けて攻撃をしていたよ、だけど、それは、自分達を護る(まもる)ためで、
 決して、必要以上の攻撃を加えるような様子はなかった。
 だけど人間たちは違ったんだ、銃を構えて、戦おうとしないポケモンたちまで、片っ端から・・・・・・
 あの時、訳がわからなかったよ、一体、どっちが正義の味方なんだ? ・・・ってさ。
 そして、銃口は、ポケモンたちのリーダー格だった、そして、ポケモンの子供たちと一緒にいたゴールド、おまえにも・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・あ・・・」
ゴールドの目の前に 赤い映像が映った。
自分をかばい、背中に銃弾を受けて スローモーションのように ゆっくりと倒れていく、黒い瞳の中年の男性。
「ポケモンたちは、おれを襲わなかった。
 だけど大人たちは おまえに銃を向けて、・・・・・・引き金を引いた。
 父さんは、おまえをかばって、代わりに銃弾を受けて、・・・・・・倒れた。」


ゴールドは完全に言葉を失っていた。
長い赤い髪をたらし、うつむいたまま、シルバーは続ける。
「そのあと、1発の銃声が響いて、おまえが倒れるのが見えた。
 おれが話せるのはここまで。 後は、大人たちに引き離されて、何も知らないんだ。
 おまえの母さんが、病院に駆けつけたら、おまえの瞳、真っ黒に変わってたって・・・・・・」
シルバーも、言葉を失った。
お祭り騒ぎの街はうるさいほどなのに、ゴールドとシルバーの間、そこだけ、耳が痛くなるほどに、静かで。
「・・・・・・・・・・どうして、忘れたんだろう?」
絞り(しぼり)出すように、ゴールドは言った。
「こんなに大事なことなのに、どうして、覚えていないんだろう?
 いつだって、そうだった。 覚えていなければいけないことだけ、絶対に忘れちゃいけないことだけ、いつも、忘れて・・・・」
その言葉に シルバーがはっと息を呑む。
「・・・どうしたの? シルバー・・・・・・」
「いや、何でもない。」



耳の割れるような大歓声が フィールドいっぱいに渡っていく。
予選第2階戦、第4試合。
後にこの大会で、3番目に注目された試合だ。
その観客席に レッドはゆっくりと腰を下ろした。
「ピカピカ、ピカンチュ?」
「ん、何だ、ピカ? 『腹が減った』?」
肩につかまりっぱなしのピカチュウの長い耳が、レッドのまぶたを打った。
「『自分に似合いの、可愛い女の子を紹介しろ』?」
小指ほどしかない、小さなピカチュウの手が 爪を立ててレッドの耳を引っ張る。
「ピー!カー!ピー!カァー、チュウー!!!」
「いてててて・・・引っ張るなって!!
 そんなに怒鳴られたって、オレ、ピカの言葉はわかんねーよ。
 ゴールドみたいに、『金の眼』なんて持ってねーしさ〜・・・・・・そういえば、思ったんだけどさ、ピカ。」
「ピカチュ?」
「や、前にさ、会ったことあるだろ? ゴールドに。
 その時、あいつ、シ・・・あのエスパーポケモンとシンクロして、暴走して・・・
 あの時にも、瞳の色変わってたけど、あんな、きれいな金色じゃなかったよな、んで、思ったんだけど、
 あの瞳の金色って、ゴールドが、全てのポケモンと話せるっていう、『印』、じゃねーかって・・・・・・」
「ピカピ?」
ピカチュウは首をかしげる。
「だってさ、元々から金色だったってんなら、『ゴールド』って名前がついたのも、うなずけるだろ?
 あいつの話じゃ、昔の方が よりたくさんの種類と話せてたみてーだし・・・・・・
 だんだんと、埋もれ始めているけどさ、『才能』、だよな、あいつの、生まれ持ってきた・・・
 あ、試合、始まるみてーだ。」


2人の女の子が黄土色のフィールドへと上がってきた。
それぞれの手には 使いこまれたモンスターボールを持って、自信と、不安に満ちた表情で。
審判の旗は振られ、試合は始まった。


10、クリスタル




「・・・ゴールド、見たか!?
 今日の試合の結果!!」
彼らしくもなく、バタバタとした足取りで シルバーがポケモンセンターの中へと走りこんでくる。
ゴールドは 体調を確認していたアクアから手を離すと、そちらへと向き直り、笑った。
前回の話から、1週間ほど経った、曇りの日の出来事だ。


「もちろん。 思ってた通りの結果だった。
 クリスが、あさって、僕と戦うんでしょう?」
シルバーは息を切らしながらうなずいた。
嬉しいような、不安なような、はたまた困って(こまって)いるような、複雑な表情を浮かべていた。
アクアをボールへと戻すと、ゴールドはいつもの笑顔を浮かべ、シルバーのほうへと向き直る。
「シルバーとしては、こまったもんだだよね。
 僕とクリス、どっちの応援するの?」
「え・・・そりゃ・・・」
「『どっちも』はなし。」
「え・・・・」
シルバーはますます複雑な表情になる。
それを見て、ゴールドは楽しそうに笑った。
「冗談だよ、シルバーとしては、どっちかを選ぶなんて、出来ないもんね。
 僕も、そうなわけだしさ。」
そう言うと、ゴールドはセンターの奥へと歩き出した。
「お、おい、どこ行く気だよ!?」
「資料室。」


狭い部屋につくなり、ゴールドは歴代のチャンピオン、それに上位入賞者たちの記録、本やらビデオやらを引っ張り出した。
勉強家の瞳が、素早いスピードで本の内容を探って行く。
「何なんだよ、一体・・・・・・うわ、すごいほこりが・・・窓、開けるか?」
「お願い。」
ゴールドは本から目を離さずに さっぱりと言った。
唐突につけられたビデオから、激しいポケモンバトルに熱狂する 観客達の声が聞こえてくる。
「前から、1度調べようとは思ってたんだ。
 いろいろあって、ずいぶん予定より遅れちゃったけど・・・・・・」
「あさっての試合の・・・準備ってとこか?」
ゴールドは だまってうなずいた。
「ここの資料室にあるのと、おんなじだけの本を、旅してる間、ずっとクリス、読んでたんだよ。
 正直言って、あさっての試合、勝てるだけの自信がないんだ。 そう思うくらい、クリスは、強い。」
「・・・あいつ、どんな相手だろうと、がむしゃらに、なりふり構わず突っ込んでくからな。
 自分の実力を分かってないんだ、とっくのとうに、おれや、おまえのレベルと 同じ所まで来ているっていうのに・・・」
ゴールドは3冊目の資料に手をつけた。
必死で本の内容を探る 金色の瞳からは 強い意思を表す(あらわす)光が放たれている。

「・・・・・・負けたくないんだ。 あさっての試合。
 僕にとって、もしかしたら、最後のポケモンバトルになるかもしれないから・・・・・・」
「どういう・・・ことだ?」
資料の整理を手伝っていたシルバーの手が止まる。
ゴールドは 紙面から目を離さずに、ゆっくりとした口調で答えた。
「ポケモンリーグが終わったら、1度、旅を止めようと思って。
 学校に行って、医者になる勉強をしようと思ってるんだ。
 だから、どこかに行くのも、せいぜい日帰りできる場所しかなくなっちゃうし・・・」
ゴールドは笑っていた。
しかし、いつもの笑顔ではない、どこか淋しそうな、冬空のような笑顔。
「だから、クリスとの決勝戦、僕もがむしゃらに、なりふり構わず戦うよ!!
 絶対『くい』の残らない、最高の・・・・・・最後の、ポケモンバトルにするんだ・・・」



シルバーはその銀色の瞳を しばらくゴールドへと向けていた。
やがて、気付いたように両腕に抱えていた資料を どさっと机の上に置くと、ポケットの中から 1つのアイテムボールを取り出す。
それを、ゴールドの目の前に置いた。
「忘れる所だった、これ、レッドから、おまえにって・・・
 内容は知らないけど、どうも技マシンみたいだぞ。」
「レッドが・・・僕に?」
ゴールドはアイテムボールを手に取ると、しげしげと眺めまわした。
「クリスタルにも、似たようなのを渡すつもりみたいだ。
 どうも あのトレーナー、おまえとクリスのバトルを 少し引っかきまわして 結果を分からなくしたいみたいだな。
 そんな感じだった。」
ゴールドは不思議そうな視線をシルバーへと向けると、再び資料に目を通しながら、テレビの方を指差した。
シルバーがビデオをのぞき込むと、ちょうど、トレーナーのサンドパンが『じわれ』攻撃で 相手のナッシーを戦闘不能にしているところだった。
そのナッシーのトレーナーは自分たちと同じくらいの年齢のグリーン、そして、サンドパンのトレーナーは、レッド。
「・・・・・・!!・・・」
「ただ面白がって、バトルを引っかきまわしてるわけじゃないと思うよ。
 シルバーたちが来る前、レッドと非公式のバトルをしたんだ。 ・・・・・・完敗だった。
 きっと、今のままじゃ僕はクリスに勝てない、
 だから、今日と明日はここで 出来るだけの勉強をしておくよ。
 その間に、ポケモンたちは遊ばせておくつもり、体調を崩したくないっていうのもあるしね。」

ゴールドはそう言って、手にしていた資料をたたんだ。
その顔に 迷いは見えない。
窓を通りぬけてきた風が 切るような冷たさを残していっても、変わることはない。
曇りの日の 出来事だった。

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