最終話、ゴールド




・・・うわっ、大変だ!! 遅刻しちゃうよ!!
朝7時30分、僕は慌てて階段をかけおりて転がり落ちた。
顔はひりひり痛いし、肩だってズキズキする。
だけど、そんなことは気にしてられないよねっ。
今日は新しい日、僕が初めて、学校に行く日なんだから・・・

僕の名前はゴールド。
ワカバタウンで生まれて、ワカバタウンで育った11歳の男の子。
つい先月まで、ポケモントレーナーやってて、通信制の学校で勉強していたんだけど、
今日からは普通の学校に登校するんだ!!
・・・で、今日がその初日。 ・・・・・・なのに、
なのに、なんでか知らないけど、今日に限って大寝坊して・・・・・・!!
いつもなら朝7時15分より遅くに起きることなんてなかったのになぁ・・・



「・・・行ってきますッ!!!」
パン1斤(いっきん)くわえて、ノートをたくさん詰め込んだお気に入りのリュックを抱えて走り出す。
「ビイィィッ!!!」
あ、ピーたろう!! 乗れって? このままじゃ間に合わないから?
なんとか忘れなかったポケギアは7時45分を告げている。
・・・・・・初日から遅刻なんて・・・ゴメンだ!!!

「お願い!!」
地面を蹴り上げてピーたろうの背中に飛び乗ると、長く伸びてきた前髪を風が遊ぶ。
もう、あんまり飛べないのかな・・・
そう思うと、少しだけ、自分のした選択が 実は間違ってたんじゃないか、そういう不安が胸をよぎる。
あわてて首を横に振った。
・・・・・・そう、トレーナーをやっているだけじゃ、このままじゃ、いけないんだ。
この先、どうにもならない。
そう、教えてくれたのは、シルバーだったかな?
だから、僕は医者になる。
人も、ポケモンも、木も草も、街も心もみんな・・・・・・全部、全部治せる医者に。



「ピーたろう、そこ!!
 その大きな建物!!」
8時10分、僕はぼんやりと灰色をした校舎を指差した。
どうにか、間に合ったらしい。
・・・・・・だけど、ピーたろうは?
小学校にポケモンを持ちこむわけにもいかない、大丈夫なのかな?
「1人で帰れる?」
「ビイィ!!」
・・・当たり前だ、だって。
相変わらず、可愛げのない・・・・・・

「ありがとう、それじゃ、ここでいいよ。」
そう言ったんだけど、ピーたろうは一向に高度を落とす気配がない。
スピードも落ちないし、ビルの5階くらいの高さを飛びまわっているばっかり・・・・・・
「・・・ピーたろう?」
学校には近づいていってる。
だけど、このままのスピードじゃ、高度じゃ、とてもじゃないけど着地なんて無理な話。


「・・・・・・ピィ、ピカ、ピカチュ?」
「ディア!?」
本当に行くのかって?
・・・あぁ、そっか、・・・そういうことか・・・・・・・
みんなで、僕のこと止めに・・・
その気持ちは嬉しい、すごく嬉しいんだけど・・・・・・
「ディア、ピーたろう!! それに、ボールの中にカイトもアクアもミドリもいるんでしょう? 聞いて!!
 確かにね、今のまんまでも今まで通りに旅を続けることは出来る!!
 でもね、今の僕じゃ、君達が病気したり、ケガしたりした時、僕は何もしてあげられない。
 本当に何も・・・出来ないんだ・・・
 だから・・・・・・」
地面までおよそ15メートル、向かい風が2メートルくらいで、スピードは・・・わからない。
どんどん近づいてくる、学校の屋上が。
「だから・・・・・・・・・」
あそこになら、もしかしたら着地できるかもしれない。
出来るかどうかはわからないけど、僕なら、出来る!!!
飛び降りよう、残り30・・・・・・・・・20・・・・15・・・10、7、5、4、3、2、1・・・・!!

「・・・ぴぃうっ!?」
肩がコンクリートで出来た床にぶつかる。
まるで赤くなるまで焼いた鉄みたいに肺が熱いし、ペンケースが嫌な音を立てた。
右のふとももを少し、すりむいたかもしれない。
だけど、起き上がらなきゃ。 まだ、あいつらに伝えたいことがあるから・・・・・・
「あろ・・・・・・ケフッ!!」
上空を見上げる。
透き通ったガラスみたいに青い空には 大きなピジョットが旋回している。
その背中には 小さなピカチュウ。
・・・よかった、後にくっ付いて落っこちたりはしなかったみたいだ。



「あと、4年!! 4年待ってほしいんだ!!
 そしたらまた、きっと・・・ぃゃ、絶対に、また、一緒に旅が出来るから!!」
PMD(ポケモンドクター)の受験資格は15歳から。
その年になったら真っ先に試験を受けて、絶対に1回で合格してみせる。

ピーたろうが心配したのか、方向転換してこっちへと向かってくる。
さすがに屋上に降り立ちはしなかったけど、僕の周りをくるくると飛び回っていた。
「・・・ピーたろう、屋上に行く寸前、スピード落としたでしょ?
 やっぱ、まだまだ甘いよね!! 修行が足りてないッ!!
 これからの予定!!
 土曜日にはホワイトのお見送り!! 日曜には、35番道路にまだ捕まえていないポケモン、捕まえに行くからね!!」
一応、あれから話し合った。
その結果として、手持ちのほとんどは僕の所に残ることになったんだけど、
ただ1人、ホワイトだけは、僕なりの考えもあり、ホワイトも賛成したしで
シルバーとクリスと一緒に 新しいところへと旅立つことになった。
あれでホワイトは結構しっかりしてるし、シルバーのところにはブラックもいる。
少しだけ淋しく(さみしく)なるけど、僕は、この結果に後悔はしていない。

――――――そう、別れは永遠じゃない。

「さぁ!!! みんな、はやくワカバに帰りなよ!!
 おかあさんあれで 優秀なポケモンブリーダーなんだからね!!
 手伝ってれば、きっといいトレーニングになると思うよ!!」
甲高い鳴き声が青い空を渡り、大きな鳥は東を目指す。

かっこつけなピーたろう、
しっかり者のカイト、
甘えん坊のディア、
やんちゃなホワイト、
のんびりさんのアクア、
元気一杯のミドリ。

「みんな、大好きだよ。」
悲しくなんかない、みんながいるから、
怖くなんかない、みんながいるから。

少しだけ、風があたたかくなってきたかな?
春が来るのも、近いかもしれない。
さあ、早く職員室に行かなきゃ!! 本当に遅刻しちゃう!!

<後書きへ>

<目次に戻る>