「う・・・。」
ウェズは気が付いた。
自分がどうしてここにいるのか、
目覚めてすぐは思い出せなかったが、なんとか頭の中で情報の断片を整理し、解釈した。
「とりあえず・・・マスターに・・・報告・・・。」
まだふらふらするが、行かなければならない。
石を盗られたこと、そしてあの組織が動き始めていることを。
一刻も早く、伝えなければならない。
彼はもたつきながらも足を速めていった。
しばらく歩くと瀧があった。
往路にはこんな瀧はなかった。
“ころがる”から逃げるのに夢中でいつの間にか自分の行くべき復路を見失っていたのだ。
そして彼は瀧の近辺にある存在を確認した。
「ケーーーーーーン!!!!!」
ケーンが倒れている。
ウェズはケーンの元へ駆け寄る。
そしてケーンに付着した液体を見た。
「まさか・・・“どくどく”?」
ケーンの息は荒くなっていた。
一刻を争う。
ウェズは自分の持ち物を確認した。
幸い、むし・どくタイプ対策用に用意したどくけしがあった。
彼はすぐにケーンに使った。
一応、ポケモン用なのだが大丈夫なのだろうか。
そう疑問を感じつつもウェズはケーンを背負い、歩き出した。
安静にしているのがベストだし、あまり動かすのは吉ではないことにウェズは気付いていなかった。
だが、しばらく経って気付いたことだが
ケーンはどくけしで確実に善くはなっていた。
それからウェズは長い帰り道を、ケーンを背負いながら歩き始めた。
そのころ、シャトル団ボス、ゲルマがアジトに戻ってきていた。
そして一人の少女に指令を言い渡している。
「先程、ナルクがあの少年から石を奪ったとの報告が来た。
しかし、ナルクはあの少年を倒すことはできなかったらしい。
そこでお前には責任をもってあの少年の抹殺指令を下す。
これが最後のチャンスだ。」
彼女はごくりとツバをのんだ。
「もし失敗したら、わかってるな。」
「はい。わかっております。」
極度のプレッシャーからか、震えが止まらない。
その震えはアジトを出てもなお、続いた。
「ラストチャンス・・・・・か。」
彼女は今与えられている使命を果たすことしか、自分の大切なモノを守る術が無かった。
それは自分の故郷より優先するほどだった。
それが間違っていると言うことは分かっている。
だが彼女はやるしかない。
どれだけ犠牲にしても・・・・・・・。
歩き始めてからどれくらい経っただろうか。
ウェズ達はようやく小屋へ着こうとしていた。
ケーンの方は安静にしていなかったからだろうか、回復は多少遅くなったものの、大分回復していた。
だがウェズの足は限界だった。
全力での逃亡、その後、ヒト一人負ぶって歩いた。
それでも一歩、また一歩と距離を稼いだ。
足が震える、だけど立ち止まるわけには行かない。
早く報告しなければらない。
そしてようやく着いた・・・。
その時だった。
「これは・・・。」
小屋が瓦礫の山と化していた。
ケーンが小声で言った。
「マス・・・ター?」
ウェズが大声で言った。
「マスター!!!」
だが瓦礫からは何も聞こえなかった。
「この瓦礫の中にいるかもしれない。もしそうなら早く助けないと・・・。」
ウェズはケーンを少し地べたに寝かせ、瓦礫を素手で取り去ろうとしたが、なかなか作業がはかどらない。
「ウェズ・・・。こいつで・・・。」
ケーンは自分のボールを取り出すと、ウェズにそれを渡した。
ウェズはその中にいるポケモンをだした。
ゴーリキーだった。
ウェズはゴーリキーに“かいりき”をするよう、指示を出した。
ゴーリキーは初めは戸惑っていたがやがて素直に“かいりき”で瓦礫を取り除いていった。
年老いた男性が見つかった。
マスターだった。
「マスター?」
彼の反応は無かった。
だが何回も問いかけると彼はようやく反応を示した。
「ウェ・・・ズ。」
「マスター、大丈夫ですか?」
「・・・・・。」
「す、すみません。石を・・・。」
「盗られ・・・たのか。」
ウェズは小さく頷いた。
「なら、わしのことはいい。早く石を・・・。」
「でも、マスター・・・。」
「何を躊躇している。早く!!!」
ウェズは動こうとしなかった。
すると、マスターは小声で呟いた。
「石の効果・・・。それはこの島にいるという伝説のポケモンを呼び出すこと・・・じゃ。」
「・・・・・!!?」
「そのポケモンの力は群を抜いて強力なものと言われておる。
奴等の目的は恐らくそれ・・・じゃ。」
「!!!まさか、それを使って・・・。」
マスターは頷いた。
「あぁ、この島でなく他の土地の制圧も行うじゃろう。」
ウェズはすっと立ち上がった。
「わかりました・・・。行ってきます。」
ウェズはどこか、悪を倒すと言う正義感より、自分の責務を果たせなかった責任感のほうが強く感じていた。
自分の失態のせいで他人に迷惑をかけてはいけないと、そう思っていた。
彼は気付くと走り出していた。
どこへ行けばいいのか、まったく分からなかったが行くしかないのだ。
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