マサラタウンにて【プロローグ】


 朝日が昇り、その光が窓越しにヴォレットのもとに届く。
 少年は起きない。
 2時間後、目覚し時計の音が、容赦なく室内に響く。
 それでも少年は起きない。
 それから50分後―――。
 少年起床。
 ヴォレットは今の時間を確認した。
 8時30分
(…えーと、オーキド博士が来いって言った時間は確か……8時……)
「やっべぇぇぇ!!」
 バッとヴォレットは飛び起きると、急いで着替え始めた。
 ものの数十秒で着替え終わると、今度は階段を転がるように下りて行った。
「あっ!」
 いや、訂正する。
 階段から転げ落ちた。
「……ってぇ」
「ちょっと、何やってるの!それに時間大丈夫なの!?」
 と、台所から出てきたのはヴォレットの母親。どうやら、朝食を作っていたらしい。
「大丈夫じゃねぇ!何で起こしてくれなかったんだよ!」
「自分で起きるって言ったのはアナタでしょ。それに、今日から旅に出る んだから、自分の事は自分でやって、誰かに起こされな――」
「あー…。もうわかったって!」
 台所へ急ぐヴォレット。
 並んでいる朝食が、いつもより豪華に見える。
 ヴォレットはトーストを1枚くわえると、家を飛び出していった。 
 ―――と思うと、少し戻って顔だけを出して
「母さん!オレ……ポケモンリーグで優勝するまで帰らないから     な!!……行って来ます!」 
 こう宣言し、また走って行った。
 母親は、一人頷くと涙を流した。

 これが旅の始まり。


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