1歩目:マサラタウンにて【はじめまして】

 
 白を基調とした研究所の中で、水色の髪と瞳の少年と老人は、1人の少年を待っていた。
 
「なー、じいさん。約束の時間に来ないのはアイツだろ?さっさとポケモン選ばせてくれよ」

 と、水色の髪の少年は、不満を微塵も隠さず言った。

「確かに、もう30分待っとるしの。しょうがない、二ールこっちに来い」

 老人――オーキドは、ため息をついた。
 そしてくるりと向きを変え、左側のドアの取っ手を掴む。

「ごめんなさいぃっ!!!」
「「―――!!」」

 いきなり外から入ってきたのは、黒髪赤目の少年。

「「…ヴォレット」」

 水色の髪の少年――二ールは頬を引きつらせながら、オーキドはまたもため息をつきながら、そう呟いた。

「おまっ……。遅い!昨日あんなに遅れるなって言ったのに……!」
「…ひや、ワヒィ!寝ふほした!」(…いや、ワリィ!寝過ごした) 

 ヴォレットは手をパンッと合わせ謝罪した。トーストをくわえながら。

「コイツッ……。心から反省してるとは思えねぇ!」

 二ールはヴォレットの後ろに回ると、首を絞めにかかる。

「うぐっ……。って、あっ、パン落ちた!オレの朝飯〜」

 ヴォレットは二ールの腕を振りほどいた。

「どうしてくれんだよ!」
「知るかっ!第一、ここでパンを食―――」
「「―――だっ!」」

 一体何が起きたのかというと、

「いつまでやっとるんじゃ!!」

 オーキドが2人の頭を掴み、勢いよくぶつけたのだった。
 
「…って〜。だって、じいさんコイツが――」
「いや、コイツがオレのパンを――」
「黙らんかっ!!」



「―――というわけで、図鑑の説明は以上じゃ。一応精密機械じゃから、大切に扱うように」

 ポケモン図鑑を手にしたヴォレットと二ールの頭には、大きなたんこぶが2つずつ出来上がっていた。

「では、次に好きなポケモンを1匹選ぶとよい」
「よっしゃ!」
「待ってました!」

 2人は手を叩き合い、喜んだ。
 さっきまでの喧嘩が嘘のようだ。
 まあ、2人の場合は“喧嘩するほど仲がいい”の部類に入るのだが。ちなみに、当本人達はそれを自覚していない。

「あー…。わかっとると思うが、左からフシギダネ、ゼニガメ、ヒトカゲじゃ。さあ、どいつにする?」
 
 すると2人は、迷うことなくそれぞれボールを手にした。
 おそらく、ずいぶんと前から自分のパートナーにしたいポケモンを決めていたのだろう。
 ヴォレットの持っているボールにはヒトカゲが、二ールのものにはゼニガメが入っている。
 2人は、ヒトカゲとゼニガメをボールから出した。

「オレはヴォレット。よろしくな、ヒトカゲ」

 しゃがんで頭を撫でようとすると、ヒョイッと避けられた。

「………アレ?」

 スッ、ヒョイッ…。スッ、ヒョイッ…。スッ、ヒョイッ…。(エンドレスリピート)

「って……オイ!何故だ!!」
「嫌われてんじゃないのか?」
「うっさい!」

 見ると、二ールはすでにゼニガメを抱きかかえていた。
 ………悔しいが、羨ましい。

「なんで―ーって、うわっ!」

 突然の背後からの衝撃。
 そして、バランスを崩し尻餅をつく。
 そうしてやっと、ヒトカゲが後ろから抱き付いてきたのだと気付いた。

「……………」

 ヒトカゲはイタズラ小僧のように笑った。

「よろしくな、ヒトカゲ」
「カゲッ」

 今度は、大人しく頭を撫でさせてくれた。

「へへっ」


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