4歩目:トキワシティにて【扉越しに】

 ヴォレットは、ベットに倒れこんだ。

「はぁ………」

 ため息をつくと、近くの棚の上にあるボールに目をやる。
 ボールの中では、回復を終えたヒトカゲがすやすやと寝ている。
 夕食も食べたし、風呂にも入った。
 空には星と月が輝いている。
 ふと、今日のバトルを思い出す。

(あれは、やっぱオレの力不足だよな……)

 そう思うと、目頭が熱くなってきた。

(うわ……。涙出てきた。こういうの、悔し泣きって言うんだろうな…)

 今まで、ニ―ルと喧嘩して負けて、涙を流したことは一度もなかった。
 子供の喧嘩とポケモンバトルを同一視するべきではない、ということはわかっている。
 けれど、今日の勝負はヴォレットにとって、今まで以上に真剣で、勝ちたいと強く願ったものだった、ということだろう。

「くそっ………!」

 ヴォレットは枕を力いっぱい叩いた。

(悔しい…。ポケモンリーグで優勝するまで帰らない?負けても泣くなよ?そんなこと言ってたくせに、カッコ悪く負けた。バカだろ、オレ)

 涙が止まらない。
 1人部屋に泊まれたことを、少し感謝する。
 


 ひとしきり泣いた後、ヴォレットはあることを決意しながなら、眠りについた。



 ―――翌朝。
 ニ―ルはヴォレットが泊まっている部屋のドアをノックしていた。
 本当は勝手に入って起こそうと思っていたのだが、生憎キチンと施錠されていた。

「おーい、朝だぞ。起きろー(でもって、立ち直ってたらからかおう)」

 ヴォレットの昨日の落ち込みようには驚いた。
 約10年間顔を会わせてきたが、あんなふうになったところは見たことがない。
 そんなことを頭の隅で考えながら、ノックし続けること2,3分。
 ヴォレットの返事らしきものが聞こえた。
 ニールは、ヴォレットの睡眠時の物音に対する敏感さに感謝しながら、ノックしていた手を休める。

「お前起きんの遅い。速く支度しろよな。行くぞ」

 扉越しに何やら物音が聞こえる。

「あー、ニ―ルちょっと質問が………」
「?何だよ」
「昨日さ、ゼニガメ殻に篭ったよな。それ、もっと強くなきゃ使えない技じゃなかったっけ?」

 ポケモンリーグ優勝をひとまずの目標にしているヴォレットだ。
 ポケモンについての勉強(だけ)はしたので、そのくらいはわかる。

「昨日別行動した時に、ゼニガメが突然殻に篭ったんだ」

 体当たりを覚えない、と言われているポケモンでも、やろうと思えばできなくもない。
 鋭い爪さえ持っていれば、切り裂くを覚えていなくても何かを切り裂ける。 
 ゼニガメの殻に篭るも同じようなものだろう。 

 というのが、ニ―ルが見解だ。

「ふ、ふーん」
「……理解できてるのか?」
「一応。で、あとお前に話したいことがあんだけど………」
「な、何だよ?」

 あらたまったようなことを言い出すヴォレットに、不信感を抱くニ―ル。

「お前、先に行っていいぞ」
「??お前…何言ってんだよ」
「だから、これから、別行動にしよう……ってこと」
「…………な、何でだよ」

 少し拗ねたように、ニールは尋ねる。

「えっと、何て言うか……。………なんとなく」
「はぁ……!?」

 別に、2人で一緒に旅をしようと約束したわけではない。
 けれど、今までずっとそうだった為か、一緒に旅をするものだと思っていた。
 それなのに、いきなり別行動をしようと切り出された。
 理由は、なんとなく。
 自然に声を張り上げていた。
 
「なんだそりゃ。そんなの、別行動する理由にならないだろ!」
「なんとなくっていうか、何て言っていいのかわかんないんだよ!」

 ヴォレットも負けじと声を張り上げる。

「ちゃんとした理由があるなら言え!わけわかんなくてもいいから!………じゃないと、納得いかねぇ」
「……ワリィ」

 ニールは背中を後ろの扉にあずけ、座り込んだ。
 ヴォレットもまた、同じ姿勢をとっていた。
 互いにそれを知ることはないけれど。

「昨日負けて、悔しくて、強くなりたいって思ったんだ。もう二度と負けたくないって。最初、強くなるには修行だって思ったんだけど、そのうち、違うんじゃないかって思った。えっと〜…、ほら、トレーナーはポケモンと一緒に戦うだろ?たからまず、自分のポケモンと向き合うっていうか、そんな感じのことが大事かな、と。それする為には、ニールと一緒じゃいけないって思ったんだ」
「ヴォレット………」

 正直、驚いた。
 まず、言っていることが的を射ていること。
 そして、いつも何も考えてないようなヴォレットが、これを言ったこと。

「ワガマ―――」
「わかった」
「へ?ニール?」
「先に行ってりゃいいんだろ。お前の言いたいことはなんとなくわかった」
「へへっ、サンキュー」
「じゃ、俺もう行くな」
「おう。絶対追いつくから、そん時はまたバトルしような」
「追いつけたら、の話だろ?期待しないで待ってらぁ」
「はっ、そんなこと言ってられるのも今のうち―――」
 


 ―――約30分後。

「って、あの調子で時間かなりくっちまった」

 歩いていると、違和感を覚える。
 隣を歩くうるさい奴は今はいない。

(1人―――)

―――たからまず、自分のポケモンと向き合うっていうか、そんな感じのことが大事かな、と―――

(―――じゃないな)

 ニールは入っているボールに手をやり、ゼニガメを外に出した。
 ニールは笑みを浮かべる。
 ゼニガメは一瞬キョトンとすると、笑みを返した。



 歩いて行く道は きっと違うけれど
 同じ空 見上げているから この地球のどこかで 
 (byこの地球のどこかで)








 
 


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