5歩目:ニビシティにて【ジム戦開始】

 ニールと別れて8日後のこと。
(トキワの森で迷って、丸一日潰してしまったことは誰にも言うまいと誓った)
 ニビジムを前に、ヴォレットは大きく伸びをした。

「ついに来たー!」

 腰には二つのボール。
 ヒトカゲと、道中捕まえたニドラン♂が収まっている。
 2匹とも強くなった。
 そう、自信を持って言いきれる。
 硬く冷たい扉に手を当て、押す。
 
「え〜と…。たのも――ぉぉおぉおお!!?」

 中に入ると、ヴォレットは驚きのあまり固まった。
 床の代わりに土が敷き詰められ、所々大小の岩が突き出ている。
 壁と天井さえなければ、どこかの荒れ山に迷い込んだようだ。
 
「うわぁ……。すげぇ」

 開いた口が塞がらない、というのはこのことなのだろう。
 ヴォレットがマヌケ面で突っ立っていると、誰かが声をかけてきた。

「お前は、挑戦者だな」

 声の主は、たくましい、上半身裸の糸目の青年。

「オレは、ニビジムジムリーダー、タケシ。お前、ジムバッチの数は?手持ちの数は?」
「オレはヴォレット。手持ちは2匹。バッチは今日で1個目」
「おもしろいことをいう奴だな。バトルは、2対2でいいか」
「おう!」



「試合開始!」

 審判が声を張り上げた。
 2つのボールが宙を舞う。
 現れるのは、ニドラン♂とイシツブテ。

「ニドラン、睨み付けてから二度蹴り!」
「丸くなる!」

 イシツブテは一瞬怯み、攻撃はヒットした。

「イシツブテ、仕返しに岩落とし」

 ―――が、丸くなるの効果と、持ち前の防御力のおかげだろう。
 相性の悪い攻撃をくらったとは思えない動きで、次の攻撃を繰り出す。
 どこからともなく現れた岩が、バトルフィ―ルドに降り注ぐ。

「ニドランッ!」
 
 土埃がフィールドを覆い尽くし、どうなっているのかわからない。

「大丈夫か!?」

 しだいに土埃がはれてきて、ニドランの姿を確認できた。
 ダメージも大きく辛そうに見えるが、まだまだいけるらしい。
 ニドランはイシツブテを睨んだまま、視線を逸らさない。

「行くぞ、ニドラン!!」

 イシツブテはニドランのみだれ突きをかわし、反撃する。
 と、同時にニドランの毒針。
 怯むニドランめがけて、ニドランが迫って行く。
 それをイシツブテが受け止め―――。



「………イシツブテ?」

 そんな攻防の中、急にイシツブテが苦しみ出した。
 毒針か、ニドランの特性毒のトゲのせいで、毒状態になったのだろう。

「今だ!二度蹴り!」
「くっ、避けろ!」

 二度蹴りは惜しくもかわされた。
 ニドランの前方には、大きめの岩。
 スピードがついていて、止まれそうにない。

「〜〜〜っ。岩踏んで跳べ!」

 ニドランは、岩を踏み台にして高く跳躍する。

「二度蹴り!」
「迎えうて!イシツブテ!」

 2匹が空中で接触する。



 2匹が同時に落ちてくる。
 ドサッと地面に叩きつけられ、そのまま起き上がる気配がない。

「イシツブテ、ニドラン、共に戦闘不能。よってこの勝負引き分け!」
「引き……分け?」

 呆然としているヴォレットをよそに、タケシは既にイシツブテをボールに戻していた。

「………っと。お疲れ、ありがとうな。ニドラン」

 ヴォレットはニドランをボールに戻しながら、笑った。

「あとお互い1匹なわけだが…。はたして、コイツを倒せるかな?」
「あたりまえだろ!」

 タケシの投げたボールから出てきたのは、イワークだった。

 


続きを読む
戻る