目標確認。
コードネーム‘DEOXYS’毎秒20kmの速度で接近中。 衝突予定時刻、23:52:03です。
Decomposition Defend TEAM、出動して下さい。



細い腕をジャケットに通したのは、夜風から守るためだった。
サイズは少々大きいが、動きは妨げられない。
胸元のワッペンを指でなぞると、華奢きゃしゃな体は旋律する。
えり元にかかる息が震えているのに気付き、若いトレーナーは苦笑した。
「緊張しているのかい、ミツル君?」
「少し。」
そで口を握ると、ミツルは強張った笑顔で返事をした。
隣でアクセサリーにも似た装備を1つずつ装着していくダイゴという男は、自分のモンスターボールを確認しながら、さらに言葉を続ける。
「それが普通だ。 誰だって見たこともない、ポケモンかどうかすら分からない生物の対処をしろなんて言われたら緊張する。
 ミツル君、今回『謎の生命体』を対処することになった経緯と、僕たちD.Dの目的を暗唱してごらん。」

ミツルは色の薄い瞳を横に向けると、ふぅっと息を吐いてモンスターボールホルダーを腰に巻きつけた。
白い唇が、小刻みに震えながら上下に動く。
「今回の目標、コードネーム‘DEOXYS’は、約1年前にある天文学者によって発見されました。
 始めはただの隕石であるという説も唱えられましたが、ポケモンの能力も最新の科学を結集して集めたシステムも、その『隕石らしきもの』が何らかの生命体であるという反応を示しました。
 サンプルが取れていないため、その生命体が何かの解明はされていませんが、探知能力を持つポケモンのほとんどが今回やってくる宇宙からの生命体が、攻撃意思、侵略意思があることを示しています。
 D.Dの目的は、その宇宙からきた生命体の捕獲。 及び、一般人に危害が加わらないようにすること。
 現在大気圏ギリギリのところにいる、てんくうポケモン‘レックウザ’が相手の動きをにぶらせ、落ちてきたところを捕獲する予定です。」
決して強くはない口調で語られる説明を聞くと、ダイゴはゆっくりとうなずいた。
「記憶力は合格だね。 どうだい、落ち着いたかい?」
「少し。」
苦笑いすると、軽くひざを曲げ伸ばししてミツルは体をほぐす。
小さなモニターの前に座り込んでいた女性が、少し身を乗り出すのが見えた。
風に遊ばれた短い髪を、細い指先で軽く直すと、青い光を放つモニターに目を向け、女性はみんなに聞こえるように喋った。
「23時50分。」


黄色い光が上空で放たれたのが分かった。
暑いほどの夜なのに、背中には冷たいものが走る。



現在、高度1万7千メートル地点にて、レックウザ交戦中。
コードネーム‘DEOXYS’レックウザの攻撃により分裂しました。
衝突までの予測時間、約50秒。 D.D各員、準備をしてください。



大人たちが一斉に動き出すと、場の空気が変わった。
流されているわけではないが、ミツルはそれを意識し、いつでも動き出せるようモンスターボールを片手に持ってよく晴れた空を見上げる。
光るものが接近してくるのを見ると、一瞬目を細めてから、見開いた。
耳のつんざけそうな音を立てて、隕石は頭の上を通過する。 何かの壊れるような音を聞くと、ミツルは待っていたときとは違う調子で、唇を震わせた。

「‘あい’!!」
風を切るように腕を振り、ミツルはモンスターボールを地面に投げ打った。
隕石の落ちた方向へと走りだすと、背後から白い布のようなものが飛んできて、真横へと着地する。
それは、人に似た形をした、強い念動力と誇りを持ったポケモンだった。
「ミツル君!?」
「先に行って落ちた隕石を調べてきます。
 襲われたらスピードでかく乱しますから、大丈夫です!」
言うが早いか、ミツルは呼び出したポケモンの手を取ると『テレポート』であっという間に目の前から消えて見せた。 止める時間すら与えられなかった残りのメンバーに、緊張が走る。
メンバーの1人である金髪の女が、眉を潜めながらつぶやいた。

「嫌な予感がしますネー。」
皆が賛同しきらないうちに、ダイゴは動き出した。
自らのモンスターボールを地面へと打ちつけ、中から飛び出してきた鋼の四つ足のポケモンに乗る。
「急ごう。」
「あぁ。」
うなずいた背の高い老人は、呼び出した竜にまたがって空へと飛び出した。
だが、上昇し切る前にしわだらけの頬が動く。
隕石・・・コードネーム‘DEOXYS’が落下した地点のすぐ近くから淡い光が上ると、視線は地上へと動いた。
「フヨウッ、避けろ!!」
「えっ、えぇ!? なに!?」
突然飛んできた『何か』に対処するため、短髪の女は後ろに飛びながら自分のモンスターボールを投げた。
黄色い閃光が走るのと同時に、闇の中から悲鳴のようなものが上がる。
赤い針のような触手に貫かれた黒いポケモンの姿を見て、フヨウは目を見開かせた。
流線型の体をした、今まで発見されたどのポケモンとも全く似ても似つかないポケモン。 それが目の前にいる。


「メタグロス、『コメットパンチ』!!」
ダイゴは、足元にいる4つ足のポケモンに攻撃の指示を出した。
メタグロスと呼ばれた青銅のポケモンは、太い足を振り上げ名前すらわからないポケモンに攻撃を打つが、ギリギリのところで回避され、地面に穴を残すだけの結果となる。
飛行機の羽に似た形の角を持ったポケモンの姿を、5人は確認する。
次の一撃を加えようと空中から老人が狙うと、未確認生命体は突如方向を変え、逃げるように飛び去っていった。




「フヨウ、大丈夫デースカ?」
「う、うん・・・あたしは大丈夫。 だけど、ジュッペが・・・」
地面の上に転がった真っ黒な人形のようなポケモンを抱き上げると、それは赤と白のボールへと変化した。
ポケモンが受けたダメージに耐えられなかったときに起きる現象である。
呆然とした彼女の背をなでる金髪の女は、闇の奥から何かを担いでやってきた男に目を向ける。
「カゲツ! どこ行ってマシタか〜?
 こっちはvery,very大変でしたネー!」
「・・・こいつ。」
カゲツと呼ばれた男は、担いでいたものをみんなに見えるよう、メタグロスの足元に置いた。
血の気を失ったミツルの顔を見て、4人は一斉に声を上げる。
「ミツル君!?」
ダイゴは驚いてミツルへと駆け寄り、頬を叩いたが全く反応がない。
一応息はしているようだが、目をつぶったままの表情などからは、まったく生気が感じられなかった。


「墜落した隕石の近くで倒れてたぜ。」
「一緒にいたはずのサーナイトは?」
「いや、見てねえ。 モンスターボールも見つからなかった。」
カゲツの返事を聞くと、ダイゴは握りこぶしを固めた。
通信機へと走って乱暴にマイクを奪うと、オペレーターへと向かって怒鳴るように指示を与える。

「Decomposition Defend TEAM、ホウエンより司令室へ!
 落下した隕石より正体不明のポケモンが発生。 メンバーが1名、交戦中に負傷した!!
 正体不明のポケモンはカナズミシティ方面に逃走した、非常線を張られたし。
 コードネームは‘DEOXYSデオキシス’見つけ次第、捕獲せよ!!」








赤いボタンを叩くと、その反響音が一瞬だけ耳に残っていた。
手のひらにはジンジンとした痛みが残り、それでもサファイアは口元をゆるめて後ろを振り返る。
スコアボードには『04:55:32 サファイア』の数字が黄色で記されている。
それを見ると、サファイアは右手で小さくガッツポーズを作った。


「っし! 5分切ったわ。
 ええ感じにタイム伸びとるやないの、なぁ、カナ、クウ? それに・・・」
サファイアの視線は時計の上にいる(時計は壊れそうだ)チルタリス、大きな体をしたラグラージから離れて、ぐっと低くなった。
ひざに手をついて顔を覗き込むと、新しい仲間はあごをパクパクさせて歯を打ち鳴らした。
「シロガネ。」
シロガネと呼ばれたワニノコが大きな口を開けて返事をすると、思いの他大きな声が出た。
小さな体ながらも、大きなあごにするどい牙がならんでいる彼を、ポケモンたちは少しこわがっていたのだが、
同じ水ポケモンなんだから仲良くしぃ、とサファイアがカナに言って、それをカナがダイダイに伝えて、ダイダイがコンに話して、 コンがクウを説得して、クウがランを言いくるめて、ランがチャチャにおねだりして、今じゃなんだかんだで仲良しさんなわけである。 周りの人はあんまり信用してないが。
まぁ、当のサファイアがシロガネに頭からかぶりつかれてたりするんだから、仕方ないといえば仕方ない。



「おーい、店の前で飼いポケモンに頭かまれて血を流すの、止めてくれないか。
 商売のジャマだよ。」
トレーナーヒルのショップ店員田中さん(仮名、35歳)、冷静なのだけが取り柄ですがこの後の出演予定はありません。
ワニノコのシロガネを頭から外すと、それを片手に抱えたままサファイアは店の方に歩いていく。 きずぐすりとか必要そうだし。
ショップ店員田中さん(仮名、35歳)、気にせず壁にポスター貼り。 この冷静さはもはや才能だ。
前に置いてあった『いいきずぐすり』が見つからず、仕方なくサファイアは『すごいきずぐすり』を手にカウンターへ。 30個は買い過ぎです、チャンピオン。
カウンターでカゴに入った『すごいきずぐすり』を全部落っことした。
硬直したサファイアの前で壁に貼り付けられたポスターに描かれていたのは、女神のような格好をした、茶色い髪の女の子。
どこをどう見ようと、逆さまになろうと、回転しようが左右反転してみようが間違いなく、それは、ルビー。
シロガネに腕をかぶりつかれようがお構いなしに、サファイアはあんぐりと口を開けてポスターに見入った。
店員の田中さん(仮名、35歳)が、サファイアが落っことした『すごいきずぐすり』をレジに通しながら、口を開く。 問答無用で買わせるつもりですか、『すごいきずぐすり』。
「再来月のチャンピオンズリーグのキャンペーンポスターだよ。」
「いっ、いやいやっ、せやなくてっ、なんで・・・ルビー・・・!?」
「イメージキャラクターだよ。」
合計3万6千円の金額表示を見て、別の驚きでサファイア今度は財布を落っことす。
「あっ、血の気が・・・」
それは出血多量のせいです、チャンピオン。 早く治療してください。
しかし、そこで倒れちゃサファイアじゃない。 根性で起き上がると、噛み砕かれそうだった財布を奪取して支払いも済ませる。
ついでに交渉。
「さんまんもはらったんやから、ポスターくれぇ〜」
「やだ。」
トレーナーショップの店員田中さん(仮名、35歳)、実は密かに『Pink sapphire』のファン。
交渉ケツレツ、ナーバスブレイクダウン。



ポケットモンスター、縮めてポケモン。
彼らがどこから来て、どうやって誕生したのか知る人は誰もいません。
だけど、海に、山に、町に、空に、ポケモンたちは、この世界中のどこにでも生息しています。



「・・・・・・暑か〜っ!」
ギンギン注ぐ太陽に、サファイアは両手を伸ばした。
背中にあるのは『トレーナーヒル』。 建物の中をバトルをしながら駆け上がり、どれだけ早くゴールに辿りつけるかを競う、最近出来たトレーナー専用のアトラクションである。
暇だし、とりあえず来てみたらハマって、最高タイムを更新するまでやってみたはいいが、終わって出てみたら1日を終える時間まではまだずいぶんとある。
「っあー、どないしょ。 メール来てへんし、カイナやミナモ行くには、ちょい遅いしなぁ。
 せや、近くにゴールドの秘密基地があったはずや、ちょい遊びに・・・っと。」
緑色の帽子を被ると、サファイアはワニノコを抱えて2、3歩移動する。
地面がもこもこと盛り上がるのを見て、ちょっとばかりった肩をコキコキと鳴らした。 ポケモンリーグで優勝してからというものの、こんなの日常茶飯事だ。


「ふむ、ポケモンリーグチャンピオンのサファイア発見、とな。
 遺跡を探して40年、このノブオと勝負してもらおうか。」
「また来たで〜、変なのが。 ワシは遺跡かいっちゅうねん。」
地面の下から現れた男は、虫眼鏡をサファイアへと向けると上から下までじろじろと観察する。
「靴はランニングシューズ、デボンコーポレーション製。 服は上下ともチャンピオンのオーダーメイド、帽子も同じですな。
 さすがはリーグチャンピオン、着る物にも金をかけておる。」
「両方とも、もらいもんや。
 ランニングシューズは優勝記念にダイゴから、服は誕生日にルビーがくれはったんや。」
ちなみにその時に、ルビーと一緒にごつい男たちが6人くらい入ってきて、服ひっぺがされて採寸されたことは口が裂けても言えない。
おかげでピッタリなんだけど。 気に入ってるんだけど。
「それでは、このノブオと戦ってもらおうか。
 お互いにポケモン1体ずつ、小細工なしで行こうではないか。 では、行けっ、サンドパン!!」

「あーもっ! ま〜た、こっちの意見は無視かいな!
 しゃあないわ、行くんや、‘シロガネ’!!」
サファイアは腕の中にいるワニノコを放った。
小さなワニのようなポケモンは、背中の赤いヒレを震わせながら、大きなアゴで茶色いポケモンに噛み付こうとする。
男が繰り出したサンドパンはそれを上手く避けたが、予想もしなかった不意打ちに相手は面食らっていた。
「なんと、卑怯な。」
「しゃあないやろ、こいつ、言うこと聞かへんくらいせっかちなんやから。
 そっちかて、いきなり現れてバトルせいっちゅうんやから、お互い様や。 相手したるわ、かかってき!」
背が伸びてきたとはいえ、子供に挑発されて少々カチンときたのか、相手はニヤリと笑ってワニノコを指差した。
サンドパンは飛び上がって、トゲトゲの丸いボールになると、全身のトゲの先から鋭い針のようなものを飛ばしてくる。
外れているのかと思うくらい大きな口を開けると、ワニノコは相手に背を向けて逃げ出した。
サファイアに進路をふさがれて、ようやく立ち止まる。
着地して構えなおすサンドパンを指差すと、サファイアはワニノコにそっちを向かせ、フッと息を吐いた。
「‘シロガネ’『みずのはどう』!!」
「サンドパン回避せよ、『あなをほる』!!」
地面に空いた穴の上に、円状の水が広がった。
相手を見失ったワニノコは、地面の奥にいるはずの相手を探してキョロキョロと動き回る。
1歩下がると、サファイアは、にやつく相手トレーナーの方に視線を向ける。
靴のつま先を数回地面に打ち付けると、一瞬ワニノコの方を見てから今度は息を吸った。
「‘シロガネ’フルパワーで足元に『みずでっぽう』撃つんや。 当たらんでも構わん。」
行動の意図がつかめないのか、相手は首をかしげる。
そのまま勢いで自分が飛んでいくのではないかというほど水を吐き出すと、ワニノコは疲れ切ったのか、ぜぇぜぇと息の切れているような動きを見せた。
相手はにやりと笑うと、シロガネのことを指差す。

「今だサンドパン! ワニノコに攻撃しろ!」
足元の地面が盛り上がると、ワニノコは相手の攻撃によって3メートル近く吹き飛ばされた。
ギリギリ致命傷は避けているが、立ち上がる足取りすら危ういほどのダメージを受けている。
勝利を確信し、相手のトレーナーは影でひっそりとガッツポーズを作った。 チャンピオンに勝ったという事実があればトレーナーとしてこれ以上名誉なことはない。
だが、次の瞬間、男は我が目を疑う。 攻撃したはずのサンドパンが、急にふらつきだしたからだ。
スキの出来た一瞬を狙い、『みずのはどう』がサンドパンを襲う。
弱っていたサンドパンはその一撃が致命傷となり、弾かれて地面の上を転がって、キュウ、と音を立てて気絶した。
「なっ、何故何故何故何故何故だ!? 遺跡を探して44年、このノブオが何故敗北したのだ!?」
「縁起悪い数字やな。」
一応突っ込む。 ジョウト弁使ってるものとして。
「地面は水吸うやろ。 吸ったら泥んなって、水が地面の底つくか、お天道さんに乾かされるまで水だか地面だかわからんようになる。
 サンドパンは砂地に住んどる地面ポケモンやから、水は苦手やろ。 せやから、泥に体力取られてもうたっちゅうわけじゃ。」
サファイアは右手に握りこぶしを作った。
この後の予定を考える。 勝ったとはいえ、シロガネはかなりのダメージを受けてしまっているから
ひとまずポケモンセンターに戻った後、砂漠を経由して秘密基地にでも行こうかと。
「サンドパンは防御高いけど、防御んことやったら、こっちの方が上や!
 全部が全部必然じゃけん、顔洗って出直してき!」