拝啓、親愛なるセンパイ方。
お元気にしているでしょうか?

あの大騒ぎしたホウエンポケモンリーグが終わってから、もうすぐ半年になります。
こっちはいっぱいいっぱいながらも何とかアイドル続けて、先日セカンドシングルを出すことが出来ました。 買ってね♪(宣伝)
と、言っても、仕事があるのはほとんどカントーだから、ホウエンとカントーを往復し続けたり、たまにジョウトに行ったりと、なかなか休むヒマはもらえません。
いそがしいのはサファイアにも言えることで、あのポケモンリーグからいちやく有名人になっちゃったみたいで、連日挑戦者が押しかけてくるので、あんまりミシロにもいられず、ここのところホウエン中を逃げ回ってるみたいです。

サファイアっていえば、サファイアはあの後、すっごく背が伸びました。
10センチくらい? ってことは、1ヶ月で大体2センチ?
う〜ん、あらためて数字にしてみると、すごいことかも。
今ではすっかり見下ろされちゃってます。 と、いっても、態度は相変わらずで、あの大きさで甘えた声出されると、正直ちょっと困ったりします。
その代わり『成長痛』っていうのが酷いらしくて、帰るたびにそこらへんのたうちまわってます。
多分本人は真剣なんだろうから、笑っちゃ悪いのかな?
だけど1度ヒーヒー言いながら海に転げ落ちて、カイオーガに浜まで打ち上げられてたときは大笑いしました。
ホントに退屈しない奴です。


んで、あたしですが、この夏めでたくラジオ番組の出演が決定しました!
いっぺんやってみたかった(笑)
がんばりますんで、ぜひ聞いてくださいね!



ルビーこと、瑠璃 遥より。






「お元気ですかーっ?
クルミと、ルビーの、‘Music&Letters’
今日からから始まった夏休みスペシャル、毎週ステキな音楽をお送りしちゃいます。
パーソナリティは、あたしことクルミと、ミュージックグループ『Pink Sapphire』のルビーちゃんです!!」

「こーんにちはっ! 今日からみんなとお付き合いさせていただきますルビー、ポケモンだいすきトレーナーでーす!
夏も本番! みんなはどうやって夏休みを過ごすのかな?
あたしはやっぱり・・・ポケモンたちと一緒に過ごすのが1番!!」

「ポケモンがいると、海で一緒に泳いだり、山でバーベキューしたり、はたまた空の旅行も出来ちゃったりとか、すっごく楽しそうですね!
さ、今日最初のナンバーは、そんなルビーちゃんの歌う『Pink Sapphire』の新曲、『旅立ちのうた』
それではどうぞ!」

1歩踏み出す勇気 誰でも持ってるから
顔を上げて 笑ってみせてよ

満開の向日葵ひまわりを見に行こう
一緒に 手をつないで

いつだってキマッテル 『1人よりも2人』
仲間の数は多いほど 楽しいことあるから


Over limit power!
限界なんて知らない 夢の向こうへ
び付いた扉 開いて ココロの地図を広げ
飛び出そう
まだ見ぬ新しい世界へ 今こそ旅立ちのとき




よいこの トレーナーさん、こーんにーちはー!
・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・
どうした 元気が たりないぞ? こんにちはあー!! テレビの お兄さんだよー!
今日は お兄さん、ポケモンとの 戦い方を 説明しにきたよー!

歩いていると、とつぜんポケモンが 飛び出してくる!
キミは 自分の ポケモンの わざを うまくつかって、相手の ポケモンの 体力を 減らして 勝つんだ!
そこを バッチリ 見せちゃうからね!
じゃあ いくよ!
スーパーお兄さんショー、はーじまーるよー!


携帯テレビの電源を切ってから、細い指はピクリと動いた。
「・・・あー、何もスイッチ切ることなかったな。 音量下げりゃよかったんじゃ?」
つい、つい、と、腕を動かして、リーフは釣竿を海から引き上げた。
針の先についたエサは、既になくなってしまっている。
魚に食べられてしまったか、あるいは、海に溶けてしまったか。 いずれにせよ、今日は1匹も釣れていない。
「まぁ・・・いっか。 今日は釣れそうにねーし・・・」
リールを巻き取って、釣竿をしまう。
落ちていた浮きばかり放り込んだバケツを片手に持つと、リーフは岩場を身軽に登りだした。
「これ、もう何回も聞いてるしな。」
小さなテレビのようなものは、リーフの動きに合わせて揺れていた。
シルフカンパニー製、初心者トレーナー用ツール『おしえテレビ』。 薄黄色をした箱には、小さな傷が無数についている。


坂を上りきったところで、リーフは海岸の方を振り返った。
黒い瞳を丸くして、五色の石が転がる浜を見つめる。
「んん?」
自然色の片隅に、人工物でしかあり得ない赤い色。 目を凝らしてよ〜く見てみると、それはスカートの形をしている。
全体をもっとよく見てみると、水色のブラウスと、茶色い髪が見えて、最終的にそれは人の形になった。
「・・・ひと? ・・・・・・人?」
リーフは首をかしげる。
小さな島だから、船が近づけばその音に気付いたはず。 もちろん、一緒に来た仲間たちのどれとも違う。
背の高さからして親がついていないのはおかしいほど小さな女の子だし、遊んでいるというよりは、ぐったりと倒れているといった感じだ。
おまけに、その側で6メートルを越す大型のポケモン、ギャラドスがウロウロしているのが見える。

「って、ちょっと待てっ!?」
自分自身にツッコむと、リーフはその場に竿とバケツを置いて倒れている少女の方へと駆け寄った。
走りながら、腰のホルダーから赤と白が半分ずつ塗り分けられた球体を取り出す。 モンスターボールと呼ばれるそれを、少年は大きく振りかぶって、ギャラドスの方へと向けて投げつけた。
「トシ!!」
小さなボールから飛び出した怪獣のようなポケモンは、手にした太い骨を剣のように構え、ギャラドスの方へと走り出した。
頭だけ白く骨ばった、たくましい体つきの茶色いポケモン。 人は、その生物に『ガラガラ』という名前をつけていた。
「トシ」と呼ばれたそのポケモンは、自分の体の半分ほどもある大きな骨をもって、少女へと近づこうとする巨大な竜を追い払おうと大きく腕を振り回した。
突然目の前に現れた見知らぬ相手に、ギャラドスは驚き、尾をばたつかせる。
太い尾でガラガラを弾き飛ばそうとした相手は、ガラガラの手前でその尻尾が止まり、不思議そうに口を大きく開いた。
きょうあくポケモンとすらうたわれたギャラドスが、自分よりもはるかに小さなポケモン相手に力負けしている。
押し合っている尾ひれを動かされると、巨大な青いポケモンはあっさりとバランスを崩された。
「『ホネこんぼう』!!」
まだ若い声で指示が出されると、ガラガラはギャラドスの上へ飛び、手にした骨で脳天にキツイ一撃を食らわせる。
脳震盪のうしんとうでも起こしたのか、巨大な竜は波しぶきを上げて海へと倒れこむと、白目をむいてそのまま動かなくなった。

「悪い、お前の相手してる時間ねーんだ! しばらく気絶してろよ!」
気絶している女の子を抱え上げると、リーフは倒れているギャラドスにそう言って走り出した。
後を走るガラガラが、置きっぱなしにされそうだったバケツと釣竿を持っていく。
リーフは身軽だった。 不安定な岩場に足を上手くかけ、両手がふさがった状態でもスピードを落とすことなく目的地へと走り抜ける。
アクアブルーの海を横に見ながら、大小連なる岩場の中で、確実に最短距離を見つけ、ここまで使ってきた船を目指した。
「マサオ、船出すぞ!」
女の子を抱えたままリーフが叫ぶと、動かない浮きを見つめていた少年は顔を上げた。
バケツと釣竿を持ったガラガラが飛び乗ると、船は上下に揺さぶられる。
「どうしたの?」
マサオと呼ばれた少年が首をかしげると、リーフは彼に腕に抱えた女の子が見えるようにして、一気にまくしたてた。
「一体何がどうしてこうなってんのかさっぱり分かんねぇけど、こいつが海岸で倒れてたんだ。
 息してるし日射病でもないみたいだけど、念のため病院連れてった方がいいと思う。
 だから1の島に戻って、病院に行こう。 いいか? 1の島、病院だぞ?」
「あ、うん・・・」
短く返事すると、マサオと呼ばれた少年は釣竿とそばに置いてあったぬいぐるみを抱え、小型のボートへと乗り込んだ。
リーフは女の子を抱えたまま、ボートのエンジンを強くふかす。
急発進された上に乱暴な運転で暴れまわるボートは、小さな波にもかじを取られ、大きく跳ね上がる。
舌を噛まないよう、リーフは奥歯を強く噛み締めた。
抱えている女の子が舌を噛まないよう、あごを押さえつけると、女の子はかすかに身じろぎした。
茶色がかった灰色の瞳が、薄く開かれる。



のし、のし、のし、と歩いて、そのポケモンは立ち止まった。
あら?
先ほどまで女の子が倒れていた場所で、ピンク色のポケモンは首をかしげた。
かなり大きなポケモンで、2メートル近くの体長を持つ。 2本足で歩き、動きは早くなかった。
長い尻尾。 コミカルな顔をしていたが、このポケモン本人はとても困っていた。
ヤドキングという学名のポケモンは、数歩歩いてから辺りを見渡すと、持っていた木の実を取り落として頭を抱える。
じょおうはとても困り申しあげてございますのですわ。
 ここで寝かしつけてさしあげございましたファイア様は、どちらまで行かれてしまわれましたのでございましょう?
 あぁ、どうしましょう、どうしましょう。
 せっかくご主人直々にご命令をうけたまわられございましたというのに、守るべき方がいなくなられましては、ご主人が悲しまれてしまいますのでございます。

長い尻尾をくねくねと動かすと、ピンク色のポケモンは島から遠ざかっていく船に気が付いた。
ヤドキングの目が光る! いまいち迫力はないが。
ひらめきましてございますでありますわ!
 じょおうはあの船が怪しいとお考えになるのでございます、すぐに後を追跡さしあげましてファイア様を見つけられるのでございますわ!

どすどすと音を上げてヤドキングは助走すると、アクアブルーの海に飛び込んで『なみのり』で小さな船を追いかけた。
口が開きっぱなしで海水を飲み込みまくってますが。 『じょおう』さん。








「おっちゃん、服あると?」
バトルフロンティアの入り口で少年が尋ね、エニシダは逆に疑問の表情を向けた。
唇をなめ、貴仁は長旅で硬くなった足を曲げ伸ばしする。
「親父に何も言わんと出てきたけん。 親父のことたい、雄貴にオレば探させるに決まっとぅ。
 変装でもせんと、すぐに見つかって連れ戻されるのがオチたい。」
「ハーン、成る程・・・そういうことね。
 そういうことなら、発注ミスで余ってしまったブレーン用の衣装があるから、それを使うといい。」
「おおきに」と礼を言うと、少年は1歩ずつ、確実に奥へ向かって歩いていった。


「ひとまず君はポケモンを持っていないのだから、まずは『バトルファクトリー』に行くといい。
 ほら、これがフロンティアパスだ。 バトルフロンティア内では、戦績、現在位置の確認、身分証明など、あらゆることをこのパスで行う。
 君は普通の人とは違う方法で出場しているから、これを無くしてしまうと、2度とバトルフロンティアには挑戦出来なくなってしまう。
 くれぐれも、無くさないように注意するんだよ。」
そう言うとエニシダは、小さなノートパソコンのようなものを受付の女性から受け取り、少年へと手渡した。
銀色のノートが開かれると、小さなモニターは無機質な文字で貴仁にいくつかのことを尋ねてきた。
1番最初の欄で、少年は止まる。
示されている項目、それは『トレーナーネーム』。
「あぁ、そこは君が好きに決めていいんだよ。 このバトルフロンティア内でのみ使う名前だからね。
 ただし、変更は効かないから、慎重にね。」
一瞬だけ止まったが、少年はすぐにフロンティアパスと呼ばれるそれに文字を入力していった。
「エメラルド/Emerald」
入力が完了すると、エニシダは、ほほぅ、と小さな声を上げた。
少年は、全ての手続きが完了したフロンティアパスをパタンと畳むと、エニシダの方へ向き直る。
「そういうことじゃけん、俺は今日から『エメラルド』!
 これから2ヶ月、よろしく!」






1の島、火山活動で地面が盛り上がって出来上がった、小さな小さな暖かい島。
少なくはあるが、人が住み、最近ではポケモンセンターに併設されたネットワークセンターが、この島のちょっとした観光名所になりつつある。
そんな島の埠頭ふとうで、頭を抱えてパニックを起こしているのは、メガネの青年ニシキと、もじゃもじゃ頭の男マサキ。
近くには対照的に落ち着き払っている女性ナナミと、
唇の厚い小さな人形のようなポケモン『ムチュール』を抱え、いらだたしげに頭をボリボリとかいているグリーンがいる。
べそをかいているムチュールに対し、グリーンは少々怒ったような様子で尋ねた。
「本当なんだろうな、ナナ? ファイアが船から落ちたっつーのは?」
こんな時にウソなんて言わないわよ! 何回も言ってるでしょ!?
 ファイアが船酔いしたみたいだから外の風に当たらせてたら、急に何かが船の側を通り過ぎて、その時に船が揺れて、ファイアが落っこちちゃったのよ!
 早く探しに行ってよ!! あんた有名なトレーナーなんでしょ!?

ナナと呼ばれたムチュールはグリーンの方を睨むと、一気にまくしたてた。
勢いのある怒りっぷりにグリーンは一瞬ひるむが、すぐさま表情を戻し言葉を返す。
「とっくに救助隊は呼んでるっつーの。 見ろよ、この大海原だぞ?
 こんな広いとこにいる子供1人探すのが、どんだけ手間のかかることか、わかってんのかよ?」
・・・! ファイア!! ファイアが来た!!

無理やりにグリーンの腕を抜け出すと、ムチュールは埠頭ふとうの先へと向かって走り出した。
仮にも預かっているポケモンに逃げられては一大事と、グリーンは後を追いかける。
思ったより早かったナナが急に立ち止まり、つんのめりかけたグリーンの横を、小型のボートが通り過ぎる。
ナナはそのボートを追いかけ、着岸したところで船に飛び乗った。
中に乗っていた人物の影が動く。
「うわ! びっくりした。
 何だっけ、こいつ・・・ムチュールだっけか? ファイアのポケモンなのか?」
「‘ナナ’!! ‘ナナ’だよ!!」
「そうか。 マサオ、ナナだってさ。 お前も仲良くしろよ?」
エンジンの止まったボートから、小さな女の子を抱えた男が降り、コンクリートの地面に女の子を降ろした。
ムチュールを抱えた小さな女の子の姿に、マサキとナナミは驚いた表情をして駆け寄る。
「ファイア、無事だったのね! よかった、心配したのよ?」
ナナミに強く抱きしめられると、ファイアと呼ばれた女の子は不思議そうに首をかしげた。
むしろマサキの持っていた帽子の方が心配だったようで、身動きの取れない状態のまま、男の持った白い帽子へと向かって手を伸ばしている。
その様子を見ていたリーフは、ポロシャツにジーンズというラフな服装をした、メガネの青年の姿を見つけると、そちらの方へと歩み寄った。

「『たからのはま』に打ち上げられてたんだけど、あの子、ニシキさんの知り合いだったのか?」
「あぁリーフ、助かったよ。
 ここに来る途中でシーギャロップから落ちてしまったらしいんだ。
 あの子、ファイアっていうトレーナーネームなんだけど、このナナシマに1ヶ月ちょっと留まるらしい。
 聞いたところリーフと同い年らしいし、仲良くしてあげてくれ。」
「12歳、マジで!? てっきり年下かと思ってた。」
すっとんきょうな声を上げたリーフの側に、マサキが立つ。
リーフは振り返るが、ニシキとも、彼とそう変わらない服装をしているマサキとも、そう大差はないほど彼の身長は高かった。
むしろ彼が12歳だということの方が、不自然だと言えるくらいに。
「ニシキ、この子誰なん? この島の子か?」
「何だよ、お前こそ誰だよ?」
「こら、リーフ!」
ニシキにたしなめられると、リーフと呼ばれた少年は反抗的に睨み返した。
メガネの青年はマサキに向かってぺこぺこと頭を下げると、背の高い黒髪の少年を指差す。
「すみません、マサキさん。 こいつはリーフ、1の島の近くにある2の島に住んでる、これでも一応ポケモントレーナーなんです。
 リーフ、こちらマサキさん。 僕の大学の先輩で、ポケモン預かりシステムを作ったすごい人なんだぞ!」
「ふーん。」
あまり気のない返事をすると、リーフは船を陸に上げる作業をする少年を手伝いに走り出した。
手際よく小さなボートを海から退避させると、リーフは黒髪で目つきの鋭い少年を引き連れて戻ってくる。
リーフはマサキとニシキの横を通過すると、ナナミと何かを話していたファイアの手を引いた。
ちょっと驚いた顔をしたファイアに、彼は後ろにいる少年を指差す。
「ちゃんと自己紹介してなかったよな、オレはリーフ! こっちはマサオな。
 聞いたんだけどさ、しばらくナナシマにいるんだろ?
 それじゃオレたちと一緒に遊ぼうぜ!」
「うん、遊ぼ!」
「よし、それじゃファイアは今日からオレたちの仲間だ!」
子供2人にファイアをさらわれたナナミは、しばらくぽかんとした様子で彼らを見ていたが、やがてかかってきた電話に対応するため、3人から目を離した。
少し離れたところから見ていたグリーンは、小さくため息をつくと、頭をボリボリとかいた。
どこかで見たような光景ではあるが、それは自分があまりにも思い出したくないもので。
「・・・やかましくなりそうだ。」
小さくつぶやいたその言葉は、穏やかだった波の音に消されていった。